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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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真の悪役・サード

とりあえず一階に降りると、サードは独り言みたいに呟く。


「さて、この絵本の出る原因になったのは誰なのやら…」


どうやらサードはどこまでも困っているふりをしてネズミに答えを言ってもらおうとしているみたい。でもそっか、直接聞くのがダメなんだから、どこまでも困っているふりをして私たちはただ黙っておけばネズミたちが勝手に解決してくれるんだわ。


「そういえばさっき、ランが怪しい奴がいると言っていなかったか?」


「そういえば言っていた。最後まで聞いていなかった」


「ああそれはね…」


ついに答えが明かされると黙って聞いていると、三匹のネズミたちはビッと硬直した。


そのまま我先に逃げ出そうとする。何があったのとネズミたちが見た方向を見ると、遠くから立派な王様が憤怒の表情でこっちに近づいてきていて…。


あ、ヤバい。私王様に目つけられてるしさっきから殺されそうになっているのに見つかった。


するとサードは背中に流れている私の髪の毛をバッとめくり上げて、ローブのフードをグイと引っ張るとネズミたちに声をかける。


「おいネズミども、いちいち逃げられると迷惑だからここに入って隠れてろ、エリーは絵本のキャラクターより強いからここにいれば安全だぜ」


「ちょっと」


私の了承もなしに何を勝手に決めているのよ。


それでも三匹のネズミたちは少し立ち止まって互いに目を合わせると、素早くシュルルンと引き返して私のローブをよじ登ってフードの中にすぽっと入って行く。


「確かにここなら安全だ」

「それに暖かいしいい匂いもする」

「いっそ寝床にしたいくらいだ」


フードの中でネズミたちがもぞもぞ動くのが気になっているうちに目の前に王様がズンズン迫ってきて、馬の上からジロリとサードと私を見下ろす。


「勇者!貴様何をしていた!その女はどうした、殺せと言っていたはずだぞ!」


「こいつか?こいつは王の配下になることになった」


「何だと!?」


王様は血管が浮き出るくらいの怒りの表情で私を睨んだ。でも目が合った状態で私に睨まれると死ぬっていうサードが作り出した設定を思い出したのか目を逸らして、


「認めん!その女は散々私に逆らった、そんな逆らう女など殺すに限る!ただ殺すだけでは足りん、皆の前で体を八つ裂きにしてこの建物の入口に釘で打ち付け晒すのだ!」


うわぁすごく嫌なこと言う…。


ドン引きしているとサードはどこか面倒臭くなってきたような顔になる。普段人をなだめたりヨイショすることがないからそろそろ王様のご機嫌伺いが嫌になってきたのかもしれない。


サードはグイと私の肩を抱き寄せた。


「実はこの女、魔導士連盟の会長で俺に惚れてる」


「ッハァ!?」


腹からドス声を出してサードの顔を睨んで、


「誰が、誰に惚れているですって!?」


冗談じゃないとばかりに噛みつくと、サードはギロッと睨み返して私に黙ってろとアイコンタクトを送ってくる。

…むしろサード、王様の前でも普通に裏の顔になっているじゃないの。それなのに王様も特に何も言わないの?これ許容範囲内なの?


色々考えているうちにサードは私から王様に視線をずらしてニヤと笑う。


「魔導士連盟の会長は魔導士全てを束ねる立場だ。それにこいつは俺に惚れてるから俺の言うことはよく聞くぜ?考えてみろよ、この女を仲間にするだけでこの世の全魔導士を王の支配下に置けるんだ。悪い話じゃねえだろ?」


