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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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情報屋の情報

三人が戻って来てから私は、三人が情報収集している間にここのホテルのオーナーのイクスタと話したことを伝えた。


「ええ!?ここのホテルのオーナーで、大公の息子で、首都エーハの門番の兵士!?役職多すぎだろ!」


アレンがそんなこと言うから思わず吹き出したらサードは不可解そうな顔で聞いてくる。


「で、そのイクスタって野郎は結局何のために来たんだ?」


「…それが…」


確かにイクスタは自分たちに助けを求めていた。それでも結局イクスタが言ったことって、勇者御一行は国の関係者とは関わらないだろ、この国を潰してほしいがそれも無理だろ、って感じでボンヤリした物言いだけだったのよね、よくよく考えてみたら。


「…何だそりゃ」


サードは意味が分からなそうな顔で呟くから、


「言いたいことはあるのにハッキリしない人だったのよ、斜に構えてるっていうか、後ろ向きっていうか、希望に見切りをつけてるっていうか…」


「…ハミルトンさんもそうでした」


ガウリスがそう言う。ガウリスは多少私に気を使うように申し訳なさそうにしながら、


「助けてほしい、しかしどうあっても誰も助けてくれるわけがないと思っているのでしょう。それほど周りに頼れる人がいなかったか、頼っては裏切られてきたか…」


「…」


イクスタの今までの生い立ちが少し見えた気がして黙り込むとサードが質問してくる。


「で、そのイクスタはどこに消えた?」


私は首を傾げて、


「とりあえずオーナー室から出て行ったんだけど、もしかしたらまだホテルにいるかもしれないわ。家に居たくないからここを作ったみたいなことも言ってたし…でも怒ってたから外に出て行ったかしら」


「…すみません、僕のせいで…」


シュンと落ち込むサムラに「サムラは悪くないわ」と声をかける。

するとサードは興味を持ったように私たちを見て、


「何だ、サムラが怒らせたのか?珍しいな、エリーじゃなくサムラが喧嘩売るなんて」


キッと私はサードを睨み、サムラは違います違いますと大きく首を横に振る。


「だがどうであれそいつはこの国が嫌いなんだろ?」


急に会話が元に戻るから睨み付ける顔のまま頷く。


「この国を潰して欲しい、この国の奴らを殺して欲しいって言ったんだよな?」


念押しみたいなサードの言葉に睨み付ける表情もゆるんでまた頷く。するとサードは満足気な顔でフン、と笑って、


「そいつは使えるな、後で俺からも面会を申し込んでみるか」


その言葉に私はサードに聞いた。


「助けてあげられる?イクスタを」


イクスタは以前のサードみたいで妙に気にかかるもの。それにその境遇はサブリナ様にも似ている。

目を逸らしたくなるシーンの多いこの国でイクスタはずっと生きてきた、…私には想像つかないくらいきっとたくさん傷ついてきたに違いないわ、だからこの国を潰して、悪い心持の人を殺してくれって言ってきた…。


するとサードはどこか呆れたようなイラついた顔で、


「だからなあ…」


「ジルとミラーニョを倒すのが一番で他のことをどうにかできるか考えるなって言うんでしょ」


サードが悪態をつく前にピシャリと返すと、分かってんじゃねえかとばかりに口をつぐむ。


「それでも放っておけないの」


傲慢な態度で本心を全て隠していた昔のサードみたいで…。そんなこと言ったら怒りそうだから言わないけど。


するとサムラも私の言葉に被せるようにサードに訴える。


「イクスタさんはガウリスさんの言う通り全部諦めてるみたいでした。希望を持つように言ったんですけど、そうしたら希望なんて持てないって感じで怒ってしまって…」


サードは私とサムラを見てため息をついて、


「そんな通りすがりの奴らにいちいち同情してたらやってられねえぜ?」


と言うと、イクスタを助ける話はそこまでだとばかりに話題を変える。


「俺らは情報集めついでに一旦どれくらい治安が悪いか見てきたがな、やっぱお前らは夜だけじゃなくて昼も一人で出歩くな。外に出る時は俺らと一緒の時だけにしろ、いいな」


…そんなにハッキリと宣言されるぐらい、この首都のエーハは治安が悪いのね…?そんな所でイクスタはずっと生きてきて…。


「ついでにバファ村の場所も確認しとこうかと思ってこの辺の地図買ったんだけどさ」


イクスタのことを考えて気持ちが沈みかけたけれど、アレンがバファ村の話をするから視線を移す。アレンはテーブルの上に地図を広げるけど、その地図の至る所にバッテンがつけられている。


