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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ある種のドッペルゲンガー

「ハリストって…リギュラの父さんじゃねえの?マジェル国の残酷な性格の王様…」


喋るなと言われているのに、驚いたのかアレンがポツリと呟く。


じゃああれは絵本のキャラクターじゃなくて、ゾルゲの反魂法で蘇った本物の…残酷な国王ってわけ?

だったら危ないわ。絵本のキャラクターであんなに人を殺そうとしてきたんだから、そのモデルとなった人がどんなことをして人を…私たちを殺そうとしてくるか分かったものじゃない。


ジリ、と下がるとジルが見える。ジルは急に現れた大量の人々に何だぁ?とばかりの顔を向けていて、そんなジルの表情に脅えていると勘違いしたのかゾルゲはヒャーッハッハッハッと高笑いしだした。


「このハリストはウチサザイ国の一つ前の国、マジェル国最後の国王だ!こいつはたった一代で今現在のウチサザイ国ほどの広さを手に入れるほど知略と謀略に長けた男、他の者たちも同じくハリストに付き従っていた力のある者たちばかり!この者たちが揃っていればお前程度の魔族…!」


話の途中で鈍い音がして、ゾルゲの首が宙を飛んだ。


え?と思いながら、赤い液体を吹き散らかし飛んでいくゾルゲの首を目で追う。

ゾルゲの首はドッと鈍い音と共に床に落ちてゴロゴロ転がりサムラの足元に…。


「ギャアアアアアアアアア!」


足元に転がってきたゾルゲの首にサムラは絶叫しながら遠のき、腰が抜けたのか倒れないようにガウリスにしがみつく。ガウリスはサムラにこれ以上目の前の光景を見せてはいけないと自分の服にサムラの顔をうずめさせ体を支えた。


視線をずらすと首の無いゾルゲの体が少し遅れて力なく倒れていく…。


え?ゾルゲが殺された?誰がゾルゲを?一体誰が?


混乱していると倒れるゾルゲの体の後ろで、ハリストがそれはおかしそうに肩を揺らして高笑いをしている。


「何を意気揚々と話している、やかましいわ」


首のなくなったゾルゲの体をハリストが蹴りとばすと、周りにいる魔導士やら騎士のような格好をした人たちからゾルゲを馬鹿にするような含み笑い、嘲笑が溢れる。


ハリストはジロリと私たちを見ると血にぬれた剣を軽く撫でて、ニヤ、と笑った。


「さて、この場に居る貴様らには全員死んでもらおうか、(われ)の城に足を踏み入れた部外者は誰一人として残らず殺すことにしている」


さて誰から殺してやろうかと値踏みする目で周りを見渡すハリストに、


「なんで…なんで…なんで…」


とショッキングなものを見て泣き出しているサムラから声が漏れた。


「どうして、生き返らせてくれた人を、殺しちゃったんですか…!どうして…!」


サムラの声が聞こえたらしいハリストはサムラに視線を移してゲラゲラ笑う。


「誰も頼んでおらぬ、勝手に我を生き返らせたのはあやつよ。そのあとにミラーニョだのと言う男をこの世の支配者にするなどと抜かしていたが、どう考えても我が上に立つにふさわしかろう、この世に王は二人と要らぬ、我のような立派な王は我一人で十分よ!」


絵本の立派な王様が言っていたようなセリフをそのまま言っているじゃない。やっぱりどう考えても危険人物だわ。


するとハリストは剣を軽く振り回して血を払うと、サムラに剣先を向ける。


「さて、会話はここまでだ。最期に我のような立派な王と会話できたことを誇りに思いながら死ぬがよい」


「させません!」


ガウリスがサムラを自分の後ろに追いやり睨みつける。そんなガウリスにハリストは大声をあげて笑った。


「武器も持たないくせに我を相手に戦うと!?馬鹿にされたものだな!」


そう言いながらハリストが剣を両手持ちにして斜め上段に構える。


確かに武器を持って集合するとジルに怪しまれるから皆武器は持っていない、それでも私は今、大きなバッグを肩にかけている。


この中に皆の武器が入っている…!


すぐ大きいバッグからガウリスの槍を取りだそうとするけれど、それと同時にハリストの剣先が動き出す。


あっ、と叫ぶより先にガウリスはハリストに向かって一歩前に踏み込んだ。


何でその状況で前に出るの!


