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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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かかってこい

カーミと別れてクレンジ国へと向かっている。それでもそれ以降サードがずっとイライラしていて困った。


サードが部屋から出たら、隙間からカーミがちらっと見えて…その後すぐドアが閉まったからどんな話をしたのかは分からない。

でもカーミと話したことでサードがブチ切れたのは分かる。一体カーミは何を言ってここまでサードを怒らせたの…。まるでずっとピリピリしていた昔のサードに戻ってしまったみたい。


それでも昔のサードを見てきた私、アレン、ガウリスはなだめつつある程度距離を取ってと上手く対応できていたけれど、性格がわりと丸くなってからのサードしか知らないサムラとケッリルは、何かある度に怒鳴り散らすサードに脅えて困惑していた。


そんな二人の顔を見て、私も最初は脅えていたしガウリスも何でサードが急に怒り出すのか困惑していたわ…と昔を懐かしんだりもした。でもやっぱりパーティ内の一人、それもリーダー格のサードがイライラしているとパーティ内の雰囲気が一気に悪くなる。


「何をそんなにイライラしてるんだか分からないけどね、サード一人が怒ってるだけで雰囲気悪くなるんだからもっといつも通りに出来ないわけ?」


そう文句を言うと、


「うるせえ!ブス!」


と怒鳴り返される始末。


そんなピリピリした居心地の悪い雰囲気はずっと続いて、ほとんど怒りに任せてサードはアレンを相手にボッコボコにしたり、ガウリスやケッリルと殺し合っているのと思うぐらい激しく対戦したりして…クレンジ国に近づくころには動きまくって怒りが発散されたのか少しずついつも通りの調子に戻ってきた。


本当迷惑な奴、一人で騒ぐだけ騒いで雰囲気悪くして人を巻き込んで暴れまくってストレス発散して勝手に落ち着いてやんの。周りに当たり散らさないで自分一人でイライラ解消してよね、本当迷惑な奴。


はぁやれやれ、と思いながら山の中で野宿の準備も夕食も終えて、私は紅茶を飲んでいる。


明日か明後日くらいにはクレンジ国にたどり着くんだけれど、秋で日が沈むのが早いし次の町まで暗い山道を通るのも危ないから野宿をしようって流れになったのよね。

でも皆夕食を食べ終わっても未だにサムラだけはその辺から落ち葉をかき集めてきては膝の上にワサッと乗せて、パリパリと食べ続けてる。

いつも通りすがりに色んな葉っぱをむしって食べているのは見ているけれど、いつ見てもそんなの食べて大丈夫なのかと思っちゃうわよね…。


「…サムラ美味しい?」


延々と落ち葉をむしむし食べ続けるサムラをジッと見つづけていたアレンが質問する。


「今の時期しか味わえない味と食感です、このほろ苦さとパリパリ感が僕好きなんです。大人向けの味で」


サムラは幸せそうにむしむし食べ続けていて「食べますか?」ってアレンに一枚渡す。

アレンは落ち葉を受け取って、パリ…と食べ、もぐもぐと口を動かす…。


「…青い葉っぱよりだったらいける…」


その言葉にケッリルは「えっ?」と信じられないと言いたげな表情をアレンに向けた。

そのケッリルとは一緒に行動しているけれど、レイスの特性なのかジッとしていても水の中にいるみたいに髪の毛も服もゆらゆら動くから、人の中を移動すると違和感がすごくてかなり目立つのよね。

だからサードが頭からかかとまで隠れるぐらいの中古の長いローブを買ってきて、ケッリルに着ろって渡していた。


そのローブのおかげで体の揺らめきはほとんど隠れて悪目立ちはしなくなったけれど、それでも空中に浮いてて足を動かさなくてもスー…と真横に平行移動するから結局違和感がある。