「何?このバッテン」


「それがどう見ても地図と実際の道が合わなくてさ、バファ村に行けるルートが見つからなかったんだよ」


「何それ、じゃあこの地図嘘だらけってこと?」


「そういうこと。一応地図にもバファ村の記載はあるけど、関係のない人に無駄に近づいてほしくないから隠してんのかもな。もしかしたらこの地図のバファ村も違う場所にあるかもしんないし」


そう言いながら指でバファ村の所をなぞるアレンにサードが、


「地図ってのは大体が国の重要機密だぜ?俺からしてみたらほとんどの国で自国の詳細な地図がこれ見よがしに販売されてること事体がどっかおかしいんだよ。国を防衛する立場からしたら地図は国の内部で管理するのが当然だろうが」


うーん、それならやっぱりバファ村はウチサザイ国の人たちにとっててトップシークレット扱いなのね。


するとアレンは続けて、


「あとやっぱりジルは首都のあちこちに出没してるみたいだけど、誰とでも親しく話してるとかそんなわけでもないみたいだな。むしろ店側も快く迎え入れてるっていうより脅えてるって感じだったぜ、ジルの話をしたら顔を強ばらせてうちは関係ないって追い出されること多くて」


「でしょうね」


ジェノが受けたあれやこれやを思い返してもジルが礼儀正しくお店で過ごすとは考えられないもの。でも首都で過ごす皆が皆ジルを歓迎しているわけでもないのならそこは少しホッとしたかも。


「ミラーニョさんの情報は全く無いに等しかったですね」


ガウリスの言葉にアレンも「だなぁ」と返す。


「たまにジルを迎えに来たりするぐらいで、ろくに他の人と話したりしないみたい」


ふーん、と頷く。

でもミラーニョってエルボ国で道化師をやっていたのよね?それもファディアントたちにすぐ好かれるくらいで塞ぎこんでいたサブリナ様の心も溶かすくらいにおどけていたから結構喋る人だと思うんだけど…。


…あ!


私はふとある物を思い出して慌てて自分の大きいバッグを引き寄せて手を突っ込む。

いきなり私が動き出したからいきなりどうしたという目で皆が見てくるけれど、私は大きいバッグの中から一枚の紙を取り出して皆に見えるように広げた。


「忘れてた!これサブリナ様が描いたミラーニョの似顔絵なの!」


するとサードは形相を変えて、


「そんなのがあるならさっさと出せ!」


と怒鳴りつけてきた。


「だ、だって…今の今まで忘れてて…」


しどろもどろに言い訳するけれど、思えばジェノとかカーミと話をしていた時にこの似顔絵を見せて「ミラーニョはこんな顔?」とか聞いていればミラーニョ=エルボ国の道化師ってすぐ分かった分かったかもしれない。本当に今更だけど。


落ち込む私をよそに皆が私の広げるミラーニョの似顔絵を見て、


「へー…ミラーニョこんな顔なんだ…普通におじさんだ…」

「なんだか…その辺りに居そうな方ですね」

「こういう人ならここに来るまでにも見たような…」


と微妙に失礼な事を言い合っている。ちなみに上からアレン、ガウリス、サムラ。

サードもとりあえず一声怒鳴ったあとに似顔絵をチラと見て、


「…普通のオッサンだな…」


と言いながら、


「ともかくこんな短い時間じゃそれほど情報も集まらなかった。長丁場になりそうだがじっくり調べていたら今度はカーミみてえな野郎どもが動き出して俺らがここにいるってバレる。

