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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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全員を交えての話合い

私はふと目の前を見た。目の前のテーブルには高さが一メートルあまりもあるパフェがそびえたっている。


これって…ジルによく誘われていたあのお店のパフェよね?へー、これって絵の誇大広告でもなくて本当にこういう商品だったんだ…。


スプーンを手に取り生クリームやアイス、色とりどりのフルーツが盛りつけられているパフェに向けるけれど、こう大きいとどこからどう食べればいいのか分からなくなってくる。


とりあえず目の高さの位置にプス、とスプーンを突き立てて一口食べる…。


「上から食ってった方がいいんじゃねえの?」


パフェの向こうから声が聞こえて、巨大なパフェの向こう側の席に座っているジルをみる。


「上からって言ったって…こんな縦に高いの、立たないと食べられないじゃないの」


「立って食えばいいだろうが、俺も立って食う」


「やだ行儀が悪い」


それでも下から食べていったら崩れそうだし…しょうがないわ。


仕方なしに軽く腰を浮かせて上に手を伸ばして少しずつ食べ進めていく。

それでも何度スプーンを往復させてもパフェはちょっと削れるだけで減ったという感覚が全然ない。


ジルは普通に立ち上がってガツガツと食べているけれど、それでも先はまだまだ長い。これは二人じゃ絶対に食べきれないわ。


私はジルに声をかける。


「ねえ、サードたちも呼びましょう」


「呼ばなくていい」


「でも二人じゃ食べ切れないわよ」


「呼ばなくていい」


ジルはそう言いながら食べる手を止めると、()ねたように口をとがらせ私を見る。


「それとも何だ、そんなに俺と二人きりになんのは嫌かよ?」


口をつぐんでジルを見返した。そして軽く首を横に振る。


「二人きりが嫌っていうか…私とあなたはそういう仲じゃないもの。今まで口もきけなかったから何も言わなかったけど、私ジルのことは友達には思えてもそれ以上には思えないから」


ジルはショックを受けた顔になって、即座に軽く睨みつけてくる。


「あの詐欺師はどうなんだ、友達以上に思ってんのか?」


私は首を傾げて少し悩んだ。


友達…って感じじゃないわね。そうね、サードは…。


「友達っていうより仲間よ。信頼のおける仲間、命を預けられる仲間」


私にしてみれば最大級に近い賛辞。それでもそれを聞いたジルはどこかサードを馬鹿にするように鼻で笑った。


「なーんだ、何がこいつと俺はこんな仲だよ。あの詐欺師だってなびかれてねえじゃねえかザマァねえ」


独り言みたいに言ってからジルは私をジッと見る。


「なぁサリア頼むよ、俺に好きだって言ってくれねえか」


「ええ…」


我ながら嫌そうな声が出た。


だって友人程度に思えるとはいえジルは敵対する相手で、それも妙に好かれているし一度襲われそうになったんだもの。そんな相手に軽い気持ちでも好きだなんて言いたくない。


私の態度にジルは傷ついたらしく、椅子に座り憮然(ぶぜん)としたような…子供が拗ねてるような顔で腕を組んでムスッとそっぽ向いた。

そういう顔をされると筋肉ゴリゴリで目つきも悪く可愛らしさのかけらもないジルがやっぱり妙に可愛く思えてしまう。


…でもそうか、もうお互いに敵対する時間は終わったんだわ。


ふふ、と微笑み身を乗り出す。


「ウソウソ、好きよ、好き。…友達としてね」


ジルはまだ拗ねた顔をしながらチラと私を横目で見て、


「友達って付け足すんじゃねえよ…」


とブツブツと文句を言いながらもまたパフェを食べ始める。


お互いに黙々とパフェを口に運び続けて、ふとした瞬間に目線があった。


ジルは私の目を真っすぐに見て、少しはにかんだ表情を浮かべ、口を開く。


「好きだ、サリア」


* * *


目が覚めた。


起き上がって辺りを見渡す。


ここは…イクスタの経営するホテルの一室…私の部屋。


まだ働かない頭でボンヤリ天井を見上げて、少しずつ覚醒して軽く顔を覆ってため息をつく。


今見ていたのは夢だったのね。

でもそうよ、ジルが嫉妬の女神に与えられた力で消滅してからもう二日たった。ジルはもう死んだ、今の夢みたいに一メートルもあるパフェを一緒に食べるなんてことはもう起きない。


それでも夢の中のジルは生きている時そのままの姿で私と会話を交わし、拗ねたり笑い合ってパフェを食べていた。もしジルと普通の友達として出会っていたら、あんな風に会話しながら巨大なパフェを食べ尽くそうと頑張っていたのかしら。


