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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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閑話休題~一方その頃どこぞの神聖な山では~(リンカ目線)

「すまないな、このような所に一人置く羽目になって…」


パッと見では凛とした長身で細身の男性、でも本当は心優しい女神のファリア様が申し訳なさそうに私に謝る。

それに対して私は「全然!」と首と手を横に動かす。


「私は大丈夫です、魔族なのに神様にこうやって気を使ってもらえているだけですごく嬉しいんですから」


言葉だけじゃない。毎日が本当に嬉しいし楽しい。たとえ毎日神様たちと顔を合わせることができなくても、神様の近くに居られるってだけで笑みが浮かんでしまうもの。


「うちの男どもが野獣でなければこのように一人別の所に居させることにはならなかったんだが…」


呆れと苛立ちの交じったファリア様に、私は首を横に振る。


「お仲間の男神様たちを悪く言わないでください。私はあのおかげで緊張がほぐれたんですから」


魔族の私が入れるかどうかも分からなかった聖なる地、カームァービ山。でも私はごく普通に山に入れて、神々が出迎えてくれて対面した。


凄く緊張してガチガチになっていたら男神たちは代るがわる私を口説くようなことを言いながら近づいてきて、そのまま私は海の神様に肩に担がれどこかに連れて行かれそうになった。

すぐさまバーリアス様…嘘と泥棒、商売の神様に連れ戻されて、


「あっはは、大丈夫?来て早々襲われるところだったな。だから俺選べばいいんだって。俺あんなすぐ下半身に血のぼんねぇし、じっくりゆっくり関係築こうぜ?ついでに俺の嫁さんになる?」


と言いながら馴れ馴れしく肩に手を回して、その手をファリア様が軽く払いのけて引き離すと自身の横に抱え私を守ってくれて。


でもおかしくて思わず笑ってしまったわ。それと共に嬉しかった。

だって、魔界でよくあることを神様たちが再現して私の緊張をほぐそうとしてくれていたんだもの。神様だというのに、魔族の私一人に全員で…。


神様ってやっぱり優しい。


そんな気持ちでいると、ファリア様はく額を押さえて首を横に振って、バーリアス様はかすかに張りつけたような笑みを浮かべてから、


「…ま、良いように考えるそのポジティブシンキング、俺は嫌いじゃないぜ☆」


って笑っていたわ。でもファリア様は難しい顔のまま眉間にしわを寄せながら近くにいたアテナ様とヘルィス様に、


「ここに連れてきたが危険だな。リンカはここから離れた地でかくまった方がいいと思うんだが」


と言うと二人も「それがいいと思う」と大きく頷いて、私は安全だっていうこの場所…どこなのかよく分からないけれど居心地のいい暖かく明るい山で過ごすことになった。


…正直最初は神様の付き人としてここに来たのに神々から離れてしまうんだわ、と少し残念に思ったけれど、ファリア様はそんな私に、


「リンカを思ってのことだ。それに私が治める地に連れていくから安心なさい。そこならばいつでもすぐに会えるし、男もそうそう近寄らない。まずあの男どもの興味が少し薄れるまではここに居ないほうがいい」


と言っていて、ファリア様の言葉に重ねるようにヘルィス様はウフ、と笑って、


「そうね、一番の危険どころはゼルスだから私がゼルスの奥様にチクチクと釘を刺しておくわ。だから安心してね」


と言うとアテナ様は少し心配そうに、


「それでもあまりあの方の嫉妬を買わないよう気をつけてくださいよ。あの方に目をつけられたら父に目をつけられる以上の惨事になりますからね」


と言っていたわ。するとアテナ様は私を見ながら続けて、


「だがやはり一人置くとなると心配です、だとしたら処女神であるの我々の庇護下に入ったほうが安全だと思いますが」


と言うと三人の女性神全員が一瞬目を見合わせて、ヘルィス様が前に出て、


「私の庇護下に入る?」


と言ってくださったわ。

それでも最初に出会ってここまで連れてきたファリア様を差し置いて他の女神様の庇護下に入るのは失礼じゃないかしらと答えを戸惑っているとヘルィス様は微笑んで、


「あのねぇ、ファリアの庇護下に完全に入ったら男の子と恋愛できないし結婚出来ないわよ?まだ若いのにその道をスッパリ諦めてもいいの?」


え、と驚くとファリア様は、


「私に気兼ねするな、中途半端な気持ちで私の庇護下に入られても私が困る。男と愛を語りたい気持ちがわずかにでもあるのならば私の元には来るな」


と強く釘をさしてきて、アテナ様も、


「そうだ。ファリアは決まりを破った者はすぐ殺す厳しい奴だぞ。それにお前は勝利も好まずろくに知恵も必要としていないから私にも向いていない。ヘルィス様の元が一番いいだろう」


