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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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女の子たちに連れられて

「ではありがたくここを使わせていただきましょう」


サードが案内された家の中を大体見てまわってからゾルゲの召使いの中年男性に伝えると、召使いの男性は気に入った所が見つかって良かったという顔で、


「では旦那様からまた何か連絡があれば私か妻から伝えに参りますので。あとはご自由にお暮しください」


というとそのままペコリと頭を下げて家から出ていった。


…どうやらあの召使いの中年男性はゾルゲの家にいた中年のメイドと夫婦みたい。それでもあのでっぷりした中年のメイドと比べるとあまりにも細くて…。メイドのあの人が倒れそうになったら支える間もなく押しつぶされてしまいそう。

それに優しそうな人だったけれどこんな所に居るんだから黒魔術を使って色々と怖いことをしているのかしら…。


するとアレンは窓から外をチラと見て、召使いが居なくなったのを確認すると大きく伸びをした。


「うあああー、ようやく落ち着けるところに来たなー!」


そのまま暖炉に駆け寄り、


「暖炉!暖炉暖炉暖炉暖炉!」


と嬉しそうにいうけれど、すぐ絶望的な声を出した。


(まき)がない!」


そのままバッとサードを振り返って、


「薪がない!サード!薪がない、薪!もしかしてこれ自分たちで取りに行かないといけないやつかな!えーでもうそ、どうしよ、今から木切って薪にしたって生乾きだから火ぃつかねえじゃん、むしろ煙いじゃん!どうしよサード!なあ!どうするサード、なあ!」


…。アレンはしばらく気を張って喋らないでいると、話せる状況になった時人に絡むのよね。アレンのことは好きだけど、そういうとこは少し鬱陶しい。


サードも「ウゼエ」って小さく毒ついて、


「エリーの魔法であったまってればいいだろ」


と言いながらゾルゲの屋敷がある方向に目を向けて、チッと舌打ちする。


「しかしあの村長、使えるかと思ったが使えねえ奴だったな」


「そうね…。独りよがりっていうか、ミラーニョのためを思っているのかもしれないけれど逆に迷惑になってるって分かってなさそうだったわよね」


するとサードはその程度しか思わなかったか、と小馬鹿にするように私を横目で見て、


「言っとくがあいつが何より望んでるのはミラーニョが頂点に立つことじゃねえ、自分の実力で人を頂点にのし上げられたって実績を手に入れることだ。その夢をミラーニョに託してるから心酔してるんだろ、結局は自分のことしか頭にねえ奴なんだ」


「…あの人、そんなこと言ってました?」


サムラが呟くように聞くとサードは、


「あの目ぇ見りゃ分かるだろ、あんな野心に満ちたギラギラした目はな、手段を選ばず何かを成し遂げようとする悪人のする目だ」


…反魂法だっけ、あれの話をしているときにゾルゲの目が薄暗く爛々と輝いているように見えたけれど…。そういうことだったのかしら…。


そして話し終えたサードは何気なく腰に差している聖剣を見て、触った。


それを見てゾルゲの家から立ち去る時のサードどゾルゲの会話を思い出す。


去り際にゾルゲは、


「私は反魂法を用いて様々な者を生き返らせるつもりだ。まずは歴代最高と言われた聖剣を持っていた勇者インラス、そしてそのインラスの仲間たちか。

もしお前が先ほど話した話をもっと詳しく思い出したのならいつでも遠慮なく訪ねて来てくれ。夜中だろうが飯の最中だろうが歓迎する。共にジルを殺そう」


っサードに言っていたのよね。

だからゾルゲが今第一に生き返らせようとしているのがサードの持つ聖剣の元々の持ち主、インラス…。

もし歴代最高の勇者インラスがゾルゲに味方することになったら…一体どうなるの?ゾルゲの味方になってジルを殺しにかかるの…?


