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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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…お化け?

迫る火の玉に向かって私は自分達の前に分厚い水の壁をボッと一面に張った。でも火の勢いが凄いせいか消えることなく水の一部を蒸発させながら突き破ってくる。

何を考えることなく私は火を消さないといけないと火の玉全てを包み込むように巨大な水の玉を出現させてガボッと覆った。


ブジュルルと水を蒸発させながら火の玉は消えていく。


一瞬の出来事だったけど…今の火の威力、凄かったわ。まさか水の壁を突き破って来るだなんて。


顔を上げると背の高い草と崩れた瓦礫の向こうからヌッと人の姿が現れた。


あれがウチサザイ国の魔族?

ジッと見るけど…何か聞いている魔族とは全然違う。ハミルトンから聞いた話では暴力的な面が目立つ男の人だったはず、でもそこにいるのは小柄でけばけばしいゴシック風のドレス姿をした金髪のツインテールの女の子…。

見た感じだと十歳とかそのくらいじゃない?まだまだ子供って雰囲気だわ。


ツインテールの女の子はあざ笑うようにあごを上げた。


「へえ、私の魔法を消すだなんて…」


魔族の女の子が喋っているうちにサードは斬りかかっていた。サードの素早い動きに魔族の女の子も驚いたのか、


「キャァア!」


と叫びながら後ろによろけるように避ける。


でもわずかに魔族の女の子は空中に浮いているから体勢が崩れて倒れたりしないけど、そんな後ろに傾いた無防備な姿、サードにとっては好都合。サードは一瞬で剣の柄を上に、刃を下に持ち変えてグンッと魔族の女の子の喉元を切り裂こうとする。


すると黒い何かが女の子とサードの間に割り入ると、キィンッと金属音が響く。


サードは一旦後ろに跳ね退いた。


二人の間に割り入った黒い何かは…ボロボロの黒い布切れ…?ううん、違う。あれは黒いマントを着た男の人だわ。でも何か変。まるで水中を漂っているみたいにマントがゆらゆら揺れている。

その手には剣が握られていているけれど、その剣が鎌だったら死神かと思ったかも。

…ん?でもあの黒い男の人、よくよく見ると膝から下の足が無い…?


「…お化け?」


アレンがその黒い男の人から視線をそらさないままゾッと呟いて、手をわさわさ動かしながら私の服を掴む。

私はアレンの一言で今までの緊迫感が抜けて、体の力も抜けた。


死神みたいな男の人はスッと私たちを振り返る。


フードに隠れている鼻から口がかすかに見えた。骸骨じゃない、人の顔だわ。

でも水中を揺らめくようなその異質な雰囲気はどう見ても人間じゃない。きっとこの男の人も日中から動き回れるアンデッドモンスターに違いないわ。


魔族の女の子と死神のような男の人を警戒しながら杖を向けると、死神みたいな男の人がふっと私を見てきた。


顔の全てが見えて、目が合った。

男の人と目が合った瞬間、息をのんでその場に立ち尽くしてしまう。


か、かっこいい…。


リギュラの好みなの?すごく哀愁と影の似合う風貌の男の人…でも私のお父様と同じか、もう少し上くらいの年齢よね?それでも…かっこいい…。え、私ってこんな年上好きだっけ?

ダメ、これ以上あの目を見ていたらどうなるか分からない…!


ドギマギしながら慌てて視線をパッと逸らすとアレンが私の様子のおかしさに気づいたのか、


「エリーどうした」


って声をかけてきて、アレンと目を合わせる。…あの男の人を見た後だと、アレンって子供っぽいわ…。あっと、心配されてるのに失礼なこと考えてる。


「な、なんでもない…」


失礼なこと考えてごめんねアレン。


アレンは頭の上に「?」を飛ばしているような顔をしている。

そうしているうちに死神みたいな男の人は魔族の女の子を振り返ってボソボソと囁くように喋っている。何か話しているけれど声が小さくて良く聞こえない。

すると魔族の女の子は怒鳴った。


「嫌!リギュラ様のためにここであいつらを全員ここで殺すのよ!」


リギュラ…()?あれ?吸血鬼って魔族に様づけされるほど格が高いかしら…?


