情報収集のついでだから、マジで
温泉で茹でたという卵と野菜、肉を挟んだサンドイッチを購入しながら私とサードは色々と話を聞いた。
それにしても何て誘惑の多い所なの?あちこちから漂ってくる美味しそうなこの匂い…つい吸い寄せられてしまう…。でもそれはついでよ、情報集めのついで。だってただ話を聞くだけ聞いて何も買わないとか失礼じゃない?それにどの食べ物も美味しいし。
そうやっているうちに私たちが聞きたい情報はあっという間に集まった。
まず秋も更けてそろそろ山に雪が積もる季節だからミラグロ山に雪が降るかどうか。
普通の山でも登るとなると色々と準備が必要だけど、雪山だとそれ以上に準備が必要になるもの。むしろ慣れない山に雪が降ってから登ると…最悪死ぬ。
だから雪が降るかどうかが一番の問題だったけれど、どうやらミラグロ山はそこまで標高が高くないからまだまだ雪は降らないみたいね。それに雪が降ってもそこまで積もりはしないって。
それと精霊ジェノのこと。
ジェノはおかみさんの言う通りこの町を大いに発展させた精霊だって皆が口をそろえて褒め称えていて、その信頼は抜群だった。やっぱりあの顔の通り人の隙を見て襲おうとするような精霊じゃないのかも。
それとマーシーの手紙にあった精霊リヴェル。
でもリヴェルについては誰もが知らないと答えるだけ。
それならジェノと話がしたい、山のどの辺に住んでいるのか、そこまで行けるルートはあるのかと聞いてみると、それは誰もが知らないと言うばかり。
ミラグロ山には遊歩道があって、その遊歩道は山の中腹の展望台まで続いている。でも道はそこまで、その遊歩道以外の所は危なくて登れないって。
ミラグロ山は温泉の湧きだす活発な火山だから、毒のガスがくぼみに溜まっていてその付近を歩いて死亡する、急に源泉が空高く噴き出してくる、源泉が泥に紛れ湧きだしていて、そこに誤って足を突っ込むと皮膚のただれる大火傷…そんな危険がそこらにあるって。
「今までも精霊の住む場所を見たいって好奇心から遊歩道をそれる人ももちろんいたよ、でも大体酷い目に遭って終わってるからさ。やっぱ人と精霊の住む世界は違うから深く関わろうとしちゃいけないんだよ」
大体の人はそんなことを言っていて、ジェノと話がしたいなら山を登らず降りてくるのを待つのが無難だって止められた。
あとはもう上の内容を繰り返し聞かされるって感じだから、もうこれ以上は情報も集まらないかしら。
太陽を見てみると真上にある。もうお昼なのね。
…とはいっても今まで食べ物を買って食べながら情報を集めていたから全然お腹は減っていないけど、サードはどうかしら。
「お昼だけどサードお腹どう?減ってる?」
その言葉を聞いたサードはかすかに顔を強ばらせて、あり得ないという目を向けてくる。
「まだ食べるつもりですか?」
その言葉にムッとなる。
「私はお腹減ってないけどサードはどうか分からないから聞いただけじゃない」
「減っているわけがないでしょう?この午前中ずっとと食べ物を食べていたんですから」
それなら「お腹は減っていません」の一言で終わらせればいいじゃないの…。めんどうくさ。
イラァとしながらサードを睨みつけ、
「それじゃあどうする?大体皆同じことしか言わないからこれ以上情報は集まらないと思うけど」
「そうですね。なら宿屋に戻りますか」
「…え…?」
正気なの?こいつ。まだこんなに日も高い賑やかな観光地にいるっていうのに、もう宿屋に戻るつもり?
嫌よ、普段の冒険じゃ来もしない観光場所に来たんだもの、それなら少しでも楽しまないと損だわ。何か…何か楽しめそうな場所…。
キョロキョロと顔を動かすと、遠くに大きい建物が見えた。
見るとその入口の上には大きい看板がいくつかあって、人の絵が描いてある。あれは…演劇場と公演のポスター?
