ちちうえ
首がねじ折られる、そう思った瞬間にガウリスが叫んで、槍を大きく振りかぶって投げた。
「やめなさい!」
ガウリスに対して背を向けたリギュラは槍が飛んでくるのに遅れて、わずかに振り向く。すると後ろから私を羽交い絞めにしていたジョナは手を離すと、
「リギュラ様危ない!」
って私もろともリギュラをわずかに突き飛ばす。私はよろけてその場で転んで、リギュラはほんのわずかにしか動かなかったけど…そのわずかの差で槍はリギュラじゃなくてジョナの体を貫通した。
ジョナから絶叫が上がる。
少女姿のジョナの悲鳴にガウリスは一瞬罪悪感の湧いた表情をしたけれど、それでも罪悪感を振り切るように瓦礫のなくなった場所を私の元に駆け寄ってくる。
するとリギュラはジョナを見て、ガウリスに視線を向けてかすかに笑った…え、笑った?
「君は馬鹿か?武器をこんなにも簡単に手放してはいけないよ。これは君の唯一の攻撃方法だろう?」
リギュラはジョナに貫通したままの槍を片手で掴みあげると、無効化の魔法で守られていたアレンとケッリルの方にぶん投げた。
私はギョッとしたけど…ガウリスもケッリルもギョッとした顔をして、ケッリルはアレンを背中から落とすように下ろしてから滑るようにジョナをキャッチしに行く。
今の衝撃で体に貫通した槍が動いたのかジョナは悲鳴を上げ続け、身体に貫通した部分を押さえてヒィヒィ泣いている…。
ガウリスは絶句するようにその場に立ち尽くして、信じられないという顔でリギュラを見た。
「あなたは…自分を守り傷ついた方になんてことを…」
「…」
微笑みからかすかに真顔になったリギュラはガウリスを見て、また元の微笑みを浮かべる。
「感謝しないとね。ジョナは君の武器を奪って君を無力化させて僕自身も守ってもらったんだから」
その言葉に頭にカッと血が昇った。
「仲間をなんだと思ってるの!もっと怪我の心配するとかないわけ!?」
怒鳴るとリギュラはキッと私を睨んで頬に平手が飛んできた。顔に強い衝撃が当たって、そのまま雑草の多い石畳の上をゴロゴロと転がる。
「こちらのことはこちらのことだ。あまり口を突っ込まないでもらおうか」
殴られて目の前が白くチラつく。クラクラしながらも顔を押さえて起き上がる。痛い…でも頭に血が昇ってる私の口は止まらない。
「仲間が痛がってる姿見て何か思わないわけ!?信じられない、ジョナが好意持ってるからって何をしても許されるとでも思ってるの!?だとしたら最低よ、人として最低!」
「やかましい!」
リギュラのハスキーな声での怒鳴り声に一瞬心臓が縮みあがって思わず黙り込む。リギュラの顔からは飄々とした微笑みは消え失せて私を睨んでいる。
「やかましいよ君。その綺麗な声で喚かないでくれ、君の声は癪に障る」
…なんだかさっきからリギュラに褒められてはけなされているわ…。それよりドレーは瓦礫の下に埋まっていてジョナも…動けない状態。あとはリギュラだけなんだから早く倒さないと…!
ググ、と起き上がっていると、後ろから声が聞こえた。
「何だ、押されてんのか?」
振り向く。
私が弾き飛ばして高まった瓦礫の上で、サードが今の状況を眺めるように確認している。
「サード!」
数時間ぶりに見たサードはピンピンしていて特に何もなかったみたい。…けどサムラは?一緒じゃないの?
そう思っているとサードの後ろから瓦礫に足を取られないように慎重に歩いているサムラの姿が見える。ああ良かった、一緒だったのね。
ホッとしているとサードは離れた瓦礫の上で横になっているアレンを見て近づいて、ガッスガスと蹴飛ばす。
アレンは「んあっ!?」と驚いた声をあげながらガバッと起き上がった。目をショボショボさせているアレンはサードを見上げて、
「おはよー」
と言いながら目を擦ってる。
…まさかアレン、あなた寝てた?気絶した後そのまま普通に寝てた?思い出してみれば朝に寝不足とか言って大欠伸していたもの。あなた寝てたのね?
