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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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敵側の男の話

男の人からミレルの名前が出てきて皆の口からも「え!?」という言葉が飛び出した。


私は男の人に詰め寄るように聞く。


「ちょ、ちょっと待って、もしかしてあなたの名前って…ええと…ケッリル?ケッリル・ファーレーナ?それで娘ってもしかしてミレル・ファーレーナなの?」


ミレルから聞いていたミレルのお父さんの名前とミレルの名字を繋げて言うと、男の人は驚いた顔をする。


「ミレルを、ミレルを知っているのか?」


男の人は攻撃するつもりかと思うぐらいに私に近寄ると、両肩をガッと掴んだ。


「ミレルはどうしてる?ヤリャナは、ビルファは!?今全員どうしている!?」


力強い手で前後に揺さぶられているとアレンが、


「おい落ち着け」


ってケッリルの肩を掴んで引き止めようとする。でもアレンの手はスカッと体を通り抜けた。

それでも我に返った男の人は「あ…すまない」と謝ると私から手を離して、


「そう、私はケッリル・ファーレーナ。ミレルは私の娘だ、それより皆はどうしている?無事に暮らせているか?」


心配と不安に押しつぶされそうな顔で男の人…ケッリルが聞いてくる。

まさかこんな所でミレルのお父さんと会うだなんて、ミレルはお父さんが生きているかどうかも分からないって言っていたけど、まさかこんな所に…。


とりあえず「落ち着いて聞いて欲しいんだけど」と前置きをしてからミレルから聞いた話を全て話した。ケッリルが居なくなった後のミレルの家庭の事情を。


ミレルのお母さんがミレルとその弟に暴力を振るった話を聞くとケッリルは胸が潰されそうなほどの絶望した顔になったけれど、それでも皆が無事と分かってどこかホッとしたような顔になってる。


するとアレンからガサガサと何かを取り出す音がした。


「ほら、ミレルこんなに可愛く育ってるんだぜ。見てみなよ可愛いから」


どうやらアレンの愛読雑誌のザ・パーティを広げてケッリルに渡したみたい。

ケッリルは雑誌に載って笑っているミレルの姿を見たら鼻をすすりあげて涙を流して微笑んでいる…。


「ミレル…大きくなった、若いころのヤリャナに瓜二つだ…」


ヤリャナがミレルのお母さんの名前?それじゃあさっき言ったビルファがミレルの弟の名前ね。


涙を流して喜んでいるケッリルの姿を見て、アレンは声をかけた。


「欲しいならそれあげるけど」


えっ、読み古したザ・パーティでも手放したくなさそうなアレンが自らあげるって言うなんて?


驚いているとケッリルはアレンの言葉にかすかに微笑んで、首を横に振って返した。


「私が持っていたら君たちと通じているのが見抜かれてしまうかもしれない」


ケッリルはどこか父親の顔つきになると、


「ミレルからそれほどに話を聞いているのなら私が何のためにウチサザイ国に行ったのかも分かるはずだね?」


私たちは頷く。ケッリルはミレルの弟のビルファを魔族に忠誠を誓わせないようにするために黒魔術士の集まる村を探し求めて旅に出た。

そうしてウチサザイ国にたどり着いたところでリギュラに目をつけられて魔族のジルにも目をつけられ、こんなことになってしまった。だからミレルの家に手紙の便りがふっつりと絶えてしまったんだわ。


「ところでそのジルって男の魔族なんだけど、もしかしてバファ村…黒魔術士が集まる村の頂点に立ってたりする?」


アレンの質問にケッリルは少し考え込んで、


「そうだと思う。ジルは何かしら自分がこの国を牛耳っているとも自慢げに言っていたから黒魔術士の集まる村…バファ村だって?そこもジルが手をかけているんじゃないか?私はほとんどリギュラの近くにいたからウチサザイ国のこともその村のことも詳しくは分からないが…」