「あのアレンという子は殺すなと言われたはずだし今殺されそうになっただろう?ほら戻ろう、ね?」


男の人が少し強めの声で、でも優しく言い含めるように言う。…それにしても何ていい声なの…しかも言い方があやすように優しい…私も同じことを言われたい…。


思わずキュンとしかけて、ハッと首をブンブン横に振る。あいつは敵よ、倒さないといけないんだから変な考えはやめるの!


そうしているうちに魔族の女の子と死神みたいな男の二人の言い合いは続いてる。


「あんたも戦いなさいよ!殺せって言われてるでしょ」


「夜になるまで時間を引き延ばせと私たちは言われているんだよ、昼間に戦い合って殺せとは言われていない」


「どうであれ結局全員殺すんでしょ、だったら今殺しちゃったらいいじゃない!」


魔族の女の子はそこでアレンを横目で見て、ニィッと笑う。


「そうよ、あの赤毛の男も今ここで殺すの。リギュラ様には私がいれば十分なんだから。これ以上男なんて要らないわ」


魔族の女の子がそう言いながらこっちに手を向けるけど、死神みたいな男の人はその手をパッと上に向ける。


「いけないドレー、君は言われたこと以外はするなとリギュラからきつく言われているだろう」


「私に触んないでよオッサン!あんた顔が良くなかったら私に触った時点でぶっ殺してるからね!?」


ドレー…。それがあの魔族の女の子の名前?それにしても揉めてるわ…。死神みたいな男の人のすねをドレーがガシガシと蹴っているけれど、その蹴りは全て通り抜けてる。もしかしてアレンが言った通りお化けなの?


っていうかサードは?さっき攻撃しようとして退いてからずっと黙ってるけど。


チラとサードを見る。


サードは動いていない。でもどこか攻撃を仕掛けようとかすかに聖剣を動かして踏み込もうと足を前に一歩動かすけれど、それでもすぐにジリ、と元に戻る。その警戒の視線の先は死神みたいな男の人…。


その死神みたいな男の人はまだドレーを説得している。


「君がリギュラに言われているのは夜まで時間を稼ぐことで殺すことじゃない。君はリギュラの言いつけを破るのか?」


リギュラの名前を出されたドレーは少し冷静になったのか、私たちにキッと向き直って指をつきつけてきた。


その指の先に居るのはアレン。


「あんたみたいな男、リギュラ様の側に居ていい存在じゃないんだから!私はぜぇ~ったい認めないんだから!」


するとその指先が光ったらブワッと霧が一面に立ち込めた。その霧の濃さは尋常じゃなくて、すぐ隣にいたアレンの姿も一瞬で掻き消える。


っていうか、霧が広がると同時に私の服を掴んでいたアレンの手の感覚がスッと消えた。


「あれ?アレン?」


手を伸ばすけど、私の手はスカッと宙を掴む。

えっ、まさかこれって…!?


慌てて私は叫んだ。


「アレン、サード、ガウリス、サムラ!皆居る!?」


返事はこない。

今度は霧で視界をふさがれて皆が転移の魔法でバラバラにされた。


「っあーもう!またこれ!?」


何とも言えないもどかしさと腹立だしさにジタバタと暴れた。

でもここでまごまごしているわけにはいかない。皆を探さないと。


動き出そうとしたけど、フッと思った。

あのドレーと死神みたいな男の人、まだそこにいるんじゃ?