するとサードの近くで高まっている瓦礫がバンッと弾け飛んでドレーが飛び出してくる。
「てめええクソ女が!魔族の私に何してくれとんじゃボケェエ」
ドレーは怒り散らしながら私に向かって手を伸ばすけど、サードはほぼ瞬きするうちにドレーにヒュンと斬りかかった。
「ギャアアアアアア!」
まさか近くにサードが居ると思っていなかったらしいドレーはサードの攻撃をよけきれずに腕を大きく切られて、絶叫を上げながら二の腕を押さえてしゃがみ込んだ。
ドレーはサードを睨みつけ、
「痛ぇなこの野郎!」
と少女らしくない野太い声で怒鳴るとサードは楽しそうに笑い、
「おーおー、聖剣を持ってる俺相手に威勢のいいこった」
と言いながら聖剣を振り上げる。
そこでドレーはハッと思い出したような顔になった。サードが持っているのは何度も魔族を打ち倒している聖剣だってことを。
ドレーは危ないと察したのか、
「やめてぇ!私女の子なのよ!」
と急に可愛らしい声とキュルンとした女の子らしい表情になって同情を誘い始めたけれど、サードは真顔でビュンとドレーの頭に聖剣を振り下ろしドレーは「うおおお!」と野太い声を出しながら避けた。
「てめえこっちは女だつってんだろ、ざけんなよブ男がぁ!」
「魔族相手に手加減できるかよブス」
「誰がブスだこのブ男がぁ!」
「んだよ小便くせえブス」
「誰が小便くさいブスじゃボケェ!」
「じゃあクソくせえブス」
子供の喧嘩みたいにドレーとサードが言い合いしているけれど、どちらかというと怒り狂うドレーをサードは煽って楽しんでいる。
本当にどっちが魔族なんだか分かったものじゃないわ。
「ドレー!」
リギュラが一声かけるとドレーは我に返った顔になって辺りを見渡す。そこでジョナに槍が刺さって瀕死になっているのに気づいたみたいで、わずかに押されてる上に勇者も合流したと現状を理解したみたい。
ヒュンと空中を飛んでリギュラの近くによると、斬られた腕を抱えブワッと周りに霧を発生させる。
また霧の魔法を使って視界をふさいでから転移でバラバラにするつもり?させないわ!
無効化の魔法、それと自然を操る魔法を一斉に使う。これを同時に発動すると炎や水など自然に関する魔法は使用できなくなる。霧も自然のものだからこうすれば…!
瞬時に広がった霧はバッと消えた。
ドレーは驚いた顔をして霧を発生させようとしているのか手を動かすけれど、手をカスカスと動かしているだけで何も魔法は出ない。
「え!?え!?」
ドレーは混乱した顔になっていると、ケッリルに支えられながら床に倒れ込んでいるジョナが震える指で私をさしてきた。
「そ、その魔導士…霧とか、消せる…。自然の、魔法…操れる…」
ドレーとリギュラの目が一斉に私に向けられた。
それは面倒な奴を先に始末しよう、という目。
二人は一斉にドッと動く。
「おいサムラ!ボーっとしてねえで人増やせ!」
サードが怒鳴りつけるとサムラはハッとした顔で、むん、と力を込めた。
すると立派な王様に続き兵士、魔女、人食いの大男、狼がその場に現れた。
魔女はゲラゲラ笑いながら空中を飛んで、ガムにする魔法を雨あられと集中的に降らせる。
「うっとおしいのよババア!」
ドレーはそう言うと手を上に向けて魔法を発動する。
するとブワッと黒い煙みたいなものが出てきて、魔女の放つ魔法に当たるとボッと燃え上がって消える。
「えっ、そんな自然のものは出ないはずなのに…!」
炎の魔法を使ったのかと思って驚いて叫ぶとドレーは、
「うるせえ!燃えるもんが自然のものばっかりだと思うなよ、こちとら魔族で人間とは違うんじゃゴラ」
と喧嘩腰に怒鳴ってくる。そのままモワモワと黒い煙は周囲に広がって、煙に触れた兵士たちが次々にボワッと燃えて倒れていく…!