慌てて槍を荷物入れから引きずり出してガウリスに向かってぶん投げようとすると、ブワッとガウリスの目の前に誰かが空中から現れた。


全力で振りかぶったハリストの剣を下段からいなして一歩前に踏み込み、剣先がハリストの喉元を狙って音を立ててせまる。それでもハリストの瞬発力もものすごくて、首を切られる前に後ろに大きくのけ反って剣をギリギリ避けた。


誰がガウリスを守ったの、サード?


視線を向けて、あれ?と目を擦る。

だってガウリスの目の前にはハリストが立っていて、ガウリスを攻撃しようとしていたハリストと向かい合っているんだもの。…私の目おかしくなった?


目を擦るとガウリスの前に居るハリストが目を見開き怒鳴り、同時にサムラも大きい声を出す。


「私に剣先を向けるとは何事だ貴様ぁああああ!」


「ガウリスさんを攻撃するなんて、許しません!立派な王様、僕たちを守ってください!」


サムラが目を動かすとその動きに連動するようにハリスト…じゃない、サムラの精神魔法で出された絵本のキャラクター、立派な王様が動き出す。


じゃあ今、目の前で絵本のキャラクターとそのモデルになった実在の人物が向き合っているていうこと…!


そう考えている間にも立派な王様はグンッと素早く動いてハリストに切りかかった。


「殺す!殺す殺す殺す殺す!私に剣を向けて無事に帰れると思うな貴様あああ!」


ハリストも急に自分が目の前に現れたことに驚いたのか少し対応が遅れた。すると背後の魔導士の一人が呪文を唱えてハリストの目の前にボッと炎の壁を作り出す。

立派な王様はそれでも剣を振りかぶり炎の壁に切りかかると、少し炎の威力が少なくなったところからハリストに突っ込んでいく。


「死ねえええ!」


立派な王様は脳天に剣を叩きつけるように振り下ろす。それでもハリストの背後に控えていた赤い鎧の騎士が立派な王様の剣を受け止め体ごと叩き返す。

跳ね返された立派な王様は空中で体を大きく回転させ、地面に着地すると同時に騎士のお腹を鎧ごと貫いた。


「…おい、あの立派な王様の動き…サードと何か似てる気がするんだけど」


アレンの衝撃を受けているようなぼやきにハッとした。そうよ、サムラはバファ村にいる間ずっとサードに剣の、それと武術の稽古をつけられていた。

ずっと目の前で見ていたサードの動きをそのまま立派な王様で体現しているとしたら…それはサードが二人いるも同じこと。ええ…サムラすごくない?


それでもお腹を貫かれた騎士は一瞬死にそうな「グウッ」と鈍い声を出したけれど、それでも痛そうな素振りを見せたのは一瞬だけ。すぐさま「あれ?」という雰囲気で自分のお腹をさすって、


