魔導士連盟
サードの開催した話し合いで、リッツは首都エーハ丸ごとをダンジョンにする計画を立て始めてイクスタはタテハ山脈の王となることになり、ミラーニョはサムラたちの新しく立てる国に幽閉という形ながらも参謀役として収まることになった。
これで色々と丸く収まったのね…と肩の力を抜いたの束の間。
まだサードは色々とやっていた。
それが今目の前で頭を下げている…。
「どうも初めまして。私は魔導士連盟協会調査選抜部隊連専属部のまとめ役をやっております、ミズリナ・ホミィと申します。本日は黒魔術士の集まる村の件で立ち入りに来た次第です。どうぞよろしくお願いいたします」
魔導士連盟協会ちょーさせんばつ…なんとか部のまとめ役だというミズリナという人は丁寧に頭を下げたあと、ゆっくり背を正した。
魔導士連盟は安全な魔法を新たに作って、危険な魔法には目を光らせている大きい組織。
それでもその知名度のわりに実際にどんな事をしているのかはその二つ程度しか世間に知られていないのよね。何となく普通に過ごしていたらまず会うことのない魔道士のエリート集団ってイメージだし。
だから目の前にいるミズリナという人と、その後ろに立つ人たちが初めて会う魔導士連盟の人なんだけど…。
…何だかミズリナって人、ミラーニョと一緒にその辺の飲み屋に居てもおかしくないくらいの普通のおじさんだわ。七三に分けた髪型でにこやかに微笑んでいる中年のおじさん。
…でも口は笑っていてもどこか張りつけられたような微笑みに見えなくもない、そこが少し不気味な感じ…。
とりあえずサードが待っていた吉報は結果的に三つあったってことね。
一つはサブリナ様からの綺麗な封筒に入った手紙。
サードもミラーニョとはあまり仲違いしたくなかったみたいで、きっとミラーニョが可愛がっているサブリナ様の言うことなら耳を傾けるだろうと一旦私の家、ディーナ家に手紙を送って、そこからお父様を通じてサブリナ様にサードからの手紙が届くようにしたって。
内容は、
『あなたの探す道化師を見つけました。しかしその道化師には時間がありません。彼は生きる希望を見失い死に向かっている状態です。至急彼を勇気づける手紙をこの住所あてに送ってください。
因みに彼は国の思惑に巻き込まれているので他国の王からの手紙だというのは一切悟られないよう名を隠し、それでも彼にはあなたからの手紙だと分かるような文面でお願いします』
というもの。
そして二つ目はよれよれの封筒に入っていた、偽造の国王証明書。
本当は偽造書ができたらアレンはお店にそのまま受け取りに行こうとしてたらしいんだけど、お店側がこんないい報酬を持っている相手をこれきりにしてなるものかとアレンに色々聞いてきたんだって。
泊まってるホテルはどこか、何が目的なのか、これからどこにいくのか、イクスタと知り合いなのか、仲間はいるのか、この宝石はどこの精霊から手に入れたのか、出身地はどこか、家族構成は…。
アレンはその全てにのらくら答えつつこれ以上長く関わったらいけない、居場所のホテルを悟らせるのもマズいと判断して、
「頼んだのできたら公安局にそれ出してよ、そこ仲介で相手とやり取りしてるから」
と逃げてそのままアレンはイクスタの元に足を伸ばし、こういう封筒があれば受け取って回収してほしいって頼んだ。
でもその程度じゃすぐ足がつくぜとイクスタは国中のあちこちに手紙が行くように仕組んでどこに向かうのか分からないようにした後、元の公安局に戻して自分で回収したって。
どうやら国外に出ない手紙の中身は確認しないみたいだけど、その代償として国中をグルっと回ってきた封筒はよれよれになった。
そして三つ目のビジネス的な封筒に入っていたのがこの魔導士連盟からの手紙。
