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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ウチサザイ国

ウチサザイ国に入国して五日くらいなる。

とりあえず入国時にはいつも通りの服装で入って、審査所から離れたらすぐさまエルボ国の時と同じように勇者一行だとすぐバレないように変装した。


「しかしここまでの国だとは…」


今はお別れする直前のカーミがおすすめしてくれたホテルに泊まっているけれど、不意にガウリスが落ち込んだような顔で言うから私も「本当に」と頷き返す。


確かにウチサザイ国はとても治安が悪い。


だって入国してからすぐ目についたのが人の遺体なんだもの。それも一人二人じゃなくて…死んだ人を手当たり次第邪魔じゃない所に重ねたって感じの人の山…。それも行き倒れとかじゃなくて明らかに殺されたんじゃないのってくらいのが多くて…。

何よりショックだったのが、そんな遺体から子供たちが遊ぶように身ぐるみを()いで金目の物をポケットに入れている光景。


本当にショックだった。でも他にもショックを受ける場面が多すぎて…。…でも慣れって怖いものだわ、三日目くらいから目に入るものにいちいち反応していたらやっていけないって見てみぬふりするようになってしまったもの。

むしろこんな所で育ったカーミにハミルトンがろくに罪悪感もなく悪いことに手を染めるのも無理はないって思っちゃったもの。


とりあえず明日にでも首都に入れそうだけれど…ここに来るまででも色々とあったわ。


私とサムラは何度も男たちに囲まれてさらわれそうになった。防戦したけれど結局サードたちが助けてくれた。

アレンは男女二人組にナンパされてお尻をつかまれてた。「え?」って言いながらアレンはダバダバとサードの後ろに逃げてた。

サードはおじさんに男娼(だんしょう)と間違われて値段を聞かれてた。すぐさま死角からえぐるように殴って気絶させて殺しそうな勢いで蹴とばしてたから皆でサードを止めた。


流石に巨体でムキムキのガウリスはそんな目に遭うこともないでしょ…って思っていたけれど、ガウリスは色んな人からグイグイと言い寄られてた。

しかもガウリスは真面目な性格だからしっかりと相手をして会話をして、どこかに連れて行かれそうになって…結局サードとアレンがガウリスを救出していた。


っていうかガウリス、戦闘とかの危険な時は即座に回避するのに、何でそういう時の身の危険にはものすごく鈍いわけ?


むしろカーミが言った通りウチサザイ国って本当に性別は関係ないのね、ここに来るまでも色々と嫌なシーンを見てしまって…ああもう思い出したくない。とりあえず助けられそうな人はできる限り助けたけど…もう色々とありすぎて深く思い出したくない…。


私はこの五日間の嫌な記憶を吐き出すように大きくため息をついて、


「ここと比べたらファディアント時代のエルボ国の方がまだマシだって思えてくるわ」


アレンもうんうん、と頷いて、


「だなぁ…ここ今までで見たことねぇくらいのぶっちぎりで悪い国だもんなぁ…エリー大丈夫?」


正直アイデンティティーが崩壊しそうで全く大丈夫じゃない。でも一番治安が悪い首都に入る前で音なんか上げていられないわ。


無言でふるふると首を横に振ると、ガウリスが気を使うようにそっと声をかけてくる。


「エリーさん。今からでも遅くありません、この国を出てケッリルさんのところまで送りましょうか」


私は慌てた首を大きく横に振った。


「大丈夫だってば。私だってミレルにケッリルにサムラのことをどうにかしたいのよ。…そりゃあ色々と酷すぎて正直頭がどうにかなりそうだけど…こんな所で負けていられないわ、私だって皆を助けるんだから」


それでもガウリスはまだ心配そうな顔をしているけれど、その横からサードがどうでもよさそうな感じで口を開く。


「本人が大丈夫だっつってんなら別にいいだろ。で、明日首都に入ってからの行動だが、まずはカーミ曰く首都で一番安全だってホテルにさっさと入る」


皆の視線がサードに移る。


「んでリトゥアールジェムをネタにミラーニョとジルに接近して取り入る。魔族ってのは人の嘘を見抜くから俺が奴らと交渉する。嘘が下手なお前らはジルとミラーニョの前では一切喋るな。…いや、近寄るな、俺だけでいく」