「…」


優しいと思っていたファリア様の別の一面に驚いたけれど…それでも神様たちにそこまで言われたのなら、と私はヘルィス様の庇護下に入ることにした。


そしてこの山にきて、家を用意してもらって、消えることのない炉端の火をヘルィス様に用意してもらって…。


それでもちょくちょくと男神が家に現れてあれこれと口説いてくるような素振りをしてくる。

それでも「私はヘルィス様の庇護下に入った、私に何かあるとヘルィス様がすぐにやってくる」ということを男神に伝えると皆何となくバツが悪そうな顔になってうやむやとした態度になって帰っていく。


何となくだけどヘルィス様からは母の慈愛オーラが溢れているから、自分が女の子を口説く姿を全て母親に知られているような落ち着かない気持ちになるのかも。…別にヘルィス様が全員の母親ってわけではなさそうだけど。


それでも最近になると男神たちは本当に最初から体目的で狙っていたのかも?と気づいてきた。神様って禁欲的で潔癖なイメージだったから「あれ?」という感じもあったけれど…それでもやっぱり神様は優しいわ。

だって魔界だったらとっくに襲われている所だけど私は未だに襲われていないもの。


「皆いい子なのよ、ただちょっと下半身が特別素直なだけで」


とヘルィス様は言っていて、自分で言った言葉が自分でおかしくなかったのか、


「下半身がw特別素直ww」


と大爆笑していたっけ。それから続けて、


「別にうちの男たちの欲望に付き合わなくていいけど、それでもリンカも魔界から離れて自由になったんだから恋愛も好きにしていいのよ」


と優しく言われたわ。


ヘルィス様の言う通り、私は魔界で恋愛らしい恋愛はしてこなかった。


だって魔界の男の人は怖くてどうしても好きになれなかったもの。


魔界だと格下の魔族は目上の魔族に取り入ろうとする。そして私は地位が高いけど力が弱いから、手っ取り早く私と結婚して楽に高い地位を手に入れようとする者たちが多かった。


地位の高さ、それとお爺様とお父様に守られていた私は襲われることも傷つけられることも無かったけれど、それでも私自身に興味がないのにあからさまにセロ家の高い地位だけ狙って甘い言葉を囁いてくる男の人たちは…すごく不気味だったし、怖かった。


でも唯一魔界で素敵だと思っていたのは優しくてエレガントなロドディアス王。もちろん恋愛の対象としてじゃなくて尊敬と敬愛として素敵と思っていた。

それと信頼していたのはグラン。グランから私は嫌われていたし、すぐにカッとなって怒鳴るあの性格は怖かったけれど、それでも他の男の人みたいに不気味ににじり寄ってくることは一切ないまっすぐな魔族だったからそこは信頼していた。

もちろん恋愛の対象ではなかった、すぐ怒るから近くにいると怖かったし。


…恋愛も自由にしてもいい…でも、私が好きな人は…。


「リンカ」


「は、はい!」


あれこれ考えていたらファリア様に声をかけられて、慌てて顔を上げる。


いけない、ファリア様と話していたのに私ったら途中からボーっとして…!


「お前は本気で神になるつもりはあるか?」


「…へ?」


「私たちは別の世界からやってきたと前に言ったのは覚えているか?」


「はい。そこでは魔族が神になることがあるって仰っていたのも覚えています。…でも、本当にそんなことできるんですか?魔と聖は対極の存在なのに…」


ずっと覚えていたけれど、そこは未だに疑問だったから聞いてみる。するとファリア様は説明してくれた。


「我々が元々いた世界には各地域に住まう土俗の神々がいた。そんなある時、ある宗教が発生し広く認められ受け入れられるようになってな、すると各地域で信仰されていた土俗の神々が邪魔者扱いされた」


「どうして」


「神はただ一人という認識だったから、他の神々が居ると不都合だったんだ。だから各地で神と崇められていた者は邪教の者となり、悪魔、邪神と負のイメージがつけられ、次第に落ちぶれて人々に悪さをする存在へと変化していった」


そんな…酷い。


ショックを受けて肩を落として、しばらく黙り込む。ファリア様も私が心を痛めたのを知ってか同じように黙ってくれていた。


「…ファリア様たちも、そうだったんですか?」


「まあ批判されることもあったが、そこまで身を落とすほど嫌われることもなかった。時代を経ても絵画のモチーフになるくらいにはな。そして私たちの住む地域よりもっと東では変わった思想や宗教観が発達していた」


