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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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混浴と危険な男と

次の日。


本格的にやることがなくなった私はサムラとアレンと一緒に混浴に行った。

いや、アレンはサードとガウリスと一緒にリヴェル関係で情報を集めに外に行くんだと思っていたんだけど、


「何を言ってるんだ、エリーは俺と混浴に入るって言っただろ?」


って普段しないようなすごく男らしいキメ顔で言ってきた。別にアレンと入るだなんて私一言も言ってないんだけど。


それより混浴がどんなものなのかさっぱりだったんだけど…温泉っていうよりレジャー施設って感じ。


少し広めの浴場があちこちに何個もあって、その一つ一つが変わったものみたい。シュワシュワと泡の出ている温泉、下からボコボコと泡が湧き上がってる温泉、上からダバダバとひたすらお湯が落ちてくる温泉…そんな所で皆がのんびりしながら温泉に入って楽しんでいる。

それに脇の方にはジュースと軽食も取れるフードコートが用意されていて、屋外にも変わった露天風呂があるのか、寒いとはしゃぎながら中に入ってくる人たちも見えた。


予想していた混浴とはかなり違う。むしろ皆水着姿だし、まるで海で遊んだ時と同じような感覚じゃない。


アレンも混浴をぐるりと見渡してから「混浴っていうよりプールだなこりゃ」って言っていた。


ひとまず手前の温泉に浸ってみる。長時間ここに入れるようにするためか温泉の温度はぬるめ。

サムラはぬるいお湯に物足りないようなしょっぱい顔をしていたけれど、温度はぬるくても段々と体は温まってくる。

だからたまにお風呂から上がって近くの椅子に座って休んで、フードコートで飲み物を買って水分補給をしてからまた温泉に入って…。


冒険の旅に出てからこんなに何も考えないでのんびり過ごせることなんてあったかしら。

船旅の時もほんの少しゆっくりできたけれど、サードの船酔いが酷くて心配して完全にゆっくりできなかったもの。海賊にも襲われたし、制御魔法を覚えた後はサードに付きまとわれて船の中でゆっくりできなかったし…。


「おーい、ここの温泉すごいぜ」


アレンが遠くから声をかけてくる。

こんなに賑やかなのによく通る大声ねと思いながらサムラを誘って近づいて行った。


見ると白濁したお湯にアレンが首までどっぷり浸かっている。

脇に書いてある温泉の説明を読んでみみると、どうやらこの白濁したお湯の成分がお肌にいいみたい。


へえ、いいわね。その後にも色々書いているけれど後は読まなくてもいいわ。


どれと(ふち)をまたいでひょいとつま先を中に入る。熱さは良い感じ、これなら一気に肩まで浸かれ…。


「ウボアッ」


私の足は床につくことなく、頭までドポーンと温泉の中に落ちた。それでも足がつかない。ものすごくこの温泉は深い…!