「てめえゴラ、よくも俺に攻撃しやがったなこの野郎があああ!」


と怒鳴っている。見た感じ血も出ていないし、お腹を突き刺されたというのに痛くもないみたいだわ。


「ハリスト王が…二人…」


ハリストの配下たちは立派な王様を見て動揺している、するとすぐさまハリストはギロッと睨みつけて怒鳴りつけた。


「我のような立派な王が他に二人といるものか!あやつは偽物よ、顔面の皮を剥いで火であぶりあの面を二度と我と同じだと言わせぬようにしてくれる!」


すると立派な王様も憤怒の表情でハリストに剣をつきつけ、


「やれるものならやってみろ、私は貴様の耳と鼻を削ぎ両目に釘を打ち付け生きたまま城門に飾り付けてくれるわ!」


と言い返す。


ゾルゲの死から急に始まった戦いにジルも呆気に取られて静観していたけれど、ふっと我に返ったみたいで一気に怒りの顔になった。


「急に割り入って勝手なことしてんじゃねーぞこのクソどもが!全員ぶっ殺してやる!」


ジルはそう言うと手に炎を灯して爆発魔法を放とうとしているけれど、その先にはガウリスもサムラも居る。

私はとっさに自然の魔法を無効化する魔法を発動すると、ジルの手から爆発しそうな炎、火花がフッと消えた。


「んあ!?」


ジルは炎の消えた手を見てブンブンと振り回すけれど私の魔法で何も発動されない。


「おいゴラ、ミラーニョ!」


ジルはミラーニョが悪いとばかりに怒鳴るけれどミラーニョは、


「知るか!」


と怒鳴り返す。それに呼応するようにハリストは後ろの配下たちに手を向け、


「貴様ら何をぼさっと突っ立っている!全員殺せ、さもなくば貴様らの首も今すぐ真っ二つだ!」


と叫ぶと魔導士たちは呪文を唱え手を向ける。それでもそのほとんどは炎とかの自然に関する力なのか魔法は発動されなくて、


「何でだ!?」

「魔法が使えない!」


って混乱している。するとさっき立派な王様にお腹を突き刺された赤い騎士が、


「魔導士ってのはいざって時使えねえなあ!引っ込んでろ!」


とドスを効かせ言うと私たちに向かって突っ込んできた。


サードは聖剣を引き抜き対峙(たいじ)する。と、赤い騎士の剣に炎がまといドッとサードに向かって一直線に向かってくる。

サードは目を見開き、一直線に向かう炎にむかって聖剣を大きく振りかぶる。炎は真っ二つに割れてサードの横を通り抜けて、炎を交わしたサードは私を睨みつけてくる。


「てめえ!サリア!自然の魔法使えねえようにしたんじゃねえのかよ!」


やってるわよ!と言うより早く赤い騎士は怒鳴りつけた。


「知らねえのかボケ!俺は憤怒の神から愛されて力を与えられてんだ、俺は怒れば怒るほどその怒りを炎として発動出来る、神からの恩恵を人間がどうこうできるとでも思ってんのかよゴラァ!」


するとサードはニヤッと笑った。


「…へえ?じゃあ冷静になったらお前弱えってことか?」


「んっだゴルァアアアアア!」


怒ったら力を増す人に対して何を余計に怒らせるようなこと言ってんのよサードは!

でも、でもよ?あの赤い騎士の言うことが本当ならあの力は神様から受け取ったもの。そんな神様の力に私たち対抗できる?…でも魔法を使う前に倒せば何とか…。


あれこれ考えて私も大きいバッグから杖を取り出していると、ふっと視線を感じて顔を動かす。

するとハリストが私を見ていて、フム?と笑うと剣先を私に向けて配下たちを見る。


「その女はまだ未熟な年だが子供も産めそうだ、我の子を産ませるからそいつは殺さぬように!」


…は!?


嫌悪感でゾワッと鳥肌が立つ。そして今のハリストの言葉にジルがキレた。


「んだ、サリアをどうするだって!?このエロジジイがぁああああ!」


ジルはハリストの周りを取り囲む配下の魔導士たちを殴り飛ばしハリストの胸倉を掴むと、顔を思いっきり地面に叩きつけるようにぶん殴った。

ハリストはブォッと短く叫び、地面に強く頭を打ち付けられて人の腰ほどまでバウンドしたあと、また地面に落下する。


人だったら軽くても気絶、下手をすれば頭を強く打って即死レベルの衝撃だったと思うけど、お腹を突き刺されても平気だった赤い騎士と同様、ハリストは痛がる素振りももなく、即座に起き上がってジルと距離を取る。