頷いて話の先を促す。


「そこには元々神や人に害をなす存在がいたが、その心の悪い者たちは改心して神々に仕え、守護し、人間たちに恩恵を与えるような存在となる者たちもいたそうだ」


「…え、それって…」


「悪魔、魔神、邪神…まあいわゆる魔族が心を改め神に成った、という認識でいいだろう」


今言われたことを全て頭の中で整理して、ファリア様にわずかに身を乗り出す。


「それじゃあ、その東の魔族みたいに私が神様の使いや守護する存在になったり人々を守るような存在になることができる…」


そう、とファリア様は頷きながら私を改めて真っすぐ見た。


「なる気はあるか?魔族としての自分を捨て、神々の一員となる気持ちは」


もちろんですとばかりに大きく頷く。


「なります!なりますなります!私、神様たちの役に立てるような、そんな存在になりたい…!」


絶対に関わり合いになれないと思っていた神様、初めて目にした神様には目を潰されたからやっぱり魔族は神様に嫌われているんだって思ってた。

それでもこうして優しく迎え入れてもらって、親しく接っしてもらって、仲間にならないかと言ってもらえるなんて…私は何て幸せ者なの。


「嬉しい…!」


胸の内から湧き上がる幸福感に思わず涙があふれてポロポロと流れていく。


そんな私を見てファリアは微笑むと、私の頭を撫でてから親指で涙を拭う。


「お前は本当に魔界では過ごせない性格だな。魔界では誰かのために役立ちたいなんて思う者など居ないだろう」


「でも、でも私、神様たちの力になりたいんです、お手伝いしたいんです」


神様に涙を拭わせてしまったと自分で涙を拭いながら、ファリア様に続けて聞く。


「どうすれば私、皆さんのお役に立てるようになりますか?私…魔界では力も弱いし引っ込み思案な性格で臆病者だって言われ続けてて…こんな私でも何か…」


皆さんのお役に立てるでしょうか、と続けようとする私をファリア様が厳しい視線で見ていたから、口を閉じる。

ファリア様は厳しい目つきで叱るように、


「自分のことを『こんな私』と言うのはやめなさい。その言葉は使う度に自分で自分の自信を削る言葉だ。言う度に自分が嫌いになる言葉だ」


ファリア様にそう言われて、思わず視線を下に向ける。


だって今こうやって神様に受け入れられる前はずっと魔族の皆から力が弱い臆病者という視線を受けて家族からも静かに見放されていたし、他の皆も私の代でセロ家が終わるって思っていたんだもの。


あの冷めた視線、無言の諦め、静かな蔑み…。表立って私に何か言う魔族はいなかったけれど、それでも魔族は大体の感情は肌で感じ取れる。

そんな見下げられて馬鹿にされる感情を肌で感じて毎日の生活を送って来た。そうなると…もう何かをやろうとするたびに「こんな私でもできるかしら」「こんな私だけどやってみていいかしら」っていうのが自然と口から出るようになってしまっていて…。


魔界でのことを思い出すとため息が出てくる。


「リンカ」


優しく名前を呼ばれて顔を上げる。するとファリア様が心配するように私の目を見て、


「神に()れられ、そして神しか来れぬような神聖な地に来ても苦しまない魔族はこの世界ではきっとお前だけだ。それだけではリンカの自信には繋がらないか?」


ハッと顔を上げる。


いけない、ファリア様に私を慰める手間をかけさせてしまっている。


必死に首をブルブルと横に振り、


「いいえ!繋がります!」


と言い切って、無理やり魔界の出来事を頭から払いのける。


そうよ、神様とこんなに近くに居られて、そして話せて、仲間という扱いをしてもらえる魔族はきっと他に居ない。これ以上自信に繋がらないなんてことがある?ううん、ない。


私は顔を上げてファリア様に詰めよって、


「それで、私はどうすれば皆さんのお役に立てるんですか?」


と改めて聞いた。するとファリア様は逆に聞いてきた。


「お前は何を守護したい?」


「…へ?」


「私は月の神として人から信仰された。月とは女性性、そして純潔を表わす。だから私は女の純潔を守る神である。お前はそのように何を守り、何を守護したい?」


「え、えっと…とりあえず皆さんの役に…」


「自分を満たしてない者が他人に与えられると思っているのか?リンカは我々のためと先ほどから言っているが、少なくとも我々はお前の手助けが無くても様々なことが出来る。まずリンカは自分を満たすことから始めなさい。そのうえで何を守りたいかだ」