サードはウチサザイ国に黒魔術を使っている村がある、放っておいていいのかという手紙を勇者の名前を使い、イクスタに外に出させた。
すると、
『そんな村があるのですか。黒魔術とは今や廃れた魔法で口伝程度にしか残っていないと我々は認識しているのでにわかには信じられない話です。しかし勇者であるあなたが言うのであればそれは由々しき事態であるのでしょう。
それに我々としても黒魔術について調べたいと常々思っていた所です。もちろん黒魔術の知識が無ければ今回のような事に対処できないのが理由だとご理解ください。
調査のためすぐにでもそちらに向かう事にいたします。報告感謝します』
という手紙が届き、そして今日、このミズリナというおじさんと後ろにいる数人の人がたどり着いた。
「それで、そのバファ村というのは?近いのですか?」
ミズリナの言葉にサードは案内するように歩き出して、
「ここからもう少し行った所です。我々も調査のため村に潜入していたのですが酷い所です。この短い期間だけでも人は拉致監禁され公開処刑を行われ、死体を加工し妙な薬を作り出して国内外に売り払うなどをしていて…グロテスクでろくに見れたものではありませんでしたね」
死体を加工する手順を最初から最後まで視察したあと普通にご飯食べてた奴のセリフじゃないのよ。
「まあ黒魔術も関係なく、この国がまず腐ってるんでしょう」
サードの歩く少し後ろを歩きながらミズリナは張りつけられたような微笑みでハッハッハッと軽く笑う。
「私のような冴えない中年でもこの国では需要がるらしい、何度か男に尻を狙われそうになりましてねえ。女性相手ならまだしも男相手じゃあねえ」
「それはおいたわしい…」
あまり心から思ってもいないだろうけど、サードは話を合わせた会話をする。ミズリナはフン、と軽く笑って、
「まあそいつには魔法で喜ぶようにしてあげましたがね」
「…?喜ぶって、何やったの?」
アレンが聞き返すと、ミズリナは張りつけたような微笑みを崩してブラックな顔になってハッハッハッと笑う。
「興奮するか嫌になるかは本人次第ですがね、目の前に男の尻がずっと映る魔法をかけてあげましたよ。食事の時も愛する女性が出来たとしても目の前には一生男の尻が映り続けるんです、フッ、私だったら気が狂う。ざまあみろだ、あのくそったれが」
「ミズリナ様」
後ろに控えている人がポンポンとミズリナの背中を叩いて、ミズリナはフッとブラックな顔を引っ込めて張りつけたような微笑みに戻る。
「おっと申し訳ない。もちろんいつもこんなことはしてませんよ、ただあれこれ説得しても反省の色が何も見えなかったので腹が立ってつい…おっと、いつもはこんなことしてませんよ。本当に」
「…」
大丈夫かしらこの人…ヤバい人じゃ…。
私とガウリスとサムラは瞬時にこの人を信用しても大丈夫か不安になってお互いに目を合わせるけれど、むしろサードは今のミズリナの言葉を聞いたらさっきより肩の力が抜けたような微笑みになってニッコリと笑う。
「今回来たのがあなたのようなユニークさのある方で良かった。魔導士連盟には酷く真面目なイメージがあったので、きっとどんな悪事であれ見逃しやしない頭の固い生真面目な方がいらっしゃると思っていたのです」
「なぁに、私みたいな者が大半ですよ」
…ミズリナの後ろにいる人たちが私たちに訴えかけるように全力で首を横に振っている…。
ともかく魔導士連盟の人たちを連れてバファ村にたどり着いた。けどおかしいわ。前より村に人の気配がないし、外を歩いている人も一人もいない。
もしかして黒魔術を使えなくなったのに気づいて何か察して逃げた?それともサムラが作り出した精神魔法で天使が現れたと噂を聞いて黒魔術じゃ天使に敵わないと逃げた?