奴らにバレて国に狙われるのが先か、俺らがジルと接触するのが先かのスピード勝負だ。死ぬ気でジルかミラーニョと関わるとっかかりを見つけねえといけねえぜ」


アレンとガウリスは力強く頷いたけど…。単独で外に出るなって言われた私とサムラは何とも言えない顔でお互いに視線を合わせた。


だって、それって結局私たちやることないじゃない。


* * *


次の日。


「…暇…」


私はベッドの上で手足を大きく広げて仰向けになっている。

サード、アレン、ガウリスの三人は情報収集しに行ったけど、やっぱり私とサムラは留守番。

情報収集もするようになった今から思うと、昔の私って皆が情報収集してる間よくもまぁ何もしないで部屋の中でジッとしていられたものだわ。


それにしても暇すぎる。サムラの部屋に遊びに行こう。


ムクリと起き上がって…チラと目の端に何か映って顔を上げた。


「…ん?」


何かが見えた天井見上げると、天井近くの(はり)から何か白いものが飛び出ている。


ネズミ?でもネズミにしてはちっとも動きやしないし、どうみても四角いわね。なんか紙っぽいけど、何あれ?


ベッドの上で立ち上がって手を伸ばす。でも全然梁まで手が届かない。

それならとベッドの上に椅子を用意して不安定なバランスの中で手を伸ばしてみる。もう少しで届きそうだけれど、指先が空を切るだけでまだ届かない。


暇なせいか私も意地になってきて、杖を持ち椅子にあがって紙をつく。今度は簡単に届いて、床に音を立てて落ちた。私は椅子とベッドから降りてその紙…大きめの分厚い白い封筒を拾うと、ざりざりとしたホコリの感触と同時に綿ぼこりがフワッと落ちていく。


うへえぇ…やだぁ。


慌てて備え付けのティッシュで手と封筒のホコリを軽く拭く。


ホコリ的に数ヶ月以上はあの場所にあったわね、これ。


そう思いながら封筒を開いて中から紙を引っ張り出して、ガサガサと何十枚も重なった紙を見てみる。

随分と文字がびっしりと書かれているわ。


そう思いながらガサッと上から何枚目かの適当な一枚に目を落として…。


「え?」


その紙を見て私から声が漏れた。


これって地図?しかもこの地図の中心の名前ってこのホテルの名前じゃない?

それに紙の上部分には『ウチサザイ国首都エーハ』って書かれているし…。


思わずバッと顔を巡らせてバファ村の文字を探すと、アレンの持っていた地図とは全く違う場所にバファ村?と書かれた文字がいくつか書いてあって丸で囲まれている。


まさかこれ…この首都の本当の地図?待って、これはまず一枚目からちゃんと読んだ方がいい。


そう思ってずらした紙を全部重ね直して文字がたくさんある一枚目に戻る。


『この手紙を発見した人へ』


その出だしにドキッとなりながら読み進めていく。


『俺はよその国で情報屋をやっていた男だ。そしてこの手紙を残している。この国に入っていつ殺されるかもわからないからだ。

このホテルにたどり着く間だけでも君も十分に酷い目に遭って来ただろう、この国は酷い国だ。俺は高値で売れる情報が手に入るかもと軽い気持ちで入ったが、この国の現状をどうしても俺は外に伝えたい。この国は手紙などは全て検閲されこの国の情報は漏洩しないようにされている。

国外にいる情報屋仲間に暗号で伝えているがそれにも限度があるし、こんな閉鎖された国で密かに悪事が進行しているだなんてゾッとする。

もしこの一枚目の手紙を見て全く君の興味のない、もしくは関わりたくないと感じたらお願いだ、この手紙は元の場所に戻してほしい。仮に俺の身に何かあった後俺の意志を受け継いでくれる人が現れるまでこの手紙はそのままにしておいてくれ。

そして君が俺の遺志を継いでくれるのであれば、俺が今まで集めた情報を全てここに書き残している、どうか役立ててほしい。ウィリッチ・レーサー』


「…」


もしかしてこれ、コーヒー店でアレンに魔族の情報を売った情報屋のお姉さんの相方じゃ…?