まあそれ以上どうにもできないからしょうがないんだけど。


それとケッリルの体は触ろうとしてもスカスカと通り抜けていたけれど、中古のローブ越しにだったら体に触れることが判明した。それを知ってからアレンはケッリルによく、


「ウェーイ、ケッリルウェーイ」


って言いながら無駄に絡みに行ってベタベタしてる。でもアレンは夜中にケッリルがスー…と移動してるのを見かけたら、


「ギャー!お化けー!」


って毎度のように叫んでいるのよね。そのアレンの絶叫にケッリルも最初はビクッと驚いて

「どこに!?」って慌てていたっけ。…あれには何のコメディよって笑ったものだわ。

まあ今はケッリルも慣れたもので、アレンが「ギャー!」と叫んでも、


「アレンくん落ち着いて、私だよ」


って返す程度で終わらせてる。


それとケッリルが無事だって言うのはミレルに知らせた。まあ私じゃなくてケッリルが、だけど。


ミレルに手紙を出したいと言うケッリルに私はとことん協力したくて、


「よかったらこれを使ってちょうだい」


って私の便せんと封筒を渡したけれど、それを横目見ていたサードがボソリと、


「…んなピンクの花柄の封筒に便せん使ったら、親父が女と一緒に居るって疑うんじゃねえの…?」


と言うと、ガウリスが「私の便せんと封筒をどうぞ」ってケッリルに渡していた。


アレンは笑いながら、


「いいじゃん、ケッリルが花柄でピンクの便せんと封筒使うの可愛いじゃん」


って言っていたけれどケッリルは、


「いや…娘に変な誤解はされたくない…」


って申し訳なさそうに私にピンクの便箋と封筒を返してきた。とりあえずケッリルの手紙はザ・パーティ編集部宛に送ったから、もうしばらくしたらミレルはケッリルの無事を知ることになるはずだわ。

泣くくらい心配していたからケッリルからの手紙で少しでも安心してくれたらいいけど…。


「おい」


紅茶を飲み終わってまだ葉っぱをむしむし食べてるサムラを何となしに見ていたら、サードが落ち葉を踏み鳴らしながら近づいて声をかけてきた。「ん?」と顔を向けるとサードはあごを動かし、


「立て」


と言う。とりあえず立つ。

今度はこっちに来いとばかりにクイクイと人さし指で招く。とりあえず招かれるがまま進んでいく。


するとサードは右手を前に突き出し、左手を少し引くファイティングポーズの姿勢になると、


「構えろ」


と言ってくる。


ん?…誰に言ってる?もしかしてサードは私じゃなくてアレンに声かけてた?


キョロキョロしたけどアレンは「お?」と見慣れない物を見てるような表情で座ってこっちを見ているし、視線を戻すと明らかにサードの鋭い眼光は真っすぐ私に向いてる。


「えっ…私?」

「そうだよてめえに言ってんだよ」


「な、何で…?」


急に喧嘩を売られてる?何か怒らせるようなこと言ったかしら、え?どうして?何もしてないじゃない。


混乱状態でいると、サードは少し姿勢を緩める。


「お前、この前カーミにさらわれたので何回さらわれた?」


「…ええと…」


「三回だ。サンシラでの好色な男に、シュッツランドのガキ共に、カーミ。そのうちさらわれなくても性的に襲われそうになったのも三回だ」


その言葉を近くで聞いていたケッリルがショックを受けた顔でこっちを見た。そのまま落ち込んだ表情で視線を逸らしていく。


「お前やっぱり隙が多いんだよ。とにかく体を鍛えろ、そうすりゃ隙も少しは無くなるだろうし、魔法に頼らねえ護身の術も覚えてりゃいざって時ためになるだろ。鍛えてやるからかかってこい」


かかってこいって…言われても…。


ファイティングポーズをしてこれから殴るぞとばかりに睨みつけてくるサードを目の前にすると…体が動かない。


「いつも人を叩いたりしてくるだろ、あんな風に何でもいいから攻撃してみろ」


そりゃあいつも腹立ち紛れに殴りかかったり魔法で攻撃しようとしてるけど…いざ叩け攻撃しろって言われるとためらっちゃうわよ。


杖を持ってモジモジしているとサードは呆れた顔をして、ズカズカと目の前に立って手首を掴んできた。


「それならこの状況で逃げてみろ」


まあそれくらいなら…。


大きくぶんぶん手を振り回すけど、サードの手は放せない。もっと強く縦に横にと振り回してもサードの手は放れないままで、むしろギリギリと締められていて痛い。


「サード、痛い、痛い、ちょっと離して」


「これからさらおう、襲おうって相手がそんな言葉で引くと思ってんのか?」


「逃げられるわけないでしょ、男の力で掴まれたら…」


サードは呆れた顔で、


「その手に持ってる杖は飾りか?それだって立派な鈍器だぜ?それを振り回すもしねえなんてがっかりだ」


鈍器じゃないわよ、これは魔法の杖よ。…でも実際にこの杖で何度もサードに殴りかかっているから否定もできないかも…。

それにサードもかかってこいと言っているし、何より手首が掴まれたままで痛い。さっさと放してもらおう。


私は杖を振り上げてサードに、えやぁ、と振り下ろした。

サードは空いてる腕の手首で杖を軽く防ぎ、グルリと腕を杖に絡めつけるとそのまま杖をもぎ取る。


「あっ」


サードは私の手首を掴んだまま私の体を回転させて、よくアレンにするように関節技を決めて…!