アレンは続けて質問する。


「で、リギュラはウチサザイ国で嫌なことがあったからこっちに来たとか言ってたけど何かあったの?」


「まあ…ジルとの相性が良くなくてね。ジルは自分の配下のようにリギュラにあれこれと指図をしていたが、リギュラとしては少し手を貸してやってもいいぐらいの気持ちのようだったから近くに居るのが酷く面倒になったみたいだ。

第二のウチサザイ国を作りに他の国に行くと適当なことを言うとさっさとウチサザイ国を出てしまって、その時私も連れてこられた」


ケッリルは少し視線を落としてから顔を上げて、


「それでも私は今の状況から脱したい。ビルファを救いたい、ヤリャナの傍に居たい、ミレルに会いたい、だから私はこんなことに巻き込まれた一般人として勇者御一行の君たちに助けを求めたい。…頼めるだろうか」


そんな風に頼めるだろうかと言われなくても私たちの気持ちは決まっている。

ミレルが無事かどうかと心配していたお父さんを助ける?そんなの当たり前じゃない。


「もちろんよ!」

「分かった!」

「お任せください!」


それぞれが胸を叩くような口調で言うとケッリルはホッとした顔をして微笑んだ。そこでガウリスが聞く。


「それではここにいるリギュラさんの仲間のことをお教え願えますか?今まで何度か襲われていますが、あのジョナという少女にドレーという魔族は元々リギュラさんの仲間なのですか?」


ケッリルは少し思い出すようにしながら、


「ここにいるのは私も含めて五人だ。リギュラ、ジョナ、ドレー、ミラと私の五人。ドレーはリギュラのあの見た目を一目で気に入ってずっとそばにいたから、ただついてきただけだろう。

ジョナはリギュラのことを気に入っていて会ったころからずっとリギュラの近くにいた。多分一番長くリギュラの傍に居ると思う。ミラはジルに命令されて見張り役という名目でウチサザイ国からついてきたと自分から言っていたが、本人はあまり本気で見張る気はなさそうだ」


「そのミラって…黄緑色の髪色で私と同じくらいの年齢の?」


聞くとケッリルはそう、と頷く。


「その男子ならさっき私が聖水で攻撃して…声がしなくなったから浄化されたと思う」


するとケッリルはどこか傷ついた顔になって黙り込んで、そんなケッリルの表情をよそにアレンはどこか明るい声を出す。


「それなら敵はリギュラにドレーとジョナだけなんだな。ケッリルは敵じゃないし」


「…ああ」


ケッリルはどこか沈み込むような声で頷いてから、ものすごくショックを受けた顔になる。


「…ミラは…死んだのか…」


「…だって、後ろから首を絞められて私も死にそうだったんだもの、本当に死ぬと思ったのよ、向こうだって本気で私を殺す気だった」


殺されそうになったから反撃したと伝えるとケッリルは何か色んな気持ちがごちゃ混ぜになった顔を上げて、


「分かってる…でも…ミラは誰に対しても気さくで人懐っこくて明るい良い子だった」


知り合いの子が死んだと聞かされた人みたいな重い表情でケッリルは片手で額を押さえて、続ける。


「…リギュラもドレーもジョナも悪い子じゃない、皆良い子なんだ…。できるなら殺さず追い払う形でどうにかならないか…?」


それは、ちょっと…。


リギュラもドレーもジョナも私たちを殺すという勢いで向かってきているのよ?それも吸血鬼どころか魔族が相手なら円満に追い払うなんてできるわけないじゃない。向こうが私たちに友好的な感情を持っていてロドディアスとかラグナスとかロッテみたいに話し合いに応じるならともかく。


「…そりゃあ俺だってリギュラが本格的に悪い奴だって思ってないよ、話しただけで友達になれそうって思うもん」


アレンが口を開く。


「だけどリギュラのせいでダマンドが殺されて、その娘のマーリーは泣きながら吸血鬼になった自分の父さんの殺害を依頼してきたんだぜ?ケッリルだってミレルっていう可愛い娘がいるんだから、どんな気持ちでミレルがケッリルのこと待ってるか分かるだろ?ミ」


