次への行動!
アレン
「サードー!ガウリース!エリー!サムラー!助けてー!俺襲われてるー!俺めっちゃ襲われてるー!貞操の危機ー!」(クソデカボイス)
アレン周辺の部屋に宿泊していた人たちの反応
「(え!?勇者御一行が近くにいる!?)」(飛び起きる)
「(貞操!?何それ気になるエロの予感)」(飛び起きる)
「(夜中にうるっせえなあクソ)」(イライラ)
「(BL!?TL!?どっち!?)」(飛び起きる)
「(貞操かぁ………( ˘ω˘)スヤァ)」(夢の中へ)
「え?リギュラが普通に部屋の中に入ってきた?」
部屋が男陣とは離れていて一番最後に駆けつけた私はアレンの部屋にやってきて、アレンから聞いた話に信じられないと返す。
アレンは頷きながら、
「めっちゃ怖かった…押し倒されてベッドに押し付けられてエロ小説みたいに俺の貞操奪われると思った…」
アレンは恐ろしかったとばかりに言っているけれど、その言い方だと余裕がありそうなのよ。
「貞操は…基本的に女性に使う言葉だと思いますよ…」
「つーかお前言うほど綺麗な体なのかよ」
ガウリスとサードが軽く突っ込んでいる。それでも何事もなくてよかったって顔をしているわ。
「けど吸血鬼は人にどうぞって招かれないと建物に入れないとかダマンドさんも言ってませんでした?」
サムラもとっくに眠っていた時間でしょうに、アレンの叫びを聞きつけて駆けつけたのね。おかしいんじゃないですかって顔で皆を見ているわ。
「アレン…もしかして話の流れで軽くどうぞって招いちゃったんじゃないの?」
ジト目で疑いを持ちながらアレンを見ると首を一生懸命ブンブン振りって、
「何も言ってないって、ただ何か良い情報言わないかなって会話してただけで部屋に入れるようなことは何も言ってない!そうしたら霧っぽくなって窓の隙間から入ってきて…」
必死に説明するアレンの言葉を聞いて、サードは何か考え込むように独り言を呟いている。
「…招いていないのに勝手に入ってきた…?ダマンドは家に入れず、図書館にも入れずじまいだった…妻とイブラに招かれて入れるようになった…」
そこでサードはピンと来た顔で顔を上げる。
「もしかしたら誰に招かれてもいいってもんじゃねえのかもしれねえ。ダマンドのケースで考えるとダマンドが死んだらその妻がその家の主人になった。ペルキサンドスス図書館の主人は図書館の館長だ。
ってことはその建物の主人と言える奴が招き入れたら吸血鬼はその建物…家に侵入できる。そういうことなんじゃねえか?」
するとガウリスは驚いたように聞き返す。
「それならこのホテルの支配人かオーナーか…その方がリギュラさんをこのホテルに招いたかもしれないということですか?」
ガウリスの言葉にサードは、
「確実じゃねえがな。ダマンドの話を聞いて考える限りそうなんじゃねえかとは思う」
そのサードの言葉にゾッとした。
それじゃあリギュラはこのホテルにいくらでも侵入できるってことじゃない。それも窓もドアも鍵を閉めてきっちり戸締りしていても、わずかな隙間から霧になって…。
それだけじゃない。暗闇があれば姿も見せないまま自由にあちこち移動もできる。もしかしたら今も暗闇からこっちの話をジッと隠れ聞いていて背後から攻撃しようとしているかもしれない…。
ガウリスは少し考え込んでからサードに声をかけた。
「どうしますか?今からでも別のホテルに移りますか?」
サードはすぐ首を横に振る。
「相手は暗闇さえあればどこにでも現れる。夜に動き回るのは得策じゃねえ」
サードはそう言いながらアレンを見て、
「それに神の祝福を受けてもリギュラはお前に触れたんだろ?首をねじ折られるぐらいは簡単にできるはずだしな」
そう言われればって顔でアレンは続ける。
「思えば普通にリギュラ俺に触ってた…。そこは魔族と違うんだな。でもリギュラ俺にキスしようとしたけど咳き込んで離れたから血も吸われないと思う。やっぱ神の祝福効果あるわ」
「キスされそうになったの?」
ギョッとして聞くとアレンは平然と頷いて、
「なんか吸血鬼にキスされると吸血鬼になるんだって。でもキスされる一歩手前でリギュラ咳き込んで離れたからセーフ」
そう…なの。キスされたら吸血鬼になるとかモンスター辞典には書いてなかったけど、そんなことでも吸血鬼になっちゃうんだ…。
誰でも知っているような吸血鬼だけど、まだまだ分かってないこともたくさんあるんだわ。
私はチラとサードを見る。
「でもどうする?リギュラこのホテルに入って来放題よ。アレンが危ないわ」
「アレンよりエリーの方が危ねえだろ、あいつ女は容赦なく殺すって言ってたの忘れたか?」
「…」
そういえばそんなこと言ってたっけ。どうしよう…。
サードも少し考えてから、
「今日は全員で同じ部屋にいてガンガンに部屋明るくしておく。そんで一人ずつ交代で見張りだ。俺とアレンとガウリスで…」
「私は眠らなくてもいいので私が起きて見張りますよ、危険なことがあれば起こします」
ガウリスの言葉に、そう言えばこいつろくに寝なくてもいいんだったな、って顔でサードはガウリスを見て「それなら頼むぞ」と肩を叩く。