「お前なんて俺の口で丸飲みだ!」
虫歯だらけの狼はそう言うと大口を開けて黒い煙を次々とバクンッと飲み込んでいって、ドレーは「うそぉ!?」と目を丸くしながら、
「だったら腹の中から燃えちゃいな!」
と黒い煙をとめどなく広げていく。それでも狼は次々と飲み込んでいっていて、それを見た大男は、
「俺もぉ」
と煙に手を伸ばすけど、煙に触れたその手がボッと燃える。
「あああ」と大男は叫ぶと癇癪を起して、めちゃくちゃに暴れ回り出してあちこちの瓦礫を掴んではあちこちに放り投げて、ドレーはリギュラを守るように瓦礫を弾き飛ばしては黒い煙を放出してる。
その途中でジョナを抱えるケッリルに気づいた大男は「肉、肉ぅう」とズンズン駆けだした。
「待って!そっちはいいの、いいの!攻撃しないで!」
ジョナはもう戦えないし、ケッリルだって戦う気はないのに…!
ケッリルは近づいてくる大男に驚いた顔をして、自分たちを掴もうとする大男の指を蹴飛ばした。その一蹴りで大男の指は勢いよく跳ね上がってベキッと折れたような音がする。
それでも絵本の中のキャラクターは痛みはあまり感じない。大男はそのまま掴もうと手の平を近づける。
するとケッリルは剣を引き抜いて、パニック状態なのかすっぽ抜けるぐらいの勢いで剣を振り回した。パニックながらにもケッリルの剣は大男の手首をスパンと切り落として、ジョナを抱えて滑るように遠くに逃げる。
「リギュラ、もうジョナがもたない!手当てをしなければ…!」
だからそっちはあなたを捕まえてる敵ともいえる人たちなんだからそっちに優しくしないでよ。
イラッとしてケッリルを睨みつけると、ケッリルはどこか目を瞬かせてリギュラを真っすぐ見ている。
「…リギュラ?」
ケッリルの様子にドレーは何かあったのかと後ろを振り向いて、皆の視線も自然とリギュラに動いた。
リギュラは馬に乗っている立派な王様と対面していて、かすかに青い顔になって立ちすくんでいるように見える。
立派な王様は黙って自分を見上げるリギュラを見て何だこの不躾な奴は、と不愉快そうな顔になると剣を向けた。
「貴様か?あの市長の言うキシュフ城にいる吸血鬼の王とは?」
ビク、とリギュラが脅えたように一歩下がった。
「な、な…なんで…なんで貴様が…」
リギュラは細やかに震え、どんどんと立派な王様から下がっていく。立派な王様はリギュラに剣を向け他の兵士たちに顔を向けた。
「殺せ!こいつを殺して八つ裂きにして見せしめに城の壁にその死体を打ち付け晒してやるのだ!」
その言葉を聞いたリギュラは青い顔を更に青ざめ、顔をひきつらせた。
「う、うわああああああああ!」
リギュラは頭を抱えその場に背を向け走り出したけど、足がもつれてドシャッと転ぶ。
「殺したはずだ、貴様は僕がくびり殺した、殺した、死んだはずだ!なのになぜ生きてる!なぜそんな、そんな齢を取らずそのままの姿でいる!?」
さっきまでの余裕ある姿が全く消え失せて、頭を抱え丸まってガタガタと震えて叫んでいる。
そのまま恐怖の表情で立派な王様をわずかに振り返って、呟いた。
「どうして…父上…!」




