表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

267/507

吸血鬼討伐に向けて

吸血鬼(ヴァンパイア)


魔族ではないが魔族と同等の強さを持つアンデッドモンスター。吸血鬼に血を吸われ死ぬとその者自身も吸血鬼となって夜をさ迷う。昼間は棺桶の中で寝ているが夜になると動き出し人の血をすすりに行く。

知能はかなり高く腕力も非常に強い。闇の中を自由に移動できる。人間と同じような魔法を駆使し使うが、魔力は人の倍であると考えられている。戦うとなると非常に厄介な相手だが、魔族と比べるとその弱点も格段に多く確認されている。もし戦うのであれば弱点を頭に叩き込んで必要な物を万全に揃えてから戦いに臨むのがいいだろう。


攻撃…夜に血をすすりにくる、動物を操り使う、腕力が強い、闇や霧に紛れこむ

防御…魔族と同じくらい体は頑丈であるが、物理、魔法攻撃どちらにせよ有効

弱点…神関係(エンブレムや聖水、聖歌など。戦うなら事前に神の祝福などを受けるといいだろう)、ニンニク、日の光

その他…吸血鬼は鏡には映らなく影がない。確実に復活させない方法としては心臓に杭を打ち付ける、頭を切り離しておく、燃やしてその灰を川に撒くなど』


図書館の絵本のキャラクターが動き回る件から一夜明けて、私はモンスター辞典で改めて吸血鬼の項目を読んでいた。

吸血鬼は有名だから大体のことは知っているわと思っていたけど、モンスター辞典で調べるとこれは知らなかったって情報もたくさんあるものね。


動物を操る、鏡に映らない、影が無い、霧に紛れる…。


吸血鬼はこんなことも出来るんだわとモンスター辞典から顔を上げると、目をしょぼしょぼさせながら絵本を読むサムラが見える。


今サムラは魔族相手でも戦ってくれそうなキャラがいるとダマンドが選んだ絵本を借りて、文字をガウリスから習いながら自力で読んでいるところ。


昨日の夜、サムラに絵本のキャラクターを出す方法を教えてくれってサードがダマンドに伝えた時のことを思い出した。


それならとダマンドは早速サムラに教え始めて、


「私はこのキャラクターが仲間になってくれたらと強く考えていたら外に出たんだ。だから君もこの絵を見てこの人物が仲間になってくれればと思えば出てくるはずだ」


「えっと…幻覚魔法は…」


「幻覚魔法は頭に核があるわ。頭の中のイメージをそのまま外に出すって感じかしら」


貴族時代、家庭教師のヤーレイからかすかに聞いていたことをそのままサムラに伝えると、サムラは頭を両手で抱えて物試しとばかりにその場でむーん、と力を込めたら、あっという間に目の前に人型のものが現れたっけ。


そうしたらアレンが絶叫して私に引っ付いてきたわ。


でもあれはさすがに私だって叫ぶわよ、だって人型ではあったけれど、体も顔ぼやけているお化けそのものの姿だったんだもの…。


サムラの目から私たちはこう見えているんだってよく分かった、もうこれだったら服の色と声で判断するしかないレベルだって。

それもサードが触るとモヤモヤ…と消えていったわ。


「恐らくこれは想像力の強さが如実に反映されるものですね、感触や体の弾力というのが全くありません。ダマンドさんが出したキャラクターと同じくらい完璧に作り出してもらわねば敵と戦えませんから明日から練習しましょう。まずはキャラクターの姿形をしっかり把握していただきます」


ってことで、幻覚(イメージ)を作り出すことは簡単にできたのだからあとはしっかり姿かたちを作れるようにすること、絵本を読んで内容を把握したうえでキャラクターの性格や攻撃方法を覚えること。

