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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ねね、いいだろう?

「うおおー!リッツ久しぶりじゃーん!つーか人間界に来れたんだ、やったなぁ!」


リッツの姿を見たアレンが腕を広げてリッツにしがみついて背中をバンバン叩き、リッツは「やめろ」とアレンを引き離そうとしている。


どうやらアレンはそろそろ帰ろうとした所で私の姿がどこにも見当たらないのに気づいたらしいけど、もう暗くなっていたから明かりが無いと探し出せないと私を探すより先に明かりを取りに家に引き返したみたい。

でも私はリッツに連れられてアレンより先に家に帰って来ていて、お礼にお茶を用意するからちょっと休んで行ってよとリッツを家の中に招き入れ、中にいたサードとサムラに事情を説明していたところでアレンが帰ってきた。


「けど前魔王の息子で今魔王の配下のリッツが来たなら色々すぐ解決してくれるんじゃねえの?魔界って力が全てなんだしリッツ強いんだろ?ジル脅してくれよ」


アレンは私が期待したことと同じことを言いながらリッツから離れたけど、リッツは「やらん」とそっけなく一言返して、


「魔王の意思に反した行動を取って変に目をつけられたくないんだ僕は。…でもまぁ魔王が一言やれというのならその程度の魔族もこの国も滅ぼせるがね」


最後にリッツはボソリと空恐ろしいことを言う。むしろリッツってさっきからすぐ何もかも滅ぼすって言うじゃない。まともに見えて案外と危険人物…?


サムラも天使らしい見た目に反するセリフを吐くリッツを目を瞬かせながらしげしげと見ていて、ともかく話題を変えようとリッツに声をかける。


「まぁ座って。お茶を用意するわ」


「…勇者一行とテーブルを囲んで茶飲みとは…魔王に知られたら睨まれそうだな…」


「魔王…?え?え?」


サムラが混乱している。


あれ、サムラって魔王が復活してる話知らなかったっけ。


そう思っているとリッツもサムラは魔王が復活しているのを知らないと見たのか、からかうように身をのりだした。


「魔王はとっくに復活している。ただ地上にいないだけでな。僕は魔王の配下だ」


サムラは「ええ!?」と驚いて、


「あなたは天使じゃないんですか?そんなに神々しいのに…」


と魔王が復活している話よりリッツが魔族だったことに驚いている。


「で、てめえはこの国のことについては何も手を出すつもりはねえと」


サードの言葉にリッツは頷く。


「さっき言った通りだ。魔王の意思に反した行動を取って変に目をつけられたくない」


「ふーん。ところでラグナスって奴知ってるだろ?てめえと同じ魔王の側近にいる奴だ」


「ああ、会ったことはないが知っている。そのラグナスとロッテの仲がいいから魔王も地上に勝手に行ってしまったロッテを見逃している部分もあると聞いた、まだ会ったことはないがロッテの友人ならきっといい子なのだろう」


まだ会ったことはなくてもロッテと仲がいいってだけで高感度は高そうね。


するとサードは身を乗り出して、


「ここだけの話だが、前にロッテの弟とロッテ、あとラグナスが地上で戦ったことがあるんだ」


そのサードの言葉にリッツは軽く目を見開いて身を乗り出す。


「人間界での魔族同士の交戦は禁止されているはず…」


サードはその時のことを簡単に説明した。

ロッテの弟マダイは魔界にない魔法陣を駆使すれば魔王の座を狙えるのではないかと言い出した。ロッテはそれを阻止させるためにラグナスを召喚して魔王の側近末端に位置する者がどれほどの強さか見せてやってくれとラグナスをけしかけたってことを。


