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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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噂のバファ村

「大丈夫だったか?」


貴族の別荘から一旦外に出ると、イクスタが別荘の外で待ち構えていた。とりあえず屋敷からは出たけれどそのまま帰るのは気が引けたんだと思う。

とりあえずジルの協力者になることは成功して、これからミラーニョと一緒にバファ村に行くということを伝える。


イクスタはしげしげとミラーニョを見て、


「あんたが…ジルの傍にいる魔族…」

「…そうです、一応ね」


そんなにジルの傍に居たくもないんですけど、とばかりの含みをもった言い方でミラーニョは返事をする。

イクスタはこんなジルの腰ぎんちゃくと一緒で大丈夫かという心配そうな目を向けてくるけれど、サードは表向きの表情で微笑んだ。


「大丈夫です、この方はこちらの事情を色々と理解してくれていますから。味方にはなってくれませんが、敵対もしませんよ」


するとミラーニョはイクスタをジロジロと見て、ああ、と思い出したように声を出す。


「どこかで見たと思ったら大公とそっくりじゃないですか。もしかして大公の息子…いえ、孫ですか?なんでそんな下っ端の兵士の鎧を着ているんです?あなたは家に居るだけでいい役所でしょうに」


イクスタはわずかに眉間にしわを寄せて視線を斜め下に逸らしていく。


「その家が嫌いなんだよ」


聞こえるか聞こえないかくらいの声の小ささだったけれど、一番近くにいる私にはしっかりと聞き取れた。

イクスタは顔を上げて、


「俺は下っ端の位置づけであちこちさ迷ってる方が楽なんだ。大公の身分があれば皆ろくに命令もしなければ逆らいもせず好き勝手にやらせてくれる…。おっと、魔族の前でこんなこと言ったら俺は殺されるか?」


途中からまずいことを口走ったかという顔になったイクスタだけど、そのまま殺されるなら殺されたでもうどうだっていいとばかりの投げやりな沈んだ顔でミラーニョの反応を見ている。

そんな沈み込んだ顔のイクスタをみて、ミラーニョは何となくイクスタの生い立ちを察したんだと思う。


「私には関係のないことです」


と流した。


「…魔族なのにジルと性格が違うな」


「まあ、あんなのと長年一緒にいたらこうなりますよ」


その言葉でイクスタもミラーニョの生い立ちを察したんだと思う。どこか同情するような、お互い苦労してきたんだなという親しみを感じているような…そんな顔になった。


「嫌いなのか?ジルが」


イクスタの問いかけにミラーニョは一瞬口をつぐんで、当り前でしょうとばかりに顔をしかめて肩をすくめて苦笑する。


「じゃああんた、勇者御一行に協力…」


「しません」


イクスタの言葉にミラーニョはゆっくりはっきり断る。そして続けた。


「ジルが死ねば私も死ぬ、私が死ねばジルも死ぬ。そんな術がかけてあって解除の仕方も分からないんですよ。大変嫌ですが私とジルは運命共同体なんです。

それに一行と戦うとなればジルだって敵うわけありません。なんてったってジルよりも強い魔族を倒しているんですからね、この勇者たちは。…もう成り行きに任せるだけですよ」


もう自分の人生を諦めているミラーニョを見て、世の中に希望が持てないイクスタはどこか自分を見ているような感覚になっているのかも。何とも微妙な顔をして黙り込んだ。


「…お互い自分の人生に希望が見つけられねえみてえだな」


「フッ」


ミラーニョは軽く笑い声を立ててから、


「今回は一行に頼まれてジルに接触したんでしょうが、あなたはもうジルと関わらない方がいいでしょう、変に目をつけられたら後々大変ですからね」


と忠告する。イクスタはそんなミラーニョを見てぽつりと、


「…この国を牛耳ってんのがジルじゃなくてあんただったら…この国はもっとまともになってたんじゃねえかね?」


するとミラーニョはものすごく迷惑そうに首を横に振った。


「やめてください、そういう風に言われると今度は私がジルに目をつけられて大変なことになります」


そのままイクスタから逃げるように、ミラーニョは私たちに「どうぞこちらへ」と促して歩き出した。


* * *


「こりゃ…普通にみつかるわけなかったわ、バファ村」


アレンが後ろを振り向きながらぽつりと呟くから私もその通りねと後ろを見た。


バファ村への入り口。それは首都の裏道の袋小路の壁だったんだもの。

どうやら転移の魔法陣らしいんだけど、ミラーニョの血で描かれたものでミラーニョだけが通れる特殊なものだった。そういう魔法陣は首都のあちこちにあるけれど、ミラーニョ専用の通路みたいなものだから他の人が触っても何も起きないって。


