提案、却下!(後半サード目線)
ジルに好きだと言われてから数日…。私はサードにある提案をした。
「あのね、サード。ジルはそんなに悪い人とは思えないの。倒すのはやめられないかしら。もしかしたら更正してロッテとかラグナス、あとロドディアスみたいに人間に好感を持つような親しい関係になれるかもしれないし、それなら倒さないで仲良くなる方法をね…」
「…ああ?」
サードが何言ってんだ、頭おかしくなったのか馬鹿がと言わんばかりの表情と声を私に浴びせて、サムラも、
「エリーさん…それは…」
と言葉を選ぶように口ごもっている。
サードはこの数秒で最高潮にイラついた表情で、恫喝するように椅子に座りながら横に立つ私を下から睨み上げてくる。
「お前、俺らがここまでこぎつけたもんをぶち壊してえのか?」
「そういう訳じゃなくて…」
「そういうことだろ」
サードは強い言葉で私の話を遮って、
「『ジルはそんなに悪い奴とは思えねえから殺すのはやめられないか?』ふざけんじゃねえ!」
サードはイライラしながら私が言った言葉をまた否定してきて、床に視線を向けて指を動かしつつ黙りこむ。
そりゃあジルは倒すべき相手だと分かっている、それでも毎日のようにジルと話して関わっていると完全に嫌いだという感情が薄れてきた。
自分勝手で乱暴でも落ち込んだり嬉しそうな顔になったりするのを見ているとどうにも人間味があふれていて…魔族だけど…そこまで悪い人だと思えない。でもどうしよう、思った以上にサードがキレてる…。
しかもサードのなだめ役のアレンとガウリスの二人はすぐエーハに戻ってしまって居ないからサードのイライラが止まらないで続いていく。
「んだてめえ情にほだされやがって、あのジルが人間に好感持つようになるかもだあ?馬鹿言ってんじゃねえ、あの野郎がそんな殊勝な心構え持ってるような奴だと思ってんのか?あいつが好感持ってるのはお前だけだ、お前さえよければ他の人間なんてどうだっていいんだ、ロッテだってそうだったろうが、人間がいくら病気で死ぬはめになろうが人間が特効薬を見つけるまで放っとけって言ったろ?魔族なんて気に入った人間以外はいくら死のうが興味ねえんだよ。むしろなんだお前、まさか毎日プレゼントもらって顔会わして優しくされてるうちに惚れたとでも言うんじゃねえだろうなてめえゴラ」
「そんなわけないでしょー!?」
目で殺すつもりかというほどサードに睨みつけられながらも私はその部分は完全否定すると、ようやくサードはそこで喋るのを止めてふんぞり返る。
「…いい判断だ。あの野郎はどうせ大掛かりな言動で女を物にしようが少しすればすぐ他の女と浮気して、それを非難すれば暴力で黙らせるような奴だぜ」
「…」
めちゃくちゃジルのことディスるじゃない。いやまあ確かにそんな感じはするけど。
呆れつつもサードが喋るのを止めたから私も言いたいことを伝える。
「けどジルを倒したらミラーニョも死んじゃうでしょ?…割りきらないといけないって今まで何度も思った。でもやっぱりミラーニョはそこまで悪い人じゃないもの。サブリナ様の恩人だと思うと倒したくないのよ」
ジルを倒したくないと伝えた時と違ってサードは落ち着いた表情で、まあな、と頷いた。サードはしばらく考えこんだ顔をして、口を開く。
「…そんなに今ミラーニョを殺したくねえってんなら、放置する方法もあるぜ?」
「へ?」
どういうこと、と聞く前にサードは続ける。
「そうすりゃ俺らがわざわざ今手をかけなくてもジルは数百年もしたら勝手に死ぬ」
その言葉にはサムラは頭に「?」を浮かべて聞き返した。
「どういうことですか?何で数百年でジルが死ぬって…」
サードは体をサムラに向ける。
「ジルとミラーニョはお互いに道連れの魔法をかけられてる。その魔法は片方が死んだらもう片方も死ぬ。だが考えてみろよ、ミラーニョは半分人間でジルより歳を取るのが早いんだぜ?」
「あっ」
私とサムラは同時に声を上げた。
そう言われればそう、ミラーニョはジルより年下でもその見た目はジルの親ぐらい。それならそのままジルの倍も早く歳を取って寿命を迎えて、それと同時にジルも…。
「…ジルとミラーニョはそのことに気づいてるのかしら」
「ミラーニョは気づいてるだろうが、ジルは気づいてねえだろ。気づいてたらあんなのんきにしてるかよ」
サードはそう言いながらサムラから私に視線を動かした。
