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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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暖まりたい

こいつを使おうの一言に私は目を剥いた。


この男…!


サードを睨みそうになるけれど、今はそんなことしてはいけないと目をつぶって深く深呼吸を繰り返して無理やり怒りを抑える。


「いい女なんだがなぁ、殺しちまうのか…」


ジルのもったいねえとばかりの口調に嫌な気分になって眉間にしわを寄せて黙っていると、ガシガシと坊主頭をかく音が聞こえる。


「まーしょうがねえかー。ここまで丁度いい人間もそうそう見つからねえだろうしな…」


まだ心残りそうな感じで言わないでよ気持ち悪い。


ひたすらイライラしているとジルはミラーニョに言い含めるように、


「こいつらは協力者だ、よーくもてなしてやれ。俺は店にでも行って何か食ってくる」


と言うと声がしなくなった。目をそっと開けるとジルが居なくなってる。転移の魔法でどこか行ったのかしら。


すると横のアレンが腕を広げて私にガッと抱き着くと、よしよしと頭を力強く撫でる。


「エリー!あんな状況だったのに、隣にいたのに助けられなくてごめんなー!エリー!」


「エリーの髪の毛触んな…ああ、ヅラか」


サードはそう言うと、憎々し気にため息をつき舌打ちをした。


「あんなすぐ発情する野郎男だとは…」


「何かあったんですか?」


その時その場に居なかったミラーニョがキョトンとした顔で聞くと、アレンはマジマジとミラーニョを見て、


「もしかして…ミラーニョ?」


って逆に聞いている。思えばアレンとガウリスはミラーニョと初対面だっけ。


「そうよ、この人がミラーニョ。サブリナ様の心の支えになった道化師」


紹介するとアレンは納得したみたいで「聞いてくれよ!」とミラーニョに文句を言う。


「あのジルって奴がエリーに興奮して襲おうとしたんだよ、しかも人に見られてても気にしないんだって!なんて奴だ!」


最後の情報は必要だった?

むしろミラーニョは私たちのすることにノータッチだからって、アレンもよく敵側の魔族に普通に話しかけるわ…。


するとアレンの話を聞いたミラーニョはどこかあり得ないって顔をする。


「確かにジルはドレーと同じくらい面食いですけど…地上の女性相手にいきなり興奮するなんてこと今まで一度もなかったんですけどね…人間相手だと体の関係を持ったら人間の血が混じった子供ができるからと残らず殺すような奴ですし…」


ミラーニョはチラと私を見た。


「気に入られましたね」


ウッと体を引いた。


「やだやめて、本当に気持ち悪い」


私からジルに向けての気持ち悪いの言葉でミラーニョはフッとおかしそうに吹きだしてから、


「でもジルの気持ちも何となく分かります。このフロウディア…エリーと呼んだ方がいいですかね?この子の傍にいると妙に落ち着くんです、魔族でなくとも同類のような親しみを感じるといいますか。…あなたからしてみたら不本意でしょうがね」


…それって私に魔族の血が混じっているからかしら。


見ると私に魔族の血が入っているのを知っている皆も「ああなるほど」って納得の表情になってる。


「エリーと話すと地元の人と話してるような気分になるのかもな」


アレンの言葉に私もなるほどと腑に落ちた。


きっと地上に来てる魔族からしてみたら、故郷から遠く離れて周りは人間ばかりの所で偶然にも魔界の人と会ったような懐かしさと親しみが感じられるのね。

私もこういう所で急にエルボ国の人と会ったら絶対テンションも上がるし親しみが湧くはずだもの。


「ジルからしてみたら女に飢えてる状態の時に同族の女が現れたって感覚だったのか…」


サードの呟きにジトッとした目で睨みつける。その目に気づいたサードはふとこっちを見て不満げに声を漏らした。


「助けてやっただろ」


…どうしよう。助けてもらったのは嬉しかったし有難かったけど、そんな言い方されると感謝の気持ちが全部消えてく。


ギスギスし始めた私とサードを見てミラーニョが口を挟んできた。


「で、あなたたちはどうするんですか、ジルのあの言い方だとすぐ呼べる所に居させろってことですけど」


その言葉にサードは首を動かす。


「すぐ呼べる場所ってどこだ?」

「バファ村でしょうねえ」

「噂のバファ村か」


アレンは真面目な顔でそんなこと言うけど、そこまで噂にもなっていないわよ。


心の中で突っ込んでいるとサードは、


「そうだな、バファ村がどういう所か見てもいいな。今まで探してたんだが、嘘の地図しか載ってなくてたどり着けなかったんだ」


ミラーニョはポリポリと薄い頭をかき、


「まあ最も隠したい場所ですからね。関係のない人に近づいてほしくもないですし、あえて地図には嘘の記載しかさせてません」


「てめえの差し金か」


サードが突っ込むとミラーニョは軽く笑う。


「そりゃそうです。ジルがそんなせせこましいことをする性格だと思ってるんですか?バファ村を作った時点でそのようにしていましたよ。

それでどうするんですか?ジルの協力者という立場であればバファ村に行っても丁重にもてなされるでしょうし、危害を加えられることもないでしょう。バファ村に行ってもいいと言うのであれば今から連れて行きますが」


