まるで圧迫面接
「…で?エリーを丸一日以上監禁した男を?仲間にしようとわざわざここまで連れて来た?」
宿の中、サードが椅子に座って明らかにキレてる顔でカーミを睨み、私を睨んでくる。その目はどこの悪の元締めなのと思うほどの眼光で、聖剣のツバを親指でカチと引き上げてはチン、と戻すのを繰り返している。
言葉を間違えたらすぐ殺すぞと言わんばかりじゃない。
サードたちはこの町から出ていったとカーミは言っていた。でもそれはカーミが私に言った唯一の嘘だった。
「勇者様たちがこの町から出て行ったってのは嘘だよ。俺はガウリスさんに声もかけられてない。あんまりエリーさんが楽観的過ぎるから絶望させようと思って言っただけ。本当はエリーさんが言った通りこの町の中であれこれ聞きまわって探してたよ。…でもいいよなぁ、そうやって信頼し合ってるのってさ」
って私たちの泊まっている宿に戻る途中で言われた。
ともかくサードを落ち着かせてなだめないと、と口を開く。
「確かに丸一日監禁されたけど…カーミは悪い人じゃないのよ」
「本当に悪くない人間ってのはな、誰も来ない地下室に用意周到に単身おびき寄せて動けなくしたうえで閉じ込めて肉体的にも精神的にも脅かすなんてことしねえんだぜ」
サードがイライラとした顔で言い返してくる。するとカーミは、
「だって勇者様は絶対捕まんないし話聞いてくれなさそうだから他の人狙うしかねえじゃん?だとしたら話聞いてくれそうで、暴れられても魔法さえ押さえたらどうにかできそうなエリーさんかサムラさん狙うのが手っ取り早かったわけ。
ガウリスさんは神と同等の存在になってるから黒魔術効くか微妙だったしアレンさんは超絶楽観的だから脅しにむかねえな~って。そうしたらエリーさんが外に出てきたからこりゃチャンスだって思ってさ」
余計サードが怒りそうなことをペラペラと良い笑顔で喋ってんじゃないわよ。
カーミに喋らないでと睨みつけてから、
「確かにこう私たちと感覚がずれてるけど、それはウチサザイ国で暗殺者とかスパイとして育てられたからよ。私には想像できないような環境で育ったせいなのよ。
でも国から離れたら色々とおかしいって思ったの、それで親が子供を愛する姿を見て愛情っていうのが分かってきたの、私たちのこともずっと見てて仲が良さそうなのを羨ましいって思ったのよ。だから仲間として心から迎え入れたら絶対に裏切らないと思う」
必死にカーミを仲間にと訴えるけど、サードの目が言っているわ、「そんな確証はねえだろ、信用できるか」と。
「暗殺って…実際にそんな仕事したことあるの」
アレンがカーミに聞くと、
「まあね。特に周囲の国の要人とかウチサザイ国の情報をしつこく外に流そうとするやつとか殺してたかな」
アレンが、えっ、と言いながら身を乗り出し、
「もしかして…半年前に気が狂ったふりして外に情報流そうとしてた情報屋の男…殺したりした?」
「いや?俺は四年と少し前からエルボ国に居たからそれ別の奴に殺されたと思う」
「…」
アレンは少し悲しそうに眉をひそめて、そっか、と椅子にもたれた。
サードはそんなカーミを見て、それ見たことかと私に視線を移す。
「こんな国の要人を何人も殺してるような奴仲間にできるか。こいつが捕まって俺らの周りでウロウロしてるのがバレたら、俺ら勇者一行が国の奴らを暗殺するような薄暗い奴らと繋がってるなんて要らねえ噂が広まっちまうだろ」
するとカーミはニコニコ笑う。
「泥吐くぐらいなら死ぬように言われてっけど?」
サードの眉がピク、と動いて馬鹿にする笑いを浮かべる。
「本当に死にそうな面になったら人間どうなるか分からねえだろうが、それに世の中死なねえ程度にいたぶる拷問もいくらでもあるからな」
「そんな拷問のやり方なら俺の方が詳しいけど?」
カーミはどこまでも人懐っこく、サードはどこまでも馬鹿にする笑いを浮かべて、
「ほーお?じゃあ捕まったとしてその拷問受けたらお前どうする?耐えられるか?」
「いざとなったら楽に死ねる黒魔術もあるからね。それを発動すりゃ苦しまず二秒であの世行きだ」
「魔法を使えなくされたらどうする、お前がエリーにしたみてえに」
「その時は歯の奥に仕込んでる毒をかみ砕いて死ぬね。一瞬辛いだろうけどそれでも拷問受けて情報垂れ流して死ぬよりマシってもんだろ?」
「ふーん、よく調教された犬だな」
サードから馬鹿にするような顔が抜けて、どこか楽しそうにしている。こういう顔になってきたってことはだいぶ機嫌がよくなったってことだわ。
…今の会話のどこで機嫌がよくなったのかはスルーしておくとして…。
皆にも私は視線を向けて、
「こんな風にちょっとずれたところもあるけど、カーミは本当の悪人じゃないわ。さっきも言った通り人々の愛情ってのを感じ取れない人だったらエルボ国からここに来るまでに手に入れた色んな情報を使って脅して仲間にしろって言ってくるはずよ。でもそれをしないで仲間にしてくれって言うだけだもの」
「でもなぁ。カーミ、スパイでもあるんだろ?こっちの味方と見せかけてウチサザイ国に情報流そうとしてるんじゃね?大丈夫?」