それがサードがサムラに出した課題で、サムラは絵本に顔を埋めるくらい近づいて本を読んで、分からない文字は隣にいるガウリスが教える。


…ってことを朝からやっているけれど、サムラはもう限界とばかりに本から顔を離して「うう…」ってうめきながら目と目の間を指でつまんでいる。


「目が辛いです…」


目をショボショボさせながらサムラが目の周りをマッサージしつつ泣き言をいう。


「よく見えない状態で必死で見ようとするから目が疲れるんですね、一旦休憩しますか?」


ガウリスが声をかけるとアレンが、


「文字読むの辛いならサムラがガウリスの膝の上に乗って読み聞かせしてもらったら?そのあと絵見て文字見た方が覚えやすいと思うし、ガウリスおっきいしサムラちっちゃいから丁度よくね?」


ガウリスはアレンを(いさ)めるように見る。


「アレンさん、サムラさんの見た目は少年でも年配の方なんですよ、それは失礼です」


サムラは目の周りをぐるぐるとマッサージしつつ、


「読むのが楽になるのなら気にしないです、お願いします」


「…そうですか?」


サムラが気にしないなら…とガウリスはサムラを膝の上に乗せて親子の読み聞かせ状態で読み聞かせする。


そうやって一回ガウリスが読み上げたあとにサムラは顔を近づけて、ここはさっきこう言っていたからそういう意味の文字と単語って自力で読んでいる時より理解しやすくなったし目の負担もかなり減ったみたい。


段々とサムラは目を輝かせて、


「本って楽しいですね。色んな話があって。次お願いします」


サムラは次の本をつかんで絵本を開いて、ガウリスは、


「むかしむかしあるところに…」


って促されるがまま話し始めている。


…。それにしてもガウリスとサムラの体格差がすごいから本当に親子の読み聞かせみたい。

私も子供のころは屋敷の皆にああやって膝の上に乗せてもらって本を読んでもらっていたっけ。結構幸せになれるのよね、大人にああいう感じで本を読んでもらうの。


昔を懐かしんでいるとサムラが読み終わって脇に置いていた絵本を誰かがスッと手に取っていく。


見るとサードだわ。サードが絵本を広げて読み始めている。


ええ…サードも絵本読むんだ、意外。


少し驚いているとアレンも絵本を読むサードに気づいてニヤニヤと話しかける。


「サード絵本面白い?」


サードはアレンをかすかに睨み上げた。


「ダマンドが出した意外で使えそうなキャラクターが居ねえか探すんだよ」


ああそう、ってアレンは軽くつまんなそうにしてから首を傾げる。


「けどさ、絵本のキャラクターよりなら大人向けの小説に出てくるモンスターとか出した方が強いんじゃね?あの王様だってサードにすっげぇ負けてたじゃん」


ちょうどページをめくったタイミングでガウリスは顔を上げてアレンの言葉に返した。


「大人向けの小説だと挿絵がないものがほとんどです。それよりなら最初からそこにしっかりと描かれている者の方が想像しやすく現実化させやすいのでは?ページ数も少なくすぐ読み終わりますし」


「そっかぁ」


ガウリスの言葉にアレンはすぐ納得したのか頷くと、サムラ読み終わった絵本を手に取ってペラペラとめくる。


なんとなく皆が絵本を読んでいるのんびりした空間が出来上がっているけれど、皆覚えているのかしら。

私たちが吸血鬼リギュラに目をつけられているって。


とりあえずリギュラは敵対しないなら何もしないって忠告していた。でもアレンが妙に気に入られちゃってたから、これから狙われて色々ちょっかいを出されると思うのよね。

だとしたら完全に敵対関係にならざるを得ないじゃないの。アレンを守らないといけないんだから。


そうやってアレンが気に入られているのにダマンドも昨日「それにしても厄介なことになった」って言いながらアレンに話しかけていたわ。


「アレンくん、君は一番気をつけなさい。奴に気に入られたのなら私と同じ目に合うだろう。いいか部屋に訪ねてくるあいつを絶対に!招き入れるようなことだけは言うんじゃないぞ!

