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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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魔族と

目の前のランディキングは…どう見ても怒っている。

いつも無表情で淡々としているような人なのに、その顔は今までに見たことがないほど怒りに燃えていている。


でもその怒りの目は私たちには向いていない、その先にいるのはハリストとその配下たち。


「何だ貴様!」


ランディキングの近くにいたハリストの配下の一人が剣を向けて急に現れたランディキングに斬りかかっていく。するとランディキングはジロリとその人を見た。

その瞬間、剣を上段に構えて振り下ろす男の人の体、剣までもがざらりと乾いた土ぼこりになって崩れていく。


ランディキングは怒りの形相のまま、声を低く絞り出した。


「…誰だ?」


ずんずん近寄るランディキングにハリストは剣先を向けて配下たちに怒鳴りつけた。


「それ以上近寄らせるな!全員で殺せ!」


「しかし我々の魔法は何者かの力で封じられて…!」


魔道士の一人が訴えるとハリストはその魔道士の頭をたたっ切って、力任せに蹴りつけ倒したあと、腕、胴体、足とバラバラにした。魔道士の体はゾルゲの屋敷で見た人形のようになってその場から動かなくなる。


「向かわねば殺すぞ、このようになりたくなければ魔法が使えずとも向かえ!」


怒鳴るハリスト、殺された魔道士を前に皆がランディキングに立ち向かおうとするけれど、ランディキングの目は配下たちを通り過ぎて喚くハリストを見据えた。


「お前か?」


ランディキングは歯をギリ、と鳴らし肩をいからせ怒鳴り声をあげてハリストに詰め寄っていく。


「お前か?お前なのか!?勝手に俺の物を…土を使って人間を生き返らせた奴は!?」


その怒鳴り声でランディキングに向かう剣士数人の体がざらりと崩れ、土ぼこりになった体は綺麗に吹っ飛んでいく。


立ち止まる間もなく人を何人も消していくランディキングに戦意喪失した魔道士の一人がヒィィと情けない声を出して尻もちをついた。それでもすぐさまヘラヘラ笑って、拝むようにランディキングに膝でにじり寄っていく。


「あ、あの、あの、あなた様はただ者ではございませんでしょう、どうです私たちと共に世界を手に…」


「黙れ!」


ヘラヘラ笑っていた魔導士はボッと土ぼこりになって消えた。

突き進むランディキングにハリストの配下たちも思わず後ずさって道を開けて、ハリストの前にランディキングはがズンッと立ちはだかる。


「貴様…!」


ハリストが剣を振り上げようとすると同時にランディキングは怒鳴りつける。


「人間は最後は俺の元に帰る!だが俺の元に帰った奴を、勝手に土を使って生き返らせたのは許さん!」


その言葉にハリストの持つ剣、そして手が土になって崩れていって、ハリストも崩れた手首から先をギョッと見てから少し後ろに引いて怒鳴り返す。


「何を馬鹿なことを!我が生き返らせたのではない、ゾルゲとかいうエルフが我らを生き返らせたのだ!そいつももう我が殺してとっくに死んだわ、たわけが!」


その言葉にランディキングは動きをピタリと止める。


「…死んだ?」


するとランディキングから怒りの表情が抜けて、いつも通りの無表情で淡々とした顔に戻っていく。


「そうか、ゾルゲも俺の元に帰って来るのか。なら別にいい。悪かったな、急に怒って」


怒りが収まったランディキングにハリスト、それとハリストの配下からも緊張がわずかに抜ける。それでも自分の崩された手を見てハリストの表情が段々とイラついてきているけれど、それでもさすがに敵わない相手と見たのかハリストはあごを上げてランディキングにもう片方の手を伸ばした。


「貴様、我をここまで追い詰めるとは中々のものだ。我の配下にしてやってもよいぞ」


この地上を作った神と同等の相手に対してなんてことを、と私は思うけれどハリストたちはそのことを知るわけがない。

ランディキングは首を横に振って、


「いいや。それより体を返してもらう」


そう言った瞬間、ハリストの配下全員の体がざらっと土になって崩れていった。

ハリストはギョッとした顔になって、不味い状況なのをいい加減分かったみたいで手を突き出してブンブンと動かした。


「ま、待て!我はマジェル国第十一代国王、ハリストだぞ…」


「知ってる。お前が生まれた時から死ぬ時まで俺はずーっと見ていた。お前だけじゃない、今消えたお前の配下全員、お前の娘たち、家族、親族…全員見て、死んだらその全てを受けれてきた。もちろん天から見放されたお前も俺は受け入れた」


