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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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死神のような男

「エリー!俺ー!どこー!?」


白い霧の向こうからアレンの声が聞こえてホッとしつつ喜んで駆け出そうとした。


ん。でも待って。そういえばいたわよね?

ゾンビであふれ返っていたリンカのあのダンジョンに、頭が人間、体が爬虫類のサードの声を出すモンスター。もしかしたらあれと同じようなモンスターでアレンの声を出して近づいてきているんじゃ…。


…どうする?視界が悪いからアレンなのかモンスターなのかここから判断がつかないわ。むやみに近寄りたくないし。


…うーん、どうしよう。もう少し近寄ってみる?けどそれでモンスターだったら…。


あれこれ悩んでいて、ふっとあるものを思いだした。そうよ、私たちにはあれがある!


「アレン、合言葉!山っていったらなにー!?」


大声を出して問いかけてみると、少しの静寂の後、


「木!」


と返ってきた。


うん、山といったら木と返すのはアレンだわ。この合言葉ってこういう時すごく便利ね。さすがサードの世界のオンミツが使っていたものだわ。


杖で足元を確認しながら進んでいくと、アレンの話す声が聞こえてくる。もっと近づくとどうやらガウリスと話しているって分かってきた。


「ガウリスも一緒なのね!?」


「そう!さっき会ってさ!」


大声で聞くとなぜかアレンも大声で返してくる。別にアレンの声は大きいから普通に喋ってていいんだけど。


音と声を頼りに進んでようやく二人と合流できて私はホッとして喜んだけど、お互いにサードとサムラが一緒じゃないことに気づく。


「二人は?」


三人同じタイミングで聞いて、お互いに「知らない」「分からない」って答えた。


それでもガウリスは私が無事だったことにホッとしてくれて、


「アレンさんと先ほど合流した時にこちらから水が大量に流れてきたので、きっとエリーさんがこっちにいるはずとおっしゃったので来たのですよ、無事で良かったです」


「でもまぁ、危なかったけどね。死ぬかもって思ったもの」


「死ぬって…何かあったの?」


アレンの質問にさっき会ったことを伝えた。ゴースト型の同い年くらいの男子に襲われて首を絞められ、聖水を増幅して水柱を立てて追い払ったことを。


アレンはお化け…ゴーストが出たって話に緊張した雰囲気で黙りこんだけれど、聖水で追い払った話になると安心したのかホッと気楽そうに喋りだした。


「それならもうゴーストいないんだ…良かった」


「それよりエリーさん、首は大丈夫ですか」


ガウリスが心配するように声をかけてきたから「そんなでも…」と言いかけたけど、首を意識し始めたらさっきまでジンジンしていた痛みがビリビリと強くなってきた。


「…やっぱ痛い」


自分で思った以上に首を強くかきむしっちゃったみたい、かなり痛い、もしかして皮膚がえぐれてないか心配になるレベルで痛い。


「ひっかき(あと)って湿布でいいのかしら…」


ごそごそと大きいバッグを漁っていると真っ白な霧に紛れヌッと大きい手が現れて思わずビクッと後ずさる。


「この痛み止めの軟膏(なんこう)を塗ってから湿布薬を貼ればいいですよ」


「あ、ありがとう」


ガウリスの手だったの、びっくりした…。

それにしてもこんな手が届く範囲でも姿が見えないとか、どれくらい霧が濃いのよ。


あまりに痛いから塗りすぎじゃないかと思うほど軟膏を塗ってガウリスの手に戻してから首に湿布を貼っているとアレンが喋りだした。


「それでこれからなんだけどさ…。まず霧でマップが全然見えないわけだ、それに入口から飛ばされて城の中のどこ歩いてるのかも分かんないし…とりあえずあっちからこっちまで部屋っぽい所があったら少し探って来てたんだけど、それでも何がなんだかさっぱりでさ」


アレンはそう言いながら呟いた。


「城が壊れてなかったら右手の法則使えたかもしれないんだけどなぁ…」


「右手の法則?」


何それとばかりに聞くと、


「入口の最初で右手を壁につけて、あとはそのまま壁伝いにずーっと進んだら結果的に外に出られるっていうのがあるんだよ。ほら、四角形の部屋があるとするだろ?右手をつけてそのまま右回りに進めばグルッと回って入口にたどりつくっていうそんなの」


へー、そんなのあるんだと頷いたけどアレンは独り言のように続ける。


「でも最初から手をつけていないと意味無いし、そもそもこんな一部崩落して敵も現れる状況じゃ意味ないか」


…。その右手の法則って、使えそうで使い勝手が悪いし、使い所も特にないやつね?


