アレン、アレーン!…アレン!?
「アレンが!?それよりリギュラの居る場所見つけたの!?ううんそれよりアレンは無事なの!?」
一気に情報がなだれ込んできたからまとまりなく言うと三匹はとりあえずアレンのことが聞きたいようだと理解したのか、
「まあ青い顔だったが無事じゃないか?」
「気絶していたねあれは」
「生気を吸い取られてる感じだったね」
三匹の話にガウリスがギョッとしたように質問する。
「生気を吸い取られた?どういうことですか、命に別状はないのですか」
「まあ気絶する程度だから命には別状はないね」
「恐らくあれはアンデッドの力だろう」
「だとしたらレイスかな?」
レイス…?何それ。
「ガウリス知ってる?」
ガウリスに聞くと少し「うーん」と唸ってから、
「アンデッドモンスターで、体に触れた者を殺すと記憶していますが詳しくは…」
体に触れた人を殺すって言葉にヒヤッとしていると三匹のネズミが続ける。
「そう、レイスは人に触れて生気を吸い取る」
「でもあのアレンは気絶していたから少し吸い取られた程度だろう」
「どれくらい吸い取るかはレイス自身で調節可能だ」
ああ、三匹のネズミはそういうモンスターにも詳しいの。
私は質問の仕方を間違えないように呟いた。
「レイスってどんなアンデッドモンスターなのかしら」
すると三匹は答えていく。
「術を使い体から魂が抜け出したものの体に戻れなくなった人間がなるアンデッドモンスターだ」
「中には術を使われ無理やりレイスにさせられる者もいる」
「あのレイスの男はどちらかと言えば後者かな?そんな術が使える魔導士には見えなかったから」
なるほど、ジルっていう魔族に魂を取り出されたって言っていたけど、術を使ってレイスってモンスターにさせられたってわけ。
やっぱりアレンをさらったのはケッリルだったみたいだけど、それでもアレンは気絶しているだけみたいだしケッリルは私たちを殺す気も裏切る気もないようね。…周りにいるドレーとジョナがやいのやいのとケッリルに何も言わなければ、だけど。とりあえずは。
それでもアレンの無事も、アレンの居るところもリギュラたちの居場所もこの三匹のネズミが知ってる。
「それで、居場所は?」
改めてリギュラの居場所を聞くと三匹のネズミは答えていく。
「崩落した向こう側にある調理場だ」
「そこに棺桶があって、モンスターと魔族の少女がいた」
「そこにアレンがレイスの男に運ばれてきた」
崩落した向こうの調理場…。
…うーん、場所は分かってもそんな崩落した向こう側に行くにはどうすれば…そもそもその調理場の場所すら分からないし。
「そこまでどうにか行きたいんだけど案内してくれない?」
きっと私たちがいけるルートをネズミたちが案内してくれるはずと言ってみると、この三匹のネズミたちはヂーヂーと鳴いて手を振り回して怒り出す。
「断る!」
「あんなモンスターだの魔族だのが居るところに近づけって!?」
「我々を危険に巻き込むつもりか!」
激しく抗議されて、言い方を変えた。
「それならどう行けばいいかしら」
するとネズミたちはコロッと態度を変えて、
「城の中からは無理だ」
「瓦礫で全ての道が埋まっている」
「一旦外に出て調理場の勝手口から入るのが一番だね」
とあっさり教えてくれた。自分たちの身が危険にならないならさっくり教えてくれるのね、ブレないわ…。
三匹のネズミたちの言葉にガウリスは、
「つまり城の中に入った時点で拠点にたどり着けるはずがなかったのですね」
というとネズミたちは、
「まあ大体崩れているからね」
「調理場は城の裏手にあるから人も行きにくいし崩落していて入口も一つだけ」
「敵ながらいい場所を見つけたものだ、この城なら我々もあの場所を拠点にする」
って褒めている。
なるほどね、リギュラたちも色々考えて守りを固めていたの。
私はガウリスに視線を向けた。
「居場所は分かったけどどうする?先にサムラとサードを探して、それから外に出て一気に叩く?アレンはとりあえず気絶してるけど無事みたいだし…」
ガウリスは少し黙り込んでから三匹のネズミたちに話しかける。
「サードさんとサムラさんが居ないのが心配です、どうにかならないものでしょうか」
すると三匹のネズミたちは反応して口々に話し出す。
「そう言われれば君たちは二人しかいないな」
「一人はさらわれて、残りの二人はどこに行ったんだ?」
「はて、我々が崩落した向こう側に居る時にバラバラになったのか」
「バラバラになってからのこの霧か」
「そうか、勇者は魔法の耐性が無いから霧の中を歩き回れない」
「だったら同じ所をグルグル回っているかもね」
「あの小さい子はどうしているだろう」
「魔法の耐性はあるが戦い慣れしていないようだからね」
「広く歩き回ったりはしていないだろう」
「だったらその場でジッとしているか」
「動いたとしても一部屋分も動かなそうだ」
「そうだね、敵の影に脅えてろくに動かないよ」
「…」
どんどんとサードとサムラの現状っぽいこと言っているじゃない。さすがだわガウリス、聞き方が上手。
「二人を探し出したいのですが、頼んでもよろしいでしょうか」
ガウリスが聞くと三匹は話合うのをやめて私たちに顔を向ける。
「まあ構わない」
「敵の近くに寄らないなら」
「どうせその辺でかたまっているだろう」
「それなら二階を探してみるか」
「そうだね、二階から探してみよう」
「行こう行こう」
三匹の白い光はシュルルンッと斜めに駆け上がって行く。
もしかして三匹がずっと居たそこって、階段のてすり?
