吸血鬼の…
ダマンドは窓枠に座っている人を見て目を見開くと、慌てながらその人…男の人を指さした。
「あいつが!あいつが今話した吸血鬼の男だ!」
えっ、と皆が一斉に身構えて窓枠の方を警戒しながら見る。
窓枠に座っていた男の人はヒョイと身軽に下りると、コツコツと革靴を鳴らしマントを翻しながら歩いてくる。
「やあダマンド久しぶりだね。しばらく会わないうちにずいぶんと楽しい展開になっているじゃないか」
親し気なハスキーボイスで吸血鬼が近づいてくる。
見た目は…端目にみてもすごくカッコイイ爽やかな男の人だわ。それもダマンドと親子だって言っても違和感のない年齢差じゃない。実年齢は知らないけれど、見た目だけは。
スラッとした体に黒髪のオールバック、長い手脚、肌の色が異様に青白いけれど余裕のある微笑みとパッチリとした目元は若い女の子たちがすぐ黄色い声を上げそうなぐらい…。
すると吸血鬼はダマンドを見てニコッと手を振った。
「やぁ僕がプレゼントした服を着て整髪料も使ってくれたんだね。とても似合ってるよ、素敵だ」
その言葉にダマンドがギョッと驚く。
「何!?これはお前が置いていたのか!?妻と娘が気を使って綺麗な服やワックスを墓の傍に置いていったんじゃ…」
「いいや僕だよ。君の血を吸って気絶させた後に体の寸法を測って服を仕立てさせたんだ。お揃いだよ」
吸血鬼は自分のマントを見せびらかすように持ち上げると、ふざけるな!とばかりにダマンドはマントを脱いで床に叩きつけた。
そんな様子すら愛しいという顔つきで吸血鬼はハッハッハッハッって笑って眺めていたけれど、すぐに肩をすくめる。
「しかし酷いじゃないか、以前は名前で呼んでくれていたのに今じゃ貴様だのお前だの…リギュラという名前があるんだからその名前で呼んでくれ」
リギュラ…それがこの吸血鬼の名前なのね。
それでもダマンドはリギュラの言葉を無視して、サードに懇願するように頼み込んだ。
「お願いします勇者様、どうかあの男を殺してください!」
いつもだったらまず報酬の話から。
そんなサードも今はそんな話をしている場合じゃないと聖剣を即座に引き抜く。
「勇者?ということはそれは聖剣…おっと怖い怖い、僕らアンデッドは聖剣と相性が悪い、僕はここで死んでしまうかな?」
怖いと言いながらも全然怖く無さそうに微笑みながらリギュラは片手を腰に当てて前髪を後ろになでつける。
その動作を見たサードはふと動きを止めてリギュラを頭からつま先までジロジロと見下ろした。
リギュラはそのポーズのまましばらく黙っていて、フッと微笑む。
「おや随分と舐めるような視線で見てくるじゃないか、勇者が見とれる程僕はいい男ということかな?」
からかう口調でサードが嫌がりそうなことを言う…これはサード気持ち悪がって怒るわ。
そう思ってチラとサードを見るけど、サードは不可解な顔でリギュラを見ながら口を開いた。
「何を言っているんです?あなたは女性でしょう?」
「…は!?」
全員で声をそろえて、何を馬鹿な、あれはどうみても男じゃないってリギュラに目を移す。
リギュラはというと、軽く目を見開いて少し黙ってからニッコリ笑った。
「こんな出会い頭でよく見抜いたね、そうだ僕は女だよ。服の上から体が透けて見えるのか君は?」
えっ…。本当に女の人なの?こんなに男の人の格好をして男の人っぽい雰囲気なのに…!?