ちょっと呆れながら、私は今まで歩いてきた方向を指さし、


「私は転移の魔法にはかかってなくて玄関のフロアに居たの。霧で周りが見えないからハッキリと言えないけど、多分入口正面から見て右側に進んできたと思う、左側は崩落してたから、すぐ行き止まりになってこんなに進めないでしょうし」


「また転移の魔法かかんなかったの?転移の魔法かかんないとか、それも魔力が強いせいなのかな」


アレンの質問にうーん、と悩む。

私だって転移の魔法で移動したことはある。マダイの搭の中に仕掛けられていた転移の魔法陣で。

それでもモーラのジョナと魔族のドレーの転移の魔法では移動しなかった。


ということは?


私は浮かんできた考えをブツブツと呟く。


「魔法陣だったら確実にかかるけど、魔法陣以外の魔法だったからかかりにくい…?魔法陣はその通りに書けばキッチリその効果が出る、でも転移は高い技術が必要だから、技術をちゃんと取得してない人からの転移の魔法はかかりにくいとか…?」


…でももしこの考えが正解だとしたら、皆で目的地に行くため詠唱魔法を唱えてもらって転移をしようって時、転移の魔法を使う人の技術が低かったら皆は行ってしまったのに私だけ一人置いていかれたってことになるのかもしれない。そうなったら困る。


すると私の呟きを聞いていたガウリスが、


「それなら今朝会ったジョナという方と先ほどのドレーという方は、転移魔法が使えてもしっかりした技術は取得していないのですね」


ガウリスの言葉に軽く頷きながら、


「少なくともラグナスよりは格段にないと思うわ」


「…魔王の側近と比べられたら、皆泣くぜ?」


アレンがポツリとそう言うから私とガウリスから笑いが漏れる。

そうね、魔王側近のラグナスと比べちゃ大体の人や魔族なんて弱くなっちゃうわよね。


笑ったことで気も少し楽になって、私は話題を変える。


「とりあえずアレンとか皆はどこにリギュラが眠ってるのかは予測がついているの?」


「うん。最初はこの城の玉座の間かと思ったんだけどさ、南向きで日当りが良いから吸血鬼が日中寝るには向かない気がするんだよな。だとしたら光の当たりにくい北側の…あんまり人が行かねぇ場所だとしたら二階の端かなって」


それならまず階段を登らないといけないわね、その階段がどこにあるのかも、こんな今にも崩れそうな建物に階段が残っているのかも怪しいけれど。


とりあえずアレンが一番マップを見て覚えているはずだから、これからどっちに進むか判断をするはず…。


アレンの言葉を待っていると、背後にヒヤッとした冷たいものを感じた。

クルリと後ろを向いてハッとする。


真っ白い霧の中に浮き出るように、あの死神みたいな男が立っている…!


手に持ったままでいた聖水の入った瓶を振り上げて投げつけようとすると、死神みたいな男は私の手首を素早く掴んでそのまま後ろに傾けた。


「いたっ…!」


手首と一緒に肩も無理な方向にねじられて声が漏れると、手首を掴む男の表情が一瞬ビクッと脅えたようになって、すぐさまパッと手が離された。


え…?離した?


驚いて男をみると、どこかオロオロと手を引っ込めて私の様子を伺っている…?