恐らくだが私を含め吸血鬼は最初に入る建物には誰かに招かれないと入れないんだと思う。いいか、絶対に拒否するんだ、絶対にだぞ!」


とにかく必死に忠告するダマンドの言葉にアレンはキリッとやる気のある表情で即座に、


「うん分かった!」


って力強く頷いたけれど、ダマンドは何となく心配そうな目でアレンを見ていた。

多分何の焦りも恐怖も深刻さも感じられない、自分はきっと大丈夫、多分。って何も考えてなさそうな雰囲気だったから。


…っていうかアレン、自分が吸血鬼に狙われてるって知っているの?実は気づいてないからこうやってのほほんと絵本読んでいるんじゃ…?


そんな疑惑を持って見ているとアレンと目が合った。


「読む?」


アレンは絵本を渡してくるけれど、別にアレンの読んでいる絵本が読みたくてジッと見ていたんじゃないのよ。


それでもとりあえず受け取りながら、


「ねえ、アレンはリギュラに狙われているのよ?分かってる?」


って聞く。アレンは「え」と言いながら私を見た。


「けどあのリギュラ、ダマンドにすっげぇ執着してたし俺そんなに狙われねぇと思うんだよな。顔も好みじゃないって言われたしさ。…でも別に好かれたくもないけど顔が好みじゃないって言われるの結構ショックだなぁ…」


アレンはそんなことを言いながらションボリした顔をしている。


「あのリギュラという方は見た目がずっと年上の男性が好みなんだと思いますよ。アレンさんは若者ですから範囲外というだけです」


ガウリスがそうアレンを慰めている。

でも顔の好みとかそういうのはどうだっていいのよ。


「リギュラはアレンも吸血鬼にするって宣言していたじゃない、もっと焦った方がいいんじゃないの、何でそんなに落ち着いてるのよ」


まるで他人事みたいなアレンをダマンドだって心配していたんだし、狙われている当事者なんだからもっとあれこれと対策を考えるとかないわけ?


非難がましくなった私の言葉にアレンは何で私がそんなに怒っているんだろうって顔をしながら、


「いやー…何か大丈夫かなーって。皆もいるし」


「…」


イラッとした。

気楽なのはアレンの良い所だけど、今は気楽すぎんのよ…!もっと真剣に考えなさいよ…!


するとサードも今のアレンの言葉にイラッとしたのか、


「アレンてめえ、その余裕のまま普通に吸血鬼になったら置いていくからな」


「えっ!やだぁあ!俺を見捨てないでー!」


サードの見捨てる発言にようやくアレンは焦り出した。

ハァやれやれ、と私は呆れながらため息をついて、さっき見たモンスター辞典の吸血鬼の項目を開く。


「だったら神の祝福を受けに行きましょ、ここにも吸血鬼と戦うなら神の祝福を受けるのがいいだろうって書いているもの」


今はまだ午前でリギュラも動けない時間帯だけど、夜になったら昨日みたいに暗闇に紛れて私たちの周辺に潜んで狙ってくるかもしれない。だったら今のうちに神の祝福を受けてしまえばいいわ、ダマンドも日が昇ったらすぐ神の祝福を受けに行きなさいって勧めていたもの。


「神の祝福ねえ…。ガウリスお前できねえのかよ、元神官だろ」


ガウリスは申し訳なさそうに眉をひそめた。


「申し訳ありません、私は生まれつき魔法が使えないので神殿で習っていないのです」


「お前龍になってんだろ、それでもできねえってのか」


本来こちらから伺いを立てることなのに、何でサードはそんなに上から目線なのよ。


「リュー…?リューって何ですか?」


サードの言った龍の発言にサムラは何それって顔をしている。


「ガウリスは龍って生き物になっててさ、蛇がでっかくなった見た目で雨とか雷とか自然災害すっげー起こすことできるんだよ。二回見たけどすごかったんだぜ、俺も食われそうになってヤバかった」