そう言われるとケッリルは黙り込んで顔を伏せる。それでも辛そうに声を漏らしていく。


「自分の肉体を取り戻して家に帰りたい…。だがミレルがいるからこそあの三人も娘のように思えてきて…。そんな三人も死んでしまうのかと思うと心が苦しい」


「…」


優しい人なのね。でもその優しさはアレンの優しい残酷さに通じるところがあるわ。

優しすぎて、相手の気持ちにどこまでも入り込んで、相手からはとても信頼されるけど相手の気持ちに最後まで応えられなくて、最終的に深く傷つける…。


「…私、ミレルと色々と話したの」


ケッリルが私を見てくる。でもその色気の溢れる目に耐えられなくてチョイと逸らしたけど、これは逸らしてはいけないとすぐ目を合わせる。


「家族のことを悲しそうに話すミレルを見たわ。家族がバラバラになって一人になるのが怖いって泣いてるミレルも見た。それなのにあなたはあなたを心配して帰りを待ってる家族より、今一緒に居る他の女の子たちを選ぶってわけ?」


「エリー、その言い方…」


アレンがおいおい、と軽くなだめてくるけど、それでもミレルのあの時の顔を思いだすと、今ここでどっちを選ぶのか決めてもらわないと困る。


「今はお互いに命を狙われてる状況なのよ。あっちも大事、こっちも大事って優柔不断な考えをされると依頼を受けた私たちの命にも関わるわ。どっちを取るのかここで選んでちょうだい、家族とこのお城の女の子たち、どっちを選ぶの」


「家族に決まっている」


ケッリルは即座に言い切ったけれど、それでもどこか罪悪感がぬぐえない顔。

その顔を見てまだ悩むの?と少しイラッとした。


「ケッリル、あなた言い切ったんだから今の選択、(ひるがえ)さないでよね」


強めに念を押しているとアレンは少しフフ、と笑う。


「今のエリーの言い方サードっぽい。てめえ今言い切ったんだからその考え変えんなよって感じの」


その言葉に睨みながら念を押すサードの姿が簡単に浮かんでウッと言葉を詰まらせる。


「ちょっとやめてよ」


そんな所でサードっぽいとか言われたくない。

見るとケッリルはまだ心が定まっていない感じだけど、それでも「…分かった」と頷いた。


アレンはそこでフッと何か気付いたように私に声をかけてくる。


「…思えばこの霧ってエリーどうにかできるんじゃね?自然のものだし払えない?」


ハッとした。


そうだわ、これは魔法で出された霧だけれど、元をただせば自然の中で起きるものじゃない。それなら無効化の魔法をこのお城に張れば霧も消えるはず。


「さすがアレンだわ」

「んー?うん、ふふ」


アレンは褒められて満更でもないって感じのニヤニヤした声を出す。


「それじゃあこの霧、取っ払っちゃうわね」


魔法を使って霧を払おうとすると、ケッリルが待ちなさいって声をかけてくる。


「今のところドレーはこの霧で君たちがろくに進めないだろうと安心しきっている。急に霧を払ったらまたもっと進みにくくなる別の魔法をかけてくるかもしれない」


「それならもうしばらくこのままで、安心している所を見計らって攻撃した方がいいのかなぁ?けどこうも真っ白いと何も見えないし夜になっちまいそう」


アレンの言葉にケッリルも口をつぐんでいるとガウリスはケッリルに聞いた。


「ちなみにリギュラさんが寝ている場所はどこですか?やはり二階の北側でしょうか」


するとケッリルは首を横にふる。


「いいや、一階の…」


ケッリルがそう言うと急に顔を強ばらせ、遠くに目をやった。そして声をぐっと低め、


「私が勝手に行動しているのがドレーに気づかれた。どこにいるか探られている。すまない私はもう行かねば」


ケッリルはそう言うと慌てて霧の中に消えていった。

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