けど何で急にそんな話を?と黙って聞いているとサードは締めくくる。


「ラグナスは言っていたぜ、魔王に歯向かう反乱分子ということにしておけばギリ交戦しても問題も起きないってよ」


そのサードの言葉にリッツはピクッと眉を動かす。


「それは…ジルという魔族は魔王に逆らう反乱分子であるから僕が交戦しても問題ないとでもいいたいのか?」


「そう言うこった」


なるほど、急にそんな過去の話を始めたのはリッツを良いように使おうとしているからなのね。それにしても本当にサードって使える人はどこまでも利用しようとするわね。


そう思っているとリッツもサードに利用されそうなのを知って不愉快そうに椅子に寄りかかる。


「だがそれはラグナスが魔王に気に入られているからこそ許される行為ではないのか?僕は魔王の元に下ったばっかりで信用されているかどうか分らない立場だ」


「それを言うならラグナスだって魔王の元についたのはつい最近みたいなもんだろ」


それはそうだろうが…とリッツは少し黙り込んで、


「それでもラグナスと僕とでは今までの魔王からの待遇は違う。今まで僕はずっと危険視されてきた、やはり無駄に目を付けられるような行動は慎むべきだ」


「何言ってんだよ、逆だろ逆」


サードがニヤニヤと身を乗り出す。


「逆?」


顔を上げたリッツだけど、フッと我に返った顔になって身を引いた。


「いいや、聞かなくてもいい。君の話を聞いていたら君の良いように言いくるめられ利用されそうだ」


「何言ってんだ。俺の話に言いくるめられたからロッテに胸を押し付けられながら唇も当てられたんだろ、聞いてみろよ、いいことあるぜ」


「ロッテの行為を下劣に言わないでくれるか」


リッツが軽くサードを睨みつけているのを見て、


「お茶どうぞ」


と差し出す。するとアレンも、


「俺も飲みたーい。エリーの淹れるお茶ってこだわりすごいからすげー美味しいんだせ、飲みなよ」


とリッツの隣に座った。リッツは苦々しい顔で長めに息を吐いて、


「…まあ、これを飲む間だけ聞こうか」


とティーカップを持ち上げる。するとサードはペラペラと話始めた。


「人間界で魔王の存在を無視して自分の領土を持っている魔族をお前が倒したとする。お前が魔王の立場だったらどうだ?自分のあずかり知らぬところで悪行を働いている奴を自分の配下がどうにか丸く収めたと報告してきたら?何を勝手なことをしたと怒るか?俺だったら『よくやった』って褒めるが」


「…僕は怒りやしないが、魔王がどう出るかは知らん」


あくまでもお前の口車には乗らないとばかりにリッツは警戒した返事をする。


「それも自分が危険視していた新参者が率先して丸く収めたとしたらどうだ?こいつは自分の信頼を得るために身の危険を冒して本来であれば禁じられている行為をあえてした、こいつは命を懸けてまで自分に尽くそうとしているってアピールになると思わねえか?」


一瞬リッツはそれはそうかもしれないが、と半分は同意できるみたいな雰囲気で、


「…まあ君の言い方だとそうなりそうだが、実際に魔王がどう感じるかは知らん」


「信頼を勝ち得たら今よりももっと待遇が良くなる。そんでしばらくダンジョンを留守にしてロッテの屋敷に遊びに行ける機会も増えるかもしれねえぜ」


ニヤニヤとサードが言うと、リッツは軽く嫌そうな顔になって吐き捨てた。


「馬鹿にしないでくれ、ロッテの名前を出せば僕が動くと思うなよ」


するとサードは真面目な顔つきで、


「馬鹿にしてるわけじゃねえ、ラグナスだって友人としてロッテの屋敷に遊びに行くこともあるはずだぜ。それだってロッテが人間側に回るのを阻止したい魔王公認でだろ?

それならロッテを見張る名目もあるわけだから、ラグナスみたいな立場の奴がもう一人増えるなら…俺が魔王だったら万々歳だぜ、ロッテを魔界の者と通じさせる数が多ければ多いほど魔界側に繋ぎとめられるんだからな」


「…」


それは確かに…とリッツは納得したように頷きかけるけれど、ハッとした顔をして首を横に振るう。

口車には乗らないとばかりのリッツだけれど、段々とサードの言葉に言い含められそうになっているわ…。


それでもしょうがない。だって関係ない私でさえサードの言葉を聞いていると確かに最もな言い分だと納得してしまって、リッツはサードの言う通りにした方が待遇が良くなりそうだからそんなに(かたく)なにならないで素直に言うこと聞いてもいいんじゃない?って視線で訴えてしまうもの。