「イダー!イダダダダ!」

「サード!ギブギブギブギブ!」


見ていたアレンが私の代わりに降参しながら間に入って止めてくれて、サードから私を引き離した。


「そんな最初から何も分からないうちに覚えろってのは無理だよ、せめて護身のやり方教えてから…」


「何にも知らない状況でどれくらい反抗するか見てんだ俺は」


サードはそう言いながらため息をついて、


「なのに魔法も使わねえ、ろくに反抗もしねえ、暴れもしねえ。女なら引っかくだの絶叫するだの色々やり方もあるだろうに…」


「だってサードは仲間だからそこまですることもじゃない、今は喧嘩もしてないし魔法使うとか殴るとかやりたくないもの」


サードは一瞬黙り込んで、長々とため息をついた。


「そんなんじゃ練習にならねえだろ、本気で俺を殺すぐらいの勢いで向かってこい。じゃねえといざって時動けねえんだぜ」


練習…。練習で殺す勢いで向かって行くとかそれもどうなの…?

でもサードも一応私のことを考えてこういうことをしているのよね。


「それなら魔法も使うわよ?本気で杖でも殴りかかるわよ?いいの?」


「いいぜ、俺も殺す気でいく」


「…やっぱやだ、怖い」


「怖い」の「怖」を言っている最中にボッと目の前に何か迫ってきて「キャアアアア!」と絶叫して後ろに倒れ込んだ。ふっと視界に映ったのはサードの拳…。

そう理解した瞬間にサードが私の上にまたがるように立って、真上から足で私の顔面に蹴りつけて…!?


「ヒッ」


両手で顔を覆う。でも蹴りは入れられなかった。恐る恐る腕を降ろして見上げると、真上からサードが私を見下ろしてる。


「これでお前一回死んだぜ」


ケケ、と笑う顔に私はムッとなって杖を向けて下から風の魔法をボッと放つ。でも風が吹き荒れる直前にサードは消えていて、あれ、と起き上がると頭にコツンと何かが当たる。

顔を上げるといつの間にか背後に回ってたサードが後ろからコツコツと私の頭を馬鹿にするように叩いて来てた。


「二回死んだ」


イラッとして精霊魔法を使い、立ち上がりながら水の玉をポポポポと大量に出す。

そして全ての水の玉から四方八方に水のビームをボッと出した。まあ体を貫通しない程度の強さで…!


「ギャー!」

「ヒャアアア!」


サードじゃなくてアレンとサムラの叫びが響く。


あ、しまった。他の皆のことを考えるの忘れてた。


慌てて振り向くと、首にサードの手が当たる。


「三回死んだ」


「ちょ…ちょっと待って、今のは無しでしょ」


するとサードは私の胸倉に袖を掴むと、私の両足首を横に軽く払う。私の体は綺麗な直立の横姿勢を保ったまま地面の上にストーンと落ちた。


「ほれ三回」


サードはケケケと笑いながら私の胸倉から手を離す。


「…」


コロリと仰向けになり、ぼんやり炎に照らされる木々と、木々の隙間から見える星を見る。


星…綺麗…。


「おい、なに現実逃避してやがる」


サードが上から覗き込んできた。


「…私…ショックだわ」


「何が」


「魔法使ってもこんなに何度も負けるだなんて…。サードだって私が本気で魔法使ったら敵わないって何度も言ってるからきっと私はサードにも勝てるって心のどこかで思ってたのに…」


「目で見えねえぐらいの遠距離から魔法使われたら俺が負けるだろうよ。だが目で見える範囲にいるならどうにでもなる。その近距離での隙が多すぎるから少しは体鍛えろって言ってんだ俺は」


「…」


むっくりと上半身を起こす。


こんなに魔法を使っても簡単にはっ倒されるぐらい私って弱いんだわ…この弱さがカーミの言う隙が多いってことなの?でも体を鍛えたら本当に隙って消える…?