でも思わず息が止まった。


ハリストの顔が…割れている。


その断面は茶色くて、まるで土みたいな凸凹とした見た目…。…あ、そうだ、ゾルゲが編み出した反魂法は土で体を作っているから…。


その半分になった顔を怒りにゆがめ、ハリストはジルを睨みつけて剣先を向けた。


「決まったぞ、一番に死ぬのは貴様だこの若造がぁあああああ!」


ハリストは後ろにいる配下たちに向かって手を軽く動かして合図らしきものを送ると、騎士の姿をした配下たちが即座に陣形を作って武器を構えた。


「殺す!殺す殺す殺す!皆殺す、全部殺す!何物であろうが全てだ、全てを殺しつくして我が頂点に君臨する!今すぐ殺す!」


唾を飛ばしハリストは怒鳴り続けていて、少し落ち着いたサムラと連動して冷静になった立派な王様は、何か考え込むようにハリストを黙って見ている。


「何だあいつは…何故私と同じようなことを言っている…」


「彼はあなたのモデルになった王です」


私から槍を受け取りつつガウリスが向かってくる騎士を殴り飛ばし蹴り飛ばしながら立派な王様に声をかける。立派な王様は目を見開いて、


「あれが…私のモデルとなった王だと?」


とハリストに視線を向ける。そして殺す殺すと狂ったように連呼して喚き散らすハリストをみて渋い顔をすると、一つため息をついて肩を落とした。


「読者から見た私は…あんなのなのか…」


…まるで客観的に自分の嫌な所を強制的に見せつけられたって感じね。


「…私は」


立派な王様の呟きに私は視線を向ける。


「私は何の罰でこんな目に遭わねばならぬとずっと思っていた。表紙をめくられページが進むごとに暴言を吐き、人を殺し、神を殺し、一人になった所で背表紙を閉じられる。それも初版本では殺される。

何かおかしいと私だって分かってる。それでもこの性格からは逃げられぬ。それでも終わったと思えばまた最初から繰り返し…どれだけ同じことを嫌々繰り返してきたことか」


話している途中から立派な王様の渋い顔は意思の出来上がった精悍(せいかん)な顔つきになってきて、剣を構える。


「だがあれを見て私が作者に課せられた役割が分かった気がする。私はとことんあいつのような悪役を絵本の中で演じ、このような悪が現実に存在すればどれほど嫌なものか読者に分からせるのが役割なのだ。本当に私のような王は一人で十分、こんな存在、世に二人も要らん。一人で十分だ!」


立派な王様はそういうと剣を構えてハリストに切りかかろうとするけれど、


「待ってください!」


とサムラが止めた。サムラはキョロキョロして、


「何か聞こえます…!」


と辺りを見渡す。その言葉に私もキョロキョロと頭を動かすと…確かに聞こえる。

かすかにだけれど、遠くから含み笑いのような女性の笑い声が地下室に反響するように響いて…段々と近づいて、大きくなってきている。


すると皆が立っている魔法陣が淡く光ってカッと魔法陣から光がほとばしる。その光の中には人影がみえて、息をするたびに体力が奪われるような死臭が一蹴(いっしゅう)され、花のような芳香が広がった。


「ああ、なんて混沌でしょう。こんな楽しいことここしばらくありませんでしたね」


…あれ?このいい匂い、それに優しい女性的な声…。


バッと光の中の人影を見ると、その腕の数は四つ。それも薄いベールがはためている。


やっぱり!ヤーラーナだわ。ヤーラーナが見かねて助けに来てくれた…!


そう思っていると光は段々と薄くなって、逆光のヤーラーナの口元がかすかに見えてくる。

…でも…何か違う。優しい笑顔を浮かべていたヤーラーナが浮かべることのない、意地悪そうに弓なりになった口元…。


「ヤーラーナ!?ヤーラーナじゃん、久しぶり!」


こんな時なのにアレンは親し気に声をかけて駆け寄ろうとすると、アッハハ、とヤーラーナらしき人は馬鹿にするような声色で笑い、あくまでも優しい声で続けた。


「違いますよ。私はヤーラーナではありません」


そのまま鈍く光る眼で私たちを見据え、また意地悪そうにニマァ、と笑った。


「私は憎悪の神オーディウム。リトゥアールジェムを使った儀式で老齢のエルフの命と対価に私を呼び出そうとした心意気に応えここに来ました」

問1

「この世に王は二人と要らぬ、我のような立派な王は(われ)一人で十分よ!」

ハリストは絵本『りっぱなおうさま』が絵本の中で言っていたことと同じような事を言った。これから分かる事柄を答えよ(5点)








そうだね、ハリストの口癖を絵本の中に書いたんだから絵本の『りっぱなおうさま』を書いた作者はハリストの近くにいた地位の人だね。


※※※


エリー

「ガウリス!あなたの槍よー!」(ぶん投げようとする)


サード

「槍先を人に向けて投げようとする馬鹿が居るか、そのフォームじゃ遠くに飛ばねえぞ、足元に落として自分の足に突き刺すつもりか、もっと先を上に向けろ、腕をもっと後ろに引け、腕で投げるな肩から投げろ、背中の筋肉も使え、全身のバネも使うんだよ、だから先をもっと上に向けろ、槍先を人に向けるなつってんだろ」


ガウリス

「サードさん!エリーさんが混乱しています!」

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