アレンが珍しくいい顔をしない。いつもだったら私の言葉にはすぐ頷いて味方になってくれるのに。
一番の味方だと思っていたアレンのまさかの渋い反応に内心慌てていると、
「私はいいのでは、と思います」
ガウリスは頷いてくれた。
「見る限り全く嘘を言っているように見えません。それにウチサザイ国からしてみたら国の要人を殺すなど知られてはまずいことも明かしました。信用してもらいたいからこそ全て包み隠さず言っているのだと私は感じます」
カーミは「そうそうその通り」って嬉しそうにうんうんと頷いていると、遠くに座っているケッリルが口を開いた。
「カーミのことはドレーからよく聞いていた。カーミとミラ、その双子は良い腕を持つ優秀な人材だと。あの話ぶりからするとウチサザイ国の内部と深く関わっていているのは確かだから、ウチサザイ国に行くうえでその子が仲間になるのならこれ以上の心強い味方は居ないと思うよ。…どうするかは君たち次第だが」
カーミは更にうんうん頷く。
「そうそう、今ケッリルのおっさんが言った通りウチサザイ国に行くなら俺すっげー役に立つぜ?どう?勇者様にアレンさんにサムラさん」
サムラは自分の名前を呼ばれて「えっ」と顔を上げる。カーミを仲間にするかどうかは自分に関係のない話と思っていてボーっとしていたのか、急にあわあわとして、
「えと…皆さんが良いって言うなら僕は良いと思います!」
賛成と見せかけて自分の意見を他人に丸投げしたわね、サムラ。
アレンは相も変わらず賛成とは言い難い表情だし、サードは断固反対の表情のまま偉そうに椅子にふんぞり返って腕を組んでる。
「…アレン」
アレンに声をかけてみると「んー」と唸りながら私から視線を逸らして頬杖をつく。
「怖いんだよ、ウチサザイ国って何してくるか分かんないから。ケッリルだって子供も奥さんも死ぬかもって慌てた隙をついて黒魔術かけられたし、ハミルトンみたいなやつも国から外にポンポン出てるし、ラーダリア湖でもたった一人の仕業であんな騒ぎが起きただろ?
そういうの考えるとすぐに頷きたくないんだよ、そんな親子の愛情見てってあやふやなもので味方になるって言われても本当に信用できんの?エリー騙されてない?」
…そんな…本格的にアレンが反対派に回るだなんて…。いっつも「いいよ、オッケー」って二つ返事なのに…。
「…ちなみにカーミってどんなの見て愛情だのなんだのが湧いたの?」
アレンに質問されたカーミは、
「お母さんに抱っこされてる子供とか、お父さんに高い高いされてる子供とか。俺そういうの一回もやってもらったことないまま大人になったから羨ましいなぁって思ってさ」
するとアレンはその言葉にショックを受けた顔になって、
「一回も?父さんと母さんにも?他の大人にもやってもらったことねえの?マジで?」
「うんないよ」
アレンは悲しそうな顔でガタッと立ち上がった。
「おいで~」
アレンはおいでと言いながらもカーミに自分から近づいて、ガッと抱きしめると背中をバンバン叩いた。
思えばアレンのお母さんのミリアもこうやって「おいで~」と言いながら自ら私に近づいてきてハグしにきたっけ。やっぱり二人は親子だわと笑いを噛みしめる。
するとアレンは悲しそうな表情のまま、
「可哀想だよぉ、サード仲間にしてやろうよぉ」
とカーミの頭をグリグリと撫でつける。
頭を撫でられたカーミはちょっと照れくさそうな顔をして笑っていた。
でもあんなに反対派だったアレンが一気に意見を翻してくれてよかった。残りは問題のサード…。
サードは頭の中で色々と損得勘定しているような顔で口を開いた。
「お前を仲間にして出るメリットとデメリットは?」
「えー、どうせ勇者様どっちも考えがついてるくせに」
「自分で言ってみろ」
「どう考えてもメリットだらけじゃん。スパイの腕もあるから勝手に色んな国で情報集めるだろ?ウチサザイ国のことも俺から聞けるだろ?暗殺者としても育てられてるからハミルトンさんみたいなのに付きまとわれたらどうにでもできるし、国の内部に侵入することも容易いし…」
「デメリットは」
「ないない」
「デメリットは」
「…どうしてもデメリット言わせたいわけ?」
カーミはため息をついて、
「俺のスパイと暗殺者の肩書と実績かな。さっき勇者様も言ってた通り、光の中を歩く正義の味方の近くにいるには似つかわしくないよね」
ふん、とサードは鼻を鳴らしながらカーミを見て、
「仮に仲間にしたらお前はどう動く?」
カーミはどこか面白くなさそうな顔をして、
「あんまり近くに居ちゃいけないよね~。接触は最小限、あんまり人の注目が無い時に、かな」
「そんな最小限の接触でも仲間になりてえか?今なら面白くもねえ冗談言った奴程度で見逃してやるぜ?」
するとカーミはあの人懐っこいニコニコとした微笑みを浮かべる。
「顔も名前も存在も知られてないって強みを捨ててこうやって目の前に立ってるんだから、そういうの察してもらえないかなぁ。言っとくけど俺勇者御一行のあれこれ色々知ってるけどそれ使わないって言ってんだからね」
ああ!カーミ、ダメよイラッとしたのかもしれないけどサードにそんな脅すようなことを言ったら…!