「なんだ俺らに協力する気になったか?」


おちょくるようなサードの言葉にミラーニョは肩をすくめて首を横に振る。


「そんなつもりはありません、ジルが思ったように手配しておかないと私が酷い目に遭うからです。今日は機嫌が良かったようで服が焦げる程度で済みましたが…」


「俺はいつでもお前が寝返るのを待ってるぞ」


それを聞いたミラーニョは思わず笑った。そのまま自虐的な笑みを浮かべて、


「よく言いますよ。ジルが死んだら私も死ぬんですから、どうせジルを裏切ってあなた方についても結局自分で自分の首を締めるようなものじゃないですか」


「最後までジルのケツを追い回して死ぬか、最後の最後にジルを裏切ってスカッとした気分で死ぬかはお前次第だぜ」


結局サードはミラーニョをも殺すつもりなの…。それを思うとどうにかならないのかしらと思うけど…でも今はもう我慢できない…!


「ねえミラーニョ、何か着るものない!?」


ガチガチと震えながらミラーニョに聞いた。


色々とあって寒さを忘れていたけれど、やっぱりどうあっても寒いのよね…!アレンなんてさっき私を慰めるためにヒシッとしがみついてきたけれど、くっついたら温かかったのかまだしがみついたままだもの。

…まあ私の方がアレンにくるまれて温まってる状態だけれど…。それでも足元から風が入ってきて冷える…!


「混ぜて…混ぜてください…」


サムラがカクカクした動きで近づいてくるから、私とアレンはわずかに離れてサムラを真ん中に入れてまた引っ付いた。


「ガウリス」


アレンがこいこいと手で招くけどガウリスは引っつき合っている私たちを見てかすかに苦笑して首を横に振った。


「ありがとうございます。でも私はまだ余裕がありますので大丈夫ですよ」


それって…。ガウリスは冷えてない=暖かいってことじゃない?


アレンをチラと見上げると、アレンも私を見ていてそのままお互いコクリと頷く。そのままサムラを引っ張ってガウリスに全員でビタビタとくっついて体温を奪い始めた。


「そんなに寒いですか?私も半分人間ですけど生粋の人間はそんなに体が弱いんですね」


ミラーニョはそう言いながらさっきぶち破ったドアを開けて、


「しかしここは夏しか使われない別荘ですから夏服しかないと思いますよ」


「最悪…」


ガウリスから暖を奪いながら呟くとアレンはふと顔を上げて私を見た。


「そういえばリヴェルさぁ、髪の毛光らせながら手近づけて来たらすげえ熱かったんだよ。エリーあんな感じで暖かい何か手から出せねぇ?リヴェルの力分けてもらったんだろ?」


「そんなこと言われたって…」


この前、中年の兵士にリヴェルの力を使ったあれを見てよくそんなこと言えるわね。鉄の鎧でも穴が開いていたんだから、下手したらアレンの顔の皮全部が消えて骨だけになるかもしれないのに…。


私は首を横に振った。


「やめましょう」


それでもアレンはよっぽど寒いのか食い下がってきて、


「それでもリヴェルは爆発させないで手が熱くなる程度の状態を保ってたじゃん?エリーも制御魔法覚えてるから爆発させないで押さえることもできるだろ?なあ、頼むよぉ」


「ええ、でもぉ…」


それでもあの兵士の吹っ飛びようと思い出す限り人に向けて使うのはちょっと…。


「ジルの力と似た爆発魔法を使えるんですか?」


ミラーニョが聞いてきて、まあ…と頷きつつ、


「でも私は火山の精霊と同じ力をもらったのよ、噴火と同じ爆発だからジルのとは全然似てないわ」


あんな男と一緒にしないでとばかりに言うと、


「火山の精霊ですか」


ほう、とミラーニョは興味を持ったようにして手の平をこちらに向けてくる。


「軽く私に向けてやってみてもらえます?精霊の力がどういうものなのか気になるので」


「え…でも…」


「大丈夫です。黒魔術に相手の魔法攻撃を半分以下の威力に留めるものもありますし、私も半分魔族ですから人間より体は丈夫です。内臓が破裂してもニヶ月で自然と治りますから」


…さらっと言ってるけど、仮にそうなったら私が心苦しくなるのよ…。


それでもミラーニョの顔を見る限り精霊の力を目の前で見てみたいっていう好奇心が見て取れる。その表情はこの世の何でも知りたがってるロッテに少し似ているわ。

多分ロッテにも精霊の力を手に入れたって伝えたら「見せて見せて!」って言ってくるでしょうね、魔族が精霊に会うことも滅多にないと思うもの。ミラーニョもそう考えてるからやってみてって言っているのかも。


それならと私は力をものすごく抑えてじりじりとリヴェルの力を発動してみた。

ひたすら気を使って魔法を発動して…ミラーニョは首を傾げる。


「…爆発しませんね」


「しないように気をつけてるのよ、何も考えないでやったらどうなるのか分らないんだから」


「ミラーニョどう?熱い?」


アレンの言葉にミラーニョは、


「いえむしろ…快適な暖かさです。このまま当てられ続けたら眠くなってしまいそうな…」


「…なに!?」


その言葉にアレンが私の手をガッと掴んで自分の頬にガッと当てる。


「何これすげーあったけー!」


ちょ、アレン…!今は力を抑えてるけど、その抑えてるの抜いたらそのまま爆発するんだからねアレン…!