すぐさま私はアレンに掴まれて救出される。


「アッハッハッハッ!エリー、だからここすごいぜって言ったのに~。俺が立ってギリ首出るくらいだぜ?」


すごいぜの言葉だけで深いかどうか分かるわけないでしょと大爆笑するアレンをビシビシと叩いていると、


「もうエリーさん、そんなにはしゃいで…うわ」


微笑ましい顔で私に語りかけながら、サムラは私と同じようにダパンと頭まで沈んでいった。


ともかく楽しい時間はあっという間に過ぎて夕方になった。夕ご飯前に少し皆で集まって話し合うことになったから、皆が私の部屋に集合する。


私の隣に座ったガウリスは私を見て、


「朝より髪の毛ツヤツヤになりました?」


って聞いてくるから、まあねとだけ返した。


どうやら私が頭まで落ちたあの白濁したお湯はお肌だけじゃなくて髪の毛にも良い成分が含まれていたみたい。

今までにないくらい私の髪の毛はツヤツヤに輝いている。サムラも同様。


「で、どうだった?リヴェルは」


サードが声をかけると、ケッリルは一言答えた。


「もう怒ってはいなないようだった」


そのままケッリルはリヴェルたちの元に行った時の話を続ける。


ケッリルがログハウスまで行ってみるとリヴェルは昨日と同じような雰囲気で笑顔で出迎えて、


「ああいらっしゃい、また来たの。お茶でも飲んでく?」


って言ってきたって。それでもこの体だとお茶は飲めないと断ってから中にお邪魔した。

ジェノもいらっしゃいと迎えてくれて、二人としばらく世間話をして…。


「…すまない、やはり肩に手を回して目を見つめるのはヤリャナに申し訳なくてできなかった。そのまま世間話だけして帰ってきた…」


と落ち込みながら話終わった。


「…使えねえ…」


ボソリと呟くサードの言葉にケッリルが傷ついて、どんどん表情も肩も視線も下に落ちていく。


「お、奥さんからすると安心できるし嬉しいと思うわよ、だからそんなに気にしないで。サードの言ってることって効率だけ求めて人の感情はとことん無視してるんだから」


「んだゴラ」


ケッリルを慰めフォローしているとサードが喧嘩腰の口調になったけれど、トントンとドアがノックされ、サードが表向きの顔に切り替わった。


「はい」


相変わらずの瞬間顔芸よねと思いながら入口に近い私がドアを開けようとしたけど、それより先にドアがバッと開いた。


そこにはジェノがいた。どこか恨みがましそうな顔で、中にズカズカ入ってきて私たちが囲むテーブルをバンバン叩く。


「やめてくださいよぉ!」


そう言いながらケッリルを指さし、


「この人使ってリヴェルをタラシ込もうとするなんて酷いじゃないですか!」


って喚き続ける。


…あれ?でもケッリルってリヴェルとジェノと世間話だけして帰ってきたって…。


「やっぱ落としたんだ、さすがケッリル」


呟くアレンの言葉にケッリルは首をブンブン横に振っている。ジェノはそんなケッリルの姿を見てムキー!と手を振り回し、


「何言ってるんですかあんなことしといて!」


「ちょっと待って、落ち着いてください。一体何があったのです」


ガウリスが聞くと、ジェノは聞いてくれとばかりに話し始めた。


「この人が家に来たじゃないですか、サムラくんのことで来たんだと思ってたらダラダラと世間話しかしなくて…。で、リヴェルが痺れを切らして『言いたいことがあるならまず言ってみればいいじゃない』って怒ったんですよ…」


煮え切らないケッリルの態度にリヴェルが怒ると、ケッリルはオド、と脅えて、


「すまない…」


と眉を垂らし落ち込み、ため息をつきながら視線を落として「やっぱり私には無理だ、できない」って顔を覆って嘆き始めたって。


「何が、何ができないの」


とリヴェルが聞いてもケッリルは首をブンブンと振って「何でもない…」と視線を逸らす。


多分ケッリルから溢れる男の色気にリヴェルも当てられらみたい、スススとケッリルの隣に移動して目を見つめて肩に手を回した…それでもリヴェルの腕は体の無いケッリルをスカ、と通り抜けてしまって、リヴェルはケッリルに聞いたって。