その言葉に王様は怒りもしぼんだみたいで満足気に微笑んだ。


「ふむ…まあそういうことなら良いだろう。ただしキッチリ見張っておけ、私に二度と逆らわないようにな。次に逆らった時こそはその首をはねるぞ」


「分かった分かった」


どうやらサードの口先で話は丸く収まったみたい。けどそれより…。


コソッとサードに聞く。


「魔導士連盟の会長ってそんな権力あるのね?私は魔導士連盟に関わったことないけど、冒険者の魔導士たちは会長に掌握されていたり見張られているってこと?」


魔導士連盟の名前はかなり有名だけれどその中身は良く分からないのよね。

とりあえず危険な魔法を安全に使えるように研究開発したり人の命を軽く奪うような魔法には目を光らせているって話は聞いたことあるけど。


するとサードは私の質問にボソッと返した。


「知るか」


…こいつの言うことの九割は嘘だわきっと。それよりいつまで肩抱いてんのよ。


いい加減にしてと肩に乗っている手をサッと払うと、サードはわずかにイラッとしたような顔になって舌打ちする。


何よその舌打ち、いつまでも私の肩に手を乗せてるあんたが悪いんでょ。


ふん、と鼻を鳴らしながら睨むとサードはあからさまに「何だこの女」みたいな目で睨み返してくる。

お互いイライラしながら見合っているとフードの後ろからチーチーと小声のネズミたちの声がする。


「ここでケンカはやめてくれ」

「君たちがケンカするのが一番危険なんだぞ」

「ケンカするならここから去るよ」


もう少しで原因が分かりそうな時に去られても困る。

私はムゥ、と口をつぐんでサードから視線を逸らすとサードがボソリと、


「可愛げのねえ女だな」


って悪態をついてきた。


「はぁ!?」


腹からのドス声でサードを睨むと、フードの後ろから三匹の、


「これは危なくなってきた」

「去らねば」

「この二人のケンカに巻き込まれたらたまったものじゃない」


ってフードから飛び出そうな動きを感じる。


「待って、ケンカしないから行かないで!」


「何を一人で喚いている!やかましい!」


三匹のネズミを慌てて留めていると王様に怒鳴られた。それより王様の方が私よりうるさい。

っていうか何?腹立つ!腹立つ!腹立つ!何でこんな男のために私がネズミたちをなだめて王様に怒られないといけないわけ?


ギッと睨みつけるとサードが、やんのかコラ、って目で私を上から射すくめるように見下ろしてくる。


お互い睨みあっていると、私の視界の隅に赤い色がヒョコ、と飛び込んできた。

ふっと見ると本棚の向こうに目立つ赤い色が見える。


あれってアレンの頭じゃない。

どうしてここに?アレンはカフェでサムラと留守番してて、カリータとガウリスからこっちのことを報告されているはず…。


するとアレンがコソッと顔を出した。それに滅多にしないような真剣な表情で手を必死に動かしている。


こっちに来てくれって感じだわ。


サードは私の視線の動きと表情を見て同じ方向へ振り向いて、アレンの表情と動きを見て緊急みたいだって察した顔になる。


サードは王様の横に歩いていって「王」と声をかける。


「俺が痛めつけたあいつらを見つけ出し、全員を八つ裂きにして建物の入口に全て釘で打ち付けて見せしめにしてやろうぜ。そうしてこんなに立派で偉大で恐ろしい王がここに存在するということをこの国…いや、国外の者どもにも周知させてやるんだ、お披露目は大々的に派手にやんねえとな」


さっきの私がドン引きした王様の言葉に乗っかりながら、さも楽しそうにサードは言う。

こいつはこいつで嫌なことに嫌なことを重ねて言うわよね、本当…。


「ふむ、そうだな。私のような立派な王様は皆知らねばならん」


「だったら俺とこのエリーが代表してあいつらを見つけ出して、ことごとく四肢を裂いてきてやる、楽しみに待ってろ」


王様はハエを追い払うように手を動かした。全てサードに任せた、ってことね。


その動きをみてサードは私に「行くぞ」とあごを動かすから、二人でアレンが隠れている本棚にサササと近寄っていく。


「何かあったか」


サードの言葉にアレンもコクリと頷くと、


「ちょっとカフェの方まで来てくれ、急がないと」


小走りでキャラ達にみつからないよう屈んでアレンはカフェの方に進んでいく。


一体何があったの?サムラは?ガウリスは?カリータは?


嫌な気持ちを抱え、素早く移動するアレンとサードの後ろを私は追った…。


* * *


カフェにたどり着いた私は、目の前の光景に目を見開いて軽く手が震えた。


「何これ…」


テーブルの上に用意されているフォークを手に取った時にはもう顔がほころんで、喜んで席につく。


「美味しそう!」


テーブルの上にはゆでられた太い麺に…これは炒めた玉ねぎ?それとマッシュルームにベーコン、アスパラガスっぽいのと赤い輪っかが和えられた料理が置かれていた。見た目的にアレンの実家でよく食べていたパスタ料理みたい。パスタにしては麺が太めだけど。


「はい水」


「何これ、美味しそうね!匂いも素敵!美味しそうね!ね、サード!」


すきっ腹の時に現れたいい匂いの料理に興奮して、さっきの怒りも飛んでサードにも声をかける。でもサードはカリータが居るから表向きの表情で、それでいて呆れたような顔をしているわ。


