一瞬のこと
こんな抱きかかえられている状況で捨て身の爆発を受けたら、どんなにいい装備をつけているからってどうなるかわからない。離れようとジルの腕を押しのけるけれどジルの力が強くて離れられない…!
あ、そうよ、こんなときこそ無効化の魔法を使えばいいじゃない!
そう思って魔法を発動しようとすると、ジルがガッと目を見開いて私の頭を片手で掴み、地面に押し付けるよう横にはっ倒した。同時に私の頭の上をブゥンと何かが猛スピードで通過してジルの頬から鼻の付け根、頬から血が吹き出す。
「ギャアアアアア!」
ジルは今までにない絶叫を上げて顔を抑えて地面をのたうち回った。
「特に誰にサリアを渡さねえって?」
後ろから聞こえるサードの声に振り向くとサードは聖剣を軽く振り回してから、満足げに聖剣を眺めている。
「流石精霊のリヴェルだ。骨を斬った感触もしねえほどの切れ味になって戻ってきた」
…ねえ、今のサードの攻撃って、私がジルに横に押しやられてなかったら私の頭も聖剣で一直線に切られていたんじゃないの…!?わざと?それとも何か考えがあって?でもあのスピード、全然躊躇してなかったわよね…!?
軽く恐怖していると、ジルは血が止まらない顔を押さえながらサードを睨みあげる。
「てめ…!んだそれ…!」
「勇者が持ってる剣が何かなんて馬鹿なお前でも分かるだろ、それとも分かんねえか?」
ジルはそこでサードの持っているのが魔族にとって最大の敵である聖剣だと気づいたみたい。
それでも切られた痛みでキレているのか即座に叫んだ。
「俺の邪魔すんじゃねええー!」
「無理心中の邪魔をして何が悪い?」
「ぶっ殺してやる!」
ジルはそう言うとサードに向かって手を向け、ドオンッと爆発の炎がサードに向かっていく。
今までジルの攻撃を見ていて分かったことがある。ジルの攻撃は早い。私が魔法を使うより発動の時間が短い…!
「サード!」
間に合って!
サードの周りに無効化の魔法を広げた。間に合うかどうか微妙なタイミングだったけれどジルの爆発の炎はサードを避けるようにサードの周辺を通り過ぎていき、爆風が過ぎ去り砂ぼこりも薄くなると中からケロッとした顔のサードが現れる。
下手したら爆発に巻き込まれる所だったというのにサードは表情も変えず私をチラッと見て、
「おい、俺の周りに魔法張るよりジルの周りにやれよ」
とふてぶてしく文句を言ってきた。
分かっているわよとジルの周辺に無効化の魔法を広げジルを包み込む。
サードが無事なのを見たジルは再び爆発魔法を使おうと手を向けたけれど、私の無効化で包まれているんだもの、爆発が起きないでスカスカと手を動かしているだけ。
ジルは混乱した表情で手自分の手を見て、私を見た。
「そうよ、私が止めているの。私は自然に関する魔法だったら止められるから…!」
そう言いながらじりじりとサードの前に立ちはだかっていくと、ジルはその様子を見てショックを受けたような顔をして、すぐさま私を…ううん、私を透かして後ろのサードを睨みつけてギリ、と歯が折れそうなぐらい歯ぎしりをする。
「結局…俺のことは嫌いじゃねえつってもその詐欺師を選ぶのかよサリアは…!」
何を言っているのと首を横に振る。
「選ぶ選ばないじゃないの、仲間だから守るのよ」
サードはいつの間にやら背後に立って、ケケ、と笑いながら私の首に腕を回して顔を近づけながら、
「まあ俺とこいつはこういう仲だからな」
こんな状況で何を馬鹿なこと言ってるのよ、と肘で押しのけるけれど、今のサードの言葉にジルはブチ切れた表情になって余計歯ぎしりをしている。
ジルは攻撃しようと腕を動かすけれど爆発は起きない。
そこで私が爆発を防いでいるのを思い出したらしいジルはそれでも私たちに攻撃するかという顔を向けたけれど、それでも立ち止まる。