…胸が締め付けられて段々と涙がうっすらとこみあがってくる。

リギュラが死んだときアレンはメソメソと泣きだしたけど…それと同じ。まるで友達が死んだような寂しさと喪失感で…胸が痛い。


…本当にこうなるしかなかったのかしら。やっぱりジルと仲良くなって、それから和解して一緒にウチサザイ国のあれこれを解決する方法があったんじゃないかしら。


それでもやっぱり私の頭じゃサードが納得するような解決策も考えつかないし、そもそも助けたいと思っていたジルは…。


またじんわり涙が浮かんできて、手で拭ってからベッドから出て朝の身支度に取り掛かる。ジルのことを思い返すと悲しい。でも時間は過ぎていく、もう少ししたらサードが髪の毛を梳かしにくるから着替えておかないといけない。


顔を洗い身支度を整え、サードがやってきて髪を梳かされながら…ジルが消滅した直後のことをぼんやりと思い出した。


嫉妬の女神の笑い声が耳に残る中、呆然と吹いていく風の音を聞きながら立ち尽くしていると、後ろの方からサムラの声が聞こえてきた。


「エリーさん!サードさん!」


サムラの服は所々燃え落ちて穴も開き、顔は煤けて髪の毛もあちこちチリチリになっていたけれど、それでもサムラ自身は無事だった。

無事を確認し安心した顔で駆け寄ってくるサムラに私もホッとして駆け寄ると、暗闇の中ザワザワと人の声が聞こえて人影が集まっているのが見えた。


どうやらお城がお城が崩れて大爆発が起きて空を覆う赤い光の塊が出たことで何かあったのかと野次馬たちが集まって来たみたいで、それを見たサードは即座に動いてサムラに何か耳打ちし、サムラは頷いて力を発動させた。


サムラは強力な精神魔法で夜空に映えるほどの白く輝くリッツの姿をブワッとだした。それもゆったりとしたローブを着て純白の羽を大きく広げた、どう見ても天使そのものの姿で…。


空中に浮かぶ天使そのもののリッツの姿に、集まっていた野次馬の群衆からは驚きと、歓声と、恐怖の入り混じった声が上がっていた。

サードは空中に浮かぶリッツを指さしなおもサムラに指示をだしていて、サムラが頷くとリッツはヤーラーナやオーディウムのような優しげな表情で微笑み、腕を広げ、群衆を見渡すように眺めると口を開いた。


「私はこの国のあまりの悪事の広がりように大変立腹しています」


リッツの姿からの言葉は大きく響き渡り、周りのどよめいていた声は段々と静かになる。ヒソヒソ話すらなくなるほど静かになった人々の前でリッツは上を向き指を空に差し向けた。