近寄って触ってみると石で作られた手すりが手に触れる。でも触った感じからして彫刻が崩れていて、床が無い可能性が大きい気がした。
「私たちは少しずつ調理場の方へ進みましょう。三匹のネズミたちがサードさんとサムラさんを見つけたら拠点のことも私たちと会ったことも話してくれるはずですから」
頷いて私たちは歩き出す。
「とりあえず外に出ないといけないわね」
それでも皆を探すために視界が悪い中をあっちに行ったりこっちに行ったり引き返したりしてきたから今私たちがどこにいるのかもよく分からないのよね。
私の魔法を使えば目の前の石の壁をサラサラの砂にして穴をあけて進むこともできるけど、こんな崩れかけたところでそんなことしたら本格的にキシュフ城が全崩壊しちゃいそうだし。
「…ねえガウリス」
「はい」
「私たちの周りだけの霧を取り払うとか…どう?お城全部の霧を取り払ったらすぐ魔法が破られたって分かるでしょうけど、私たちの周りぐらいならしばらくバレないんじゃない?」
それなら早めにお城の外に出られるし、三匹のネズミがサムラとサードを探してくれてるからすぐに合流できるかもしれないしと言うとガウリスも、
「そうですね…。時間勝負ですし、そうしましょう。お願いできますか?」
と言うから私たちの周りの霧を魔法で取り払う。私たち周辺の霧はフワッと消えてガウリスの姿がハッキリ見えた。
「ああ何か…久しぶりに会えた気分」
思わずそう言うとガウリスはおかしそうに口端を上げて、
「ずっと隣にいたでしょう」
って軽く突っ込みながら行きましょうと促す。周りが見えるようになったから人の心がちょっぴりのぞける眼鏡をはずしてバッグに入れて、足元の瓦礫を乗り越えて移動していく。
「まず入口じゃなくても壁が壊れていたり窓らしきところがあったら外に出ましょう」
「ええ」
少しずつ歩いていてガウリスはふと顔を上げる。
「何だか暗くなってきましたか…?」
エッ、と周りを見まわしていると、確かに薄暗くなってきているような気がする。
「もしかして魔法?霧をうっすら取り払ったのがもうバレた?」
「日が暮れかけているんだと思います、結構歩き回りましたからね…」
その言葉に息をのんだ。
「もう五時を過ぎたっていうの?」
「いえ今日は曇り空で太陽が出ていませんでしたから、二時や三時程度でも暗くなりやすいんだと思います。…でも困りましたね、そうなればリギュラさんが日暮れ前の時間でも動き出してしまうかもしれません」
困ったという言葉とは裏腹に冷静なガウリスと違って私は焦った。
アンデッドは夜に本領発揮するのだし、モンスター辞典でもろくに生態の分かっていないモーラのジョナ、それに闇の中を自由に動き回れる厄介なリギュラが起き出してしまったら今以上に厄介だわ、それもまだサムラとサードと合流できていないのに。
杖を握りながらも、それでも今できることをやらないと、と前を向く。
とにかく今やることは外に出ること。それなら外に出るための窓か穴を見つけないと…。
ガウリスの居る左と反対方向を見ながら外に出られる場所はないかしらと遠くに視線を向けていると、右肩にそっと手をかけられた。
え?ガウリスが肩に手を回してきた?
驚いてパッとガウリスを見るけれど、ガウリスの両手は槍と盾でふさがっている。
じゃあ誰この手!?
ババッと肩に手をかけられた右にグルリと大きく首を動かすと、ほっぺにプスッと指が突き刺さる。
「わーい引っかかったー」
そう笑う後ろの人に私は目を見開いて顔をほころばせた。
「アレン!無事だったの!」
思いっきりしがみついて無事を喜ぶとガウリスもすぐに気づいて振り向き、
「アレンさん…良かった」
とアレンの肩を何度か力強く叩いた。私は少し離れてアレンに手をかけながら見上げる。
「大丈夫?三匹のネズミたちから顔が青くて動かなかったって聞いてたから心配したのよ、それよりどうやって逃げてきたの」
「いやぁ…」
アレンは少しモゴモゴとして頬をかきながら、
「目が覚めたら周りに誰もいなくてさ、棺桶あるぐらいで。だから今なら逃げ出せると思ってこっそり逃げてきたんだ」
「誰も?本当に誰も居なかったの?」
「…だからそう言ってんだろ」
ケッリルも居なかったの?って意味で聞き返したら、かすかにアレンがムッとしたように言う。
あら、アレンがちょっと怒った?