「でもそれならこのバファ村って本当に関係者しか来れないの?他の人とか来たりしないの?」


アレンが質問するとミラーニョは、


「普通に歩いても来れますよ。ただ道中に迷いやすくなる魔法をかけているので、魔力が強くなければ迷って元の場所に戻ってしまうでしょうね」


そういえば前、バファ村にさらわれて自力で逃げた旅人と同室になったってケッリルが言っていたわね…。


「ここの村に連れてこられて自力で逃げたって人がいたらしいけど、その人は魔力が強かったから逃げ切れたのかしら」


聞いてみると、


「そういうことでしょうが、魔力以上に運が強かったのでしょう。こんな殺しも厭わない魔力の強い者たちが揃う閉鎖的な村から自力で逃げ切るなどそうそうできることじゃありません」


…怖…。


少し鳥肌が立っているとミラーニョは紙を一枚サードに渡した。


「私はバファ村には行きませんので、ここでお別れです。とりあえず誰かに声をかけられたらこの紙を見せてください、そうすれば村長の家に連れていってもらえるでしょう」


「ええ?村長の家まで連れてってくれるんじゃねえの?もうお別れ?」


アレンが寂しげに声をかけると、ミラーニョはおかしそうに笑う。


「言っておきますが私は敵にはならないというだけであなた達の味方でもないんですよ?そんなに懐かれたような言い方をされても困ります」


そのままチラとバファ村を見て、


「何と言いますか、頻繁に行き過ぎると村人に懐かれて困るんですよ。それに今の村長はクセがあってあまり関わりたくないんです」


ミラーニョが関わりたくないような人物?…不安しか湧かない言葉だわ。

そんな心を見透かしたようにミラーニョはニカ、と笑った。


「なに、大丈夫です。ただ村長の言う事を否定さえしなければ悪いようにはなりません」


「はいはい言っておだてときゃいいんだな」


サードの言葉にミラーニョはなんて身も蓋もない…という顔をしたけれど、


「まあそういうことです。しかしおだてすぎると今度は長い話につき合わせられるので、ほどほどの所でお(いとま)するのをお勧めしますよ」


ミラーニョはそこまで言うと「では」と背を向けて、途中の空間から消えていった。


「…敵にならねえってなら味方ってことなんじゃねえの?ミラーニョなんでこっちの味方になってくんねえの?あんなに色々教えてくれるのに」


去っていったミラーニョがいた辺りを指さしながらアレンがサードに顔を向けると、


「どうせジルも自分も死ぬって悟ってるから傍観者気分なんだろ」


とサードは渡された紙を見ている。横から見てみると、紙には私たちはジルの協力者だからここの村で暮らす手助けをするようにってことと、ミラーニョの名前が書かれていた。

村長宛ての紹介状みたいなものね。


バファ村は木造建ての家が連なっていて、遠くのなだらかな丘の上にも家がぽつぽつと見える。牧歌的で静かな草原…。

今は冬だから草木も枯れて生気がないように見えるけれど、初夏だったら見渡す限り生き生きとした青葉が繁っていて気持ちが良いでしょうね。…人を煮込んだり公開処刑していたりしていなければ、だけど。


村の中を歩いていくと、二人の女の子たちが手を繋ぎながら歩いているのが見える。私たちの姿を見つけた女の子たちは立ち止まってこっちをジッと見ていて、お互いにコショコショと耳元で話し合うと、お互いに頷いてから私たちの元に向かってきた。