考えていることがそのまま顔に出でいるわ。
聖剣を持つサード相手に魔法なしで戦えるのか、逃げるか、だが何で魔族の俺が人間から逃げないといけない、殺す、ぶっ殺す…。
そんな目まぐるしい表情の変化を見せてからジルは腕をブルブルと震わせてから地面を怒りに任せてドゴォッと足で蹴る。
そしてガッと頭を上げ空に向かって怒鳴り散らし始めた。
「おいてめえ、憎悪のクソ神!てめえあんなにすぐ来て去ってくんならどっかからこっち見てこっちの状況分かってんじゃねえのか、他の憤怒だかの神もそうだ!自分が与えた力がさっき使われたんだぜ、分かってんだろ!?」
急にどこにいるかも分からないし見えもしない神様たちに向かって怒鳴るジルを黙って見ているとジルは空に向かって指を差し、
「どうやらてめえらは悪い奴だろうが自分の気に入ったやつに力を与えるみてえだな、自由に悪いことを振りまく奴らもいるってさっきの憎悪の神も言ってたからな!なら俺に…誰か俺に力を寄こせ!そこの詐欺師を殺す力を俺に寄こせ、このクソ神どもが!」
サードは呆気にとられたようだけれど、少しずつおかしそうに含み笑いしながら聖剣を構える。
「魔族のくせに神頼みか?魔族のプライドもなんもねえ野郎だな!だがそんな言葉で神が現れるなら俺らだってここに来るまでろくに苦労しなかった…」
斬りかかろうと駆け出したサード足、それと言葉が止まった。その目線はジルの真上を見ていてわずかに下がってくる。
サードの視線に私もジルの上を見あげて「まさか」と驚きの声が漏れる。
ジルはまだ気づいていないけれど、いつの間にかどこからともなく鈍い光を放ち四つの腕を広げた女の人が現れていた。でもあの自ら光る体、それと四つの腕…この地域の神様に当てはまっている特徴じゃないの…!
現われた女性の神様…女神?は地面に引きずるくらい長い藍色の髪の毛をふんわり広げ、薄く白いワンピースをはためかせながら、ゆるゆるとジルの背後まで降りてまとわりつくようにギュッっとジルを軽く抱きしめる。
そこでようやく何者かが背後に居るのに気づいたジルが振り返ると、女神は四つの手をスルスルとジルの頬から唇、胸、お腹、腰回りを触る。
「呼んだぁ?」
ファジズよりもねっとりとまとわりつくような甘える言い方で女神はジルの耳元で囁く。
「…!」
ジルはゾワッとしたのか女神から頭を離す。女神はおかしそうに笑った。
でも女神のワンピースは首元がダルダルに伸びていて、少し動くだけで大きい胸の谷間が丸見えになるし際どい所がここからでも見えそうで、神様相手でもヒヤヒヤする。
女神はそんな私の考えを読んだのか私をおかしそうにちらっと見た。
「見せないわよ、タダで裸体を見せる程あたし優しくないの」
甘えるような、それでも馬鹿にするような口調で言う女神の言葉に、
「あなたは…ジルの言葉に応えて来たの?」
「そうよお?だってこの子、力が欲しそうだったんだもの」
そう言いながら女神は空中に浮きながらジルの頭を抱えるように抱き着く。
まさか怒りに任せたジルの言葉で本当に神様が来るなんて。…でもこれってヤバい気がする。
ジルの爆発は私の魔法で押さえられた。でもさっき憤怒の神様から愛された赤い騎士の炎は防げなかった。
だとしたら私の魔法じゃ神様から与えられた力は防げない。
それでもこの世の何でも斬れる聖剣を持つサード、魔界を焦土にできる私なら神様一人を追い詰めることはもしかしたらできるかもしれない。
でもさっきオーディウムは言っていた。ハリストはヤーラーナの心と体を傷つけ罪を重ねる結果になったとか何とか。
…仮に神様を傷つけ殺してしまったら…私たち、これからこの先どうなる?神殺しをした人間ってことで世界各国の神様たちから変に睨まれたりしない?
