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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ドラゴンとの対戦

「本当にこれでいいの…?」


私は草むらの茂みの向こう、村への入口手前にバリケードのように置かれた酒樽を一度見てからサードに聞いた。


話は少しさかのぼって村に居座っているドラゴンは新種かもしれないとサードが言ったあたりに戻る。


新種との言葉にラリの家にいた全員が「ウソだ、まさか、そんな」の入り交じった反応をしたけど、サードは我関せずでパシとフシの双子、それとラリへ視線を向けて、


「頼みがあります。お二人の村、そしてこの村からありったけのお酒を用意して村の入口に全て置いていただけますか?今のところドラゴンは居ないようですので時間勝負です。さあ動きましょう!」


手を一度叩きさっさと動けとばかりのサード言葉のまま双子は村に引き返して、ラリと私たちは各家に赴いて勇者御一行だと説明しながらお酒を村の入口に置いてほしいと説明した。


何でこんな状況でお酒?という顔をされることが多かったけど、私だって何でこんな状況でお酒?と思ってる。まさか酒盛りを始めようとしてるわけじゃないでしょうし。


そう思いつつも勇者サードの言葉だからと付け加えると村人たちも不可解な、それとドラゴンが来ないかとおっかなびっくりの表情で酒樽を入口に持ってきてくれて、サードの指示のもと、二つの村から運ばれた酒樽が村の入口に大量に並べられた。


そして酒樽の陳列が終わるとサードは、


「ではあとは私たちがドラゴンの相手をします、ご協力感謝いたします」


と村人たちを帰して、そのまま私たちは酒樽から少し離れた茂みに隠れてジッとしている。


私たち以外誰もいないから裏の顔を堂々と出しているサードは、さっきの「これでいいの?」という私の言葉に表情も変えず、


「さあてなあ。人がやったように上手くいくとは思っちゃいねえが…」


「それよりサード。もしかしてその新種のドラゴンの正体とか、分かってる?」


つい話を遮って私はとにかくサードに聞こうと思っていたことを質問した。

だって新種のドラゴン(仮)についてラリにあれこれ質問していたけど、その聞き方はまるで自分が思い当たるドラゴンかどうかの最終確認をしているようだったし。


「でもさぁ、本当に新種だったとしたらどうする?弱点もなんも分かんねぇぜ」


不安そうなアレンにサードは悪い顔をしながら、


「なーに、いざとなりゃこれ一本あればいい」


と聖剣をアレンに見せびらかすように持ち上げた。でもすぐさま普通の顔つきに戻って酒樽を眺め、


「まあそれはドラゴンが酒樽に喰いついたらの話。もしドラゴンが酒樽を無視したら…」


サードは私にチラと目を向ける。


「エリー、お前ドラゴンの前に出ろ」


「ちょっ」


カチンときた。


「私を餌にするつもり!?根性悪いし性格も悪いし正直信用も何もしてないけど、それなりに今まで冒険してきた仲だと思ってたのに私を餌にするつもりなのね!?そこまで最低な男だと思わなかった!」


「黙れブス」


イラッとしたような表情でサードが吐き捨てる。

私はサードのその表情とブスの言葉でイラッとして言い返そうとするけど、いつもと違ってサードはそれ以上悪態をつくことなく落ち着いて話を聞けっていう動きをするから、私もイラついた気持ちを無理やり押し込んで黙っておいた。