そう思った瞬間にゾワッと鳥肌がたった。


だってこの部屋にはこれを一生懸命書き残した人が居た、でも今は私がその部屋に入っていて、この封筒はホコリがかぶるぐらい放置されていた…。


だとしたら出せる答えはただ一つ。


このウィリッチという男の人は自分が案じていたとおり、何者かに殺されてこの部屋に戻ってこなかった…。


ウィリッチという情報屋がこの部屋でどう過ごしていたか見える気がする。きっとそこの机に座って備え付けのペンを使って真剣に文字を走らせていたんだわ。…怖い、この部屋に泊まっていた人が殺されたって事実が怖い、鳥肌が止まらない。


もしかしたら私たちもそうなるかもしれないんだって考えがよぎって、思わず腕をさする。


それでもこれは私たちにとって役に立つ情報。サラッと見る程度じゃなくてしっかり全部見ないと。

それともサムラと一緒に見る?…ううん、とりあえず全部に目を通してからにしよう。


すると『噂で聞いた魔族の特徴など』って書かれた紙を見つけた。

見てみるとウィリッチが聞いた特徴からその魔族の顔を想像で書いたのか、下の方に似顔絵がある。


ジルにドレー、そしてミラーニョ…。


それでもウィリッチはジル以外の魔族の名前は把握できなかったのね。ドレーのことは少女の魔族、ミラーニョのことはただの魔族としか書いていない。


この中で顔を知っているのはドレーしかいないからドレーの似顔絵を見てみる。…まあ、大まかにはドレーに似てるかしらってくらいね。金髪のツインテールとけばけばしいドレス…。


それにしてもジルは一番情報が多いわね。似顔絵は…大体ジェノが言っていたとおり。金髪の坊主頭、鋭く悪い目つき、体格もガッチリしていて見るからにガラが悪い若者って見た目。


まあサードだって目つきも性格もガラも口も悪いけどね。


でもこの絵を信用する限りだとジルはサードとはタイプの違うガラの悪さな気がする。

サードは後ろにふんぞり返って高い所から人を見下して笑っているイメージだけど、この絵のジルはオラオラと前のめりですぐ喧嘩を吹っ掛けていきそうだもの。


…にしても、ミラーニョの項目なんて情報が少ないせいか似顔絵も書かれてないし、情報も格段に少ない…。


「…ん」


ミラーニョの項目を見ていて、横線で消されている一文に目が止まった。


『ジルの傍に現れる魔族がこのホテルの隣の喫茶店に昼の一時きっぱりにしばしば来店するのを目撃するとの情報』


でもすぐ横に矢印が引かれて『店主も知らないという。ガセネタだった』と書かれている。


一時…。


壁にかかっている時計を見る。今は…十二時五十分、一時まであと十分。


確かにこのホテルの隣には喫茶店があったのよね。

こんな治安の悪い所でも喫茶店があるんだ、落ち着いて飲み物を飲んで軽食を味わえるのかしらって思いながら通り過ぎたからよく覚えてる。


…行ってみようかしら。


そんな考えがよぎったけど瞬間的にやめておきなさい、と自分で自分を止める。だってこの国の治安の悪さを考える限り一人で外に出るだなんて「さあさらってちょうだい、襲ってちょうだい」って言っているようなものだもの。


それにここにしっかりとガセネタと書いてあるし、仮に喫茶店に行って何も手に入れない代わりに危ない目に遭ったりしたらあまりにも馬鹿臭いわ。それにサードにもわざわざ危ないものに近づくなってこの国に入る前から何度も釘を刺されているもの。


そうよ、とりあえずサムラにこの情報を見せに行って、皆が帰ってきて報告して共有してから次の行動を考えた方がいい…。


一旦ベッドに座って改めて情報を読み進めていくけれど、チクタクと秒針の進む時計の音が妙に耳に入ってきて、いちいち時計を見てしまう。


一時まであと八分…。五分…。三分…。


ガタッと立ち上がった。


あーこんな状態で見ても何にも頭に入ってこない!もういい!一分だけ、一分だけ喫茶店の様子を見てミラーニョっぽい人がいるかいないだけ確認してすぐ帰ってこよう!

洋画で刑期を終えた人が、アパートの梁の上に先に刑期を終えて外に出ていた爺さんの残した手紙を見つけたというのがありましてね。「ショーシャンクの空に」です。神映画です。


コピペまとめサイトで、ドイツの治安が悪い所で夜に「平気だよww」と外に出て行った友人が十分後に頭から血を流しながら走り戻ってきたとかそんなのみて怖えと思いました。法律厳しそうなドイツでも治安が悪い地域はそんな感じなんだなって。それより友人に何があった。

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