ガウリスは良い顔をしないで身を乗り出した。


「それではサードさんばかりが危険ではないですか。私は魔族とは対照的な存在になっているようですから魔族は私に触れられません。口も開きませんから念のため私を連れて行ってください。何でしたらリトゥアールジェムを作ったのは私だとか言って…」


「だからそういう嘘はバレるつってんだろ」


「あ」


ガウリスは、そうか…と難しい顔をして黙り込んだ。


「魔族には人のつく嘘なんてすぐばれるんだっけ」


「ハミルトンもジルの言うこと聞くって嘘をついたら全部バレてたんですよね、確か」


アレンの言葉にサムラが重ねて頷くから私も続けた。


「ロッテも言ってたわ。嘘をつく人間は取り入りやすいって」


するとアレンは頭を少しかきながら、


「それだったら本当に危険じゃん。サードだっていつも通り嘘を突き通すこともできないだろうし、さすがに一人じゃ行かせられないよ」


アレンもガウリスと同じように難しい顔をするけれど、それとは対照的にサードはニヤニヤと笑っている。


「何をそんなに悩む必要がある?全部本当のことを言えばいいだけだろ」


何をそんな簡単そうに言ってるのこいつ。本当のこと話たら全部終わりじゃない。


そんな私の視線を見てサードは、


「リンカの爺覚えてるか、ナバだったか」


「覚えてるわよ、何よ急に」


「ナバに報酬の値段交渉してる時に人間界で金貨五十枚貰ったって言ったら最初は嘘だと思ってたが俺は嘘をついてないと最終的に納得しただろ?

本当は魔族のラグナスから頂いたんだが、そのラグナスのことを人間の生態調査員と言ってもそれが嘘だと奴は勘付きもしなかった。ラグナスはあの周辺では人間の生態調査員として通っているし俺もそう記憶してたからだ。つまり…」


サードは一気に話してからそこで区切ってニヤニヤとしながら身を乗り出した。


「本当の事実を引き合いに出して、嘘をその影にちょいと隠してやればいいのさ。簡単だろ?」


「…」


それはそれで難しいと思う。そんなもの。

…でも実際それで魔界の大臣を騙したんだし、サードのニヤニヤ顔を見ていると何となく大丈夫そうって思えるから不思議。こういう悪事っぽいことをやらせるときの安心感が半端ない。


「けどジルとミラーニョ倒したとするじゃん、そうしたらどうするの?二人を倒したらバファ村の人たち黒魔術使えなくなるだろうけど結局魔力強くて黒魔術使える人が揃ってるのは確実なわけだし、下手したらそいつらまた新しい魔族見つけて黒魔術復活させて元通りってこともあり得るぜ」


アレンがそう言うとサードは、


「そうなんだよなぁ。邪魔なんだよなぁバファ村が」


と言いながら軽く頬杖をついて考え込んだ顔をする。


サードが邪魔って言うと何かやらかしそうで怖いわね、こういうサードが悪事をやらかしそうなときの不安感が半端ない。

まさかバファ村の住人を皆殺しにするなんて言わないわよね?


かすかにヒヤヒヤしているとアレンは続けて、


「けどもし黒魔術が完全になくなったとしてもだぜ?それでもウチサザイ国って国は残るわけだから結局金の元になりそうなサムラの故郷は搾取(さくしゅ)されっぱなしなんじゃないかなぁ」


「だろうな」


アレンの言葉と簡単に頷くサードの言葉にサムラが「えっ」と目を丸くする。

それでもサムラはその表情をすぐに引っ込めて、何かしら責任感のある顔になって自分の手を握る。


「でも…僕が最初に皆さんに依頼したものは魔法の眼鏡屋さんに連れて行ってもらって、故郷まで共に行くことでした。…それに成り行きでもこんな風に普通に目がよく見えるようにしてもらったんです、これ以上皆さんのお世話になるわけには…」