そんな男の顔を槍がボッと貫いた。「ギャッ」と驚いて私は叫んだけど男は叫びもしないし血も出ない。槍は男の顔を貫通しているけれど、すり抜けてる。


「エリーさんどうしました!」


ガウリスが私をグイと引き寄せて私の前に前に出る。


「…ここに来るんだったら槍も聖水などで清めるべきだったね、おかげで私は助かったが」


男はガウリスの槍を指先でちょいと顔の横にずらした。するとアレンも白い霧の中に浮き出ている男に気づいたみたいで「うわッ」と驚いた声を出してからザッと動き出す。


「ガウリス避けろ!アンデッドに強い俺の聖遺物の(じょう)でやっつける!」


「分かりました!」


ガウリスは避けてアレンは「うおおお!」と(じょう)を振り上げながら死神みたいな男の人に振りかかるけど…!


待ってアレン、それ、そのロッテから渡されたその(じょう)は…!


「聖遺物じゃないのそれー!」


「えっ!?」


私が叫ぶとアレンの驚いた声と共に、男の体を(じょう)がスカッとすり抜けた。


「えっ、えっ!?何で!?ロッテが聖遺物の(じょう)だって言ったじゃん、リンカの洞窟でもアンデッドやっつけてたじゃん!」


「ど、どういうことですか!?」


アレンどころかガウリスも混乱している。


ロッテはゾンビの洞窟を前に脅えていたアレンを勇気づけるためにアンデッドに効果のある聖なる(じょう)だって渡していたけれど、アレンから見えない所で「魔族が聖遺物に触れるわけないじゃん?」って笑いながら言ってきた。

まさか未だにガウリスもそこに気づいていなかっただなんて…!


「できれば攻撃をしないで欲しい」


男からそんな声が聞こえてきて、ガウリスもアレンも身構えながら距離を取るため引いた。

それでも男は攻撃するそぶりもなく、剣も抜かず、私たちに早口で話しかけてきた。


「君たちは勇者御一行なんだろう?私は君たちと話がしたいだけなんだ。今少しの隙を見計らってここに来ている、あまり長居はできない。どうか私の…勇者御一行へ助けを求める一般の者だと信じて話を聞いて欲しい、頼む」


アレンとガウリスは困惑している感じだけど…それでもさっきこの男は私が痛がっているのを見たらすぐ手を離して私を心配するかのようにオロオロとしていたわ。

どう考えてもあれは演技でも何でもなく困惑していた。


私は二人に顔を向ける。


「嘘は言ってないと思う、さっき手首を掴まれて肩もねじられたけど痛がったらすぐ手を離したもの。それにガウリスとアレンがこんなに攻撃してもこの人は何もしてこないじゃない、少しぐらい話を聞いてもいいんじゃない?」


それでもアレンはどこか警戒しているような声で、


「けど…敵側の奴じゃん」


と言うと、男は口を開く。


「私は体を人質に取られ魂だけ取り出された一般の者だ。望んでここに居るわけじゃない」


その言葉に全員が黙り込んで…多分視線は男…男の人に集中している。その様子を見た男の人は話を続けてもいいのかという雰囲気で、


「私はウチサザイ国に訪れた時…」


そんな話口から始まって、またウチサザイ国?まだまだ遠い国なのに最近よく耳にするわと思っていたら、次に放たれた言葉で皆がザワッとした。


「魔族に掴まった」


「魔族?先ほどのドレーにですか?」


即座に聞いたガウリスの言葉に男の人は首を横に振る。


「ドレーの兄、ジルにだ」


兄?ってことは兄妹(きょうだい)?魔族の兄妹でウチサザイ国にいるの?

それじゃあドレーのお兄さんのジルってのがハミルトンにリトゥアールジェムを持って来いと言った魔族なのかしら。


皆の頭の中にも色々な考えが巡ったと思うけど、ガウリスが促す。


「よろしければ最初からお話願えますか?」


話をしっかり聞いてもらえると分かった男の人は、どこかホッとしたように口を開いた。


「私はロースラスト国の小さな村で暮らしていた。そして旅をしている途中ウチサザイ国に入国したら、魔族のジルに目をつけられ監禁されたんだ。何度も逃げ出そうとしたが相手は魔族で、私は…昔は冒険者をしていたが数年で辞めたほどの腕前しかない、逃げ切れるわけがなかった。