ランディキングはハリストに手を伸ばす。


「天がお前を見捨てようが俺は俺の地に足をつけた者はいつでも拒まず何者でも迎え入れる。だから帰ってこい」


ものすごく愛情深いようにランディキングは言っているけど…今の状況だとそれって死ねと言っているも同じことじゃ…。


ハリストは表情を固めて後ろに引き下がったけど、自身の長いマントを足でふみつけ転んだ。そうしているうちにボロボロとハリストの体も表面から少しずつ土になって崩れていく。

ポロポロと崩れる体、顔をハリストは息をのんで止めようとするかのように手で押さえる。ランディキングはハリストの前にしゃがむと目を合わせて、


「それでもお前は悪いことをし過ぎだったからゆーっくり地面に帰ってこい。じわじわ殺されるのがどれだけ怖いか、ようく味わって反省しろ」


顔すら判別できないくらいボロボロに崩れているハリストは這う這うの体でランディキングから逃げ出していく。それでも逃げる度に体はどんどん崩れていくけれど、それでもハリストは逃げていく。


「嫌だ!拒め、我を拒め、このように我は生き返った、生き返ったのだからまだ我にはやることがある、あるはずだ!」


そんな這っていくハリストに近づいていく姿を見つけて、視線を動かす。そこにいるのは立派な王様…。


立派な王様は哀れな目つきで這いながら逃げるハリストを見下ろして、剣を構えた。


「絵本と同じだな。私も一人で終わるが、お前も一人で終わっていく」


「誰だ、誰だ貴様は!」


急に聞こえた声にハリストが怒鳴ると立派な王様は剣を振り上げる。


「貴様をモデルに作られた絵本のキャラクターだ!」


そのままハリストの首をザンッと斬った。もうただの土の塊みたいになっていたハリストの首はボロリと落ちて、そのまま動かなくなった。


土の塊に戻ったハリストに対して、立派な王様はまるで騎士みたいに剣を構えて敬意を示すような仕草をする。


「貴様は嫌いだ。貴様の所為で私は無限の苦しみを味わう羽目になった。…だが礼を言っておく、貴様のふるまいを見たおかげで私は本の中での存在意義を見出せた」


今までことの成り行きを静観していたサードは立派な王様に声をかけた。


「自分を殺した気分はどうだ」


立派な王様はサードの言葉にフンと鼻で笑って、どこか吹っ切れたような笑みを浮かべて私たちを見る。


「最低な気分だ!」


そのままハリストの体だった土を踏みつけ、高圧的な態度で私たちに指を突き付けてくる。


「これからも私は人を殺すぞ。民も殺す、神も殺す、仲間も世界中の者も全員殺して最後まで生き残る。…そんな最低最悪の王をこれからも繰り返し本を開く者どもに見せつけてこのような人間を減らしてやる、それが私の存在意義だ!」


そう言い残し、立派な王様はスッと消えていった。


「俺も帰る」


同時にランディキングもそう言うと、あっという間に体中にビシビシと亀裂が入ってザザッと砂になって消えていった。


「…」


この短時間で一気に起きたあれこれで頭がボーっとしていたけれど、ハッと気づく。


そうだ、お城が崩れて生き埋めになっている人々を助けなくちゃ…!


無効化の魔法を広げようとすると、サードが抜き身の聖剣を振り上げてジルに振り下ろした。


「んだあ!?」


ジルは驚いた声を出しながら間一髪で聖剣を避ける。オーディウムの光に当てられてまだ体の動きは鈍いけれど、それでもサードの攻撃をすんでで避けた。


「何すんだてめえ!」


サードはどこの悪人なのよって顔で笑う。


「あのエルフ爺が余計な事しやがったが、最初からこの予定だったんだ。てめえを殺せばてめえを崇拝することで黒魔術を使ってた奴らも黒魔術が使えなくなるし、黒魔術士にかけられた魔法も帳消しになるからな」