サードは私と同じことを考えているのかどうか分からない。でもうかつに突っ込んでいくと危ないと思っているのか聖剣を構えたまま切り込めずにいる。
ジルは…女神の鈍い光に当てられて抱き着かれているせいか、体が痺れてろくに動けなくなっているみたい。そんなジルを見て女神はけらけら笑いながら、
「やだぁ、緊張して動けないのぉ?かっわいー」
ジルはギッと女神を睨みつけ、ぎこちなく女神に首を動かし、喋りにくそうに口を開いた。
「俺に…力を貸す気はあんだな?」
「そう願ったのはジル、あなたじゃな・い・の?」
女神はジルの頬をつんつく突つきながらもニッコリと笑う。
「それでもあたしの能力は凄く危険よぉ?だから最初に説明してあげる、あたしは本当に扱いにくい負の感情を司ってるの。だからジルがあたしの話を聞いて考えなおすなら素直に引いてあげ…」
「グダグタうるっせえ!いいからてめえを受け入れる、力を寄こせ!」
それを聞いた女神はわずかにのけ反ってけらけら笑った。
「あたしの力を得た人はすぐ力を暴走させるから先に丁寧に説明してあげてるのにぃ、我慢のきかない子なんだからもう」
「俺は魔族だ、力のねえ人間なんかと一緒にすんな、いいから力を寄こせ早く!」
女神は笑いをこらえるのに必死な顔で「はいはい」とジルにしがみつこうとする…。
と、サードが前に一歩出た。
「待て!」
サードの言葉に女神の動きが止まってサードに視線を移す。サードはニヤニヤ笑う声で女神に向かって手を伸ばした。
「そんな男より俺に力を分け与えた方がいいんじゃねえの?」
思わずサードを振り向く。
えっ何言っているの?まさかこんな状況で、薄着で巨乳の女神にまとわりつかれているジルが羨ましくなったわけ!?
こいつ、と思ったけれど、振り向いた先のサードの顔を見てそれはすぐに違うと察した。サードの口元はいつも通り余裕そうに笑っているけれど、でもその目は切羽詰まった真剣な目。
きっとサードはジルに神の力が与えられたら倒せないと考えた。だからジルじゃなく自分に目を向けさせてジルに力を与えないようにと…。
でもそれはダメよ!
私はサードに掴みかかる。
「ダメよサード!あの女神も自分の力は扱いにくくて危ないって言っているじゃない!どういう力か分からないけど…神様が危険だってわざわざ言うんだから危ないのよ、馬鹿な考えはやめて!」
「うるせえ放せ!ジルに力が渡るくれえなら俺が受け取ってやらあ!」
「やめて!やめてってば!」
サードは私を押しのけるけれど、それでもここは止めないといけないと私はサードの服を思いっきり引っ張って止めようとする。
二人で押し合い引っ張りを繰り返しているとフッとジルがジルが眉間に深いしわをよせてこっちを睨んでいるのが見えたけれど、とにかくそんなことよりサードを止めないと…!
サードは私に服を引っ張られながらも女神に指さした。
「いいからてめえの力を俺に寄こせ!俺を愛した方がメリットが多いぜ!」
するとジルは腕を大きく動かして怒鳴り返す。
「黙れ!俺が呼んだんだ、こいつは俺のもんだ!」
女神はキョロキョロとサードとジルを見て、頬に手を当ててウットリしたため息をついた。
「二人の男にこんなに奪い合いされるなんて、女冥利に尽きるわぁ。でも…」
女神は長い髪の毛、それと大きい胸を揺らしながらサードを指さすと、
「ごめんなさい、あなたは無理。だってあなたは…」
女神はどこかサードの奥すら覗き込むような目つきになって、あはっ、と笑う。
「あなたはもう堅く守られてるもの。やぁよ、私そんな怖い存在に睨まれたら浄化されちゃう」
「…?」
サードは何言ってんだこいつ、という顔をしていたが、ジルはイライラしたように女神に怒鳴りつける。
「そいつはどうだっていいんだ!俺に力を寄こす気あんのか!ねえのか!」
女神は「あらあら」とジルの坊主頭をショリショリ撫でる。
「本当に我慢のきかない子でちゅねぇ~きゃわいい子ぉ」
子供扱いされてジルは余計キレそうな顔になっているけれど、女神はニッコリ微笑むとジルにギュッっと抱き着く。
「じゃあ受け取って…?」
囁くように言うとジルの周辺が…地面からドンッと風が起きるように赤いモヤが発生した。ジルは赤いモヤに包み込まれ、それが手の周りにグルグルとまとわりついていく…。
サードに切り裂かれ血が流れ続けていたジルの顔の傷は見る見るうちにふさがってなくなっていく。
女神の鈍い光で動きにくそうだった体も動きやすくなったのか、手を握ったり開いたりしている。
「これが、お前の力か…?」
「そうよぉ。それと一応説明するわねえ?あたしの力は危ないから我を失くしちゃダメ。どうあっても冷静でいないといけない、本能を理性で押さえつけるの…」
「うるせえ黙ってろ!」
ジルはそう言うとサードに向かって手を伸ばした。無効化の魔法をずっとジルにかけていたというのに、バチバチと爆発しそうな音が発生したかと思うとジルにまとわりつく赤いモヤが一斉にドンッと放たれる。
サードはジルに手を向けられた時にはもうその場から逃げていたから無事…、だけどやっぱり神から与えられた力は私の魔法じゃ防げない!