「…」


急に何を守りたいかって言われても…。

今まで自分を守るのに精いっぱいで他の何かを守るだなんて考えたことがないし…それよりこんな私が守れるものなんて…あ、いけない、「こんな私」は使うなってファリア様に言われたばっかりなのに私ったら…。


そんな様子を見たファリア様は軽い口調で、


「今すぐ決めなくてもいい。人間と違って魔族は長生きなんだ、これからゆっくり探せばいい」


…ファリア様が勇者御一行のガウリスさんと同じこと言っている。


ガウリスさんも言っていたわ。私に何が向ているのか聞いた時、


『それを教えるのは私ではありません。あなた自身がこれから探していけばいいことです。魔族は人よりも長命なのですからゆっくり探せば良いのです、そうではありませんか?』


って。


あの言葉で自分のやりたいことは自分で考えてもいいんだって肯定してもらったような気がして、だからずっとひた隠しにしていたことを初めて、勇気を出して他人に言った。


私は神様が好きだって。


ガウリスさんのあの言葉はとても嬉しかった。今まで色んな魔族たちに侮られて静かに見下されて全ての自信が無くなっていた私に、私のことは私が考えていいって促してくれたあの言葉が。


あの時のことを思い出して、私はバッとファリア様を見た。


「あの、ファリア様…!」


ファリア様は真っすぐ私を見ていて、私は緊張で胸の前で手を組みながら…でもハッキリ宣言するようにファリア様と視線を合わせる。


「私…私…神様を信仰する人々を守護するような…支えるような存在になりたいです!」


そんな存在になれるかどうかなんてわからない。

でももしあのガウリスさんみたいに真っすぐ純粋に神様を信仰している人々を守ることができて、ガウリスさんみたいな神様への想いがもっと真っすぐに神様へ届くとしたら?

そのことで祈りと願いが成就されて、もっと人と神様がお互いに愛し愛されている関係が築くことができて、それを近くで見届けられるんだとしたら…これ以上に嬉しいことはない。


『神の名において、あなたに愛と祝福を』


祝福の言葉と共にガッシリとした大きい手で優しく手を取られたあの出来事を思い出す。


そう、あんな風に純粋に神様を信仰するガウリスさんのような人を守って役に立てるなら…私は幸せ。


するとファリア様が何か見通すような微笑みを浮かべているから、何か変なこと言ったかしらと少し心配になって見返すと、ファリア様はおかしそうに口を開く。


「あの神官の愛に当てられたな」


「…!」


リンカはボッと顔を赤くした。


「ち、違います…!」


頬を押さえて身をくねらせるとファリア様はスン、と真顔になって、


「私が言っているのは平等な愛、博愛だ。何を考えている?」


「…!」


もっと顔が熱くなって顔を両手で覆って余計身をくねらせて身もだえていると、ファリア様は声を立てて笑いだした。


ファリア様が声を立てて笑うことなんて滅多にないから思わず顔を上げると、ファリア様は笑い続けながら、


「怒ってはいない、冗談だ。あまりに可愛いから少しからかいたくなった」


と言いながらかすかにニヤニヤ笑って、おかしそうに肩を叩く。


「悪いことじゃない。まずリンカのすべきことは自分を満たすことだ。私はそのようなことを言えた義理はないが、リンカは私の庇護下に入っているわけではないからあえて言う」


ファリア様はそういうと続けた。


「その感情を楽しみなさい」


「…」


何だか…すべて見通されてるって…嬉しいけど恥ずかしい…。

???「愛が欲しいの?男を振り向かせる美しさと豊かな心が欲しいの?それなら私の出番ね!さあ私に続いて同じことをして❤」(セクシーポーズをとる)


リンカ「えっ、えっ」(困惑)

ファリア「お前は金星に帰れ!」



~~

ファリアことアルテミス信仰は、生贄(人)を必要としていたから野蛮だと非難されることもあったとかどこかで見ました。

記憶違いでなければ『12月25日の怪物』という本に書いてた気がします。サンタクロースのモデルになったトルコの聖教者がすげー怒ってたって。

この本はサンタクロースが何者なのか作者が突き止めるため世界を駆け巡る内容です。その正体の考察もちゃんと書かれていますが、私は世の中の大人が子供にサンタクロースの正体を聞かれた時、これを答えたら全て丸く収まるんじゃね?って思いました。

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