アレン。神様と同等の存在って付け加えてるの忘れてる。それもその説明だと人も食べるし悪さしかしないヤバいモンスターじゃない。


「ええっ」


サムラは驚いた顔でガウリスの膝の上からガウリスを見上げる。


「じゃあガウリスさんも僕と同じで、どちらかといえばモンスターに近い種族ってことなんですか?」


「…ええ、まあ、そういうことでしょうか」


しかもガウリスも神様と同等の存在だって遠慮して言わないからモンスターだって認めた風になっているじゃない。


サムラは改めてガウリスを見上げる。


「…人を食べるんですか?」

「食べませんよ」


「じゃあ何でアレンさんを食べそうに…?」

「…その時の記憶がなくて…」


ガウリスは何とも言えない顔で答えていて、膝の上に乗っているサムラはかすかに体を強ばらせて緊張し始めている…。ヤバい、サムラがガウリスを危険人物扱いし始めてる…!


「あのねサムラ、ガウリスはその時ものすごく怒った状態で、そうなったらしばらく誰も止められないのよ、ガウリスも我を忘れて自分で自分が抑えられない状況だったの。

喉に鱗があってね、そこを触らなければそんなことにはならないし、ガウリスが理由もなく人を襲ったりすることもないのも今までで分かるでしょ?」


サムラは私の言葉に納得したのか、はい、って頷いて緊張がほぐれる。


「ガウリスさんの喉を触らなければいいんですね」

「ええ」


よかった、これからサムラがガウリスを警戒することにならなくて。…ついでにガウリスは神様と同等の存在になってるってことも伝えようかしら、サムラだったら別に知ってもどうにもならなそうだし…。


サムラに伝えようとするより先にガウリスが口を開いた。


「昨日カリータさんも言っていましたが、この辺りには随分と聖堂があるようです、ここから見えるあの聖堂に今から行って神の祝福をやっていただきましょうか?」


私の部屋は割と高い位置だから、窓からは小ぢんまりとした聖堂のとんがった屋根が見える。その聖堂を指さしながらガウリスが私たちに伺いを立ててくるけれど、サードは黙り込みながらガウリスに聞いた。


「お前本当に神の祝福できねえのか?見よう見まねでできねえもんなのか?」


「そう言われましても…神の祝福は聖魔術の一つで修行が必要です。私は一度も習ったことがありませんからプロにやっていただくのが安全だと思います」


「…神に祈るごときのことで金取られんのか…どれくらいボラれるんだか…」


サードがものすごいため息をつきながら頭をガシガシかいている…。こいつ…さっきから神の祝福をガウリスにやらせようとしているとは思っていたけれど、あんまり神様に対して信仰心がないからそんなことにお金を使いたくないのね…?


でも吸血鬼の関わっている状況なんだからしょうがないって諦めた顔をサードはするけれど、どこか諦めきれないのか腹いせなのかイライラしながらサードはガウリスに視線を向ける。


「その聖魔術?やり方覚えとけ」


ガウリスは言葉に詰まった。


「聖魔術は一定期間の修行が必要…」


「そんなもんどうだっていい。とにかく覚えとけ、お前ただの人間じゃねえんだから覚えときゃ使えるだろ。じゃああの聖堂とやらに行くからてめえら準備しろ」


サードはそう言うなりさっさと部屋から出ていった。


「…」


ガウリスはあまりに無茶なことを言われて困った顔で黙り込んじゃっている…。

私はガウリスに近寄って肩を叩いた。


「ガウリス」

「…はい」


「ガウリスはもっとサードに怒ってもいい」

「…はは」


ガウリスは何とも言えない困った顔で微笑んだ。

そうやって微笑んで許すからサードもつけあがるのよガウリス…。

ガウリス

「『僕たちは旅の犬ですワン』犬たちはそろって胸をはり…」


サムラ

「ワン…」



サード

「(よく恥ずかしげもなく皆の前であんな言葉口に出せるよな…)」


エリー

「(ガウリス可愛い…)」


アレン

「(ワンワン、ワワン、ワワワワワン)」←特に何も考えてない

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