「我が主の命により、特に悪事の広がるこのエーハに住まう者たちを私は全員殺すつもりです」


その言葉を聞いて驚きどよめく人は居たけれど…でも全体的に「何言ってんだあれ」という馬鹿にする笑い声のほうが多かったわ。


サムラはサードの指示通り天使姿のリッツを動かし、


「いずれかの日にか私はこのエーハに住むあなたがたを滅ぼしましょう、悪事を全て見逃していたこの王家たちのように、ただ我が主の望まれるままに…」


天使姿のリッツはそう言うと手を縦に横にと手を動かし、そのままスゥと消えた。


それから朝を迎えて、エーハの中では混乱が広がったわ。


まあそうよね。皆は天使がウチサザイ国の城や城壁を一瞬で砂にして、大爆発でお城の人たちを死に追いやって、それから自分たちを殺そうとしているって思っているんだもの。

実際お城を砂にしたのはランディキング、大爆発はジルが原因なんだけど、それでも次は自分達の番だって恐怖が首都の中を支配していた。


早い人はあっという間に荷物をまとめて朝になる前にエーハから出ていっていた。


「相手は天使なんだろ?」


「神の使いっ走りが出て来ちゃもうこの国は終わりだ」


「首都どころじゃねえ、国外に逃げなきゃ死んじまうかもしれねえ」


そんな会話を交わし逃げていく姿を私はホテルに戻る最中でもチラホラ見ていた。それでも逃げて行った人は少なく二日たった今でも首都に居座っている人がほとんどで、


「大方城の中で魔法を使ってたらああなったんだろ?あの高い城壁の向こうで何やってたかなんてわかったもんじゃねえからな」


「それに精神魔法であんなもん出す魔法もあるっていうじゃねえか。誰がやったか分かんねえが城が爆発したのに乗じた愉快犯だろ?」


「あんな遊びで本当に逃げるなんて馬鹿だぜ、馬鹿」


「お、あそこの家の奴らも逃げたのか?っしゃ、金目のもんが何か残ってるかもしれねえ。早く盗りに行かねえと他の奴に盗られちまう…」


と首都から逃げて行った人たちを馬鹿にし…。…普段通りの生活を送っている。


「おい、何ボンヤリしてる」


髪の毛を整え終えたサードに声をかけられ、ハッと顔を上げる。


「行くぞ」


頷いてサードの後ろに続いた。皆と合流してホテルから外に出てたどり着いたのは、ミラーニョが経営するホテル隣の喫茶店。


「…」


中に入るとイクスタが困ったような下がり眉毛に似合う困り顔で、集まる私たち、テーブルを挟んで斜め向かいにいるリッツ、そして隣に座っているミラーニョに目を向けている。


「皆さんお集りいただきありがとうございます」


イクスタがいるから表向きの表情でサードは中に入って、リッツはそんな爽やかに微笑むサードの顔に嫌気がさしたような冷たい視線を向けてくる。そのままリッツは冷ややかな声で続けた。


「よくもまぁ僕の姿を良いように扱ってくれたものだね?それもあんなに目立つことをして…。ロッテの知り合いでないのなら本当にすぐにでも殺してる所だ」


「おかげでビラを大量に作って空からばら撒く手間が省けました、ありがとうございます」


文句を言うリッツにサードは悪びれもせず感謝の言葉を述べると、リッツはイラッと、


「本当に殺してやろうか貴様」


と低い声を出し、そんなリッツをイクスタはマジマジと見た。


「天使みてえなのに、随分口が悪いな…」


怒りのままギロとイクスタを睨むリッツにイクスタは口を閉じて身を引く。リッツはイクスタに指を向け、


「言っておくが僕は天の者とは一切無関係だ。僕は魔族、人間界にダンジョンを持つためにきた」


その言葉に今度はミラーニョがビクッと怯えた顔をする。人間界にダンジョンを持ちに訪れる魔族、それは魔王の手下、それなら自分は殺されるとすぐに察したんだと思う。

イクスタは魔族だと言うリッツの言葉に混乱して、私たちを見回す。


「…魔族って、だってあんた…え、魔族?皆知ってんのか?知り合いか?」


「まあ我々勇者一行は最も魔族に近づく立場ですから、知り合いも少なからずできるものなのですよ。しかし知り合いになる魔族は人間に友好的な者のみ、倒すべき魔族はちゃんと倒していますからね」


サードの言葉にイクスタはリッツをチラと見て「友好的、ねえ…」と釈然としない顔をしながらも口を閉じた。

全員が椅子に座り、サードは顔をあげる。


「さて本題に入りましょう。これからのあなた方の行く末について話し合おうと思いお集まりいただいたのです」


「行く末?」


リッツが聞き返すとサードは頷き、まずイクスタに目を向けた。


「順を追ってまとめましょう。イクスタさん、あなたは私たちに依頼など出しておらず私たちもあなたから依頼は受けていない。それでもあなたはエリーにこうお願いしたそうですね?『この国を潰してほしい、地図上から消してほしい』と」


まあ…言った、とイクスタが頷くのを見て、サードはリッツに目を向ける。


「そしてあなたはこの首都にダンジョンを構えようとしていて、人間が多すぎるとエーハに住む人全員を殺そうとしている」


「そうだ」


あっさり頷くリッツを見たイクスタは、何も言わないけれど「やっぱこいつ危険人物じゃねえか」とばかりに顔をしかめて身を引いた。


「そしてミラーニョさん。あなたとジルは大きな誤解をしていました」


「…誤解?」


ミラーニョは聞き返し、サードは頷いて続ける。


「ミラーニョさんはジルとあなたのどちらかが死んだら片方も死ぬという道連れの術をかけられていましたね?」


「…それが?」


「ジルは二日前、私とエリーの目の前で消えました。死んだのです」


「…ええ!?」


ミラーニョは驚き思わず立ち上がってサードに身を乗り出して、大きく目を見開く。そのまま私を見てくるから、心苦しくなりながらもその通りよと頷いた。


「…どうりであちこちに隠れ潜んでてもジルが一切私を探し捕まえにこないと…。ですが道連れの術とは親が解除しないとそのまま…」


するとリッツが口を開いて、


「道連れの術は術をかけた本人が死んだ時に解除されるんだよ、知らなかっただろう。僕も知識者の者から聞くまではそのようなものだと分からなかった。魔界でよく使われる術だがそのようなものと広まっていないあたり、術をかける本人も自分が死ぬまで続くと知らぬままかけている者が大半なのかもしれないね」


