表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

268/507

聖堂で

宿屋の窓から見えた聖堂にたどり着いて、年季の入った木製の扉をキィ、と開けて中に入る。


部屋から見ていても小ぢんまりとした聖堂だと思っていたけれど、中に入ってみても見た目通り割と小さめね。

入ると少し広いスペース、それから木製の長いすが六列くらい並んでいて、長椅子と長椅子の真ん中には年季の入った赤いカーペット、その一番奥には…黒い衣服をまとった修道士のような身なりの丸い帽子をかぶった人が祈りを捧げている。


あの人がここの責任者なのかしら。


近寄っていくと私たちの足音に気づいた修道士は振り返って立ち上がった。


見た目的に…ガウリスよりも確実に年上の男の人。丸い眼鏡をかけていて柔和な微笑みを浮かべて、柔らかそうな小麦色の髪の毛が動くたびにふわふわ動く。


修道士はまじまじと私たちを見てからそそそ、と近寄ってきた。


「あの…間違いかもしれないのですが…今活躍している勇者御一行ですか…?」


サードは表向きの顔で、勇者一行です、と微笑み、


「神の祝福を受けたいのですが、お願いできますか?」


って聞く。すると修道士は、ファッと妙な声を出して驚いた。


「まさかこんな…ここでですか!?」


…まさかこんな、ここでですかって言われても…。

もしかして神の祝福をやっていないのかしら、サードのいたフェニー教会孤児院も昔はやっていなかったらしいし…。


サードも同じことを思ったのか、


「ここではやっていませんか?」


と聞くと修道士は首を横にふりながら、


「いえやっていますけど…でも…うーん…」


首を傾げて腕を組みながら悩む素振りを修道士がする。


「何かまずいことでもあるの?」


アレンが聞くと修道士はいいえ、と首を横にふって、


「もう少しこの道を向こうに行ったところに人気の大聖堂があるんですが、そちらで神の祝福をしていただいた方が勇者様たちに(はく)がつくだろうにと思いまして…」


「人気の大聖堂?」


聞き返すと修道士はええ、と頷いて、


「あちらの大聖堂は昔の名だたる画家の描いた有名な天井画があって、この辺りに出没していた人食いの大男を倒した英雄リトラーンが神の祝福を受けたと有名なのであまりここに人は来ないんですよ。

建築様式にはこだわりがちりばめられているので修行中の職人はよく見学に来られるんですが、それ以外に有名な絵画(かいが)もエピソードもないので…」


いやはや、と情けない顔つきで修道士は言いながら続けた。


「別に私は気にしません、せっかく足を向けてもらいましたが向こうの大聖堂で神の祝福を受けた方が…」


サードはそれを聞いてニッコリ笑った。


「いいえ、むしろそのように気を遣うあなたにやっていただきたくなりました」


「えっ」


「お願いできますか?」


「…まあ、私としては断る理由はありません、勇者様たちがよろしいのでしたら」


そう言いながら修道士は私たちに本当にいいのかって視線を向けてくるけれど、私たちだってそこまでえり好みしない。やってもらえるならどこでもいいもの。


皆も同じ気持ちなのをみたのか、修道士は「それなら今から準備をしますので…」と準備に取りかかった。


去っていく修道士を見送りながら、何となくサードをチラと見る。

人が少ないここの聖堂に気を使ったのかしら。だって私たち勇者一行がここで祝福を受けたってなれば少なからず人が来るはずだもの。


サードはそんな私の視線に気づいたのか、私をチラと見返してハッと鼻で笑う。


「人気の大聖堂は混んでるだろ。こっちは誰もいねえからすぐできる。効果が同じならどこだっていい」


…まあそうよね、サードが気を使うとかそんなことするわけないわね。当たり前のことだった。


サードから視線を逸らして聖堂の中をぐるりと見て回る。確かに修道士の言う通り建築の様式は凄く細かくて丁寧だわ。


床も壁もツルツルで自分たちがうっすら映るほど綺麗だし、色は柔らかい薄ピンク色。秋の午前のスッキリ爽やかな日差しが入り込むと柔らかい空間に包まれているみたいでどこかホッとする。