試しにそっちに向けて切り裂くほどの風をビュンッと放ってみる。

けど叫び声も何もしないで、遠くまで飛んで壁にぶつかったようなガリガリという音とガラガラ崩れる音が聞こえる。どうやらあの二人は霧を放ったと同時に消えたみたいね。


改めて皆を探そうと歩き始めるけど、視界が悪すぎてどっちが崩落した方向かもよく分からないわね…。

そうだ、それなら風を起こして霧を払おう。


自分を中心にグルグルとゆるい風を起こしてみる。でも霧は風に沿って動いているだけで全然晴れやしない。随分と濃い霧みたい。


「サードー、アレーン、ガウリース、サムラー」


皆の名前を呼びながら歩くけど、あまりに何も見えないから割れた床材、崩れてる瓦礫に足がいちいちつんのめって危ない。

そうだ、サムラがたまにしているみたいに杖で足元を確認すればいいんだわ。


足元を杖で確認しながら少しずつ進んでいくけれど…何も音がしない。


こんな白い霧の中に一人いるとまるで世界の中で自分一人だけになってしまったような気分。

それにこのお城には魔力の高いジョナ、魔族のドレー、それとあの死神みたいな男の人が潜んでいる。もしかしたらそれ以外にも。


そう思うとかなり不気味だし不安になってくる。

不安になる度に皆の名前を呼んでみるけれど返事は返ってこない。


それでも敵が現れないのが唯一の救いだわ、リンカのゾンビの洞窟でもそうだったけど、ダンジョンで皆とバラバラになるものほど不安なことはないもの。


けどさっきの会話から想像すると、どうやらリギュラは夜になるまでべつに戦って殺せとは命令していないのね。リギュラがドレーに言いつけたのは時間を稼ぐことって死神みたいな男の人も言っていたもの。


夜になるまで…。


フッと考えが回る。


「夜になったらアンデッドの時間…。じゃあ私たちが攻撃しに来たら、本領発揮できる夜になるまで時間を引き延ばして日が暮れてから一気に皆で殺そうと…?」


そうなればジョナが目くらましの術をかけて皆をバラバラにしたのも、こんな風に霧でお城を覆ってバラバラにしたのも分かる。とにかく夜になるまでの時間稼ぎをするためにこんなことを…。


「そのとーり!」


聞き覚えの無い男の人の声が急に聞こえて、ビクッと声がした後ろを振り向く。でも声の主は見当たらない。むしろ真っ白で何も見えない。


どこから聞こえたのと辺りをグルグルと見回していると、


「バアッ」


と目の前に両手を広げ舌を飛び出させた、自分と同い年くらいの…黄緑色の目立つ髪色の男がヌッと出てきて、心臓と一緒に体も飛び跳ねる。


「ギャッ!」


すると男子はゲラゲラ笑って、


「もうちょっと女の子らしいキャーって叫び声出せないもんなの」


って友達感覚みたいに話しかけてくる。でもきっとこの男子も敵…それもアンデッドね。それだったらこの距離、聖水をかけて倒せる!


聖水を取り出して男子にぶっかけようとしたけど、慌てたせいかポケットに引っかかってしまった。


しまった!


グイグイ聖水を引っ張り出そうとするけれど、ビンの口がポケットの端に引っかかって取れない。すると男子が手早く私の手をポケットの上から抑え込んだ。

触られている感覚はする、でも手がヒヤッと冷たい。それに間近でよくよく見た目の前の男子は、体が透き通っていて周りの霧で体の色が白濁(はくだく)している。


「…お化け?」


思わずアレンが言いそうなセリフがこぼれ出て、こんな状況ながらアレンに毒されていると私は口をつぐむ。

すると透けている男子は大笑いして、


「せめてゴーストって言ってくれないかなぁ?お化けだなんてダッサ!」


「ダサくない!アレンに謝って!」


いやそんなこと言ってる場合じゃない、私は一歩引いて聖水を改めてポケットから取り出して蓋を外した。


「それ以上近寄ってみなさい、これをかけて消してやるわ」


すると男子は大げさに体を震わせて、


「おお怖い」


と言うと霧の中にスゥととけるように消えていく。


どこに消えたのと警戒して辺りをグルグルと見渡していると、後ろから首に手がかけられた。


「ぐっ」


驚いて思わず聖水をポロッと取り落としてしまった。


あっ聖水が…、それより苦しい…!


男子の手をガリガリと引っかいて外そうとするけれど、私の手は男子の手をすり抜けて自分の首をガリガリと引っかくだけ。外れない、どうすればいいの…!?


「いやー俺は有効的な時間稼ぎできないからさ、殺す専門なんだ。悪いねぇ、別にあんたに恨みは無いし殺したくもないんだけど、なんつーの?ほれあれ…無駄死にじゃなくって…どうしようもないとかしょうがなくやらないとけないっていう言葉…」


「ふか…こうりょく…」

「そーそー、それそれ!これ不可抗力なわけ!ごめんね!」


アレンと同じような軽いノリで謝っているけど手は躊躇(ちゅうちょ)なくギリギリと締め付けてくる…!苦しい…!