少し驚きながらも「ごめんなさいね」と一言謝ってからガウリスに聞いた。
「ジョナとドレーは動き出してるってことかしら」
「そうなのかもしれません、こちらが少しずつ拠点に向かうのと同じように向こうもリギュラさんがそろそろ活動できそうと感じて攻撃する準備に取りかかっているのかも」
ふーん、それならこの霧の中をこっちに向かってきてるってことよね?だったらこの霧はもう邪魔なだけじゃない?
「ねえ、お城全体の霧も取り払ってもいいかしら」
「そうですね、向こうが攻撃準備に入っているならこの足止めの霧も遅かれ早かれ解かれるはずです。それに霧が無い方がサムラさんやサードさんとも早く合流できるでしょう」
するとアレンは私たちの会話を聞いてかすかに口を引き結ぶ。
「このお城の霧を全部解く?そんなことできるの?できるわけないでしょ?」
その言葉に私はおかしくて、軽くアレンの体をペンと叩いた。
「何とぼけてるの、アレンが私の魔法ならできるんじゃないかって言ったんじゃない。褒められてあんなにニヤニヤしてたくせに」
そう言いながら杖を振り上げるとアレンが私の肩を掴んだ。
「いややめた方が良いと思う、この霧マジでヤバいから」
アレンの言葉に私は杖を下ろして、キョトンと見上げる。
「ヤバいって、何が?」
「いやその…日が暮れる前にこの霧を解こうとすると…死ぬ」
その言葉に私は目を丸くする。
「えっ、本当に?どうして死ぬの?そういう魔法なの?どこで知ったの?私もこの霧の魔法はよく分からないのに」
「…。うるっせぇなあ!死ぬっつったら死ぬんだよ!信用できねぇってのかよ!」
次々と質問していたらアレンが目をつり上げて怒鳴ってきて私はビクッと体が震える。
えっアレンがこんな風に怒鳴ってくるなんて…怖い、一体どうしたの…?
ビクビクしながらバックしていくとガウリスが私の肩をそっと掴んで私の前に出た。
「落ち着いてくださいアレンさん、ミレルさんが今のその姿を見たらどう思われるか。あんな約束をしたというのに」
「…約束…?ミレル…?」
ふっとアレンの表情が元に戻って何のこと?って声を出す。
「ミレルさんはアレンさんの実家のお隣に住んでいる幼馴染の女性ではないですか、それも手紙も頻繁にやり取りしている婚約者でしょう?」
は?何言ってるの?アレンの隣に住んでる幼馴染はミレルじゃなくてミョエル。それにアレンはミョエルにそんな気はないし手紙なんて一度も出したことはない…。
するとアレンは怒ったことを誤魔化すかのように「あ、あはは」とへらへらと笑いだした。
「あ、ああー!ミレルねミレル!そうそう、今度帰ったらお茶でもしようかって手紙で話し合ってて!ほら自分ら生まれたころからの付き合いっていうかそんな仲だしぃ…」
ガウリスの表情が戦闘モードになって、盾を前に突き出してアレンの視界を塞ぐとその影から槍で目に見えない勢いで突いた。
「ガッハッ」
アレンの口から血が出る。
その姿に思わずアレン!と駆け寄りそうになったけど、すぐに踏みとどまる。
いくら何でも今のガウリスとの会話で全部分かった。
アレンが自分の好きな読者モデルのミレルと幼馴染のミョエルを混同して間違えるわけがない。
「あなたアレンじゃないわね!?」
ガウリスの槍に貫かれたアレン…ううん、アレンの姿をした誰かは刺されたお腹を押さえて、充血した目でガウリスを睨みつけた。
「カマかけやがったわね、この野郎」
ガウリスはその言葉に何も返さないで槍をアレンに向かって振り下ろす。アレンの姿はフッと霧になって周りの濃い霧の中に紛れ込んで消える。
霧になった…ってことはもしかしてリギュラ!?もう起きたというの?
だったら本格的に全員が動き回っているんだわ、それならこの霧はやっぱりもう邪魔なものでしかない、消す!
魔法を発動して消そうとすると霧の中からグンッと手が伸びてきて、血にぬれたアレンが私の服をガッと掴んでニヤッとギザギザの歯を見せて笑う。
「また会ったわね、今度こそあんたの心臓の血ぃ吸いつくしてやるよ」
その言葉にギザギザの歯…リギュラじゃない、このアレンに化けているのは…!
「あなた、モーラのジョナね!?」
夜中に鍵穴などから霧になって侵入でき、姿も自由に変えられるモーラは捕えたり侵入を防ぐのはほぼ不可能だそうです。日中は人間のように動けて別の姿に変身できるなど吸血鬼より非常に有能ですが、悲しいことに知名度がイマイチ。
作者
「吸血鬼より有能なのに、スラブとか旧ユーゴスラビア辺りにしか現れず多大な影響力のあったヨーロッパに伝播されなかったせいで本にもネットにもろくに情報がない」
ジョナ
「うるっせえな殺すぞ」