何度も逃げ出そうとするから面倒になったんだろう、体から魂を抜かれて今はリギュラのそばにいる。…断れば肉体を破壊するといわれているから逃げられない」


そこで私は浮かんだ疑問をぶつけた。


「何でそのウチサザイ国のジルって魔族はあなたに目をつけて、そこまでして留めておいたの?あなた一般の人なんでしょ?」


男性はキュッと眉間にしわを寄せてわずかに唇を噛んで伏し目になる。


あっ…その表情だめ、素敵…男の哀愁が漂っててかっこいい…。


キュンとしかけたけどすぐにハッとしてそんな風に思ってる場合じゃないと首を横にブンブン振っていると男の人は続ける。


「ウチサザイには元々吸血鬼のリギュラが居た。ジルは長年吸血鬼として生きているリギュラを配下にしたがっていたが、リギュラを見て分かるだろう?誰に何を言われても脅されても従うような女の子じゃない」


この人リギュラが女性だって分かってるのねと思っていると、男の人は困惑の表情で腕を組み、


「そうしたらリギュラが私に目をかけたとかでジルに捕まり、魂だけの状態にされてリギュラの元に連れていかれたんだ。…そしてリギュラはその場でジルと手を組んだ。私はリギュラをジルの味方にするための交渉材料だったようだ、何故か分からないけども…」


何故か分からないって…分かるでしょ、全体的にかっこいい男の人だし、渋い年上男性が好みのリギュラなら完全に好みの対象だもの。


「そりゃあんたリギュラの好みだろうしなぁ」


アレンの言葉に男の人は不可解な顔をする。


「こんな口下手で…根暗な男をか…?…そんなことあるわけがない」


ああ…そんな影の似合う顔でそんな卑屈なことを言われると妙に胸がキュンキュンする…。そんなことないって抱きしめたい…。


「あなたのそんな性格も含めて好みなんだと思う…」


私がモゾモゾと言うと男の人はどうして?と問いかけるようにジッと見てくる。でもそんな目で見られると心臓がヤバい。


慌てて目を逸らした。


この人の目ヤバいわ、数秒以上目を合わせていたら本当にどうなるか分かんなくて怖い。


男性は、ふう、とため息をついて私を見ている気がする。でも目を合わせるのが恥ずかしいからとりあえず目を逸らしておく。…それより見られていると思うとドキドキして身の置き所が…。


「…私の娘も君ぐらいに成長しているだろうね。今は十八になっているはずだ」


あ…この人結婚してて子供もいるの、それも私と同じ年齢の子供が。


妙にガッカリしたような、それでもどこかホッとしたような…そんな何とも言えない気持ちになって肩の力が抜けた。


そうね、私と同じ年齢の子供がいるどこかのお父さんだって分かったならもうドキドキもしないわ。そもそもお父様と同じくらいの年齢の男の人なんてタイプの範囲外だし。


男の人に目を戻す。

でもその()の吸引力はあまりにも凄まじくて、やっぱりこれ以上は無理とすぐ目を逸らした。


男の人はそれでも私を見つめて、どこか切なそうに声を漏らす。


「…ミレル…」


…ミレル?え?今この人ザ・パーティの読者モデルのミレルの名前を言った?

今まで作品に出てきた回復薬↓


軟膏…軽度の出血箇所に塗ると消毒、止血、痛み止めの効果あり!冒険者ももちろん台所に一つ置いてあるととても便利!


湿布…打ち身、打撲、捻挫箇所に貼ると痛み止めと時間経過による回復効果あり!つらい肩こり、腰痛、足のむくみにもこれ一つ!


消毒薬…軽度の傷にこれ一本!痛みも傷もすぐに回復、冒険者もイチ押し、値段優良なのに安心の回復効果!※目や粘膜に近い所には使用しないでください※これは飲み物ではありません


アレン

「でも上の家庭で使われることが多いもんでポーションっていう冒険者専用のいい回復薬も売ってるんだぜ!俺らあんま買わないだけで」


ガウリス

「えっ」


アレン

「あれ、知らなかった?」


ガウリス

「ああはい、大体戦っても怪我をしないで倒せるもので…」


アレン

「あ!俺Tueeee系だ!!」

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