「本当にミラーニョを殺したくねえなら、ジルに必要な道具がねえっつって一端ここから離れる選択肢もある。そうすりゃ魔族にとってわずかであろう数十年の間に俺らも寿命で死んで関係もなくなるし、そのうちミラーニョも寿命を迎えたらジルも死ぬ」
「でもそれって、数百年の間この国も放っておくってことでしょう?」
「そういう選択肢もあるぜって提案だ」
「それはあり得ない」
首を振るとサードは、それなら殺すしかねえなという顔をした。
シン…と無言になった部屋の中、居心地が悪くなったのかサムラが話題を変える。
「ところで…儀式っていつやるんでしょう。別にやらないならやらないでいいんですけど…いつまでここにいるのかなーって」
サムラの言葉にサードはふと私に質問してきた。
「ジルは儀式のことは何か言ってるか?」
「…全然」
毎日会っているけれど、思えばジルがそういう儀式の話をしてきたことは一度もない。
それでも私もサムラが質問したのと同じようなことをサードに聞いた。
「でも本当にいつまでここにいるつもり?ガウリスもアレンもエーハで色々やっているのは分かるしサードはサムラを鍛えているけど、そんな毎日を送ってて何が起きるわけでもないじゃない」
するとサードはニッと口端を上げる。
「今は待ってるんだ」
「待ってる?何をですか?」
サムラが聞くとサードはニヤニヤと笑う。
「待ってるんだ、吉報が来るのをな」
「吉報…」
私だったらその吉報って何よと聞く所だけれど、サムラはそうか吉報を待っているのかと素直に納得したみたいで頷きながら黙った。
でも私は納得もしないし黙らない。
「その吉報て何よ。いつごろ来るの?」
サードは首を傾げて、
「吉報は吉報だ。さーて、その吉報はいつくるやらなあ」
とふざけながらはぐらかす。
…こうなったらいつ来るか分かっていても言うつもりはないわねと判断して鼻でため息をつくと、サムラは私のため息を聞いて心配そうな顔をする。
「でもその吉報がくるまでエリーさんはジルと一緒にいるはめになるから大変ですよね…」
正直一番大変なのはサードに朝から夕方まで鍛えられているサムラだと思う。あんなに体力が無かったサムラがよくぞここまで音をあげずに毎日頑張っているものだわって思うもの。
それに私は前ほどジルの傍にいてもそんなに大変じゃなくなってきた。
ジルに告白された後は何となくお互いに距離感がつかめてきたっていうか…もちろん私はサードに言われた通り変わらず男の人がへこむことは全てやっている。
それでもジルももうこなれた感じで、
「またそんな無視しやがって、そんなに俺を傷つけて楽しいかよ?」
ってわざとらしく拗ねる。
何だろう、そんな姿を見ているとちっとも可愛いらしさのかけらもないジルが可愛く思えてきて…いやいや、ジルは悪い奴、ジルは悪い奴…。
首を振ってからサムラを安心させるように言う。
「それでもサードのおかげでジルも体に触ってこないし…そういう面では前より楽だから大丈夫よ」
サードは無言のまま「そうだろう感謝しろ」とばかりにふんぞり返った。
…なんかそんな態度されると腹立つ。
* * *
夜。
暖炉の火を見あれこれと考えていたが、薪がもったいねえからそろそろ消して寝るかと思い、火を消した。
まずアレンに言いつけたことも順調に進んで終わりに差し掛かっている、ガウリスに言いつけたことも滞りなく進んでいる。
あとは吉報を待つだけ。
…しかしエリーからもいつ来るんだと言われたが、本当にいつその吉報が来るんだか。そんなにすぐ来るとは思っていねえがそれでも速達で送って速達で戻すように手配したからそろそろ来てもいいころのはず。
まさか途中で手紙が迷子になってやしねえだろうな。
ひとまず今のところジルはエリーに首ったけになっているから、いつ儀式をやるんだと言うこともない。変にせっつかれねえからそこは楽…。
フッと背後に人の気配がした。
エリーとサムラはもう自分の部屋に入った、玄関の鍵は閉まっている。なら後ろにいるのは侵入者。
俺は聖剣を引き抜き後ろに居る奴に向かってビュッと斬りかかる。
が、背後に立っていたのはジルで、斬る直前で俺は剣をビタッと止めた。
ジルは聖剣で肩から腹まで袈裟がけで斬られそうになったというのにニヤニヤと笑っていて、
「別に斬ったって良かったんだぜ?人間界の剣で斬られたって魔族の俺らにゃ擦り傷程度だ」
とのたまう。