驚いているとサードが口を開く。
「輪郭」
サードはそう言いながら自分の耳の下からあご下を指さす。
「男性と女性では顔の輪郭がまず違います。それにマントでほぼ隠れていますが肩の動きに腰回りの動き、立ち姿勢もどこか女性的な動きでしたので」
リギュラは「肩と腰…?」って呟きながら自分のスーツに隠れている腰を上から眺めおろして、ふーん、と感心したような顔をサードに向ける。
「そんな所で分かるものか?君はずいぶんと洞察力に長けているようだ」
気もないようにサードを褒めながら、リギュラは最上級に微笑んでダマンドに手を振る。
「ということだ、ダマンド。性別の面では何も問題はないよ」
「ふざけるな!」
ダマンドは怒鳴った。
「私には妻も娘もいる!私は二人を愛している!自分の欲望のために人を殺すような貴様が入る隙があるとでも思っているのか!」
そのダマンドの言葉にスッとリギュラの視線が冷たくなって黙りこんだ。そのまませせら笑うように口を開く。
「まあ、ないだろうね。君は愛妻家で子煩悩だ。だったらその二人を殺してやろうか?殺せば僕が入る隙ができるかもしれないからね?」
今度はゾッとした顔でダマンドが黙り込む。リギュラは冷たい目を引っ込めて微笑むと、
「だがそんなことしたらダマンドは永遠に僕を許さないだろうからやらないよ。だが僕は簡単に君の最愛の人々を殺すことが出来るんだよ?そのことは忘れないでくれ」
話している最中のリギュラがスゥと暗闇に馴染むように消えたと思ったら、サードの聖剣がビュンと通過する。
サードは舌打ちしそうな雰囲気でどこにリギュラが消えたと辺りを見回していると、少し離れた暗闇にリギュラがスゥと現れた。
現れたリギュラはマントで鼻を押さえて嫌な顔をした。
「それにしても何か臭いな、ニンニクの臭いだな?相変わらず不愉快な臭いだ全く。どこから漂ってくるんだか…」
「俺が料理に入れて皆で食べたんだぜ!」
リギュラの独り言にアレンがドヤ顔で返すと、リギュラは冷たい視線をアレンに投げかけた。
「よくもこんな臭いものが食べられるものだね」
「あれ?人間だったときニンニク食べたことない?それともリギュラ生まれつきの吸血鬼?」
「いいや、元々は人間だったよ」
「ニンニク食ったことないの」
「…さあ、どうだったか」
「美味いぜ?後で食べる?」
「それは僕に死ねと言っているのか?」
「あ、そっか、へへ」
「ふざけないでくれ君」
リギュラも思わずなのか苦笑してるけど…何を普通に敵の吸血鬼と会話して笑い合っているのよアレン。
リギュラはというと武器をそれぞれ構える私たちに囲まれているのに、眼中にないようにアレンに話かける。
「君は随分と楽しい子だね。顔は好みじゃないが話し相手として側に置いてやってもいいぞ」
アレンは一瞬「え」と迷惑そうな顔をして、リギュラに向かってフー…と息を吹きかけている。
ニンニクの臭いを喰らえって嫌がらせのつもりなのか、それとも嫌だと拒否しているのか分からないけど…わりかし意味不明なのよアレンのそういう行動は…。
それでもリギュラはそんなアレンの行動はとてもおかしかったのか、ハッハッハッ!とお腹から笑って、
「よし気に入った、君も吸血鬼にして僕に仕えさせてやろう」
「やだよ」
アレンはものすごく迷惑そうに一言返す。あまりに即座に断ったからリギュラは怒るかと思ったけど、そんな返答すら楽しそうで大爆笑しているわ。
と、笑うリギュラの腕にギュルギュルと何かが巻き付いて引っかかった。見るとサードがカギ縄をリギュラに巻き付け引っ張っている。
リギュラはまだおかしそうにしながらサードを見据え、
「僕と力比べでもするのかい?」
と言うとサードは軽く挑発混じりに返す。
「女性より力はありますよ」
そのサードの言葉にダマンドは慌てた。
「いけません勇者様!吸血鬼は…!」
最後までダマンドが何か言う前にリギュラが縄の巻かれた腕を軽く動かしたと思ったら、サードがその場から一瞬で消えた。
「えっ」
あちこちに顔を動かすと、リギュラの腕から伸びる縄が高々と上に伸びて、あとはバラリと音を立てながら落ちてきた。
サードは…!?
辺りを見回していると上…吹き抜けの三階の方から大きい物音が響いてくる。
「サードさん!」
ガウリスがダッシュで三階に向かって走っていったけど、まさか三階まで弾き飛ばされたの!?サードが女の人に!?
「勇者なのに知識はろくにないんだね。吸血鬼とは力が強いものと一般的に知られていると思っていたが」
えっ、吸血鬼って力強いの?そんなに有名なことなの!?それよりすごい音が響いてきたけどサード大丈夫!?
慌てているとリギュラはカギ縄の鉄の爪の部分を丁寧に服から取り外して、片手でゴリゴリとすり潰して細かい鉄くずにしながら床にバラバラと落としていく。
リギュラは余裕の微笑みで私たちに向き直った。でもその微笑みはダマンドだけに向けられている。
「しかしダマンド、君もよく絵本のキャラクターを現実化させ戦わせようとしたね。その発想は凄い凄い。さすが市長まで登り詰め人々からも長年敬愛されていた男だ、行動力と実践力、それに伴う実力がある。だが…」
かすかに冷たい目をしながらリギュラの視線が私たちに動いて、
「あの知識のない勇者にも伝えておきなさい。僕とダマンドの仲を邪魔するというのなら殺す。ダマンド最愛の家族じゃないから気も何も使わず全力で殺す。ああ、そこの赤毛の君以外だよ?特に女は興味ないから真っ先に殺す。ただし邪魔をしないというのなら僕も何もしない。分かったね?」
…それ、私たちっていうより私に向けての警告じゃないの?リギュラの目はあからさまに真っ直ぐ私に向いて睨み付けているもの。
何で?ろくに私はリギュラと話してもいないのに、ものすごく嫌悪感とか憎悪とか向けられている気がする。私何かした?してないわよね?
