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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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全員を交えての話合い2

サードが何を言いだすのかとリッツは身構え、イクスタは困ったような下がり眉毛の間にしわを寄せ、ミラーニョはジッと静かに耳を傾ける。


「まずはイクスタさん、あなたにはこれを」


サードが荷物入れからよれよれの封筒を取り出し、中から紙を引き出してイクスタの前にスッと差し出した。


それはサードが言っていた三つの吉報のうちの一つ。


イクスタは何か嫌な予感を感じているような目つきでチラとサードを見てからもう少し自分の前に紙を引き寄せる。

そのまま紙に視線を落として内容を確認すると、大きく目を見開いて紙に顔がくっつきそうなほど身を乗り出す。


「これ…国王の証明書…?何で俺の名前が書いてんだ…!?」


サードはニコニコと微笑みながら、


「国王の証明書があるのですから、あなたにその気があるのなら今すぐにでもウチサザイの国王の座につくことができますよ」


「…はぁ?」


イクスタの困惑した顔は放っておいて、サードはリッツに顔を向ける。


「リッツさん。このイクスタがこの国の王になると申したらあなたはどうします?」


サードのその言葉にリッツは一体こいつ何を考えているんだとばかりの表情でサードを見ているけれど…無駄よ、サードが何を考えているかなんてリッツより長く一緒にいる私たちですら分からないもの。


するとリッツが何か言う前にイクスタが慌てた顔になって立ち上がった。


「待てよ、俺は国王になるだなんて言ってねえんだから俺に魔族の目が向くようなこと言わないでくれ…むしろこの証明書、いつの間に発行されたんだ?本当に専属の部署で発行された物か?」


イクスタは紙をひっくり返してあちこち確認し、窓に向けて明かりに透かした。そのまま力を込めるようなそぶりをするとボワ…と名前の部分が光る。


それを見たイクスタは下がり眉毛を更に下げて呆然と呟いた。


「…本物…か?これ…」


ううんそれは偽物。サードがアレンに手回しして作らせた偽造書。


この二日で私はガウリスとアレンがエーハでやっていたことを全て聞いた。


まずガウリスはずっとイクスタのホテルの聖魔術士から聖魔術の基本の術全てを習っていた。

聖魔術は長年の訓練が大事、そんなすぐに覚えられるものじゃないって話を前にガウリスは話していたけれど、ガウリスはあっさり色々と聖魔術を覚えたって。


ホテルの聖魔術士からは、


「やはり勇者一行の人は神からも愛されているのですね…こんなにも手早く覚えてしまうとは」


と感嘆されたみたいだけれど、それはガウリス自身が龍っていう神に近い存在になってるからだと思う。


それとアレンは…。とりあえずこの国には色々なお店がある。


その中に専門的に偽造書を作るお店があるのをサードは情報屋のウィリッチが残していたメモで見つけ、そしてイクスタに連れられた重要機密のあるあの部屋でこの国の王と認められるには特殊な文字で国王であると証明する紙切れが一枚必要だと知った。


そこでサードはもう亡くなっている国王たちの証明書を見つけ何枚かくすねると、それをアレンに持たせて偽装所制作のお店に持って行かせたんだって。


で、アレンはサードに言われた通りの言葉をお店の人に言う。


「この数枚の文字をかけ合わせた平均的な文字で新たな文書を作って。名前は大公の息子のイクスタ名義で」


もちろんお店の人も新しい国王を偽造するようなことに関わって後々面倒が起きたら自分たちの命が危ないと思ったみたい。


「これを完璧に仕上げるにはよっぽどの魔法を当てはめないといけないんだぜ、何を企んでるのかは知らねえがそんな新しい国王すら偽造する悪事に手貸すわけねえだろ、どうせその身なりだから金も持ってねえだろうしよ」


パシリとして着ていた粗末な服装を馬鹿にされながらお店の人は断てきたけれど、そこからがアレンの腕の見せ所。


アレンはラーダリア湖で手に入れた小さい宝石を一個ちらつかせ、他の人に聞かれないよう、見られないよう、コソッと店主にチラ見せして、


「これ精霊の国に落ちてたっていう人間界には無い貴重な宝石でさ…。石自体が光ってて人間界の宝石じゃないの分かるだろ?こんなの見たことある?な?ねえだろ?ここまで来る間でもこれ換金してきたんだけどさ、一個で金貨十枚以上になるんだぜ。

俺、これあと十個くらい持ってんだけどなぁ。でもやっぱ命かけたものだから断るよな、だったらいいや、この話は別の店に…」


と言葉巧みに引き止めさせて作らせたって。


二人のエーハでの動きを思い出しているうちにサードは話を進め、ミラーニョに話しかけた。


「そしてミラーニョさん。我らはラーダリア湖の精霊にあなたの殺害を依頼されました。それでもそれは一度断ったのです」


「…はい?」


聞き返すミラーニョにサードは続ける。


「あの時はまだあなたが半魔族であると知らず、人間だと思っていました。ですから人間である私たちが人間を殺したら法に当たるとして殺害の条件を変えていただいたのです。それはあなたを法に則り罪の大きさで一生国に身柄を拘束、幽閉させるという条件です」