「せっかくだし、あれでも観ていかない?」
ポスターは三つ並んでいる。多分今から行けばあの三つのうちのどれかは最初から観れるはずだわ。
演劇場のポスターを指さし振り向くと、気の乗らない顔で部屋に帰りたい…と言いたげな目線を宿屋方向に投げかけ鼻でため息をつくサードが目に入る。
その全く関心がない様子にイラァとしてサードに背を向けてズンズン歩く。
「じゃあここでお別れね、バイバイ」
「…たまには感受性を高めるのもいいですか…」
サードは渋々と私の隣に並んでくる。その様子にまたイラァときて、
「嫌なら別にいいけどぉ。帰りたいなら帰ればぁ?」
キレ気味に言うとサードはクッと真面目な顔で真っ直ぐ私を見て、
「そうやってまた昨日みたいに男性に声をかけられたらどうするんです」
「…え」
もしかして気を使ってくれているのと怒りがゆるむ。するとサードは真剣な顔で、
「昨日だって魔法を使って攻撃してやろうかという目をしていたじゃないですか、エリーを野放しにしたら声をかけた男性が危険です」
「…」
確かに昨日声をかけてきた二人組がしつこかったから魔法で吹っ飛ばしてもいいかしらと思ったけど…。でもサードに猛獣扱いされるのは解せない…私よりサードを野放しにしていた方が危険じゃないの…。
イライラしながらも結局二人で演劇場に立ち寄ってチケットを買って中に入った。
チケットと共に渡されたパンフレットをチラ見る。
えーと『一途な一国の姫と信念を貫く勇者、二人のもどかしくもハラハラする胸キュンストーリーミュージカル』…。
やった、私恋愛もの大好き。当たりだわ。
「クソ下らねえ内容じゃねえか…」
でも人の恋路に興味の無いサードにとってはハズレだったみたい。
周りの人に聞こえないような小さい声で悪態をつきながら目に止まらぬ速さでパンフレットを近くのゴミ箱に放り投げた。
こいつ…。何かさっきから私の癪に触る…。
席に着くとちょうど開演した。
パンフレットには登場人物紹介もあったから席についたらじっくり見てみようと思ったけど…見れなかったわ。
舞台にお姫様とメイドたちと警護の兵士が歌いながら現れピクニックしている。
すると急に現れたモンスターに襲われ、兵士たちは追い込まれる。
そこに颯爽と現れた紺色の鎧をまとった黒髪の剣士。
兵士たちが苦労していたモンスターを一振りで斬り倒し、お姫様がお礼を言いに前に出る。
黒髪の剣士とお姫様の目が合う…。
あ、これは恋に落ちたわ。お互い一目惚れ…。
…それにしてもあの剣士を見ているとデジャヴが起きるわ。多分あの剣士が勇者だと思うんだけど、どこかであんな人見たことがあるような…。
黒髪、紺色の鎧、剣士で勇者…。
ん?
「あっ!」
私が小さく声をあげると隣でつまんなそうに観ているサードが「どうしました」って聞いてくる。
私は周りに迷惑をかけない程度の声で興奮気味に近づいて、
「あの勇者!サードがモデルなんじゃないの!?」
「まさか」
サードは一言で否定する。
舞台上ではお姫様が恋している目付きでもじもじと、
「どうかお礼を、ぜひ我が王家にお越しくださいまし」
と言い、黒髪の剣士はお姫様に見とれながらもそれを振り払うように首を横に振る。
「いいえ私は国の方々とは一線を引いたお付き合いをしている身、お礼といえど城に参るわけにはまいりません」
そこから音楽が鳴り響くと、お姫様とお姫様付きのメイドたちが、
「なんて優雅な微笑み!」
「謙虚な方!」
「柔らかい物腰!」
「まるで王子様!」
と歌いながら剣士を巻き込んクルクル踊っている。
どう見ても、どう聞いてもサードの表向きの特徴に当てはまっているじゃない。
「ねえ、やっぱりあれサードがモデルよ、絶対そうよ」