ションボリ立ち上がってローブについた落ち葉を手で払うと、肩をトントンされた。振り向くとケッリルがいる。


「もし腕を掴まれたら体全体の力を抜いて、体がねじられそうな方向に一緒に動いてみてごらん。相手が体を固めようとする方向に付き合わなければ、関節技もかからないから」


ケッリルが間近でそう言うけれど…体が触れるくらいの距離でケッリルに話されると頭から背中がゾワゾワして話が頭に入ってこないのよね…!


「ご、ごめんなさい、もう一度言ってくれる?」


ケッリルは私の前に立って、私の指を掴む。


「例えば指を掴まれて右にねじられそうになったら、掴まれている腕と肩の力を抜いて同じ右の方向に一緒に動いてごらん」


そう言いながらケッリルが私の指を右にゆっくりねじっていくから、言われた通り力を抜いて右方向に一緒に動く。まあこれは…ただ同じ方向に一緒に動いているだけよね。


「こうやって相手の力に付き合わなければ体のどこも辛くないだろう?そして…」


ケッリルはそう言いながら私の腕を軽く前に引っ張った。ウッと思った瞬間にケッリルの手が伸びてきて私のあごを押しのける。

腕は前に引っ張られて顔は後ろに押しのけられるの同時の動きにバランスが崩れてお尻から無様に倒れた。


「顔を押さえられると人はバランスを崩す。これなら少しは近距離からの対抗術になるとは思う」


ケッリルは私の手を引っ張って立ち上がらせて、分かるかな?と顔を覗き込んでくるけど…やっぱりその目で見られると…ダメ、恥ずかしい…。


ちょっとドキドキしながらスッとケッリルから目を逸らす。

すると視線を逸らした向こうにいるサードと目が合った。微妙にこっちを面白くなさそうに睨みつけているようなサードは、私と目が合ったらプイとすぐ逸らす。


「やってごらん」


ケッリルはそう言うとサードの方向に私をグルリと半回転させて肩をポンと叩き、離れる。


「…それはあんたが習ってきた武術か?」

「そうだ」

「ふーん」


サードは急に私の目の前に移動して手首を掴むと、腕を右にねじり上げようとする。それでもその動きはいつもより遅い。私はケッリルから今教わったみたいに力を抜いて、右の方向に動いて行く。


「あ、すごいすごい!いつもだったらすぐ腕がねじられるのに!」


同じ方向に回転しているだけの状態だもの、これなら永遠にグルグル回るだけで腕をねじり上げられないわ。いいこと教わった、これからは腕をねじり上げられそうになっても平気だわ。


そのまま「ふふん」と力を抜いたまま腕を下にさげると、私の腕を掴んでいるサードが少し奥に押されて体勢がわずかに崩れた。


えっ。あのサードの姿勢を崩した?私の力で!?


驚いているとサードは、なるほど、と私から手を離す。


「力抜かれた状態で技をかけようとしてもこっちに負担のかかる姿勢になるな、これ」


「そう。これはどこまでも自分の姿勢を有利に、そして敵の姿勢をどこまでも不利にするもので護身には良いと思う。…それに襲われそうになってもわずかながらに逃げる隙もできるはず。…それとも余計なことだったかな…?」


ケッリルは心配そうに私を見た。


あ…そっか。私が何度もさらわれたり襲われそうになったって話を聞いて、心配して教えてくれたんだ…。やっぱりケッリルって優しい人。


そう思って微笑んでケッリルを見たけど…やっぱりその目の威力に耐えられなくてすぐ目を逸らした。

ケッリルが教えてるのはシステマ(ロシアの武術)です。YouTubeでシステマ動画を見て色々参考にさせていただきました。


めっちゃ楽しそうでものすごく動画を見てやり方も学んで強くなった気になりましたが、横になってテレビを見ていたら家族に脇腹をこねられてコイキングのようにビチビチ動くしかできなかったので、動画を見ただけじゃ強くなれません。



↓YouTubeよりシステマ動画をいくつかチョイス。見ただけで強くなった気分になれる。所々に草刈正雄さんに似てる人が居る。


「【最強】ロシア生まれの最強の格闘技【システマ】#1」

1:05~2:37は中学生男子の休み時間のおふざけタイムにしか見えんのよ


「【最強】ロシア生まれの最強の格闘技【システマ】#2」

1:03~1:52も中学生男子の休み時間のおふざけタイムにしか見えんのよ


「【最強】ロシア生まれの最強の格闘技【システマ】#3」

1:30~からは高度すぎて何やってんのか大体意味分からんのよ

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