一人で教会の裏に何往復もしつつ色々と物を持ってきてあれこれ準備している修道士にガウリスが声をかけた。


「手伝いましょうか、元神官なので聖魔術の準備には慣れています」


「おやそうなのですか、でしたら言葉に甘えてそちらの方をお願いします」


お任せくださいってガウリスは準備を手伝い始めていると修道士がガウリスに声をかける。


「聖魔術は習っておいでですか?」

「いいえ、私は魔力はないので習っていません」


「おやそうなのですか、適正以上に力がありそうな気がしますけどね」


「神殿でもよく言われていましたが、それでもないんです」


…正直、神様と同等の立場になっているんだから絶対ガウリスは魔法を使えるって私も思うんだけどね…。


二人の会話を聞きながら聖堂の中をウロウロしているうちに準備は終わったみたいで、


「では皆さん、ここに横一列に並んでください」


って声をかけられた。


きらびやかに装飾された祭壇の前に全員で横一列に並ぶと、修道士は聞き取れそうで聞き取れない言葉で祈りらしい言葉を捧げて、聞き取れない言葉を言いながら私たち一人ひとりの頭に手をかざしていく。

修道士の手がかざされると頭にフワッと暖かいものが感じられる。これは…魔力ね、聖魔術どころか神の祝福も初めて受けたけれど、何となく手が頭から離されるころには頭も心もスッキリして目の前が輝いているような感じがする。


ただ光が窓から入っているだけかもしれないけど…それでもさっきまでと見えている景色がほんの少し違う、明るい。これも神の祝福効果なのしかしら。


修道士は一人一人に同じことを続けたあと、金色の小さめの杯に水を入れて、呪文を唱えながら杯に香料のような物を一滴ずつ入れて一人ずつに手渡していく。


「あとはこれを飲んでくだされば神から皆さまに祝福が与えられます」


へえ、神の祝福って案外と短い時間でできるの。準備している時間の方が長かった気がする。


そう思いながら金色の杯を受け取ると、一口で飲み干せそうなぐらいの水が入っている。これなら一度に飲めるわねと口をつけて一気に飲み干した。

さっき入った一滴の香料…それの香りかしら。鼻から甘い匂いが抜けていって、口の中にも甘い味わいが残る。


「美味しい、甘い」


お菓子みたいな甘さじゃないけど、それでも満足できるような甘さ。見た感じだとただの水なのにこんなに甘いなんて。


私の言葉に修道士は、


「甘く感じたのなら神から大いに祝福を受けられたということですよ。良かったですね」


と微笑まれると、ガウリスも同じような良かったですね、という微笑みを浮かべている。


そう言われると嬉しくなって、


「皆は?」


って両隣にいる皆に聞いた。


「樹液みたいで美味しかったです!」


サムラは顔を輝かせて喜んでいる。そう、大いに祝福をもらったのねと思いながらアレンとサードは、って視線を向けると、アレンは微妙な顔を浮かべていた。


「なんていうか…水」


どうやらアレンはそれなりの祝福を受けたみたい。…サードは?


アレンの隣にいるサードを見てみると、微妙な顔を浮かべていた。まさか不味かったとか?

うーん、ありえるかもしれない。サードは神様への信仰心が皆無だもの。でも不味いくらいなら良かったわ。もしかしたら神の祝福を受けている途中で具合が悪くなって泡を吹いて苦しみだすんじゃないかってここに来る道中で思って少し心配していたから。


「別にどっちがより強く祝福されたというわけではありませんよ。神の祝福を感じやすいか感じにくいかということもありますので」


本当にそうなのかフォローなのか分からないけど修道士がそう言ってから私たちに質問してくる。


「ところで神の祝福を受けたのならアンデッドモンスターの討伐依頼でも受けたのですか?」


サードはやや口を引き結んで少し考えている顔つきになる。


この町近くにあるキシュフ城にいる吸血鬼の討伐。一言で説明できるけれど、リギュラはダマンドとの仲を邪魔するのなら容赦なく殺すって繰り返していたもの。

仮にここで吸血鬼討伐しにいくって伝えて目の前の修道士が色んな人に私たち勇者一行が吸血鬼を倒すらしいって言いふらされて噂が広まってしまったらリギュラが何をしてくるかわかったものじゃない。多分サードはそんなことを考えていると思う。