するとアレンが聖剣を見ているサードに気づいて、


「けどさ、本気出せばあのゾルゲって村長、サードのその元の聖剣の持ち主を生き返らせることもできるんだな…」


って呟いた。するとサードは聖剣から手を離して、


「俺のいた世界だったら無理かもしれねえが、こっちの世界だったらできるんだろうな」


…ってことはさっき言っていたおとぎ話ってこっちの世界の話じゃなくてサードが元々いた世界でのおとぎ話なのね。


するとサードの元の世界の話となると興味があるガウリスが質問する。


「そちらにもネクロマンサーの魔法のようなものがあるのですね?サードさんの生まれた場所では魔法やそれに似たものはないのだと思っていましたが」


するとサードはニヤと笑って、


「あるさ。魔法ってよりは呪術って言った方が正しいだろうけどな。むしろ俺の生まれる八百年前の方が盛んだったんじゃねえの?実際に人を生き返らせたって記録もあるんだからよ」


その言葉にサムラは目をパチパチと瞬かせる。


「生き返った…んですか?しかも記録もあるってことはサードさんはもしかしてその記録を見たんですか?じゃあ何でさっきゾルゲさんに知らないって…」


「何であんなクソにタダで情報与えねえといけねえんだよ」


サードは暖炉のそばのソファーにどっかり座り、


「そうだ、俺は知ってる。必要な物もやり方も分かる。ただ一番肝心の呪文は書かれてなかったが、俺の知ってる程度の情報があればこっちの世界じゃ楽に死人を生き返らせることも出来るんだろうよ」


「…ちなみにどうやんの?それ」


アレンが聞くとサードは「教えねえー」と意地悪そうに舌を突き出して笑った。


「あーあ、俺にも魔力がありゃあ色々やりたい放題なんだろうなあー」


「やめて、冗談でもやめて」


今本当にサードに魔力が無くて良かったと心から思った。

これでサードに私かサムラぐらいの魔力があったら本当に好き放題で眉をひそめることを今以上にやりかねないもの。


するとサードはニヤニヤを引っ込めて、


「さて、死人の話はもうどうだっていい。まず俺らがここでするのはバファ村の内部の調査だ。どこでどんなことをやってるかの証拠を集める。俺らは村の住人でジルの協力者って立場なんだから好き勝手に色んな所に入れるしな、村長の家だろうが他の奴らの家だろうが」


「いや他の家には勝手に入れないでしょ」


簡単に不法侵入しようとするんじゃないわよと軽く突っ込むと、


「何言ってんだ、ジルだって他人の家に押しかけて住人を追い出して寝泊まりしてんだぞ。それにこの村の奴らなんて公開処刑もやるわ生贄として人を殺すわ死体を煮込んで作った薬をごく普通に国外に出荷するわ好き放題じゃねえか、それと比べて不法侵入なんてどうだ?可愛いもんだろ」


「サードさん…他の人が大きい悪事をするからこちらも小さい悪事をしてもいいということはないのですよ」


ガウリスが哀し気な顔で諭しにかかるとサードは面倒くさそうに顔で口をつぐんでガウリスを睨む。


「…まずこの村を壊滅させる何かがあればいい。それを見つけたい」


「壊滅って…例えばどんな?」


アレンが聞くと、サードは即座に答える。


「この村で生活を送れない、生活の供給がままならない、この村に居ても不都合しかない。そうやってこの村を外部からでも内部からでも崩壊させてえ。まずジルを殺すのは簡単にできる。ロドディアスだのランディ卿だのと比べりゃジルなんて小物だ。

だがジルが死んだあとに残るこの村の奴らもどうにかしてえんだよ、ジルが居なくなってもこの村中心に悪さが続くかもしれねえだろ、そうなりゃ今と同じだ、もしかしたらジルの立場にゾルゲが収まってタテハ山脈は狙われ続ける可能性が高い」


「それにゾルゲさんの性格を考えたら、ジルさんを倒してミラーニョさんも亡くなってしまったらその怒りがこちらに向きそうですよね、お前たちがミラーニョさんを殺したんだと…」


ガウリスの言葉にサードはそうだろう、それは面倒くさいだろうと言いたげに頷く。


「…てことは、ゾルゲも倒すってこと?」


私が聞くと、


「まあまず一番の狙いはジルだからゾルゲは後回しでいい。エルフで色んな知識があって魔法も使うだろうが、どうせ接近戦には弱いだろ。ジルを殺したら俺がその足でゾルゲの寝首をかきにいく。それが一番手っ取り早い」


…普通に不穏なこと言うわぁ…。


呆れるけれどサードは私の視線に気づきつつ無視をして、


「だがゾルゲを殺しても欲の深いこの村の誰かがどこまでもジルのポジションを狙いに行くかもしれねえ、だからどうにかしてこの村を崩壊させて誰もいなくなるようにしてえんだよ。