私の方が怖くなって後ずさるけど、アレンは私の手に頬ずりしながら暖かい、暖かいって繰り返している。


…とりあえず、リヴェルの力はかなりセーブしながら発動すると暖かいのね、一つ分かった。


アレンは私の手を自分の頬から離すとそのままサムラの頬にピタァと当てる。サムラはリヴェルの力の暖かさにヘニャ、と顔をほころばせた。


…可愛い。あとほっぺがスベスベで柔らかい。


思わず両手をサムラの頬に当ててウリウリと可愛がるように動かして、その動作をして何となく思い出した。


リヴェルの居たイゾノドリコ町でキシャに呼吸を止められ意識を失ってよく分からない空に向かって伸びる階段をのぼっていた時、お父様っぽいけどお父様っぽくない人にこうやってほっぺを両手でウリウリこねられたなって。


「ところでどうして火山の精霊から力をもらったんです?」


ミラーニョがそう聞いてきて私はフッとその時の記憶から戻って、


「正確には火山の精霊からもらったんじゃないの、ミラグロ山っていう噴火したら大変な山を数秒押さえたお礼にってランディキングっていうこの世界の地面とか草花を作ったすごい人から特別に分けてもらったのよ」


その火山の精霊のリヴェルがジェノの奥さんだって話をミラーニョに教えていたアレンは私を見て、


「そういやその辺の話詳しく聞いてなかったな。あの時は息ができなるわ町の人たちパニックだわで力もらった話は伝言程度にしか聞かなかったからさ。噴火しそうになったらいきなりランディキング来たの?」


私は首を横に振って、


「ミラグロ山が噴火しそうだったから魔法を使って抑えようとしたの。そうしたらもう体がブチブチに千切れそうな痛みで気絶して痛みで目が覚めて、痛みで気絶して痛みで目が覚めてを繰り返してたらキシャの魔法で息ができなくなってそのまま目の前が真っ暗になったのよ。

そうしたら明るい雲の上みたいな所にいて、空に向かって階段が伸びていたからのぼって行ってね…」


「…エリーさん、それ…臨死体験では…その階段も天への昇り道では…」


引きつった顔でガウリスがポツリと言ってきて、私はハッとする。


「え…じゃああれって私死にかけてたってこと?」


今更ながらに気づいてゾッとしていると、皆も私が死にかけていた話に顔を強ばらせて黙って聞いている。


「…よく戻って来れたな」


サードの言葉に私は顔を青ざめながら、


「お父様っぽいけどお父様っぽくない人に階段から突き落とされたのよ。私より若い年齢で死ぬのは許さないよって言われて。それで気づいたら隣にランディキングがいたの」


「親父みたいで親父みたくないない奴?」


サードは少しの間黙ってから口を開いた。


「それもしかしてお前の爺さんじゃねえの?」


「え?」

「死んでんだろ?」


「…ええまあ、お父様が子供のころ、三十九歳で…あ」


気づいた。


思えばお父様も今はそれくらいの年齢じゃない。それにお爺さまの肖像画…あの肖像画のお爺さまは髭を生やしていたわ。髭が無ければお父様と本当にそっくりって肖像画を見るたびに思っていたもの。


「え、じゃあ…あれって…」

「…お化け?」


アレンがかすかにゾッとした顔をするから力が抜ける。サードはどこか感慨深い顔で、


「よく聞く話だな。死にそうなときに死んだ身内に来るなと言われて追い返されたら目が覚めて息をふきかえす…」


…そんなによく聞く話かしら。それともサードの元々いたサドって所ではよく聞く話だったってこと?


まあ、サードの言うことが本当なのか、あれが本当にお爺様なのかなんて分かりやしないけど…。それでも一度も会ったことのないお爺様と会って、それも会話を交わして可愛がられて助けられたのかもと思うと心がホワッとして嬉しい。


きっとお爺様が生きていたらあんな風に私やマリヴァンのほっぺをウリウリと動かして可愛がってくれていたんだわ。…お爺様…。


お爺様に想いを馳せて心は温まったけれど、容赦ない冷えで体はブルッと震えた。


…なるほど。リヴェルの力は手を当てられている人は暖かいみたいだけど、暖めている私自身は全然暖まらない。

作者

「エリー一人いれば風力発電も水力発電も火力発電も地熱発電もできるね」


エリー

「雷も落とせるから普通に電力供給もできるわよ」


作者

「いや、下手に威力のある雷が落ちたらコンセント繋がってる家電全てが壊れるかもしれないから」


サード

「…へえ」


作者

「その不穏な『へえ』とニヤニヤ笑いやめろ」

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