ミラーニョは口を閉じて、ゆるゆると座った。その顔はジルが死んだことと、自分の父親が死んだ時点で解除されていたのかという驚きでどこか呆然としている。


そこでリッツはミラーニョに向き直って足を組む。


「ところで僕は魔王から君の始末を任されているんだが」


「魔王?いんのか?ええ?」


イクスタは驚くけれどミラーニョは顔をかすかに真顔にして、頷いた。


「…ですか」


ミラーニョはもう全て諦めたみたいな口調で軽くそう言いながらも、ポケットからサブリナ様の手紙を取り出し、綺麗な封筒をしばらく眺めてからリッツにそっと目を向け言葉をかける。


「致し方ありません、ここでのことが魔界に知れればこうなるとは思っていました。しかしお願いです、死ぬ前にどうしてももう一度会いたい方がいるんです。その方に会えたら素直に始末されます、ですから少しだけ時間をいただけませんか…」


リッツは透き通る水色の瞳でミラーニョを見る。


「まずその話はどうでもいい。少し前にエリーから聞いたが、君は生粋の魔族ではないらしいね?」


「はい、魔族と人間のハーフです」


リッツは、ふむ、と鼻を鳴らしわずかに身を引いて腕を組むと続けた。


「もうその見た目の年齢なんだ。それならもう二、三百年のうちに死ぬだろう。だったら僕に歯向かわないのを条件に君を放っておいてやってもいいが?」


ミラーニョは拍子抜けした顔でポカンとしていて、それでも確実な答えを聞きたいのか聞き返す。


「…それはどういう…?」


「一般の魔族らしく千年も生きるのなら殺すつもりだったが、残り数百年の命なら見逃してやるという意味だ。それを僕からの始末ということにしておいてやろう」


それを聞いたミラーニョはとことん肩透かしをくらった顔になって、ゆるゆると体の力が抜けていく。


でも自分は自由になったのかとかすかに希望の湧く顔になっているわ。

顔が明るくなるミラーニョに私の心と少し軽くなって、良かったわねと声をかけようとする。


でもサードが私より先に口を出した。


「申し訳ありませんがミラーニョさん。あなたに自由を与えるわけにはいきません」


「え!?」


サード以外の全員…リッツからも驚きの声が出てギュルンとサードを向く。サードは続けて、


「今まで黙っていましたが私たちはラーダリア湖に住んでいる精霊から依頼を請け負っているのです。あなたはラーダリア湖に聖女像の姿をした使い魔を放り投げたでしょう。それが原因でラーダリア湖は荒れ、事態を重く見たラーダリア湖に住む精霊らは不安分子であるあなたを殺害するよう私たちに依頼してきました。その前報酬も随分といただいたのであなたを自由にさせるわけにいかないのです」


「ちょ、それ今言う!?」


アレンがあんまりだろとばかりに突っ込んでサードの話を一旦止めると、ミラーニョは少し驚いた顔で、


「精霊…いたんですか、あの湖に」


と聞く。それでも返答は聞かず、希望に満ち始めた顔はまた何もかも諦めたような顔に沈んで、


「そうですか。それならそれでしょうがありませんね…」


ミラーニョは手を組んで自分の今までしてきた事の罰を全て受け入れるという顔になって黙り込む。


誰も喋らない。空気…重…。

それよりどうして見逃してやるっていうリッツの話のあとにそんな話すんのよ、まさかサードは最初からミラーニョも逃がすつもりなかったとか?


「さて」


急にサードが高く明るい声を出して手を叩くから、沈鬱な顔をしていた私たちは顔を上げてニッコリ微笑むサードに視線を集中させた。


「話のまとめはここまで。さあここからが本題です。イクスタさん、ミラーニョさん、リッツさん。あなた方には様々な選ぶ権利があります、今日はそれをあなた方に選んでいただくためにここに集まっていただいたのです」


サードのとびっきりの爽やかな笑顔を見たリッツは気持ち悪そうに顔をしかめて身構える。


「…始まるぞ、この男の調子のいい言葉の数々が…」


サードはイクスタにバレない程度にチラッと裏の顔を覗かせ、悪い話じゃねえぜと言いたげに口端を上げると身を乗り出した。

リッツ

「見逃してやってもいい」


リッツ

「(どうせミラーニョは力の弱い老人だし放っておいても歯向かいもしないだろうし、この程度の始末でいいだろう。エリーからの話を聞いた限りでも哀れな人生だったようだしな…最後くらい自由に…)」


サード

「いいえ、自由にはさせません」


リッツ

「えっ!?」


リッツ

「(何だこいつ、人間は魔族より情が厚いものじゃないのか?しかも希望を持たせて一気に突き落としたぞ何だこいつ…)」


アレン

「(前魔王の息子のリッツが引いてる…)」

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