「あんた体は?」

「…魔族に取られて、そのまま…」


ふーん、と言いながらリヴェルは、まるでケッリルにしなだれかかるようにして、


「もし体戻ってきたらここにまた来なよ。今までにねえくらい気持ちよくしてやっから」


と手首をゴキキッと鳴らした…。


ジェノはそこまで語るとワッとテーブルに腕をついてその中に顔をうずめて泣き出す。


「僕だってリヴェルのあんな恋する乙女の目を見たことないのに!酷いじゃないですかあんなことしてリヴェルの心を奪うなんてぇ!」


「恋する乙女…?ただの欲情じゃねえかそれ」


サードはいつも通りの表情で口調で一言返して、満足気にケッリルに視線を移す。、


「だが良い流れだ。明日から毎日リヴェルの元に行って耳元で世間話でもして腰を抜けさせろ」


ケッリルは「いやいやいや…」と首と手を横に振って、ジェノはガバッと起き上がって、


「させませんよ!?」


と突っ込んでいる。サードはジェノを見て、


「こちとら依頼人の目が見えるか見えねえかの瀬戸際なんでな。手段は選ばねえ」


「そりゃサムラくんの件は可哀想だって僕も思いますけど…リヴェルを落とそうとする以外のやり方でやってくれませんかねぇ!?」


ジェノはイライラした口調になっているけれど、それでも目じりが下がって口端が上がっているせいで笑ってるようにしか見えない。


「それならお前からもリヴェルにどうにかするよう言えよ」


サードに言われてジェノは口をつぐんで、少しうつむく。


「リヴェルは…僕と比べ物にならないくらい長生きしてます。だから多分僕が生まれるずっと前に何かあって、それで無理だって言ってるんだと思います」


「そのどうして無理なのか聞かないと納得いかないのよこっちは。何があったの」


食い気味に聞くとジェノは首を傾げて、


「さあ…。皆さんが下山してリヴェルが戻ってきた時、僕もあの態度はなかったんじゃないのって言いながら目を治してあげたらって促してみたんですけど…昔色々あったから無理としか言われなくて」


「じゃあ詳しくはジェノも聞いてないんだ」


アレンの質問にジェノは頷く。


「そうなんです、もう完璧に直す力なんてないって嘘しか言わないままはぐらかされちゃって」


「嘘?ってことは完璧に治す力がないってのは嘘なんだな?」


サードが今のジェノの言葉に反応して顔を上げた。ジェノは簡単に頷く。


「ええ、本当はあると思いますよ」


「じゃあお前はリヴェルが人を治す力を見たのか?」

「いえ、僕はないです」


「じゃあ何でリヴェルが力を失ったってことを嘘だと言った?見たこともねえのに」

「…」


ジェノの顔の動きがわずかに止まった。そのあとアセアセと、


「明らかに嘘ついてる顔だったんですよ。長年一緒に居るから分かるんです」


「…嘘、ねえ…」


サードは怪訝(けげん)な顔でジェノをジッと見ていて、ジェノはどこか居心地が悪そうな顔になっていく。

サードは立ち上がった。


「お前…」


ジェノはふと顔をミラグロ山の方へと移すと、


「リヴェルが呼んでる気がする…!」


と駆け足でドアを開けてそのまま走り去っていった。


「…こんなに離れてるのにリヴェルの声が聞こえるのかしら」


「さぁ、精霊同士そういう能力あるんじゃね?」


私の疑問にアレンがそう言うからなるほどね、と私は頷くけれど、サードはどこかジェノの去っていった方向をジッと見ていた。


サードがこういう目をしている時には何かしら相手を疑って探ろうとしている時だけど…ジェノに対して何をそんなに疑っているの。それにしてもサードは最後ジェノに何て言おうとしていたのかしら…。


* * *


そしてまた次の日…本格的にやることがなくなってブラブラと道を歩いている。

ケッリルはリヴェルの元へ、サムラは混浴は楽しかったけどやっぱり熱いお湯に入りたいって大浴場へ、その他の皆は情報収集に出ている…。

私はどうしよう、混浴が楽しかったからまた行こうかしらと思ったけれど、勇者一行の皆が情報収集に行っているのに私だけ二日続けて混浴でのんびりしていたら、


「勇者御一行のエリー・マイ、今日も温泉でくつろいでる…他の御一行は外で情報収集してるらしいのに…」


みたいに思われるんじゃないかしらとフッと思ったから、町中をブラブラと散歩することにした。ここの町並みはほんの少しノスタルジックさを感じる古めかさで、あちこち見ながら歩いているだけで結構楽しいもの。


「あ、良い体のお姉ちゃん!」


この言葉…。


頭を動かすと、例の大浴場で出会ったあのお婆さんが歩いてるスピードで駆け寄ってきている。

声をかけられたから私もお婆さんに向かって歩いて行くと、


「あんた、勇者御一行のエリー・マイだったんだって?」


と開口一番に言われた。


あら、私単体で気づかれるなんて滅多にないのに珍しい。それくらい私の見た目の特徴が出回っているのかしら。まあ、昨日混浴で目立つ頭のアレンと一緒だったものね。アレンは頭だけじゃなくて大きい声でも目立っていたけれど。


「そうよ、どうかした?」

「あのキシャって男なんだけど…」


キシャの話が出て、


「何かされたの?」


と公安局の女性職員と同じように食い気味に質問してしまう。お婆さんは首を横に振って、


「ただ…いつもと違ったんだよ」

「違うって?」


お婆さんは心配そうにしわを深くして、


「男がああいう顔する時は何かしら馬鹿やる時だよ。今まで見てきた男の中でああいう顔した奴はね、大体犯罪に手ぇ染めるんだ」


犯罪に手を染める…ってことは、キシャが何かやるかもしれないってこと?