そのやり方はこれから考えるが、まずは明日から全員バファ村の中の調査だ。何でもいい、犯罪の臭いがするもんがあればどんなことでも俺に報告しろ」


サードの言葉に全員が力強く頷く。


「…でもまず、暖炉に火くべたいな、俺…」


でもアレンはすぐ寒そうに手をこすり合わせていて、サードは力が抜けた面倒くさそうな顔でアレンを見ていた。


* * *


次の日。私たちは変装した姿のままバラバラに散ってこの村のあれこれを調べることにした。

それといくら奴隷だ下僕だパシリだと言ってもあまりに薄着すぎて寒すぎるとサードに訴えて、それなりの防寒具を身にまとっている。暖かい服って…いい、最高。


とりあえず新入り、しかもジルの協力者が来たって話はもう村人全員に知れ渡っているみたい。初対面でも「昨日新しく来た人でしょ、どこから来たの」って出会い頭に親し気にあれこれと声をかけられるもの。

それでも私はサードから許しが無い限り喋られない奴隷って設定になっているから、村人たちとは喋らないようサードに言いつけられている。もちろん私だけじゃなくて他の皆も。

村人と普通に喋ってて、ひょんなことから村人がジルに「あの人たち普通に喋ってましたよ」って言われたらジルにどういうことだよって絡まれて面倒になりそうだものね。


まずこの村を全体的に歩いて…この村を崩壊させることができそうな何かを見つけよう。とりあえず犯罪の臭いがしそうなものを探せってサードに言われたからそんなものを…。

…それにしても昨日よりかなり厚着して来たけれどそれでも寒いわ…いつも着ていたあの装備って本当に質が良い物なのね。


私は自分に向かってリヴェルの力を使う。その瞬間に体がホワッと温まってきて、そのまま牧歌的な家が立ち並ぶ道をブラブラと歩いて、何か犯罪っぽいものはないかとキョロキョロする。


すると「あ」と声が聞こえてきて、声のした方向に顔を巡らせた。

すると少し離れた所に昨日ゾルゲの家まで案内してくれた女の子二人が手を繋いで私を真っすぐ見ている。


二人は親し気な顔をしながらトテトテと同じ歩調で近づいてきて声をかけてきた。


「何してるの?」

「おさんぽ?」


…昨日も思ったけれど、落ち着いた雰囲気の子たちよね。五歳くらいなのにその声も動作も表情もしっとり落ち着いた大人って感じ。それでも二人で手を繋いで歩く様子はまさに子供って感じよね。微笑ましいわ。


それでも声をかけてもらっても話せないから頷いて黙っていると、何も言わない私を見て一人の女の子はキョトンとした顔をして、もう一人の女の子は遠慮も無く私を指さしながら目の前で堂々と言う。


「このお姉さんはドレイで、あの男の人が喋ってもいいと言わない限りしゃべっちゃいけないんだって」


…なるほど、この短時間でそんなことも村の中に伝わったのね。さすが閉鎖的な村だわ、伝達が早い…。


「奴隷って、主人と手下みたいな、あれでしょう?」

「そうよ、主人の命令は絶対なの」


「逆らったらどうなるの?」

「お仕置きされるんじゃないの?お尻ぺんぺんとか」


二人はクスクスと笑いながら私を見上げて、


「お姉さんぐらいの年の人でもお尻ぺんぺんされるの?」


「まさか、お姉さんくらいの年齢だと…ねえ?色々と意味が変わっちゃう」


二人はプークスクスとお互い顔をくっつける程密着して笑いあっている。


「…」


子供の会話じゃない。


赤みのさしたふくふくしいほっぺを持っていながらもこの子たちもウチサザイ国のねじれた感覚に毒されている。

そう思うと妙に大人びて落ち着いた態度も何となく納得できるってものだわ。悪いものを見過ぎてそれを受け入れるしかなくて…もう悪いことの全てを受け入れるって達観の領域まできているんじゃ…。


「ねえ遊ぶ?」


ふいに女の子がそう言いながら私の手に手を近づけて…驚いたように手を遠ざけた。


あ、しまった。体を暖めようとリヴェルの力を使っていたままだった…!もしここで私が妙な魔法を使っているとか子供に大騒ぎされたら大変なことになるかも…!