ジルは訳が分かってないのか黙り込んでいて、サードは状況が呑み込めていないジルを呆れて見ている。


「なんだ、裏切られたとこれっぽっちも思ってねえのか?」


「裏切…!?」


ジルは混乱の顔でミラーニョを見ると、ミラーニョは説き伏せるようにゆっくりと言う。


「あなたは最初からその男に…勇者にはめられていたんですよ」


ジルはしばらく混乱の顔で固まっていたけれど、段々と点と点が繋がってきたのか見る見るうちに憎しみの湧く顔になってサードを睨みつけた。


「そう言えば勇者がこの国に入国したって…お前が…いや、お前らまさか全員勇者の一味だったのか…!?」


ジルが私をバッと振り向いてきて、思わず目を逸らす。


「サリア…」


嘘だろ?嘘だと言ってくれよと懇願するような声で名前を呼ばれて胸がズキッと痛む。でもひたすら身をすくすめて視線を逸らし続けていると、その通りだと察したのかジルから憎々しい声が漏れ出てきた。


「…じゃあつまりサリア、てめえも最初から俺をずっと騙してたわけだ…!?」


違う…。そう言おうと思ったけれど違わないじゃない。だってずっと…今まで騙していたのは本当なんだもの。

ジルは頭に血が昇ったのか私にズンズン向かって手を伸ばしてくる。


「てめえどんな気分で俺に言い寄られてたんだよ!あの笑った顔も、赤くなった顔も全部演技だったのか!?てめえ…サリアよくも…!俺を騙してたとか何様のつもりだゴラ、ぶっ殺してやる!」


胸倉が掴まれそうになると同時に、サードがからかうようにせせら笑いながら剣を構えた。


「可愛さ余って憎さ百倍ってやつか?ダッセ」


その言葉が耳に入ったらしいジルはカチンとした顔になり、すぐさまカチンからブチンとキレた顔に変わった。


これは…ヤバいかも…!いったん無効化の魔法を解除して、一瞬だけでもジルを砂で生き埋めにして驚かせて攻撃を止める…!


そう考えて無効化の魔法を解除したらザラザラ動いていた砂がジルどころか私たちを飲み込もうと迫ってくる。


あ!しまった、ジルだけ生き埋めにしようと思ったけど無効化の魔法を全部解除したら私たちまで生き埋めに…!私何をやっているの!?


と同時にジルが叫んだ。


「ざっけんなぁあああああああ!」


轟音だと分からない大音量の爆発音が耳をつんざき、いきなり目の前が真っ赤に染まり、あつい熱風が全身を襲い、その衝撃で体が浮いて空中を舞ったと思ったら地面に背中から落下した。


「ッグウ!」


地面に打ち付けられてうめき声が漏れる。


…今の、何?ジルの爆発魔法?


呆気に取られつつも無意識に周りの状況を確認する。さっきまで周りをザラザラと動いていた砂の山が跡形もなく消え去っていて…少しずつ上からパラパラと砂が降ってきている。


自分の服を見ると、上に着ていた奴隷としての服が全て燃えたのか跡形もなく消え失せている。今日はジルと戦うだろうからいつも着ているボロボロの服の下にいつもの質のいい防具を装備してきていた。この装備が無かったら今頃私の体はバラバラになっていたかもしれない、でも装備のおかげで体は大体無事。


でも目はチカチカとしてあまり周囲がよく見えないし、耳もキィーン…という音しかしなくて他の音がほとんど聞き取れない。杖をついてヨロヨロと立ち上がる。平衡感覚が何かおかしくなっているのか真っすぐ立てないし足もよろける。

全体的に体は無事だけどそれでもかなりのダメージを負ってしまった…。


チカチカする目で周りを見渡すと、私たちを飲み込みそうだった砂の山も、サードもアレンもガウリスもサムラも…ミラーニョもどこにもいない。


こんなことになるなら無効化の魔法をそのままかけておけばよかった、私がとち狂って砂でジルを生き埋めにしようとしなければこんなことにならなかったのに。


バラバラと上から落ちてくる砂の量が多くなってきた。上空に吹き飛ばされた砂が降ってきているんだわ。とにかく皆を探そう、私のせいで皆が爆発に巻き込まれてしまったんだから…!


それでも降ってくる砂の量はどんどんと多くなってきていて視界がすごく悪い。


皆の名前を呼ぼうと口を開きかけると、砂の向こうから手が伸びてきて私の胸倉を掴んだ。

ガッと力任せに引き寄せられると、そこには怒りの目で私を睨みつけるジルの姿がある。


目を見開いているとジルは、


「てめえよくも…よくも俺を騙してくれたな!?ああ!?」


と、拳で顔を殴られた。


装備のついていない顔を思いっきり殴られて、チカチカしていた目に思いっきり白い星が飛び散る。

そのまま体が吹っ飛んでゴロゴロと地面に転がった。


痛い…!痛い…!