一瞬考えてからサードは口を開いた。


「相手は少々厄介でしてね、ここであなたに説明したらあなたに害が及ぶかもしれません。お世話になったあなたを危険事に巻き込みたくないのでこれ以上は」


心証が悪くならないように言っているけれど、要はこれ以上聞くなってことね。

…それにしてもサードの丁寧な表向きの言葉の裏にある本当の言葉をこんなに簡単に分かるようになってしまって…何か嫌だわ。


それでも修道士もそれ以上聞き出そうとする素振りもなく頷くと、ポケットから何かを取りだしてアレンに渡した。


「ん?」


アレンは渡されるがままに受け取って目の高さまで上げる。それは神を崇める建物の天辺に必ずついているエンブレムの首飾り。


修道士は微笑んだ。


「あなたに差し上げます。全てが終わるまでこれに紐を通して首周りにかけていてください。ある程度災いから守ってくれるでしょう」


「…ん?うん、ありがと」


アレンは何で俺に?っていう怪訝(けげん)な顔をしていたけれど、とりあえずポケットに入れる。


ふと見るとサードも何か怪訝な…疑っているような探るような表情で修道士を見ている。でも修道士はそんな視線を受けてもただサードに微笑み返した。


「…本日はありがとうございました」

「いいえ、また何かあればどうぞ」


何か引っかかるような物言いのサードに修道士は笑顔で返して見送ってくれる。


外に出て扉を閉めて、サードは小ぢんまりとした聖堂を見上げて軽く笑った。


「ここで受けて良かったな、あの修道士は本物だぜ」

「そりゃ本物の修道士だろ」


アレンがおかしそうに笑うとサードは違う、と首を振る。


「どこまであの修道士が知ってるか分からねえが、リギュラに狙われてて一番神の加護とやらが必要なアレンにそのエンブレムを渡しただろ」


「ただプレゼントしたとかじゃないんですか?」


サムラが聞くとサードは続ける。


「神の祝福は魔族にも効果がある。なのに何であの修道士はアンデッドモンスターの依頼かって限定して聞いてきて、詳しいことも言ってねえのにエンブレムを首周りにつけろ、そうすれば災いが避けられるって言った?」


そう言われればそうだわ。

思えば妙よね?誰も何も言ってないのにどんな存在とこれから関わって、その中で誰が一番危険なのか全部分かっているような感じじゃない。


サードはアレンに視線を向けた。


「アレンにはそのエンブレムが必要だと思ったんだろ。あとで紐を通して首につけてろ。あとは各自散らばってキシュフ城とあのリギュラの情報集め。ガウリスはサムラに付き合って残りの読み聞かせの続き、いいな」


サードはもう何事もなかったみたいに話を次に進めていくけれど、何となく後ろの聖堂の中にいる修道士が気になって振り返る。扉はもう閉まっていて中の修道士は全然見えないけれど。


聖堂を見上げると空が目に入った。

思えばサンシラ国の神様たちは人の心の中を読み取る力を持っていたわ。もしかしたらあの修道士の男の人はそれと同じように人の思考を読み取る力が備わっていたんじゃ…。


「…思ったよりあの修道士ってすごい力持ってる人だったとか?」

「だな、いい所に入った」


サードはあっさりそう言うと、散れとばかりに歩いて行った。


…サードって不思議な現象は大体否定的だけど、実際に起きたらあっさり受け入れるわよね。変な奴。

私が小学低学年のころ、周囲には人の心を読む人が少なからずいると思っていて下手なことは考えられないぞと警戒していました。

小学生が何をそんなに警戒していたんでしょう。分かりません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