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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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前門の勇者、後門の魔王

完全に魔族二人を助けるのは無理。でも勇者は何か考えをまとめている気がする…?


ネズミたちの言葉にサードを見る。それでもサードはだんまりしていて、そんなサードを見たネズミたちはコショコショ話し始めた。


「あれは色々考えているけどやる気がないから言わない顔だ」


「魔族を助けることについては興味なさそうだね」


「いや彼ももう無理だとわかって見切りをつけたんだろう、その魔族二人は追い込まれて逃げられないってね」


私はサードに詰め寄った。


「だったらサードは二人を助ける方法をある程度考えていたとでもいうの?それでも倒すことばっかり考えて…」


私に詰め寄られたサードは眉間にしわを寄せてしばらく黙り込んでいたけれど、ジッと顔を見続けて何か言うまでこのままでいるわよという構えを見せていると、面倒臭そうに渋々と口を開く。


「言っとくが俺は最初から二人を助ける方法は考えてねえ。俺が考えていたのは道連れの術のことだ」


「道連れの術?どうして?」


聞くとサードは答える。


「もしかしたらだが、ジルとミラーニョにかけられた道連れの術…。実はもう解けてんじゃねえの?」


「…え?」


呆気に取られて、でも、と一歩詰め寄る。


「そんなわけないじゃない、まだ解けてないからジルは自暴自棄になって、ミラーニョも苦しんで…」


「何度も言ってるがおさらいだ」


言葉を遮ってサードがそんなことを言うから私は黙り込む。


「ジルを殺したらジルを信仰することで得ていた黒魔術は使えなくなる」


頷くとサードは続ける。


「人間が使うのと種類は違うだろうが、魔族も魔法が使える。道連れの術もそのうちの一つだ。その術はジルとミラーニョだけじゃなく、兄弟喧嘩で殺し合うことがねえようにそれぞれの親がかける術だってのはミラーニョから聞いたな?」


ウンウン頷く。確かにそんなことをミラーニョは言っていた。


「俺の想像の範囲だが…魔族が使う魔法も黒魔術も基本は同じなんじゃねえの?魔法をかけた本人が死んだら、その本人を媒体としてかけられた力、もとい魔法は消える」


その言葉をそのまま受け取り、じわじわと私は考えを巡らせた。


「それってつまり…二人にかけられていた道連れの術はもう消えているかもしれないってこと?二人のお父さんが亡くなった時点で?」


「かもしれねえって話だ。実際は知らねえ」


「本当だよ」


口を挟んできて振り向くと、リッツはどこかニヤニヤしながら続けた。


「君は森の中で言っていたね。せめて道連れの術の解除の仕方は分からないか、と。あれを聞いた時には道連れの術をかけた父親が死んだ時点で解除されているのに気づいていないのかと思ったね」


「…それじゃあ、どうして二人は未だにその術が解除されていないって思っているの?」


「そりゃあ気づかなかったからだろう」


簡単に返してくる言葉に思わずズル、とコケたけどリッツは続けた。


「案外と気づかないんだよ。道連れの術がかけられたのも、解除されたのも。僕がそうだったからよく分かる」


「へえ、お前道連れの術かけられてたのか。誰と道連れになってたんだ?」


サードが興味本位とからかい半分の感じで聞くとリッツは答えた。


「父…前魔王だ」


一瞬場がシン、と静かになったけれどリッツは昔を懐かしむように話し始める。


「この見た目を父に嫌われ、僕は生まれたと同時に魔界の中でも治安の悪いリージング州の王家に引き渡された。要は好きに殺せと言ってるものだった。だが母は僕の服にメモを挟んでいたらしい。

『この子と魔王には道連れの術をかけた。この子を殺せば魔王も死ぬ、魔王が不意に死んだとあればお前たちがこの子を殺したと分かるからな。そうなったら魔王の妻の座にいる私がどのような行動に出るか分かっているね』と」