思った通りサードの目じりもわずかに上がって身を乗り出した。
「顔も名前も所属してる国も覚えた今ならてめえを潰せるからな?ここで俺に逆らうってならてめえの命は法的にあと三ヶ月で処刑台行きだ」
「だったら勇者様の命はあと一日だね、どうやら勇者様魔法の耐性ないみたいだし?黒魔術使ったらあっという間だぜ」
「その前にここで俺が聖剣抜いたらどうなるか分かってんのか、一瞬だぜ」
「俺だって一瞬で殺せる黒魔術使えるもんね、一瞬もないぜ」
「だったら俺は一瞬もねえぜ、刹那だ刹那」
…薄ら恐ろしいやり取りしてると思ったら段々と何張り合ってんのこいつら。
私は二人の間に割って入った。
「それでもやっぱりデメリットよりメリットの方が多いんじゃないの?サードももう少し落ち着いてよく考えてみてよ。ウチサザイ国に向かってるなら内情に詳しいカーミがいたら色々助かるんじゃないの?」
サードは面白く無さそうな顔をして椅子に深くもたれる。
「まあ、そうだな。カーミが裏切らねえ限りはメリットだらけだろうな」
するとカーミは「何言ってんだよ」と笑いだした。
「顔も名前も所属してる国も知られたんだから、本当に勇者様が本気出したら俺死ぬしかないのにー。エルボ国からずっと見てて勇者様は敵に回しちゃいけねえって分かってるもん」
サードはしばらく考え込んで、あごを何度か撫でてからカーミを見据えた。
「楽に死ねると思うなよ」
だから何でそう喧嘩腰なのと思ったけど、カーミは「えっ」と喜んでるような声をあげる。
「それって仲間にしてくれるってこと?」
「何でそうなるの」
突っ込むとカーミはニコニコしながら、
「『裏切った場合は』楽に死ねると思うなよってことだろ?今のセリフ」
「…」
そうなの?とサードを見ると、サードは続ける。
「お前は今言った通り陰で情報収集、ハミルトンみてえな邪魔者の排除でもやってろ。だが排除つっても殺さなくていい、遠くに追いやるだけだ。あとお前に不審な点があればすぐ追い詰めて殺す」
「オッケー」
脅されているのにカーミときたら気にしないわね…。
呆れているうちにサードは続ける。
「それなら早速ウチサザイ国の情報を垂れ流してもらおうか。まずアレンがウチサザイの情報は買ったんだが…」
「コーヒー店でお姉さんから買った情報だろ?国公認で黒魔術が蔓延してて、一番危険な所は首都。そんで首都では魔族が多く目撃されてて、魔族は成人した男二人と女の子の三人ってやつ」
どこで聞いてたんだこいつ、って顔をしながらサードは、
「その情報は確実なものか?」
と聞くとカーミは頷いて続ける。
「俺が生まれるずっと前からウチサザイ国には三人の魔族がいたんだ。ジルにドレー、そんでもう一人はミラーニョ…」
外国の昔の写真をまとめた動画があって、その中に銃を向けられて射殺される寸前のスパイの写真があったんですが。
そのスパイは軽く手を上にあげてカメラを真っすぐ見て歯を見せて笑っていて、あの恐怖も無い全部やりきったかのような笑顔は色々とショックで頭に残ります。
せめて最後に写真撮る人がジョークかまして笑ってたんだと思いたい。