風の魔法を発動して私を中心に風をゴッと起こしたけど、ゴーストの男子は何かの衝撃を受けたという動きはない。やっぱり…幽霊だからすりぬけ…る…。


「か…は…」


声も出なくなって意識が遠のきかける。


私…こんな誰も居ない所で首を絞められながら死ぬの…?


『エリー!この馬鹿!壁!何で出来てる!自分の魔法が何か忘れたか!』


走馬灯?サードの言葉が脳裏に聞こえてくる。ロドディアスの古城でだっけ、そのセリフを言われたの。

そう、それまで私はダンジョンの中だと空気を振るわせて風を起こすしかできないって思ってた、自然のもの…地面とか水がないとダンジョンの中では風を起こすしかないって…それまでは風を起こせば嵐になって、水たまりがあれば洪水になって…。


チカ、と何か変な感覚がして落ちそうな意識が少し戻った。


そうよ、元々私の魔法って何かを増幅させるだけだった。そして今、足元には聖水…水が零れてる…。


最後の力を振り絞って聖水を足元から天井に噴き上げる程に増幅した。


水柱になった聖水は私もろとも後ろの男子も飲み込んだのか、「ギャ…」とかすかな悲鳴が聞こえて、それと同時に指は掻き消える。自分をももみくちゃにしている水を止めると水は横に大きく広がって行くから、私は床に膝をついて大きく咳き込んだ。


首が痛い、苦しい…!

しばらくゲホゲホ咳き込んでから後ろを見る。ゴーストの男子は後ろにいないし声もしない。聖水に飲み込まれて浄化したのかも。


ああ…と息をついて手をかすかに動かすと、指先にカツッと何かが当たる。聖水を入れていたビンだわ。


ああ勿体ない、貴重な聖水が…。


そう思いながらビンを持ち上げるけど重さ的に水の量は減ってない気がする。


「あら?」


近づけてよくよく見てみる。やっぱりビンの中身は満タンだわ。今手から取り落としてこぼれたはずなのに。


…もしかして今、水柱を立てたついでに中身が補充されたのかしら。


あれ、もしかしてだけど、水関係の精霊から力を分けられた今なら聖水の中身が減ったらビンの中身をまた増やすこともできる?それならこれから聖水を買うお金が浮くわ。でもケチくさい?でも永遠に聖水が増えるなら近くに神殿とか教会とかがなくても安心よね?

ああでも聖職者たちもこういうのを売って運営費に回しているはずんだから、そんなことをしたら運営費に回るはずのお金が…。けど赤字って言われてからポンポンお金使うのもどうかと思うし…。


グルグルと考え込んでいると段々と体が冷えてきて、思いっきりクシャミをした。


最近はめっきり気温も風も冷えてきたわよね。それも今日は曇り空だし、日の差さないお城の中は外より各段に冷えびえしてる。それも霧がかかっているから全体的にしっとりしているし私はずぶ濡れだし。そりゃあ冷えるわ。


キョロキョロと見渡して、どうせ誰も居ないし周りからも見えやしないわよねと着替え始めた。

タオルで髪の毛をしぼって水気をきって、体も軽く拭いてから新しい服に着替る。


それでも一番上の白いローブは重要な装備品だから変えられない。とにかく絞って絞って水気を抜いてから上に羽織る。シトッとしているけれどしょうがないわ。今は敵が周りに居るんだから防御力の高いローブは大事。


それにしても…。


「大きいバッグがあって良かった…」


前の荷物入れだったら濡れた服をそのまま入れたら周りの物にも水気が移ってびちゃびちゃになるところだけれど、この大きいバッグだったら他の物とくっつく心配がないからぐちゃっと丸めて適当に突っ込んでも大丈夫。後でどうにかする。


「…リー!」


バッと頭を動かした。この声は…。


「アレン!?アレンなの!?」

濃霧の中はしっとりしてるからずっと目を開けたまま瞬きしないで歩ける。冬だったらそのまま雪が目にズヒュッと入ってくる。

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