「…まさか、これのためにわざわざ呼びに来たのですか…?」


「うんそう。冷めちゃうから早く食べて!」


サードは脱力している。


「だって腹減ってるだろうなぁーって思ってさ。ほらいつも夕飯食ってる時間とっくに過ぎてんじゃん?そうしたら向こうに厨房があるからお邪魔して色々物色して作っちゃった」


フォークで太い麺をクルクルしようと奮闘している時にアレンからとんでもない言葉が出てきて、私の動きがピタリと止まった。そして顔を上げる。


「え…。ってことはこれ、厨房に勝手に入り込んで、食材とか機材とか勝手に使って作り上げたってこと…?」


「…」


アレンはしばらく無言の無表情で私の顔を見て、テヘ、と舌を出す。


「お腹すいちゃってたし、することなかったからつい☆」


「つい、じゃ済まないわよ!どうするの、勝手にそんなことして…!サムラもどうして止めなかったの…」


サムラに視線を向けると、ハッとした顔で何かをムシムシ食べている。

…ここまで漂ってくるこの香り立つ匂い…それローリエとバジル?ローリエとバジルね…?


サムラはあわわ…と半分食べているローリエを口から離して、


「だ、ダメだったんですか…?」


「ダメに決まってるでしょ。まさかそれも厨房の…?」


あわわわわとサムラは震えだして、


「す、すみません…!僕もお腹が減ってて、この葉っぱのいい匂いに耐え切れなくてつい…!」


シン、と皆が静かになる。

サードは軽くため息をついて、


「カリータさん、仲間が申し訳ありません。後で使用した食材と様々な代金をお支払いしてアレンからも謝らせます。ですがせっかく作ったのに食べないのは勿体ないのでいただきましょう」


「は、はあ…」


何とも言えない表情のカリータとガウリスの前にも食べ物は置かれている。

まあ、せっかく作ったのに食べないのはサードの言う通り勿体ないもの。アレンが勝手に色々したものだから何となく罪悪感はあるけど…。

でも体は正直だわ。アレンに対して非難がましい気持ちが湧いていても、お腹の空いているこの状況で出来立てのいい匂いのする食事を目の前にしてさっきからずっと口の中の唾が止まらない。