気づいたら皆の視線がリッツを説得するようなもので、リッツは苦悩するように頭を片手で抱えた。


「やはり聞くんじゃなかった…」


「俺は魔界でも言ったろ。何でもいいから利用して今の状況から抜け出してみろって」


リッツは苦悩の表情のままサードにちらりと目を動かすと、サードはまだ真面目な顔でリッツに指を突きつける。


「もう一つここで付け加えてやる。行動しねえと結果はついてこねえ。始める前からきっとこうなるから無理だって何にもやらねえならてめえはそのままゆっくり衰退するだけだぜ。そんな自分で考えねえで魔王にいちいち伺い立ててから動くだけの奴が魔王の配下なんて務まんのか?」


「…」


リッツはしばらく難しい顔で黙り込んでいて、不意に口を開いて視線を後ろに向けた。


「やめないか、君」


リッツの視線の向ける方向に皆が視線を向けると、アレンがリッツの羽にくるまっていて幸せそうな顔をしている。


「ここすっげ柔らかいし暖かいしいい匂い。やっべ、ずっとくるまれていたい」


…なんて空気を読まないアレンなの。


呆れていると、私と同じく呆れているサードはそんなアレンを無視して話を続ける。


「そういやてめえダンジョン作る場所探してんだろ?だったらこのウチサザイ国なんか最適だぜ、この国は悪い国でそれもジルが魔族に住心地のいい下地を作ってっからな。魔族には優しい奴らが揃ってるからジルを消してそこに入っちまえば楽だぜ。

そんな悪い国だから冒険者も旅行者もほとんど居着かねえし、てめえを倒しにくる奴らもろくにいねえ。それにこの国は魔界と考えも近くなってるから魔界でも屋敷からほとんど外に出たことのないお前には向いてる場所だろ。どうだよ、考えるまでもなくここはダンジョンを置くのに最適の場所じゃねえか」


…よくサードはここまで人の心を揺さぶる言葉をポンポンと思い付くものだわ…。


淀みもなく言葉を続けるサードに段々とリッツはウンザリした表情で、


「ああうるさい、なんてうるさい男だ…」


と額を抑えた。そのまま軽くため息をついてから顔を上げて、


「君はどうしても僕を良いように使いたいと見える」


「まあな。ちょうどよく手に入った駒を使わずしてどうするってんだ?」


駒との言葉にリッツの表情はまた面白くなさそうなものに染まるけれどサードは続けた。


「言っとくがお前にとっても俺らは駒だぜ。俺らみたいな駒を使ってお前はどうやって自分の良いように物事を進める?これは俺とお前の戦いじゃねえ、俺ら自身の行く末のためだ」


「…」


リッツは頬杖をついてまたしばらく黙りこんだ。薪がはぜる音が何度も部屋の中に響く。


リッツは悩むようなうなり声をあげると、


「…確かにいくら考えても僕にメリットが多いのは事実だな。魔王とて未だ魔界の立て直し優先で魔界から離れられない状況だ。

だから地上のことは気にかけていてもろくに何もできないと気を揉んでいる。いくら手下を使って調べさせていても地上も広いから隅々まで目が届くことも無いようだし…」


面白くなさそうに腕を組みながらもリッツは、


「釈然としないが勇者の言う通りにした方が得策だろう」


とサードの考えを認めた。


でもそれなら魔王にジルたちのことを知られる前にリッツが丸く収めてくれるのに協力してくれるってことよね?


ホッとして心からの言葉が漏れる。


「それならジルを助けられるわね」

「それならジルを殺せるな」


私が喋ると同時に全く正反対の言葉がサードから出てきて、お互いが「え?」「あ?」と言いながら顔を見合わせる。


サードが喧嘩腰の表情で何か言いかけるけど、あからさまに悪態をつかれると分かっているから手を動かしてサードに落ち着いてとジェスチャーする。

するとサードは珍しく引いて、言ってみろとばかりにふんぞり返った。


「だって魔王に知られる前にリッツがジルを脅して追いやるんなら、この国のあれこれは平和的に解決できるじゃない。そうでしょ?」


そう言いながらリッツを見ると、どこか呆れた顔をして私を見ている。


「先に言っていたことをもう忘れたのか?僕は魔王の配下としてこの国を視察に来た。だから君から聞いたここの全ては魔王に報告すると言ったはずだが」


「…え…。でもさっきサードが魔王にいちいち報告してから動くような人が魔王の配下で務まるのかって…」


「それでも魔族が人間界に自分の土地を作っているという噂はロッテも知っていた。ということはかすかにでもジルのしていることは魔界に知られている。僕がここで知らぬ振りをしても他の魔王の配下が噂を聞きつけたら確認に来て、僕と同じように魔王に報告して結局ジルとミラーニョという魔族は死ぬだろうさ。魔王の手によってね」