サードの腕を掴んで揺らしながら小声で話かけると、表向きの爽やかな顔でもサードは嫌そうにしながら演劇を観ている。
「そんなわけないでしょう」
「だってサードの特徴に大体当てはまってるもの。絶対にあれサードがモデルよ」
「…まさか」
という話をしていると、お姫様は必死に剣士をお城に招き、剣士は剣を引き抜き、騎士みたいに自分の胸の前で掲げる。
「名乗らず立ち去るつもりでしたが致し方ありません。これは聖剣、そして私は勇者サーノ。私は国とは中立の立場を貫く身、一国と親しくなるような行為はできないのです、それが私の信念」
聖剣…サード…サーノ…。
やっぱりあれはサードがモデルだわ。
ふふ、それにしてもサードがモデルですって。サードそういうの嫌いなのに。
でもサードがモデルだと思うと楽しいわね。まさか本物の勇者サードが観劇しているだなんて舞台上の誰も気づいていないでしょうし。
でもサード役の人はどう見てもサードとは全然似てない。
それでも不思議と時間が経つにつれて段々とサードにしか見えなくなってきて、まるでサードが舞台上の端から端まで生き生きと活発に歌い回って、喋って、踊っているみたい。
それにサードがモデルだと思うと端々のセリフがおかしくて、ふふっ、と笑えてくる。
私がおかしそうに笑う度にサードはイラッとした顔で私を睨みつけてくるけど、おあいこよ。だって今日は散々サードの言動でイライラさせられたんだから。
話は進み、一目で恋に落ちたお姫様と勇者はお互いに意識しているけれど、お姫様は国の関係者、勇者は国とは関わらない。お互いに惹かれつつもろくに会うこともできず、ただ遠くからお互いの動向を聞いて慕っている状態が続く。
勇者はそろそろこの国を立ち去ろうか、でもお姫様のいる国から離れがたいと悩む。
そんな中、勇者に他の国から魔族の討伐の依頼が入り、同時にお姫様には結婚の話がもちあがった。
勇者はお姫様が結婚するらしいという噂を聞いて酷く動揺したけれど、
「…致し方あるまい、私は国の者とは関わらない。それにこの想いを貫いてどうなる?私は王家の一員になることは望まぬ、彼女を魔族と相対する冒険に連れて歩くわけにもいかぬ。きっとこれがお互いに最善の道なのだ」
と自分に言い聞かせ、遠くからお姫様のいるお城を眺めて肩を落とし背を向けて立ち去る…。
「ああ…!本物のサードだったらお城に正面から堂々と忍び込んで『てめえもついて来い』とか言ってあっという間に連れ去るのにぃ…!」
なんてもどかしいと思いながらポロッと言うと、
「てめえ俺を何だと思ってんだ」
皆が観劇に夢中で客席には全然目が届いていないせいか、サードは裏の口調の小声で毒ついてくる。
「だってサードはお城にも正面から堂々と侵入するじゃない。本気出したらお姫様一人さらうくらい余裕でできるでしょ?」
「そりゃあできるさ。だが城の女に遊びでも手出したら後が面倒くせえ、パス」
「…」
なんて夢も希望もない言葉…。まあ実際にお城に不法侵入して地位のあるお姫様に手を出して誘拐されても困るから別にそれでいいんだけど…。
ああ、余計なことで現実に引き戻されちゃった。今どうなってる?
舞台に目を戻すと、勇者がお姫様のこれからの幸せを願い、自分もお姫様のことはもう忘れようと想いを断ち切ろうと歌い立ち去っているところ…。
ああ切ない…。けどまだまだ話も中盤、これから二人がどうなるのか…。
でもそんな勇者を見ていて何となくサードに聞いた。
「サードってあんな感じで好きになった人とかいないの?」
サードは今まで大量の女性に出会って手を出してきたんだもの、あの勇者みたいにこの女の人と離れがたいって思った人が一人や二人はいたんじゃないかしら。そんな時サードはどういう気持ちで別れてきたの…?