するとスッとリギュラは私から視線を外してニコッとダマンドに爽やかないい笑顔を向ける。
「それじゃあね、ダマンド。僕が若い男に目を向けたからって嫉妬しちゃいけないよ」
と言うと薄暗い所にスゥと紛れてそのまま消えてしまった。またどこからか現れるのかと思って警戒していると三階からサードがガウリスと一緒に下りてくる。
「サード大丈夫?」
そう声をかけるけどサードは辺りをキョロキョロ見回して、
「吸血鬼は」
って私の質問に答えず聞いてくる。見た感じケガも何もしてなさそう、どうやら吹き抜けで静かだから音がすごく響いただけみたいねと判断して、
「消えちゃった」
というとダマンドは、
「図書館の外に出ていったようだ、恐らく警告しに来ただけだったんだろう。奴はそういう奴だ、私が何かしようとする度に周囲に脅しに回っている」
サードは砕けたカギ縄に目を向けて、渋い顔をしてからダマンドに目を移した。
「随分と厄介な者に目をつけられたものですね」
ダマンドも渋い顔をさらに渋くしながら、
「…全く…」
と小さく呟いてため息をついてサードに顔を向けた。
「それで、あの男が来たから話は中断されてしまったが、私に協力をしてくれると言ったね?」
「ええ、ぜひあなたの力を借りたいですね」
「しかし先ほども言った通り私は空腹すぎて生きているのもやっとの状態だ、それに吸血鬼だから昼には戦えない。それでもできることなら何でも協力する」
サードはそれで十分、って顔をすると、
「ダマンドさんには絵本のキャラクターを現実化させる方法を教えてもらいたいのです、この…」
って言いながら私たちの一番後ろにいるサムラの手を引っ張り前に引き出して、
「サムラに」
と肩に手を置いた。
「…え?」
いきなり前に引っ張り出されたサムラは驚いた顔でサードを見る。サードは微笑みながら、
「サムラは魔法の核が大体揃っていますからどんな魔法も使えるのでしょう?それも力も強い。ならばダマンドさんが今までやったことと同じように強力な幻覚魔法で絵本のキャラクターを動かし戦うことができるはずです」
それならダマンドはゆっくり休めるし、厄介な吸血鬼相手にたくさんの軍勢が味方になる…。それってすごくいい考えだわ。
ダマンドもそれはいい考えだ、という顔でサムラを眺める。
「そうだね、私のような年齢の大人より少年のほうが覚えも早いし想像力も豊かだろう。いいとも、いいとも。私が教えられることなら全て教えてあげよう」
ダマンドの言葉にサムラはオロオロッと挙動不審になる。
「あの…僕お爺さん…」
「関係ありません、覚えていただきます」
サムラの言葉にサードはピシャリと返した。でも急に大役を与えられたサムラは不安げにオロオロとサードを見上げる。
「けど…僕ろくに文字読めませんし、よく見えないですし…」
「近くによれば見えるのでしょう?せっかくですからこの際に文字も覚えましょう。字は覚えておいて損はありませんよ」
あうう…と困った顔をするサムラにダマンドは、
「頼む、この町…いや、国の人々の安全のために力を貸してくれ、君も勇者御一行なのだろう?」
サムラは両手と首を必死にブンブンと横に振っている。勇者一行じゃないって全身で言っている。
そんなサムラの肩に乗せる手の力をギリ…と強めながら、サードはサムラの耳元に顔を寄せた。
「いいからやんだよ…」
耳元での低く脅すようなかすかな囁きにサムラはビクッと顔を強ばらせると、
「は、はい…」
って頷いた。
テレビ番組内の女装男子はこの中の誰か見破れっていう企画で、ドラゴンボールのピッコロの声優さんが魔貫光殺砲の肩の動きだけで可愛い女子にしか見えない人を男と見破っててすごいと思いました。
男と女じゃ肩の動く範囲が違うそうです。
そしてゴリエちゃんは男には無理な女の可動域まで肩と腕が動くそうです。まあ女子ですもんね、うん。