「…」


「そして私たちはサムラの故郷を独立した一つの国にしたいと思っています。今回は様々な思惑が絡んでいましたが、サムラの故郷が宝の山であるのは間違いありません。これから先も不当に搾取(さくしゅ)される可能性も大いにあります」


「…その話は法に則った私の殺害に必要な話ですか?」


サードはニッコリと微笑んだ。


「ええ。あなたには独立し一つの国になったサムラの故郷で死ぬまで幽閉の身になっていただきたい。ああもちろん…」


そこでサードはサムラに視線を向けて、


「ミラーニョさんをどのように幽閉するかはサムラの故郷の者たちに任せますが」


「え」


急に話を振られたサムラは間の抜けた顔になると、サードはかすかに裏の表情の混じったニヤニヤ顔をサムラに向けている。


「国を作ったらミラーニョさんをどうするかはあなたの国に任せます。捕まえた者をどこにどう幽閉させるかは国の自由ですからね。まず国の中から逃げないようにすれば、後はどこをどう歩いていようが身柄を拘束していることには変わりありませんから」


サムラはポカンとした顔でサードを見ていて、ミラーニョも同じように混乱した顔で頭の中を整理しようとしているような顔…。


そんなミラーニョにサードは話しかける。


「あなたは人間界の様々な城の中に自然に紛れこみ、王家の少女などはあなたを過去に大臣以上の地位にいた者だったのではと疑うほど実力があるのです。そのようなことはお手の物でしょう?」


「え?え?どういうことですか?」


サムラはまだ意味が分かっていないみたいでキョトキョトしているけれど、ミラーニョは合点がいったのかプッと鼻で笑い、ゲラゲラと笑いながら自分の膝を叩いている。


「なるほど、ある意味幽閉させながらも国に縛り付けてサムラの故郷の役に立てと、そういうことですか…!私が死ぬまで…!」


ミラーニョは大爆笑していたけれど、次第に笑いを収めて苦笑した。


「いいんですかね…こんな…ジルから離れられて魔族からも見逃されて、それも…今まで(おこな)ってきた悪事がそんなゆるい罰で済むなんて…」


と言うと感極まったのか両手で顔を覆い、


「自由だ…私は十分に自由だ…」


と泣き出した。隣に居たガウリスが微笑みながらミラーニョの背中をポンポンと叩くと、ミラーニョはガウリスの手を軽く払う。


「よしてください、あなたに触れられると寒気が走ります…」


鼻をすすり涙を拭うミラーニョとは対照的に、イクスタはどこか納得のいかない顔で王の証明書の紙をぴらぴらと動かしながらサードに問いかける。


「…で、俺のことはこんな最悪な国に縛り付けようって?俺がこの国が嫌いなのは知ってるだろ?そのうえでこんなもん作りやがって…」


それに合わせるようにリッツも口を挟む。


「僕だってこの国の首都を使うつもりなんだよ?それなのに新たな人間の王を作るつもりだって?」


不満そうなイクスタとリッツにサードは視線を動かして、まずイクスタに視線を向けた。


「まずイクスタさん、それは一つの可能性です。あなたが王になってこの国を根底から変えたいというのなら私たち勇者一行はこのリッツを全力で追い返しましょう」


「なんだと?」


リッツが眉をピクッと動かして低い声で言うけれどサードは気にせず続ける。


「しかし王になりたくないというのなら素直にエーハを明け渡してあなたも別の人生を送ることだってできます。それとも…」


サードはそこで区切って勿体ぶるようにイクスタに視線を向ける。


「新しくできる国…サムラたちの故郷の王になってみますか?」


「…は?」


サードはいやはや、と言葉を続けた。


「サムラの故郷の者たちは視力が非常に弱く、全員字を読めません。サムラは我々と行動を共にするうえで文字も前より覚えましたが、国を作るに必要な文章構成はあまり期待できません。

それにサムラの故郷の者たちは十歳前後で寿命を迎える者が多いのです。国を作るという大事な時にいちいち王が十年交替なのも混乱の元でしょうし、せめて一つの国として成り立つまでは…仮の王であっても様々な悪事を見て阻止するような知識を持っている者が指導してくれるとありがたいのでは?」


サードが違うか?とばかりにサムラに視線を動かすと、サムラはようやくサードの考えが見えてきたみたいで、キラキラした目でミラーニョとイクスタを見た。


「そうですね、色んな知識を持ってるミラーニョさんに、実際に王族に近いイクスタさんがいるんだったら僕たちも安心できます」


その言葉にイクスタは眉間にしわを寄せてサムラを睨む。


「なに馬鹿言ってんだ、あくまでも俺はこのウチサザイ国のお偉いさんなんだぜ?そんなの静かな乗っ取りだろうが。あんたはどこまで人がいいんだよ、そんな甘いことばっかり考えてたら本格的にお前の故郷は俺に…この国に乗っ取られるぞ」