…これは魔族を一撃で殺せる聖剣なんだぜ、あっぶねえ、エリーにジルを殺すなつっといて俺が殺す所だった…。だが今はまだだ、まだジルを殺す時じゃねえ。
しかし今まで転移ができるはずなのになんで律儀に玄関から入ってきてんだと思っていたが、ついに玄関から入るのが面倒になったか。いや、玄関の鍵を閉めていたからか。
「何の用だ」
剣を鞘に戻すとジルはニヤニヤしながらソファーの前に移動して、どっかり座る。
「なに、ちょっとした経過報告さ」
「経過報告?」
こっちがするならともかく、ジルが経過報告?何の報告だよ。
「サリアのことだ」
何かイラッとした。
それでも表情は変えず「なんだよ」と返す。
ジルはニヤニヤとした笑いを浮かべながら俺の様子を眺めるようにして、自慢げな顔を向けてくる。
「サリアが俺に落ちるのも時間の問題だぜ」
その自慢げな顔が妙にムカついて思わず頭を引っぱたきたくなったが、ジルへの協力者の立場の今、そんなことをするのは得策ではない。
「ほう?」
意外だなとも感心してるとも取れる言葉を返した。するとジルはもっと自慢げになって、
「俺はあいつに好きだって言った、そうしたらどうなったと思う?」
…は?なんだそれは、つまりエリーはジルから告白されたってことか?
俺はエリーからそんな話は聞いてない。あの野郎、何で俺にそのことを伝えないで黙っていた…、…ああ、敵に告白されたのが決まり悪くて伝えられなかったのか…。
納得しかけたが、すぐさま嫌な予感が湧き上がる。
思えばある時からエリーはジルと一緒に居るのが辛いと愚痴を言わなくなって、そして今日はジルを殺したくねえと言い始めた。まさか告白されたことで愛情が育ち始めてんじゃねえだろうな…。いやまさか、あいつはそこまで惚れっぽい奴じゃねえ、そんなことはないはず。
あれこれと考えていると、ジルはハァとため息をつく。
「可愛いかったぜ、顔がジワジワ赤くなって目を逸らして恥ずかしそうに視線を地面に向けてよ…あのあとからサリアの態度が明らかに変わったんだ。微笑みながら俺を見ることも増えた、サリアの笑った顔…最高だぜ」
…のろけに来たのかこいつは。人ののろけ話ほど聞いてつまらないものはない。
いやむしろエリーとそんなのろける間柄になっているはずはない。そんな間柄になってる思ってるのは大方ジルだけでエリーは何も思ってないだろ。
どうやら他に何の用事もねえみてえだし、こいつの話を聞く義理もねえ。とっとと追い出そう。
するとジルは大げさにため息をついて落ち込んだ顔になる。
「だがサリアはあの神官野郎に惚れてんだ」
「…は?」
エリーがガウリスを…?確かにエリーとガウリスは気が合っているしお互いがお互いを尊重しあっている。だが今までのあの二人のやりとりを思い返してもそんな男女の仲という雰囲気は一切無い。何をもってこいつはそんな勘違いを…。
「あの神官野郎は誰にでも気を持つ節操なしだぜ?お前より酷いのに…」
……?…ん。そうかなるほど、ガウリスの誰にでも愛を注ぐ博愛精神ってのがジルには理解できねえのか。そうか、ジルからみたらガウリスは節操無しなのか、ふっ、あんな身も綺麗なままな状態なのに節操無しに映ってんのか、笑っちまうな。
まあ正直なところ俺だって博愛精神だなんて言葉にはヘドが出る。そんな実態もないふわっとした善意の塊など気持ち悪い。
だがガウリスほど突き抜けた善意の塊を持って、ハミルトンみてえな悪人のためにも救ってみせると自ら行動するような奴だと見ていて清々しいと思うのは事実。ガウリスと完全に分かり合える日は一生こないだろうが、そんな所は気に入っている。
それにしてもガウリスが節操無し…ダメだ、笑っちまう。
「で、儀式のことだが」
「…」
儀式の話題が出て、ニヤニヤ笑いがスッと引っ込む。単にのろけで来たのかと思ったが、本題はそっちか。
俺はツラツラと答える。
「儀式をいつやるかってことか?悪いがこういうのは色々と入り用で日を選ぶからな…」
最初から考えていた日にちをのらくらと伸ばす理由を連ねていると、ジルは首を横に振る。
「そういうんじゃねえ、ただ…」
「ただ?」
ジルは眉間にしわを寄せてうつむいた。
「…サリアを儀式に使いたくねえ。…殺したくねえ」
ジルからの言葉に思わず口を真一文字に閉じる。
こいつ本気か?まさか本気でエリーに惚れてんのか?体目当ての火遊びじゃなく本気で?