何てあからさまな脅しなのと思っていると、サードは「ん?」と首をひねりリッツに詰め寄る。


「それはおかしいだろ。自分の命に関わることなのに、魔族のトップの魔王が術をかけられたことすら気づかねえなんて。そんなに道連れの術ってのは高度な術なのかよ?」


「いいや。ある程度の力があって道連れの術を習得すればどの魔族でもできる。ただロッテから聞いた限り条件はあるようだね。

一つ、かける相手が自分より格下か同等の力の持ち主であること。二つ、寝食を過ごす近しい間柄であること。三つ、術をかける隙を見つけられるかどうか。そして術の解除はかけた本人が死んだ時。だから道連れの術を解除したいのなら…そのジルとミラーニョで当てはめると父を死ぬのを待つか殺すかだった」


そこで私の疑問が解けた。


ミラーニョがお父さんに道連れの術を解いて欲しいと願ってもお父さんが解除しなかったのは、そうすると自分が死ぬしかないからだったんだ。


「僕の父と同等な強さを持つ母からの脅しで、僕はろくに何も反抗できない赤ん坊の時にあんな州にいても殺されることなくここまで育った。リージング州の王も屋敷に来るたびに母からのメモについて繰り返し文句を言っていたよ」


するとサードはポツリと呟く。


「…前魔王が死んだのに道連れの術をかけられたお前は生きているってことは…。前魔王が死ぬより前にお前の母親は死んだのか」


ハッと顔を上げてリッツを見る。リッツは腕を組んで軽く上を眺めながら、


「そうだよ。父が殺される少し前、母は父に激しく悪態をついて殺されたと聞いている。爺やは言っていたよ、全ての魔族が父の敵に回っているあの状況では父が殺されると同時に僕も死ぬ。それを悟り自ら父に殺され道連れの術を強制的に解除したのではないか…と」


そんな…と重苦しい気持ちになりつつ、ミラーニョの生い立ちを思い出しポツリと呟く。


「ミラーニョもね…ミラーニョを助けるためにお父さんが犠牲になって亡くなったって言っていたわ。成り行きで考えると自分の身代わりになって死んだんだろうって」


リッツはそれを聞いて、軽くため息をつく。


「それは残念だったな。お互いに…残念だった」


何となくだけど…今のは自分を愛してくれていた親を同じように亡くしてしまったリッツの心からの同情と共感のように感じる。


「…ねえリッツ、やっぱりジルとミラーニョは殺さないといけない?」


最後のダメ元みたいに聞いてみる。リッツは首をかしげて難しい顔をしていたけれどリッツが答えるよりも先に三匹のネズミがコショコショと話しだした。


「前には勇者、後ろには魔王、横には前魔王の息子だってさ。それで助かる方法なんてあるのかな?」


「どう考えても詰んでるじゃないか。それもあの勇者の性格上、魔族が完全に逃げないようにするために残りの道も塞いでいるに違いないよ」


「あの勇者の性格だからきっととんでもない所に助けを求めて魔族を追い込もうとしているに違いないぞ。きっと魔族ですら長く苦しむところだ」


…それって、前後左右どの道に進んでもジルとミラーニョにはバッドエンドしかないってことじゃない。

でもリッツは今ミラーニョに対して少し親近感を覚えたんだもの、もう一押ししたらどうにか…。


「ところでもう帰っていいかな」


「いい加減危ない魔族の傍に居たくない」


「帰してくれ」


三匹のネズミがそう言うとサムラは「あ、はい、ありがとうございます」とお礼を言ってネズミたちは消えいく。それと同時に、トントンと扉が叩かれた。


まさかジル?こんなリッツのいる所に?


ヒヤッとしたけれど、外から聞こえてきたのは、


「俺だ、イクスタだ」


という声。


ああイクスタね。…え、イクスタ?こんなバファ村にどうして?