それにジルが放った爆発は赤いモヤと一緒に赤くて丸い光の塊になってサードの居た場所の地面を大きくえぐった。そのままブゥウンと低くうなるような…大きい蜂の羽音に似た音を立てて周りの砂を吸い込み、段々とその光は小さくなってフッと消える。
そこは綺麗にえぐられた地面が残っているだけ…。もしかしてあの赤くて丸い光の塊に当たったものは跡形もなく綺麗に消滅するとか…!?
「死ね!死ね死ね死ねーーーー!」
ジルは叫びながらサードにどこまでも赤い光の塊を放ち続けている。
サードは余裕な雰囲気で俊敏にどんどん遠くに逃げ回っているけれど、仮に聖剣があの赤い光の塊に当たったらどうなる?もし聖剣が綺麗に消滅してしまったとしたら…?
ゾッとしてジルに向かって魔法を発動しようとする。もう無効化は効かない、だったら攻撃を…そうよ、人に向かって使ってはいけないリヴェルの力だったらきっと魔族のジルに効くはず…!
リヴェルの力を発動するとジルに向けた手の平がじんわりと暖かくなって、そのまま無我夢中で放った。
するとジルの体がドゴオォンと爆発して吹っ飛んだ。見ると服も一瞬で燃えて腕も引きちぎれたようにみえたけれど、赤いモヤに包まれて即座に腕は繋がり回復していっている。
ジルは振り向き、
「サリア…」
と私に攻撃されたことにショックを受けたような顔をしたけれど、それでも私はジルを透かして遠くにるサードに向かって叫ぶ。
「サード、大丈夫!?あの赤い光の塊に当たったら体が跡形もなく消えちゃうわ!絶対に当たらないように気を付けて!」
そう言ってから手前にいるジルをみると、その表情はさっきのショックを受けた顔じゃくなっている。ものすごく怒りにまみれた憎々しい顔…。
「俺には攻撃して、あの詐欺師は守るのかよ…!」
ジルは体を震わせ、ジルを囲う周りの赤いモヤがゴオッと炎が激しく燃え上がるように空高く広がっていく。
「サリア…てめえは俺のもんだ!今からあの詐欺師をぶっ殺す、そうすりゃあの野郎に目を向けなくなるだろ、てめえは俺だけ見ていれば…俺だけ見ていりゃいいんだ!」
「あんだめぇ、怒らない怒らない」
怒るジルに女神は焦っているのか焦っていないのか程度の声でジルに落ち着くよう促しているけれど、ジルは女神の言葉に耳を貸さないまま叫び声をあげて手を大きく動かし遥か上空に飛んだ。
手の平程度ぐらいの大きさになるまでジルは高く飛んで行き、その手の内には今までと比べ物にならないぐらいの巨大な赤い光の塊が発生して、その塊は見上げる限りの空を覆っていく。
「ぶっ殺してやらあああ!てめえを殺せばサリアは俺のもんだぁああ!」
こんなに遠く離れているのにジルの声はハッキリ聞こえる。でもあんなに巨大な塊を放たれたら…サードだって逃げきれない、サードどころか私も、どこにいるのか分からない皆だって…!