「魔族のてめえがそこまで入れ込むとはな」
心からの言葉を言うとジルはしんみりとうつむき、
「あんな変わった女は初めてなんだ。…脅えもしねえ、言うことも聞かねえ、それでも逃げもしねえで隣にずっといる。手に入れようと思えば手に入りそうなんだ、それでも肝心なところになるとちっとも相手にしてくれねえ…」
敵対している奴だが、思わず心の中で大きく頷く。
そうだよ、エリーはそんな女なんだ。
誘ってるのかと思いきや本人にはその気は全くない。それも「信頼してるから」という短い一言で一定以上何も手出しができなくなる呪いを男にかけやがる。
エリーの性格はともかく顔は好みだ。だからそんな展開になるなら相手になるのもやぶさかではない。…が、それも信頼という呪いにより一切の行動を封じられた。
あーあ、とんでもねえ女だよな、俺からしてみたらエリーはアレンといい勝負するぐれえ酷い女だぜ。男心をもてあそぶだけもてあそんで、最終的に「私そんなつもりないから」ってすましていやがる。
やるせない気持ちがせりあがって来て鼻でフッと呆れたように笑っていると、ジルは続ける。
「…だからサリアを儀式に使いたくねえ」
その言葉に俺は最もなことを返した。
「だがサリアはお前より早くしわくちゃのババアになって死ぬんだぜ。それでもいいのか?」
「…」
俺の言葉にジルは黙りこんで、テーブルに肘をついて片手で顔を覆った。
…まさかそんな当たり前のことが考えつかなかったのかこいつ、そこまで馬鹿だったのか?
ジルはしばらく頭を抱えているまま黙っているから随分ショック受けてんなと思って見ていると、ジルは絞り出すように口を開いた。
「…どうせ俺はもうすぐ死ぬんだ、サリアより長く生きるだろうが、もう数百年で…こんな若いのに強制的に死ぬ」
ジルは顔を上げて俺を睨みつけるように見てきた。
「ミラーニョ知ってるだろ?あいつは俺の弟だが俺より老けてる。どうしてか分かるか?あいつは人間と魔族のハーフだ、それに俺とあいつには片方が死んだら残りの片方も死ぬ術がかけられる。このままあいつが歳を取って死んだら…俺はあいつほど歳を取る前に死ぬんだ、死にたくねえのに、あいつが死んだら俺も死ぬことになってんだよ」
へえ、知ってたのか。こいつそこまで馬鹿じゃなかったんだなと思いながら目を見張って黙っていると、ジルはまるで自分への宣言のように…それでもまるで何か悪いかと言いたげな態度で吐き捨てた。
「だからサリアが先にしわくちゃの婆になって死のうが、それまで俺がどう過ごそうが俺の勝手だろ、誰にも邪魔させねえ、俺は自由なんだ」
そんなジルの言葉を聞いてどうしてジルが人間界に自分の土地を持とうとしたのか納得できた。
今までジルが人間界でやっていたことは自分の死期を悟っての暴挙だった。
きっと人間だったらもう数年後の命と余命が決まっているようなもん。だから魔王に目をつけられたら殺されると分かっていても、それまでは我が世の春とばかりに好きに生きてやると自分勝手に過ごしていると…。
「…で?儀式に使うはずのサリアを使わねえならどうやって儀式を執り行うつもりだ?」
本気でエリーを儀式で殺すつもりはない、そしてこいつに易々とくれてやる道理もない。
じゃあてめえどうするつもりだと聞くとジルはイラッとした顔をする。
「てめえが考えろよ」
そこまでは考えてねえし他人任せか。
「…他…ねえ…」