それよりケッリルの体を見つけるきっかけになったあの女の子たちはどこでどうしているのかしら。
あの子たちが悪事に手を染めていたのかどうかは分からないけれど…もし魔導士連盟の人たちに見つかってしまったら…。
そこでふと気づいて、ミズリナに聞いてみる。
「…あの、この村の人たちを見つけたらどうするの?」
ミズリナはウーンと唸りながら辺りを見渡しつつ、
「まずは事情を聞くために一人残らず我が協会が引き取ります。黒魔術の知識はぜひとも手に入れたいですし…。おっと、個人的にではなく今回のようなことに対応するためですからね?そのうえで罪の重さを公安局と話し合って…処罰は公安局任せなのでそれ以上は分かりません」
結局捕まった後どうなるのかの部分は一切何も言わないまま、ミズリナはブツブツと呟きながら辺りをグルリと見渡し、後ろにいる人たちに向かって指を動かした。
「ここから三時の方向、あの赤い屋根の中に人が居る。その向こう、人が…一家か?親子らしき者が逃げている、あとは十二時の方向、牧場の奥に人が…魔法を使っているな?転移を使って少しずつ逃げている、あとは…」
と周囲を見渡しながらどこに誰がいるのかを次々とあげている。
「何それ、今何やってるの?」
アレンが声をかけるとミズリナはこちらを一切見ず、
「これは透視と遠視を兼ね揃えた魔法です。どこまでも遠くを見て、家の中だろうが壁を空かして中を見られる…。おっと、女性の体やお風呂をこれで覗いたりはしていませんよ。これでも魔導士連盟の者なんですからね、私にだってプライドがあります」
…何だかこの人が言うとすごく怪しい…。魔導士連盟の人だからってこのまま本当に信用して大丈夫?
そんな不信感を覚える中でもミズリナは次々とあちらこちらに人がいるのを見つけて、そして指を軽く動かしながらブツブツと呟く。
するとフッと目の前に人が現れた。
もしかして転移の魔法?でも転移は上級魔法。こんな目視できないくらい遠くにいる人をこんな一瞬で目の前に移動させられるなんて…。
目の前に現れた男の人は混乱した顔で私たちを見ると、
「あ、あんたら、ジルの…」
と指さす。そんな男の人に対してミズリナは、
「はいはい魔導士連盟です。黒魔術使ってたんでしょう?あとでお話聞かせてもらうので本部に連れて行きますよ」
ギョッとした顔で男の人はサードを見上げて私たちを指をさした。
「こ、こいつらはジル…魔族の協力者だぞ!俺は何もやってない、そいつらが一番悪事を働いてた首謀者だ!」
自分の罪を私たちになすりつけようとする男の人にイラッとして言い返しそうになったけれど、その前にサードは慌てもせずニッコリと微笑み言い返す。
「何を言っているんですか?私たちは勇者一行です、あなた方の悪事を全て調べた上でこの魔導士連盟の方々に来ていただいたのですが?」
その言葉に罪をなすりつけようとした男の人は目を見開いて、ゆるゆる力が抜けて地面にへたりこむ。そうしているうちに次々と人が近くに現れ続けた。
それでも転移した先からすぐ逃げ出そうとしたり、赤ん坊を差し出して「助けて!この子を差し出すからせめて私だけでも…!」とミズリナに取りすがって泣き叫んだり…。
「あーもう面倒くさ」
ミズリナがブツブツと呟くとその場に居た人の動きが止まる。口は動いているけれど声は全然出てこない。
もしかして動きを止める魔法と、声を止める魔法?…ってことはミズリナは今、透視、遠視、転移、動きを止める魔法、声を止める魔法を平然と大量の人に同時にかけているってことじゃない。
妙に信用ならない人だけど、やっぱり魔導士連盟の上に立つ立場の人だから魔法を使う能力はすごいんだわ…。
「どんどん本部に送っちゃって。まだまだいるから」
ミズリナの言葉に後ろにいた人々が大きめの布を広げた。そこには魔方陣が描かれていて、動きが止められた村人たちはその上に運ばれて乗せられて、姿がフッと消えていく。
きっとあれは転移の魔法陣で、本部に転送しているのね。
次々と人が転移で目の前に現れてどんどんと本部に転送されていくけれど…あの大人びた女の子二人は全然現れない。
もしかしてミズリナたちが来る前に逃げたのかしらと思い始めた頃、