…でもやっぱりお互いイライラと睨みつけ合っているけど、ともかくサードは口を開く。


「俺の考えだとあれはいきなり女は襲わねえはずだ。いいか、もしドラゴンが酒樽を無視したらお前はドラゴンの前に立つ。だが絶対に攻撃するな」


「嫌よ、そんなドラゴンの前に出て攻撃するななんて命令。ただの自殺行為じゃない」


ツンとそっぽ向くとサードは俺の命令が聞けねえのかとばかりのイライラした声で、


「何言ってんだ、今のところドラゴンはただの一人も殺してねえんだぜ。本気出せばこの村どころかこの山にある村が全部消せるはずなのにだ」


そう言われれば…。


ドラゴンが本気を出せば今居座っているラリの村どころかパシとフシの村もほぼ一瞬で壊滅状態にできるはず。

思い出してみれば西にドラゴンが出たと話題になっていると聞いた後でもドラゴンが暴れた、人が死んだ、殺されたなんて話は全く聞いていない。


…だからってドラゴンの前に攻撃もせず出るのはやっぱり嫌…。


苦い顔をしながらサードに話しかけようとしたけど、顔つきを変えたサードが人差し指を口の前に立て、私の言葉を制した。


その行動に口をつぐむ。


すると枝をバキバキと折りながら何かが近づいて来る音がする。


「お前の赤毛は目立つからもう少し頭低くしろ」


「おおう」


サードはアレンの頭をグイグイと草むらの中に押し込めて、アレンはおぶおぶと腕を動かしてバランスを保ちながら身を低くする。


私は無意識的に口を自分の手で押さえ、アレンと同じように草むらの中でもっと身を低くして、近づいて来る音を聞いていた。


音はどんどん大きくなってきて、ぬっと壁みたいに大きい何かが茂みの奥から現れた。


草の隙間からソッと覗く。


目の前には少し平べったい口周りで、ラリの言っていたナマズのような長いヒゲがうねうねと動いているのが見える。


そこからゆっくりと出てくる頭、見えてくる目…。


その目は昼間だと言うのに発光しているように輝いていて、ギョロギョロと動いている。どこか怒ったような表情をし、口から漏れる音は怒りを押し殺したような唸り声。


太い木の枝をへし折り葉っぱがガサガサと擦れ合う音と共に首周りも見え始めてきた。体長の大きさは…頭しか見えないからまだ分からない。


首周りは毛のようなトゲのようなもので覆われているようで、蛇みたいな胴体だけど手のようなものがチラッと見えた。


そういえばサードは手の形はどうだったって聞いていたけど、と思いながら茂みから少しずつ出てくる手をこっそり見る。

形は…手というよりワシとかの猛禽類(もうきんるい)の足みたい、人の頭を軽々とつまめそう。それに爪も鋭いからもし頭をつままれたら首に爪が深く突き刺さってそのまま千切れるかもしれない。


それに見る限り地を這っているわけでもないし、羽を使って飛んでいるようにも見えない。まるで空中を這う蛇のようだわ。


それにこの巨大な頭…。今ガアッと口を開けて横を向かれたら一口で食べられてしまいそう。絶対に見つかっちゃいけないわ。


音を立てないように身を強ばらせてジッとしていると、ドラゴンの長いヒゲがピクピクと動き、鼻をスンスンと鳴らし首を左右に揺らして目の焦点が酒樽に向いた。


酒樽の存在に気づいた。


ドラゴンはスルスルと近づいて、酒樽の匂いを嗅いでいる。そして匂いをひとしきり嗅いだと思ったら、酒樽をくわえてそのまま天を仰いだ。

酒は一瞬でドラゴンの体内へと消えていき、ドラゴンは次の酒樽をくわえてまた天を仰いで一気飲みしている。


「すご…」


二つの村の人たち総出で運んだ酒樽の数々が一瞬一瞬で消えていくから思わず見入ってしまう。


最後の一樽に差し掛かるころには、どこか機嫌がよくなっているドラゴンが体をうねらせ、まるでアレンが冷えたビールを一気のみして「プハー!」とたまらない声を出すような雰囲気で咆哮(ほうこう)をあげている。


「機嫌よさそうだな」


アレンはのんきにそう言ってても、サードは聖剣に手をかけたままジッとドラゴンに集中している。


最後の一樽を空けて地面に落としたドラゴンはゆっくりと地に頭を伏せて、周りに土埃がフワッと立ちのぼる。


ドラゴンの喉の奥からは、怒りを押し殺したというよりグルグルと猫が喉を鳴らすような音をあげ、一息ついたように目を閉じている。


何だかお酒に酔ってウトウトしているようにみえるけど…まさかサードがやろうとしていることって…?