でもそれは確実なことじゃない、お婆さんのそうなるかもしれないって予想。


それでもこのお婆さんは長年色んな男の人たちを見てきた経験と、それもサードのいう女の恐ろしい直感でキシャが何かしでかすかもしれないと危険を感じたんだわ。だからお婆さんは走っても歩いているぐらいのスピードのこの足で私たちを探し回っていた…。


一瞬黙った私にお婆さんは私にすがるように服を掴んでくる。


「よく分らんけど嫌な予感がする、倒してくれとは言えないけど…見張るぐらいはしてくれないか。それとも公安局かハロワに依頼を出せば今すぐに動いてくれるかい」


公安局…。そうよ、この町の公安局から個人的にキシャのことを探るなって言われているのよね…それにサードにも。

うーん…私、この町に来てから割と余計なことしかしてないからこれ以上変なことをしたら…。

それでもこのお婆さんの頼みを無下にするなんて私にはできない。


でもどうしよう、ここで私が勝手に動いてまた余計なことしてって公安局とサードからガミガミ怒られたら…。


「ダメかい?」


お婆さんの言葉に私は「うーん」と唸って、


「私、キシャが怪しいからって調べていたら、公安局の人に余計なことするなって言われたのよ。何かあればすぐ捕まえられるようにしてるから逃げられるようなことはするなって…」


公安局の人とサードの言葉を織り交ぜながら言っているうちに、パッと名案が浮かんだ。


…あれ、もしかしてこの方法めちゃくちゃいいんじゃない!?


私はお婆さんに向かって、


「それなら今からハロワに行って『キシャを拘束して欲しい』って依頼を私たちあてに出しておいて。でもその依頼は受けないからお金は適当な値段でいいわ」


「…?」


お婆さんはキョトンとした顔をするからもっと詳しく説明する。


「公安局は何かあればすぐキシャを捕まえようとしているの。でも部外者に余計なことをされたくないって思ってる。

でも町人からハロワに正式に依頼があれば私が動いても文句は言えないはずよ。ついでに依頼を受ける前にさっさとキシャを捕まえてしまえば依頼は出されたけど私たちが受ける前に片付いたってことでお婆さんもお金を支払わなくて済むでしょ」


「…」


お婆さんは私をわずかに見つめて、


「見た目とは裏腹に随分と悪知恵が働くお姉ちゃんだね」


と言ってくるから思わずウッ、と顔をしかめた。


悪知恵が働くって言われるとまるでサードと似てると言われた気分だわ。

それでもお婆さんはうひゃひゃと笑い、


「でも気に入った、そういう考えの回し方は嫌いじゃない」


と言いながらも少し顔をしかめ、


「だが結果はどうであれ金は受け取ってもらう。金を受け取らないなんて馬鹿な考えはやめな、勇者御一行はボランティア職じゃねえんだ、自分らの商品価値をそんな簡単に安くするんじゃないよ」


…いつだったかしら、サードもそんなこと言っていたわね、勇者はボランティアじゃないって。


頷いてから、


「それで、今キシャはどの辺りにいるの?」


「さっき見つけたんだ、ここからもう少し向こうの裏通りをミラグロ山に向かった…」


詳しい場所を聞いて、私は驚いてすぐに駆けだした。

だって、キシャが向かっている所って、リヴェルたちの住んでる場所に向かう安全なルートだったから…!

コピペだったかTwitterまとめだったかで、水深の深い温泉に身長180センチの人が首を出して浸かっていたら、後からやってきたお爺さんが「やあどうもどうも、良さそうな温泉d」と話しながら頭まで沈んでいったという話があって楽しかったんです。

内容凄くうろ覚えですが。

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