「ここにいるのはこのくらいですか」
とミズリナは魔法を使うのを止めたのか、ふう、と息をついて肩の力を抜く。そのままサードを振り向いて質問した。
「この村に住んでいるのはあのくらいの人数でしたか?」
「いいえ、もっと居ましたね」
「ふむ、逃げられましたか…」
その言葉に少し不安になった。
「逃げた人は追うの?」
聞くとミズリナは張り付けたような微笑みを私に向けて、
「追えるなら…と言いたい所ですが正直難しいですね。なんせこの国は性根の悪い者や怪しい者が多過ぎて目星もつけられません。ひとまず今回私たちが来た目的は現地調査とこの村にいた者たちの生け捕りです。
とりあえず目的の一つも終わりましたし…あとは私たちだけで大丈夫ですね。あとは今日明日でこの村を詳細に調べて、そのあとはしばらくこの国のあちこちを見て回ってから帰ることにします」
「しばらく…ですか。首都に滞在するおつもりですか?」
サードの言葉にミズリナが「ん?」とサードに目を向ける。
「何か問題でも?」
「いえ、天使らしき存在がここの首都にいる者をいずれ殺すと言っていたので、首都からは早めに立ち去ったほうがよろしいと思いまして」
「…ほーお…。天使ね…」
本気ととってるのかとっていないのか分からない口調。そこでミズリナはふと続けた。
「そういえば黒魔術が広まっていたのなら魔族が居たはずでしょうが、魔族は?倒したんですか?」
「ええ」
サードが簡単に返すとミズリナは「そうですか…」と軽く失望した表情になる。
「話を伺う限りダンジョンを持っている魔族ではないようなのであわよくば生け捕りにして色々調べられると思ったのですが…。まあ勇者御一行相手では勝ち目などなかったですか、しょうがないですね…」
「調べるとは、何を?」
ガウリスが質問するとミズリナは「あ」と少しバツが悪そうに口をつぐむ。でも私たち相手なら別にいいかという顔でゆっくり口を開いた。
「魔族の体の頑丈さを調べたかったのですよ。どれほどの攻撃をすれば効くのか、どれほどまでなら痛くないのかなどなど…」
「え…それって…拷問って言わない…?」
私の驚きの混じった呟きを聞いたミズリナはやっぱり言わない方が良かったかなって顔で軽く肩をすくめる。
「魔族なんて人間の私たちからしてみたらろくに対抗できない相手なんです。それならどれほどの圧を加えれば攻撃が効くかなどを調べたら後々の人にとって有益な情報を残せるでしょう?
それにどうせ相手は人に慈悲などない残酷な魔族です、こちらだって慈悲をかけることもありません。魔族と対戦してきた勇者御一行ならばお分かりいただけるでしょう?」
それじゃあ…ジルを、ミラーニョを捕まえたらそんな拷問かそれと同等のことをし続けようとしていたってわけ?ミズリナは…ううん、魔導士連盟は…。
…魔族は残酷?違うわ、そんなことをしようとする人間だって十分に残酷じゃないの。いくら後の人のためになるからって…魔族ってだけで私たちと何ら変わりのない魔族を痛めつけるなんて…。
「三匹のネズミが言ってたことってこれだったんだ…」
アレンの呟きで三匹のネズミのうちの一匹が言っていた言葉を私も思い出した。
『あの勇者の性格だからきっととんでもない所に助けを求めて魔族を追い込もうとしているに違いないぞ。きっと魔族ですら長く苦しむところだ』
そっか…あの時は何も分からないから聞き流していたけど、このことを察知して言っていたんだ。
そう思うと鳥肌がたってきて、腕をさすった。
前の職場の人の近所に猟銃持っている人がいて(でかい犬も飼っていたから狩猟やっているのかもとのこと)
猟銃所持の許可はあるのでしょうが、念のためか男性の県警二人が近所で変わりありませんかと前の職場の人の元を訪れたそうです。
若くがたいのいい男の人は真顔で後ろ手を組んでビッシィと立っていて怖くて、話をしたおじさんはにこやかでペラペラ喋っていたんですが目が全然笑ってなくて怖かった、町のおまわりさんは近所の兄ちゃんみたいな気さくな感じなのに県警は全然雰囲気が違うとのことで、
「県警は…敵に回さないほうがいいでえ?」
と言われました。回さないですw