するとサードはイクスタの声が聞こえた瞬間に表向きの顔になっていてガタッと立ち上がった。


「今鍵を開けます、少々お待ち下さい」


「!?」


豹変したサードの顔と声と口調に驚いたリッツは、警戒するようにガタッと立ち上がった。


「誰だ貴様!」


サードはニッコリ微笑み、


「何をおっしゃいます、今まで話し合っていたサードですよ」


そのサードの微笑みにリッツは表情を歪め、気持ち悪いとでも言いたげな怪訝(けげん)な目でサードを見ている。


…ああそうか、リッツもサードの表向きの顔を見るのはこれが初めてなのね。


ともかくサードが扉を開けるとイクスタは中に一歩入るけれど、入ってすぐ目につく天使のようなリッツを見てわずかにビクッと肩を揺らす。


「…何だそいつ」


恐る恐るリッツを警戒しながら中に入って来たイクスタが漏らすと、サードは簡単に返した。


「知り合いです。天使のようでしょう、見た目だけは。それでも人が敵う相手ではないので扱いに気を付けてくださいね」


さすがにイクスタに対しては前魔王の息子で魔族だとは言わないのね。

イクスタはリッツを警戒しつつ、サードにスッと何かを差し出す。


「あんたが手紙を送った所全部からの返事が揃ったから、持ってきたぜ」


そういえば前にサードは手紙を書いていたっけ。もしかしてサードの言っていた吉報って今イクスタが持ってきたそれ?


封筒は三枚。一枚はよれよれの封筒、一枚はピシッとしたビジネス的な封筒、最後の一枚は綺麗な装飾の封筒…。


サードは三枚の宛先を確認して、よれよれの封筒とビジネス的な封筒の中身を開いて中の手紙を取り出す。綺麗な封筒は…開けないでテーブルの上に寄せた。


そのままサードは内容を読むと振り向いて、イクスタに見えないようにニヤと笑いながら振り向いた。


「来ましたよ、吉報が!」


それでもサードはその笑いを収めまっすぐ私を見て、


「それと…これが届いたことでジルとミラーニョは完全に包囲されました。ここまできたらもう助けることは不可能です。…分かりましたね?」


念を押すように、サードは私に言った。


* * *


「それじゃあ儀式はサリアじゃなくてこの金髪のガキを使うと」


ウチサザイ国のお城の地下室でジルがボンボンと金髪のカツラをかぶったサムラの頭を容赦なく上から叩いて、ボンボンされたサムラは痛い…と頭を押さえている。

そんなサムラにはもう興味もなさそうにジルは、


「ようサリア」


と腕がくっつくほどススス、と近寄って来て、


「今日は記念の日になるかもしれねえぜ、今まで失敗続きの儀式がついに成功して魔族の俺が神を手下にできるかもしれねえ」


と言うけれど、私はうつむいてジルから離れてサードの後ろにそっと隠れる。


だってもう二人を助けることができないんだもの。ここまできたならもう…倒すしかない。

どのルートに進んでも二人は倒される。私たち、魔王、リッツ、それとサードに来た吉報の手紙の送り主…。四方全て囲まれて逃げられない。


どうにかしたい、でももう何もできない。サードも皆もジルを倒そうとする、そうなったら私もその戦いに参加せざるを得ない。

だとしたら…これから敵対するジルにこれ以上親しげに話されるのは辛い。


サードはジルから離れて自分の後ろに回った私を目で追うと、どこか誇らし気にニヤニヤと笑ってジルを見た。


「この前なびいていると言っていたはずなのに全くなびいていないじゃないですか?おかしいですねえ?」


ケッケッと笑うサードの顔を見たジルはイラッとした表情になってサードを睨んだ。


「てめえ殺すぞ」


「私が死んだら儀式ができませんよ」


…サードって、これから倒そうとしている人相手にどうしてそこまで普通の態度が取れるわけ?