そんな、と思いながらも願いを込めてリッツに聞く。


「…ねえ、今なら魔王と他の魔王の配下にもバレずに物事を終わらせるとかできるんじゃない?」


「そこまで君たちに肩入れする筋合いは無い。ただここにダンジョンを作るならジルは確かに邪魔だな」


「だから前魔王の息子のリッツがジルを脅せばさすがにジルだって引くでしょって!そうやれば魔界の他の魔族たちに知られる前に簡単に物事終わるでしょ!?」


テーブルに手をついて身を乗り出しながら言うとサムラは「えっ、前魔王の息子?」ってまた驚いている。けど今はサムラの言葉に答えずリッツの返答を待つ。

するとリッツは腕を組んで、


「分かった」


と一言った。その言葉にパッと喜んだけれど次のリッツの言葉で顔がこわばる。


「だったら僕が二人を殺してやろう」


「…え?」


「僕が直々に殺してやる。魔王の耳に入る前に一思いにね」


「…」


…私、散々ジルを、ミラーニョを助けたいって言っているのに…!


イライラしながらもとにかく訴える。


「私は殺したいんじゃないの、二人を助けたいの。だから脅す程度で終わらせてよ」


「無理だな。魔界の誰も噂すら聞きつけないぐらいのレベルだったらそれで済むだろう。繰り返すようだがロッテも知っていた。そしてロッテの知り合いには魔界の貴族も多くいる。だとしたらどこから魔王にここの話が漏れるか分からん。そして君の言う通りジルを脅して追いやり僕が収まったあとでここの話が魔王の耳に届いたらどうなる?地上のゴタゴタを何も報告しなかったとして僕が咎められるじゃないか。だったらその二人は僕が殺すのがいいだろう」


「でも魔王って話のわかる人なんじゃないの?だって危険視していたリッツのことも色々と考えて配下にしたんでしょ?」


私の言葉にサードが口を挟む。


「リッツは利用価値があるからだろ。魔王にとってジルとミラーニョはリッツほど何かに利用できるような奴らか?」


サードにそう言われると何も言えなくて、でも最後のあがきとばかりに、


「魔王だって話せば分かるはず…」


と言うとリッツはおかしそうに笑った。


「君は魔王の何を知ってるんだ?友達か?」


からかうように言いながらリッツは軽く身を起こすと、透き通るような水色の目で私を見ながら諭すように言う。


「だから僕が一思いに殺してやろうと言っているんだよ。魔王に知られる前に」


「そんな悪役みたいな言い方しないでよ」


「その二人の魔族を思っての優しさで言っているんだが?僕は」


「…それって…魔王に知られたら普通に殺されるよりよっぽど酷いことをされるっていうこと?」


「それは話を聞いた魔王の気分次第と言った所だね」


それを聞いてアレンが、


「やっぱ魔王ってそんな奴なの?」


と聞くとリッツは皮肉的に笑って言った。


「僕の父より評判はいいよ」


魔族からも見限られて倒されるほど評判が最悪だった前魔王より評判がいいって言われたって、比較にも何にもならないのよ。


でもこれって…仮に私たちが何もしなくってもゆっくりとミラーニョとジルは魔王にじわじわと殺されそうになっていたようなものじゃない。

今は魔王が知る前に私たちが先に動いただけ…。


でもそれだったら、どうあってもミラーニョとジルは…。


沈み込む私を見てサードは声をかけてくる。


「魔王に知られる前に人間界で殺すのが優しさだって言ってんだぜ。いい加減に腹ぁ決めろ、エリー」

中国の人が「水色のハンカチーフ」という日本の歌を聞いて、日本にやってきたら水色が茶色じゃなくて青系でビックリしたという話を聞いたことがあります。

黄河だか揚子江の水は茶色系だから、水色=茶色っぽい色って思ってたそうです。


そしてイギリスで水色と言うと黒っぽい色なのだそうだ。イギリスの川の水は底に沈んでる泥の関係で黒っぽい色。そしてイギリスの川ではあぶくが湧いてる所に子供を引きずり込む妖怪が居るから要注意。

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