色々自分に都合の良いことを言おうかと思ったが、俺の魔法に関しての知識は疎い。あまり適当なことを言うと明らかに嘘をついているとバレる危険もあるか。
ジルに視線を戻す。
「それなら神官のあいつに他に代用できるのかねえか聞いておく」
エリーを殺さなくても良いと決まると、ジルはホッとした顔になった。
こんな横暴な野郎でもこんな顔をするんだなと思っていると、ジルは満足したようにソファーから立ち上がって俺の前に立つ。
「それなら安心した。せっかくだ、これから一杯ひっかけようぜ」
「なんで俺がてめえと飲まねえといけねえんだよ」
つい本心が口から滑り出て、軽くしまったなと後悔する。
今の俺のセリフはそれなりに魔族に一目置いている協力者の立場で言うものではなかった、寝ると言って断るのが正解だったな…。
こいつはまた面倒くせえキレ方してくるはずと思ったが、ジルは特にキレることなくあっけらかんと答える。
「あ?協力者ってことはダチだろ?だからだよ」
「誰がダチだクソが、ざけんな気持ち悪ぃ」
思わず毒づく言葉が俺の口から流れ出ていく。
おっとしまった、考えるよりも先に反射的に毒ついてしまった。
それでもジルは口端を上げて楽しげに笑い、
「なんだ、つれねえじゃねえか」
と言いながら俺の胸を軽く拳で殴りつけてくる。
「俺はわりとてめえのことは気に入ってんだぜ、この俺とここまで対等に話せる奴も珍しいからな。ま、そのうち酒でも飲もうぜ、いい店知ってんだ」
ジルはそう言いながらかき消えるように転移で消えて、俺は静かになった部屋の中、ジルに殴られた箇所を手で払う。
しかし最後の「ダチだから、つれねえじゃねえか、てめえのことは気に入ってる」との会話でエリーがジルに対し妙に情が移った理由も分かった。
エリーは気に入ってるだの何だのとグイグイ迫られ続けると引く。しかし不意につれないと寂しげに一歩引かれると相手を傷つけたかと勝手に負い目を感じ、優しくなる。
きっとエリーはジルを決定的に傷つける出来事を引き起こした。そしてジルは今までにないほど傷ついて、その姿を見たエリーは悪いことをしたと態度を軟化させて情が湧いた…。そういうことだろう。やっぱりジルに惚れたとかそんなのじゃねえな、ただの負い目からの同情だ。
だが…。
フッと呆れたように天井を見上げる。
ジルは元々の性格だろうが、ファジズはわざとそうやってエリーの反応を見て楽しんでたな…。エリーも素直にファジズの手練手管に引っ掛かって何度好き勝手に体をいたずらをされそうになったことか…。
そういう所が隙だらけなんだと何度も伝えていたが、あいつはすぐさま「私だって強くなったわよ!」と喧嘩腰で言い返してきやがる。
「なーにが『強くなった』だ、結局隙だらけじゃねえか」
ぼやくと、今の俺のセリフを聞いてキレてあれこれ言い返してくるエリーの顔が脳裏に浮かぶ。
その顔を想像するだけで何でか笑いがこみあげてきた。
エリーの性格は好みではない。だが…まあ笑える奴だよな。
「私、あなたのためを思って言ってるのよ」
↑このような言葉をいう人が何より信用ならないと私は思っています。
あなたのためという優しい博愛精神に見せかけ、自分の思った通りに人を動かそうとしている言葉です。「あーそうありがとう」と耳をほじるぐらいの気持ちで聞き流してその後はその人と距離を取るのが吉。
本当にあなたのためにと思ってる人はね、そんな恩着せがましいことは言わない。