サムラは驚いた顔でイクスタを真っすぐに見て息をのむ。


「乗っ取る…つもりなんですか…?」


そんなこと考えてもいなかったとばかりのサムラの言葉と表情に、イクスタから力が抜けてテーブルに腕をついて頭を抱える。


「もうどうにかしてくれこの平和ボケ…」


「ボケてません!頭はまだしっかりしてます!」


キィッと反論するサムラをアレンは、


「うんうん、お爺ちゃん落ち着いて」


とおかしそうな顔で肩を叩いてなだめた。そんなアレンとサムラのやり取りでイライラしていたリッツからも力が抜けてしまっているわ。


そんな力の抜けたイクスタにサードは同じような質問をする。


「それでイクスタさんはウチサザイ国で新たな王になりますか?それともサムラの故郷で王になりますか?実はそれにはまだ国名が記載されていないんですよ、ですから今ならどちらにするか…それともどちらも蹴って一般の身の上になってこの国を離れる選択肢も選べます。

あなたは今までその身分の高さでエーハの門近く以上離れられなかったでしょうから、外に出たいのならご自由に」


「…」


イクスタは黙り込んで王の証明書をジッと見て…それからチロとサムラを見る。


サムラはイクスタと目が合うと軽く背筋を伸ばして真っすぐ見返した。イクスタはしばらくサムラと目を合わせていて、視線を王の証明書に落とす。


「もし…サムラんとこの王になったら…どんな日々が待ってるもんかね」


「なってくれるんですか?」


サムラの声にイクスタはフッと真顔になって口をつぐんで、


「…さあ…」


いつものごとくのまどろっこしい口調でしばらく黙り込んでから、イクスタは少し寂しそうに笑った。


「ただ…人の目をそんな濁りねえ目で真っすぐに見るサムラの部族はどんな風に過ごしてんのか…ちょっと気になっただけだ、王なんてなる気はねえよ」


「…嫌ってことですか?」


サムラは真っすぐイクスタを見ているけれど、見られていることに気づいている素振りはあってもイクスタはサムラと目を合わせず王の証明書をずっと見つめ続けている。


「…俺は…どう考えたって王になる器じゃねえ。何もかも嫌になって逃げ回ってたような奴だ」


「けど僕はイクスタさんが僕たちの上に立って指導してくれるなら嬉しいです。それでもやっぱり嫌ですか?」


イクスタはチラと目線を少し上げたけれど、サムラの真っすぐな目を見てまた視線を落とした。


「お願いです。ミラーニョさんと一緒に力を貸してください。きっと事情を説明したら皆も分かってくれます」


サムラは身を乗り出しながらイクスタに訴えかけ続けていると、シレッとした感じでサードとリッツが続ける。


「良いじゃないですか、人に望まれ王になるなど」


「そうだね、君が隣の山脈の王になるのなら僕も君を殺す理由が無くなるぞ」


リッツ…脅すんじゃないわよ。


呆れていると脅されたイクスタは命の危険を感じたのか慌てながら、


「いや、俺はどっちの王にもなる気なんて…無理だそんなの…」


と顔を上げた。するとサムラはイクスタを真っすぐ見据えながら身を乗り出す。


「前も言ったはずです、そんな風に無理だ無理だって言ってたら望んでる希望も受け入れられないって。お願いです、どうか僕が生きている間にある程度まで整えられた国を見せてください、安心して寿命が迎えられるようにしてください、その手伝いをしてください。お願いします、どうかお願いします…!」


喋りながら頭を下げるサムラをイクスタはしばらく黙り込んで見ていて…次第に顔を歪める。


「…何回こうやって協力してくれ手伝ってくれって頭下げられて、一方的に裏切られて見捨てられてきたことか…」


するとサムラは頭を上げた。


「僕は裏切りません。見捨てもしません」


「本当かよ、これ以上期待して希望持った後であっさり見捨てられんのはごめんだぜ俺は」


「イクスタさんを傷つけた人たちと僕、そんなに似てるんですか?」


「…」


イクスタは口を閉じる。


「僕はそんなことしません」


サムラの簡潔な言葉を聞いてしばらくイクスタは黙っていたけれど、その眉間には段々としわが寄って、グッと口を引き結んで片手で目を覆い、震える手で静かに目を隠す。


「本当に信じていいのかよ」


涙で震えるイクスタの声にサムラが微笑みながら答える。


「はい、信じてください」


その光景に思わず私も感動して思わずウルッときていたけれど、頑張って涙を堪えた。

と、目の端を何かが飛び回っているのが見えてフッと視線をずらす。虫みたいなそれはまるで壁を通り抜けるように外に出ていったように見えたけれど…きっと気のせいと目の前の光景に視線を戻した。

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