サムラの言葉にサードは首を横に振る。


「最初にお前にあれこれと助言を与えた時にはこれほど事態が込み入ってるとは思ってなかったんだ。今のところウチサザイ国は魔力のこもった物を盗るだけでお前らササキア族のことはスルーしてる。だがその一族全員が体内に強力な魔力を持ってると知られたらどうなると思う?」


サムラはそう言われてキョトンとした顔でサードを見返す。

よく意味が分かってないなとサードは続けた。


「バファ村には世界中から強い魔術士を集めてんだぜ?近くに強い魔力を持つ、しかもろくに反抗もしねえ部族がいるって知ったらどうすると思う?」


サムラも察したらしく、ゾッと体を震わせる。


「僕ら全員…悪い事をさせられるかもしれないってことですか…!?」


「それも強制的に全員だ。嫌だろ?」


サムラは頭を縦に激しく振っている。頭を振りすぎてちょっとフラッとしながらも、


「そんなの嫌です…!守らないと、僕の故郷を…!」


グッと手を強く握り込むサムラを見て、私たちのやる気も上がる。


そうよ守らないと。ウチサザイ国からサムラの故郷を、他の国々を、人々を…。


そこまで考えてふと私は思った。

それだとしたらバファ村どころかウチサザイ国が邪魔ってことになるじゃない。…まさか?


私はサードを見る。


「ねえサード…もしかしてあなたウチサザイ国を潰そうとか考えてない?」


こいつは隙あらば国を潰そう潰そうと提案してくるんだもの。サムラの故郷を守るためならウチサザイ国を潰すとか普通に言いそうだわ。


するとサードはニヤニヤとした表情をスッと引っ込めて真顔になって見返してくる。


「エリーにしちゃいい考えだな、褒めてやる」


「…やめて、今の言葉忘れて!」


どうやらサードは今の所ウチサザイ国を潰そうって考えていなかったみたい、余計なことを言ってしまった…!


いくら悪人の集まりみたいな国でも潰すのは…、…。

でも犯罪が数分おきに起きるこんな国、無くなった方が助かる人の方が多いんじゃないの?もしかして…。


明後日の方向を見ながらサードは、


「そりゃあな。潰せるなら潰すに限るよな、俺だって考えてた」


そう言いながらサードは独り言のように続け、


「だがリギュラも国を滅ぼした結果が今の現状だ。そうそう国なんて簡単に変わらねえよ、サブリナみてえに本気で国を変えたいって思う奴が上に立って改革しねえ限りはな」


サブリナとは誰だろうという顔をしているサムラの横でアレンが口を開く。


「じゃあ別に国は潰さねえんだ?」


サードは()わった目でつらつらと返した。


「成り行きによっては潰す。だがまず最低限やることはジルとミラーニョの殺害、それとできるならバファ村の壊滅、悪質な奴らなら殺害もありだ。まあ国民の一人一人が犯罪者みてえなこんな国、潰しちまった方が世の中のためにはなるだろうがな」


ケケ、と笑うサードの言葉を聞いて私はかすかにうつむいた。


確かにこの国の人たちは数分おきに犯罪をするような悪い心持の人が多い。でもそれはカーミみたいに悪い事を悪いと知らないまま大人になってしまったからじゃないの?

この国の人全員が心からの悪人かって言われたらそんなことは全然ない、生まれるところが違う国だったら悪事をしないで育ったような人だって多いと思う。


できるならそういう人達もどうにかしたい。でもそれって具体的にどうすれば?

…そこはどうすれば分からないけど…後で少し考えてみよう。

昔、新聞の四コマ漫画でこんなにも子供たちのいじめが起きる原因は何だろうと考えたキャラがルーレットに文字を書いてダーツを投げるってものがありました。

ルーレットにあった文字は「環境・親・国・???(もう一個忘れた)」


それを子供のころに見て何が悪いんだろうと長年考え、色んな本を読んできて私が出した自分なりの答えは、


「子供に影響を与える親がいじめ加害者を作る一番の原因になりやすい。そして上記の新聞の四コマみたいに親が悪い・環境が悪い・国が悪いと責任を周りに見出し続けると人は終わる。あと大体いじめる側が精神的に不安定(どこぞの周りの国をヘイトしたり攻撃する国々にも同じこと言える)」

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