前にサードに顔を殴られたのとは比較にならない、動けない、痛い、怖い…!


逃げようと這いずるけどジルはあっという間に追いついて、横たわっている私の横腹を二度三度と蹴り飛ばし、踏みつけてくる。いい装備をつけているからその蹴りの威力は半分以下になってる、それでも蹴られる度に息が詰まって、


「ジ、ル…!」


と呼吸と共に名前を呼んだ。


ジルはたじろいだように一歩下がって蹴り飛ばすのを止めた。それでも即座に絞り出すように怒りの声を出す。


「こんな時に…こんな時になって初めて口をきいて俺の名前を呼びやがって…!」


ジルは膝をついて両手で顔を覆った。


「何でもっと早くに喋ってくれなかった!?何でもっと早くに俺の名前を呼んでくれなかった…!?何でこんな完全に敵対する状態になってから正体を明かした…!?」


ジルはそのまま地面に両腕をついて、嗚咽を上げながら私の服を掴んだ。


「俺は本気だった、本気でサリアに惚れてた、それなのにサリアは…。…お前、本当に内心どう思ってたんだよ、馬鹿にしてたのか?俺が騙されてるのを見て内心笑って楽しんでたのか…!?」


「…ちが」


「何が違う!結局騙してたじゃねえか!」


痛む顔を押さえてヨロ、と半身を起こす。それでも今までの事を説明するにはあまりに殴られた顔が痛すぎて無理…。


「嫌い、じゃない…」


首を振りながら言うと、ジルは涙を流したまま顔を上げた。


「あなたのこと、嫌いじゃない…。でも…」


区切った言葉の先を待つかのようにジルは黙って私を見ている。今からでもいい、嘘だって言ってくれって言いたげなその顔に胸が詰まってきて、涙が出てきた。途切れ途切れに話を続ける。


「あなたとミラーニョの存在を、魔王が認識してしまったの…。私、今まで冒険をしてて魔族も人間と仲良くできるって思ってた、あなたも悪いことをし続けてきたけどそれでも対等に話してみたら仲良くなれそうだって思った、でも…」


声を詰まらせ涙を流しながら、私は続ける。


「魔王の配下が…魔王の配下になった前魔王の息子のリッツが、あなたとミラーニョの始末を頼まれてしまったの。私はジルのこともミラーニョのことも助けたい、でも…どう動いてもあなたたちは死んでしまうような結果にしかならないみたいで…!もうどうすればいいのか分かんなくて…!」


その話を聞いたジルは一瞬何を考えているのか分からない真顔になって、すぐさまゆるゆると落ち着いたような表情になって私を見ている。


そんな顔に余計涙があふれて、


「ごめんなさい、助けたいのに、どうしても助けられるような考えが浮かばないの、ごめんなさい、私サードみたいに頭が回らなくて…助けたいのに、何にも良い考えが浮かばなくて…!」


ジルは落ち着いた顔のまま私の頬に手を添えて止まらない私の涙を拭う。


「あの詐欺師とタイプは違うが、サリア、お前も馬鹿正直な人間だな」


「…」


ヒッヒッと息を吸って泣きながら黙ってジルを見ていると、ジルは砂に打たれるがままうなだれた。


「どうせ魔王にバレて殺されるのが先か、ミラーニョが寿命で死んで俺も一緒に死ぬのが先かの綱渡りの状態だったんだ。…そうか、魔王にバレるのが先だったか…」


しばらくうなだれていたジルは、急にガッと私をかき(いだ)いた。


「…え」


「このまま一緒に死んじまうか?なぁ?」


わずかに目線を上げると、ジルが額に唇を当ててくる。思わず肩をすくめてから、またジルを見上げる。


ジルは私をガッチリと抱いたまま私を見下ろして、かすかにニヤと笑った。


「他の男には渡さねえ。あの詐欺師には特に渡さねえ。サリアを抱く最後の男は俺だ」


私の頭を抱えて自分の肩にもたれさせると同時にジルの体中からチラチラと爆発する瞬間のような炎がチラチラと浮かび上がる…。


…え、まさか自分ごと爆発させようと…!?

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