「お客さん?」


五歳くらいの女の子二人は好奇心とちょっとした人見知りの警戒の表情、それでもやっぱり好奇心の勝った興味津々の顔で私たちを見上げている。


「ええ」


サードはニッコリと微笑むと、二人にミラーニョから渡された紙を見せる。


「文字は読めますか?我々はジルさんの協力者としてこの村にいるようミラーニョさんに言われたのですが。これがそれについて書かれた紹介状になります」


ジルの名前が出たところで女の子たちは納得の表情になって和らいだ。もしかしたら顔の知らない人たちが来たからってかなり警戒されてたのかも。


「この村の村長のお宅はどこですか?今から向かおうとしているところなのですが場所が分からず…」


すると女の子の一人がパッと表情を明るくし、


「それなら連れていってあげる」

「ついてきて」


と歩き出すから、私たちはその子たちの後ろをついていく。


見たところ年齢相応のふっくらした頬の可愛らしい女の子たち。それでもこういう村にいるのだからこんな愛らしい顔で人の死体を笑いながら煮込んだりするのかしら。


…想像したくないわ。


首を横に振ってそんな想像を振り払っていると、


「あそこのおっきい家が村長の家なの」


女の子たちは村長の家というところを指差している。その家は周りの木造の家と違ってレンガ造りで、家の周りだって木造の柵じゃなくて石の壁っていう立派な家。

確かに立場が上の人が住んでいそうだわって一目で分かる。


女の子たちは先陣を切って村長の家をドンドンと叩いた。


「こんにちは」

「こんにちはー」


二人が声をかけると、中からでっぷりとした体格のメイドの服を着た中年の女性が現れた。

一瞬真っすぐにいる私たちに目を向けたけれど、それでもすぐ下にいる女の子二人にすぐ気づいてニコニコと顔をほころばせる。


「あらいらっしゃい」


「村長さんにお客さんが来たから連れてきたのよ」

「ジル様のお客さんよ」


女の子の一人がそういうと、中年のメイドはニコニコとした顔のまま、


「あらそうなの、偉いわねここまで連れてくるなんて。あ、ちょっと待っててね」


メイドは脇から大きいガラスビンいっぱいに入った飴を片手で取ると、


「案内ありがとう、はいこれ」


と飴を渡した。女の子二人はほのかに顔を輝かせて、


「ありがとう」

「大好きよミセス」


と言うと、手を繋いで二人仲良く顔を寄せると走って行った。その様子をニコニコと見送った中年のメイドは私たちに視線を向けて、


「お待たせしまして申し訳ございませんね、ささ、中へどうぞ。今旦那様に声をかけて参りますので、こちらの部屋でお待ちになってくださいまし。

…あー、でもちょっと待って、椅子が足りないわ。こんな急にたくさんのお客さんが来ることなんて滅多にないもんで。あらどうしましょ、椅子を取りに行くのが先か旦那様を呼ぶのが先か…」


中年のメイドはこちらが話す暇を与えないほどペラペラと一人で「どうしましょどうしましょ」と悩んでいる。

するとサードが、


「大丈夫です、後ろの者たちは奴隷なので立ったままで」


その言葉に中年のメイドからの私たちへの視線が変わった。その目は「ああなんだ後ろの全員奴隷か…」って見下げたもので、


「それならこちらの部屋の中で待っていてくださいまし」


と手前のサードだけに視線を向けて、後ろの私たちにはもう視線も合わせず奥の部屋へのしのし歩いて行った。


「…」


今の対応を見て思ったんだけど…。もしかして奴隷って私が思ってる以上に立場が低いものなのかしら。

その頃ケッリル


ケッリル

「(サムラくんの住む家が見つからない…随分と山脈の奥まで来てしまったが…。あ、あそこに三人の姉妹が…)」


ケッリル

「すまない、ここら辺にサムラと言う者は…」


「うっきゃー!」

「あぶぶー!」


ケッリル

「!?」


ケッリルに気づいたもう一人の女の子


女の子(母親)

「この子たち産まれて数ヶ月目なの。あと数週間もすれば話せると思うんだけど。可愛い盛りでしょ?」

姉&妹

「バー→ブー↑」


ケッリル

「…(どう見ても三姉妹にしか見えない…)」

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