サードはさっさと食べ始めて、それを見てカリータとガウリスもおずおずと食べ始めた。

私も食べようとフォークを麺にくるくるしながらアレンに聞く。


「ところでこれは何て料理?パスタっぽい料理よね?」


「俺の地元じゃペペロンチーノって料理なんだけど、麺はパスタじゃないからペペロンチーノ風の何か」


ペペロンチーノ風の何かで笑いが込み上げてくる。


けど麺に絡まっているこの赤くて小さい輪っかって食べて大丈夫なのかしら、見た感じ固そうだけど…。


麺と一緒に赤い輪っかを食べる。


「ん、美味しい!」


口に広がるかくし味みたいな食欲をそそる風味、太めで滑らかな麺と…少し遅れてやってくるピリピリとした辛み…。


「うっ、辛い!」


水を口に含んだ。アレンが「ありゃ」と私を見る。


「エリー辛いの駄目だっけ?それ唐辛子なんだけど、無理そうならよけて食べて」


あ、この赤くて丸い輪っかは唐辛子なの。

でもこれは口の中がピリピリするけれど、ダメなくらいじゃない。むしろこの辛さと食欲をそそるこの匂いがたまらない。


「ちょっと辛いけど美味しいくらいよ。お店で出したらお金取れるんじゃないの?」


「んー?そう?ふふ、嬉しいなぁ」


アレンは私の顔を嬉しそうに見ながら頬杖をついている。

まあ厨房を勝手に使ったのは本当にどうかと思うけど、味はものすごく美味しい。皆も口々に美味しいって言いながらあっという間に完食しちゃった。


「それでどう?ガウリスとカリータから話は大体聞いたけど原因見つかった?」


皆が食べ終わって水をちみちみ飲んでいるとアレンが聞いてくる。


「まだ探している途中です」


サードは一言返すけど、何となくその目が言っている。

「これから探すって時にてめえが来たんだよボケが」って。


「しかしこんな時に食事とは」

「全く自由だね」

「危機感というのが足りない」


三匹のネズミがフードからヒョコヒョコ顔を出てきて、アレンは「おっ」と三匹を見る。


「えー何このネズミ、可愛い」


「先ほどお伝えした『なんでも解決、三匹のネズミ』シリーズに出てくる…」


カリータが説明を始めるとしようとするとアレンは顔をパッと輝かせ、


「え!?もしかしてこれがランとシンとタン!?」


「アレンも読んだことあるの」


アレンは大きく頷いて、昔を懐かしむように話す。


「うん、初めて買ってもらった絵本が三匹のネズミシリーズでいっつも読んでたんだ。懐かしいなぁ、ミヨちゃんに自慢しに見せに行ったら取りあげられてさぁ。返して返してってぐずりながら訴えてたら邪魔だって鼻叩かれて余計泣いて、ジョバンニが間に入って何とか返してもらったっけ」


ジョバンニって確かラニアの配下で黒魔術使う人よね?…それよりミョエル…いくら子供だったからってちょっと酷いんじゃない…?


「じゃあ俺皿洗って片付けてるから、皆頑張って!」


アレンはそう言うと皆の食べ終わったお皿を回収し始める…。

するとバンッと扉が開いた。


皆が驚いてカフェの入口を見る。


そこには槍を持った兵士を従え、馬に乗って中の様子を見てブチ切れている王様の姿が…。


え、そんな、まさか王様たちが図書館だけじゃなくてこっちに来るだなんて…?


「ほら見ろ、この勇者は最初から怪しいとあたしは思っていたよ」


魔女がホウキに乗りスイーと空中を飛んでカフェの中に入ってくると、ケッケッケッと笑う。


「空中を飛んでいる時にあの赤毛と一緒に移動しているのを見たんだよ。それに見てみぃ、だーれも勇者に痛めつけられてないし八つ裂きにもされてないじゃないのさ、皆ピンピンしてて、それも同じテーブルを囲んで食事をした後だ。こいつらは最初から立派な王様を騙そうとしていたんじゃないのかねえ?」


ケッケッケッと笑いながら魔女がペラペラと続ける…。

まさかさっきアレンと一緒に移動していたのを見ていたなんて?しかもそれを王様にチクってここまで連れてきた?この魔女…っ本当に性格悪い…!


王様は顔を真っ赤にして口からあぶくを出す勢いで怒鳴り散らした。でもあまりのひっくり返った声で何を言っているのかさっぱり聞き取れない。あのサードも何を言ってるのか聞き取れなかったらしくて、


「は?」


と聞き返すと、王様はなおも興奮状態で怒鳴り散らしてくる。それでもさっきよりは聞き取りやすくなった。


「貴様ぁ!魔導士連盟の会長と共謀して私を騙していたのかぁああ!」


どうするのサード、ここまでになっても言葉でどうにかまとめられるのと視線を送ると、一人椅子に座っていたサードは水を飲み干しコップをテーブルに置くと、ゆっくり立ち上がった。


「バレてしまってはしょうがありません、そうです、最初からあなたを騙していたんですよ私たちは」


そのままカリータに見えない位置にいるサードはあざ笑う顔を王様に向ける。


「まさかここまでバレないとは思いませんでしたけどね?随分と愚鈍な王がいたものですよ」


…あなた、何の悪役?むしろもう王様の一番の臣下で右腕の立場は要らなくなったの?


サードの言葉にブチンと完全にキレたような顔で、私たちの耳がイカれそうになるほど王様は怒鳴った。


「殺す!殺す殺す殺す殺す!ここに居る者まとめて皆殺しだぁあああああ!」


王様の怒声に(なら)うように兵士たちがザッ、と私たちに向かって槍を向けた。

おもひでぽろぽろ(アレン、ミョエル四歳)


アレン

「ミヨちゃんがっ、ミヨちゃんがおれの絵本とったぁあーー!おれのことたたいたぁあーー!アアアアアン!」(ギャン泣き)


ミョエル

「うるっさい!だまってないとなぐるよ!」(ボカボカ殴る)


ジョバンニ

「(オロオロオロ)ラニアさん、いくら何でもあれはアレンくんが可哀想…」


ラニア

「いやー、ミョエルもアレンも元気のいいこった、はっはっはっ」(喧嘩放任主義)


ジョバンニ

「(オロオロオロ)ミョエル、読み終わったら返してあげようね」


ミョエル

「…はぁい」(しぶしぶ)


アレン

「ジョバン(ニィ)…!」

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