それにしてもこの地下室の酷い臭い…!


ウチサザイ国のお城の地下は湿気が凄くて紙を保管するのに向かないとイクスタから聞いていたけれど…確かに地下室はじっとりしていて、石造りの壁は結露してじわじわと水が床に流れ落ちていっている。

そんな湿った空気に溶け込んでいるこの臭い…。あまりにも酷い臭いだわ、息をする度に体力がじわじわと奪われて行くような気がする。ゆっくり息を吸ってみたり口で息をしてみるけど、それでも結局鼻に臭いがしみついていて意味がない。


しかもこの臭いの原因を知ってしまっているから余計嗅ぎたくないのに…。だってこの臭いの原因は…。


…。サードが地下に入るために階段を降り始めた時、顔をしかめて言っていた。


「死臭…」


って。こんなお城の地下で死臭が漂うほど何をしてきたのか…そう思っただけで鳥肌が止まらない。


とりあえず吉報が来たあと、アレンとガウリスがバファ村に戻ってきたタイミングでサードは動き出した。


私に会うため訪れたジルには、


「日の準備も整ってきた。満月の夜は魔力が上がるらしいからその日に儀式を執り行うと思うんだが。それだとしたらあと数日後だな」


と言っていて、満月である今夜こうやって広く誰も邪魔をしにこないお城の地下室に訪れたんだけど…。


チラと横を見る。


「いやはや、神を呼び出す場に居合わせられるなど光栄の極みですな。それもミラーニョ様ともお久しぶりに会えてお話もできますし、しかしどうしてこんなにも長い間バファ村に訪れてくれんかったのです」


ゾルゲにグイグイと話しかけられてミラーニョはニカニカと…でもものすごく迷惑そうに、


「ええまあそうですね、ジルの手足として色々動かなければなりませんから私は」


と引いている。


そう、ここにはミラーニョと…バファ村の村長、ゾルゲも揃っている。


儀式をやるってことでミラーニョが迎えにきたんだけど、そのタイミングで家に訪れたゾルゲに見つかっちゃったのよね。


今まで会いたくても会えなかったミラーニョを発見したゾルゲは大興奮で反魂法が成功した旨を延々と伝えて、


「こやつらも私の意見に賛成しております、反魂法を覚えた今なら手下を大量に作り出しジルを殺せます。ともにジルを殺してこの国を乗っ取り、それを足掛かりに世界を我らの手に入れてしまいましょう!」


と延々と話し続け、ミラーニョは、


「いえいえ、私はジルの手伝いだけで十分ですから、お構いなく」


と延々と断り続けてた。


それでもゾルゲはこの会えた機会を逃がしてなるものかとばかりにミラーニョの説得を更に続けてどんどん日が傾いてきたから、


「今夜中にやらねばいけないことがあります、これ以上遅くなったらジルに叱られますからこれにて」


とミラーニョは私たちを促し逃げ出そうとしたけれど、


「では私もご同行しましょう!」


…ということで結局ゾルゲもついてきた。


それにしても酷い臭いだわ。そう思いながら歩いていくと、地下室の中央に大きい魔法陣が描かれていて、それをジルが指さす。


「まずミラーニョがここまでセッティングしてる。あとは任せたぞ」


その魔法陣をチラチラ見たゾルゲはかすかにあごを撫でながらニヤ、と笑う。


「なるほど、これはまた随分と古い魔法陣ですな。これなら確かに死体より生きた者の命を使った方が効果はありましょう」


あ、見ただけで分かるんだ…と思いつつゾルゲをみると、そのゾルゲはブツブツと何かを呟いて、淀んだ濁った眼でニヤニヤ笑っている。


その目を見たら背筋がゾッとなって、即座にゾルゲから目を逸らした。

     (勇者一行)

(リッツ) ジルたち (吉報の送り主)

     (魔王)


ジルとミラーニョの今の状況こんな感じ

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