するとサードは私の手をスパンと叩く。
「イタ」
「話に集中しろ」
「…」
こいつ、自分は内容に興味ないくせに私には話に集中しろですって…?ふざけてる。
かすかにサードを睨むけれど、それでも確かに今は静かなシーンだからこれ以上は小声でもうるさいかも。
それ以降は口をつぐんで…そして観終わった。
「あー、楽しかった!観てよかったわね、サード」
「…」
サードは表向きの顔ながら不満そうな顔でチラと私を見てくる。そんな嫌そうなサードの顔、すごく笑える。
それにいい感じに日も傾いて宿屋に戻ってもいい時間ね。
宿に向かって歩き出してからサードを振り向く。
「けど本当に楽しかったでしょ?」
聞くとサードはハッと鼻で笑って、
「エリーとアレンとガウリスも出てくればもっと楽しかったですね」
うん、勇者は一人で冒険をしている設定で私を含めて他の皆も出てこなかったものね。
でもアレンとガウリスはともかく、私が出ない理由は何となく分かってる。
「だってお姫様と勇者の恋愛がベースなんだから他に女の子要らないじゃない?仮に私が出たとしたらお姫様をいびる意地悪な女の役になっていたわよ」
そう、恋愛ものだとヒロインの行く末をどこまでも邪魔してくる嫌な性格の女の子が出てくるもの。きっと勇者の近くにいる私がせっせと勇者とお姫様の仲を断とうと邪魔をする役割になっていたわ。
けど現役の勇者をモデルにしているのに、その仲間の一人の性格を意地悪くするのは…それとアレンとガウリスを出して私だけ出さないのも…っていう考えでサードが一人で冒険しているってことになったんだと思う。
でもそんなの別にいいの、楽しかったから。
ご機嫌な気持ちで宿屋に戻るとアレンとガウリスも戻っていて話し合いすることになったけれど、私は今日集めた情報を伝えるより先にサードがモデルになっている演劇を観てきた、とても楽しかったってことを伝えた。
するとサードがモデルになってる演劇があるってことに皆が興味を持ったみたい。
「へー、サードがモデルになってる?すげえ楽しそう」
アレンは目を輝かせてそう言うから「そうなの!」と頷いて続ける。
「すっごく楽しかったんだから。サード役の人は全然サードに似てないんだけど段々とサードに見えてきてね、もうサードが舞台で歌って踊ってる感じで別の意味でも楽しくなってきちゃって。
もちろん内容もすごく良かったのよ。もうお姫様と勇者が全然接点が無いまま別れちゃうのかなって最後まで目が離せなくて…」
楽しかった気持ちで舞台の感想を話し続けていると、ガウリスもサムラもケッリルもそ興味を引かれたみたいで「それは観てみたいですね」って話し合っている。
アレンは「へー」って頷きながら、
「ところでそれって最後どうなるの?」
ガウリスとケッリルが同時にアレンに顔を向ける。
「なぜいきなり最後を聞こうとするんですか!?」
「なぜいきなり最後を聞こうとするんだ!?」
「姫が勇者になぁ…」
こんな時には懇切丁寧に教えようとするサードのあごを、ケッリルが素早く抑えてのけ反らせ口を無理やり閉じさせた。
するとアレンは、
「で、情報なんだけどさ。もしかしてエリーたちと同じ情報しか集まってねえんじゃねぇかなぁって思ってるんだけど」
…アレンがネタバレを聞こうとしたせいでサードがケッリルに向かって暴れ始めているのに…アレンはあっさり話題を変えたわね。興味の移り変わりが早いのよ。
ともかく私も暴れているサードとそれに対応するケッリルを無視して、
「ええ、私たちもその辺で食べ歩きしながら色々と聞いたわ。それで同じ情報しか手に入らないし日もまだ高かったから演劇を観に行ったの。情報収集だったんだけど楽しい一日だった」
今日の一日を思い返してそう言うとアレンはプス、と笑った。
「食べ物たべて演劇観て楽しい一日だった?何それ、もうデートじゃん」
そう言われると気持ちがスゥと沈んで楽しかった気持ちが薄れていく。
「は?」
何言ってるの喧嘩売ってるの、とばかりの感情を一言で発すると、アレンはビクと顔を強ばらせ、
「あ、ご、ごめ…」
と脅えたように視線を逸らした。
サード…休日は家でゴロゴロしたい、ネタバレはされても平気
エリー…休日はせっかくだから外に出たい、ネタバレはされたくないしされたら怒る
アレン…休日だろうが平日だろうが誰かと一緒にいたい、ネタバレ全然オッケー
ガウリス…休日は普段行かない所に外食しに行きたい、ネタバレはされたくない
サムラ…休日は日当りの良い場所でのんびりしたい、ネタバレ?何それ美味しいんですか?
ケッリル…休日はできれば家族と過ごしたい、ネタバレは絶対にされたくないしされたら無言でキレる