そんなわけで全員が一番広い私の部屋に毛布と枕を持って集合して、各自の部屋にあるロウソクを至る所に置いてなるべく暗闇が少なくなるように配置した。
「気休めだけどな」
と言ってサードは床に寝っ転がった。
ガウリスは窓と入口が見渡せる位置に椅子を置いて完全防備に槍を持って座っている。アレンは自分の部屋から持ってきた枕を床において布団をかけると、
「友達の家に泊まりに来たみたーい」
ってさっきリギュラに襲われかけたことすらなかったかみたいに浮かれていて、サムラはいそいそと毛布にくるまって目をつぶる…。
「…ねえ、一人だけベッドに寝るの心苦しいんだけど…」
私だけものすごく質のいいベッドで、皆が床で雑魚寝状態なんだもの。ガウリスは椅子に座って朝まで見張りだし。
するとアレンがガバッと起き上があった。
「それなら俺隣で添い寝しようか?」
「いらない、おやすみ」
ボフッと枕に埋もれてそのまま目をつぶった。
* * *
とりあえずその夜は何事もないまま朝になって、朝食を終えてからすぐホテルを変えた。
サードはチェックインしてから即座に支配人を呼び出して、
「実はこの町に熱狂的な我々勇者一行のファンがいるようで、昨日仲間の部屋に侵入されまして…ええ、大事には至らなかったのですが身の危険を感じましたのでこちらのホテルに移動したのです。ですからこういう特徴の方がこのホテルに入りたいと言っても断って欲しくて…」
ってリギュラの容姿を事細かに伝えて、支配人も分かりましたと頷いていた。
そのままサードはサムラを引き連れ、どこかに行ってしまった。
どこに行ったのかは分からないけれど、何をやるのかは分かる。だってサードは朝にサムラに言っていたもの。
「サムラは今日は俺と練習するぞ、俺が出して欲しいキャラクターを完全完璧に出せるようにな」
その言葉にサムラは大変だ、と気を引き締めた表情で「はい!」って答えていたけど…大丈夫かしら、純粋でひたむきに頑張るサムラを貪欲にどこまでも完璧を目指すようなサードと二人にして…。
そう思いながらもとりあえず残った私とアレン、ガウリスは部屋に向かって、部屋に入る。
ドアを開けて中に入って、わぁ、と思わず平坦な声が出た。
「狭い…」
「本当だ…狭い…」
「これは…」
リギュラ対策で全員一部屋で寝る。サードがそう決めた。
だから五人一部屋で泊まれるホテルを探してチェックインしたんだけど…。
ベッドでほとんど部屋が埋まっているじゃない。それもベッドとベッドの距離が近いから人の通れる隙間がほとんどない。私はともかくアレンとガウリス移動するの大変そう…。
でもまあこういう時だからしょうがないわと自分の寝たいベッドに荷物を置いておく。
「じゃあ俺らは昨日と同じくリギュラとかキシュフ城の情報集めかな。つっても、昨日サードが集めた以上の情報も手に入らなそうだけどな…一応ハロワに行ってこの辺に吸血鬼っぽい情報あるかどうかくらいは調べておくかぁ」
「じゃあ私たち三人で情報集めね」
「いえ私は…」
ガウリスがやんわり断るようなことを言いながら手を上げるから「ん?」と顔を向ける。
「すみませんがちょっと別に調べたいことがありますので、私は一人で行きます」
「…そう?」
「ええ、それでは」
ガウリスはそう言うと微笑みを残して去っていって、ドアを閉める。
それにしても別のことって何かしら。サードに何か言いつけられてたかしら。
思い返してみるけれど、サードはサムラにあれこれと今日やることを伝えていたけれどガウリスにあれを調べろこれを調べろって命令するようなことは特に言っていなかったはず。
…何でかしら、今のガウリスに妙な違和感を感じる…。
うーん、と悩みこんでふっとある考えに行きつく。
そうよ、思えばガウリスは一人で別行動する時、私たちに行先とか要件を伝えていたじゃない。
「○○について調べたいので○○に行ってきますね」
とか。今はそういうことを何も言わずに行ってしまったわ。
それにいつもなら調べるってなれば何も言わずに同じものを調べてくれるのに。
思えばラーダリア湖の精霊の国でもサムラとアレンが制御魔法を習うって時も要件も何も言わないで別行動していたわ。
「ガウリス、最近一人で行動すること多くなったわね?」
何となく思ったことを言うとアレンは、
「まあガウリスだって一人で行動したいこともあるよ。そこはプライベートだしあんま気にしない方が良いと思うぜ」
…まあ、パーティを組んでいるからっていつでも一緒で全部お互いのことを全部知らないといけないなんてことはないし、皆いい大人なんだし…プライベートと言われればそうなんだけどね…。
でも何となくよそよそしくて気になるわ。何かあったとかじゃなきゃいいんだけど…。
Q,吸血鬼にキスされたら吸血鬼になるの本当ですか?
A,作者は何かでそういう設定の吸血鬼を見たんですが、吸血鬼ドラキュラだったか、他の創作小説内の吸血鬼の設定だったのか記憶が曖昧です。あまり信じない方がいい。