慌てて弁解しようとするけれど、私は何も話してはいけない立場。どうしようとわたわたと手を動かしていると、驚いた顔で手を離した女の子はキラキラとした顔で私の手を両手で掴んできた。


「あたたかい!」

「え!?」


もう一人の女の子はどれ、と私の手を掴むとパッと顔を輝かせる。


「本当だわ、あたたかい!」


そう言いながら女の子は自分のほっぺに私の手を押しつける。


「あ、ずるい私も…!」


もう一人の女の子もほっぺを私の手にグリグリと押しつけてくる。


ふあああ…!幼い子たちの少し冷えた、でもほんのり暖かいもち肌…!スベスベふくふくほっぺ…!…この感触…マリヴァンを思い出す…。


マリヴァンのことをを思い出すとあまりに愛しさが湧いてきて、なんて可愛い子たちなのと衝動的にギュッと二人を抱きしめた。


すると女の子二人は、キャッと驚いた声を上げて身を固めた。

嫌だったかしらと離れようとしたけれど、それでも女の子たちはどこかモジモジと私の顔を見て、妙に照れくさそうな、それでいて落ち着かない素振りをするだけで嫌がっているようには見えない。


その様子を見ていてふと思いだした。この国出身のカーミは大人に一度も抱っこされたことがないってことを。


…もしかしてこの子たち…こんなに可愛い盛りの年齢だというのに一度もこうやって誰からもハグされたことがないないんじゃないの?ハグの習慣のないサードだってハグをされると落ち着かない表情になるんだもの、きっとこの女の子たちもこうやって抱きしめられることなんてろくにないんだわ。


そう思うといじらしくて、強く抱きしめる。他の大人がしない分、私が愛情をかけてあげたい。これが愛情だよって少しでも感じてもらいたい。


女の子二人はお互いモジモジと顔を見合わせ、顔を赤くしながら私をチラチラと見ると、私の

服を小さい手でキュッと握った。


甘えてもいいの?いいの?とばかりのおずおずとした手つきが余計キュウウンと胸にくる。


何て可愛い子たちなの…!


二人を可愛い可愛いと心の中で愛でて抱きしめて、いい加減鬱陶しいかしらと二人の頭を撫でてから身を離すと、女の子二人はテレテレとした表情で撫でられた頭を触ってから、クッと同時に私を見上げた。

そのまま二人で私を挟んで手を握ると、


「いい所につれてってあげる」

「私たちの秘密の場所よ」


と私を引っ張りグイグイと歩いてく。


秘密の場所…?


そこで現在地はバファ村だって現実に引き戻された。


…まさか、死体を煮込んでいる場所に連れていかれる…?やだ、そんな光景見たくない…!

それでも子供が言う秘密の場所って大体大人は知らないわよね?それなら何か重要そうな何かが分かるかも。…でもできれば残酷な光景は見たくない…。


一人あれこれ考えている間にも、私は女の子二人に引かれるがまま歩き続けた。

反魂(はんごん)は、反魂香という伝説のお香を焚くとその煙の中に故人が揺らめきながら現れるというものです。

そんで高野山での修行中、一人で寂しくなった西行が人を作ったという話があります。でも上記の通りで失敗したそうで。


その西行のやり方

・広野に出て人の居ない所で死人の骨を集める

・頭から足までの骨を置いていく

・ヒ素を骨に塗り、いちごとはこべとの葉を揉みあわせ、藤または糸で骨を掲げ(つなげるってことかな?)水でたびたび洗う(ヒ素塗った意味は…?)

・頭と髪の生える所には、さいかいの葉とむくげの葉を灰に焼いたものをつける

・土のうに畳を敷いてその骨を置いて、風が当たらないように注意して二七日置いておく

・そして沈と香を焚いて、反魂の秘術を行う


けど失敗しちゃったんですけど、と詳しい人に西行が言うと、


「お香焚いちゃだめだよ、お香は邪気を払うもので仏様用のものだから。香じゃなくて乳を焚いて、術の前には七日間の断食もやんないとダメだよ。ちなみに私は何体もの人間を造ってその中には大臣になっている者もいるけどね、名は明かせないよ。へっへっ」


※へっへっ、は言ってないと思います。

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