「やめてジル!」
叫ぶけれど上空からはジルの、
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す!ぶっ殺してやる!てめえをぶっ殺してやるこの詐欺師がああああああ!」
と怒鳴り散らす声が聞こえる。そのあとから赤い光の塊のブゥウウウンと唸るような低い音がどんどんと大きくなって、あまりの音の大きさに思わず耳を塞いだ。
ジルが怒鳴っている声もわずかに聞こえるけれどもう何を言っているのか聞こえない。ただジルの怒鳴り声に呼応するみたいにどんどんと赤い光の塊はもっともっと巨大化して音も酷くなっていく。
でも見る限りジルは自分の出した赤い光の塊を制御しきれなくなってきているわ。手は大きくブルブル震えているし今にも赤い光の塊に潰されそうなのを根性で支えているような…!それにしても何て酷い音なの、耳を塞いでいるのにこんなに耳が痛い!
赤い光の塊は空を覆いつくしそれでもまだ巨大になっていて、降ってくる砂をどんどん吸い込んでいる。砂どころかジルの焼け残った上着も千切れて赤い光の塊に吸い込まれていっていった。
そんなジルが口からゴフッと血を吐いて空中でよろめいているのが見え、
「ジル!」
とジルの名前を呼ぶ。それでもジルに私の声はもう届いていない。
ジルの目は真っすぐサードを見ている。殺意の目を向け、血を吐き、大きく口を開ける。
何を言っているのか分からないけれど、口の動きで何を言っているのかは見て取れた。
『死ね』
ジルはサードに…私たちに向かって空を覆うほどの赤い光の塊を振り落とそうと大きく腕を動かして…。
「…!」
一瞬で考えが巡る。私の人生終わった、もうどうにもならない、こんな所で死ぬの?嫌だ、まだ死にたくない、死にたくない、ならどうする、リヴェル、リヴェルの力で全力で返したら…。
私は目を見開いて手を赤い光の塊に向ける。
と、ジルが腕を動かすと同時に赤い光の塊がバァン!と大きい音を出して破裂した。あまりの音にまた耳を塞いで首をすくめ、またジルの浮かぶほうを見上げる。
赤い光の塊はボッと大きく周辺に飛散したかと思うと急速に縮んで周りの砂を、そしてジルを吸い込んだ。
一瞬のことだった。
ジルは驚いた顔のまま一言も声を出すこともなく塊の中に消えて赤い光の塊は周りの砂を吸い込み続けながら少しずつ小さくなっていくと、ブウゥウンという低い音をたててフッと消える。
赤い光の塊が消え、降り続けていた砂も綺麗になくなり、目に映るのは星の綺麗な夜空だけ。
ゆっくり空から下に視線を移すと、そこにはジルに力を与えた女神が空中に浮かんで立っている。
呆然としていると、私の顔をみた女神はプッと吹きだしけらけら笑いながら身をよじった。
「ひっどい間抜け面ぁ。んっふふふ、だから説明はちゃんと聞かないとダメなのよぉ。あたしの力は扱いづらいんだからぁ」
どういうこと…?
そう思いながら女神を見ていると、私の心を読んだのか女神はニッコリ笑う。
「あたしはねぇ、負の感情を司る神々の中でも正の感情を生み出さない感情を司ってるの」
「正の感情を生み出さない…?」
サードも呆然とした雰囲気で聞き返すと女神は頷いて、
「気になる?気になるぅ?」
と後ろ手を組んでツツツ、と平行移動しながら私たちの目の前でピタリと止まり、大きく身を乗り出しニッと嫌な笑いを浮かべた。
「嫉妬」
そのまま嫉妬の女神はゲスっぽい笑い顔を浮かべ、
「よく聞くでしょう?嫉妬は身を滅ぼすの。あたしの与える力だと言葉通りに」
そういうと女神は身を起こし甘ったるい表情に戻ると、またおかしそうに笑いながら手を上にあげて伸びをする。
「あ~久しぶりに楽しかったぁ。最高~、これだから力与えるのやめられないのよねぇ~」
けらけらけらけらと、どこまでも耳に残る甲高い笑い声を残し、嫉妬の女神はゆるやかに消えていった。