「お酒で酔わせて寝た隙に襲うつもり?」


サードは「おう」と返しながら、


「やっぱり先人の知恵ってのは覚えとくもんだな。だがまずは様子見だ」


と笑いながら呟く。


うわぁ、お酒で酔わせてその隙に殺すなんて先人の知恵というより卑怯行為じゃないの。でも相手が人間ならまだしもドラゴンはまともに戦ったら敵わないし…でもやっぱ卑怯な気が…でも…。


あれこれと考え続けていると、機嫌が良さそうにその場にうずくまっていたドラゴンはスゥと空中に浮かび上がってラリの村へ頭を巡らせる。


「全然眠らないぞ」


アレンがサードに言うと、サードはチッと舌打ちして聖剣を引き抜いた。


「量が足りなかったか。ならまず俺があのドラゴンに…」


立ち上がりながらこれからの作戦を口にしようとするサードに、きっと攻撃するんだわと私は理解した。


「なら周りの木でドラゴンを拘束するわ」


魔法を発動する。するとサードはギョッと目を剥いて怒鳴った。


「バカやめろ!」


「え?」


サードが止める前に私の魔法はもう発動されて、周りの木がメキメキと変形し、槍を斜めにクロスさせ人を拘束するように木の太い枝々がズンッと地面に突き刺さってドラゴンを拘束していく。


「グオオオオオ!」


ドラゴンからはさっきのご機嫌な咆哮とは程遠い声が響き渡り、木の拘束から逃げようとのたうち回ったように見えた瞬間。


気づいたら強い風に押されて空中を飛ばされていた。


え?


何が起こったのか分からない。でも目に映る光景は周辺の茂みどころかドラゴンを拘束していた木々、周辺に生えていた木々も円形状に綺麗さっぱりなくなっていて、私は茂みの葉っぱと一緒に飛ばされている。


もしかして今の風ってドラゴンの力…?


「ッブッ」


モサモサした柔らかい植木みたいな低木に私は頭と足がひっくり返った姿勢で正面から引っ掛かって止まった。それがクッション代わりになったから口の中に葉っぱが入った以外はケガもない。


それより二人は大丈夫なの?


「大丈夫!?」


起き上がって二人の…というより主にアレンを心配して声かけて首を巡らせると、目が合った。


アレンじゃない。


木々や茂みが綺麗さっぱり何も無くなったわずか先から、ドラゴンのらんらんと輝く目が真っすぐこちらを見ている。


ドラゴンと真っ直ぐ目が合った私は息を飲んで…思わず見とれてしまった。


「…綺麗…」


双子のどちらかが綺麗と言った意味がよく分かった。


日光でキラキラ輝くターコイズブルーの鱗、すべての生き物の上に君臨する威厳のあるその佇まい、こちらの心の内を見透かすような二つの目。

その目に真っ直ぐ見られるとまるで時間が止まってしまったかのよう…。


『ドラゴンに出会ったら幸運だがその場で死ぬと思え』


その言葉が頭に蘇り、ふと我に返る。すると、黒い何かが目の端に映った。


ハッとそっちを見るとその黒いのはサードの頭で、鎧を着ている人間とは思えない跳躍力でドラゴンの首の後ろに飛び乗った。


「動くな!大人しくしろ!」


怒鳴るサードの声をかき消すほどの咆哮あげたドラゴンは首を激しく動かし、その勢いでサードは振り落とされてしまった。


しかしサードは受け身をとり地面に転がって着地するとそのまま足を踏ん張らせ、一気に間合いを詰めドラゴンの首の下に滑りこんでいく。


危険と判断したのかドラゴンは体をうねらせ首を高く上げて空中に浮かび上がった。バキバキと木の枝を折る音をたてながら山の木々に隠されていたドラゴンの全長がどんどん露わになっていく。


「ウソだろ、こんなにでかいのかよ!」


背の高い木にひっかかったらしいアレンが木から降りながら絶望の声を上げた。

私も未だに現れ続ける全長の長さには呆然と口を閉じるのも忘れ釘付けになってしまう。


十メートル…ううん、百メートル?五百メートル?…違うそれでも足りない。


ラリのドラゴンの説明は恐怖のせいで少し大げさになってると思ってた。でも本当だった。


ドラゴンの頭は私たちのすぐ側にあるのに、そのしっぽとなると空まで届くんじゃないのと思うほど遠くにある。一体こんなのとどうやって戦えって…?


絶望に陥ったけどすぐさまハッと我に返った。


「サードの援護をしなきゃ!」


いくら何でもサード一人でどうにかできる相手じゃない。むしろ私たち三人でなんとかなるのかも分からないけど、やるしかない!


「サード、とにかく一瞬動きを止めて隙を作る!」


そう言うと、私は魔法を発動させた。

周りの木々がゾロゾロと一斉に高く生い茂って、ドラゴンにグルグルと巻ついてそのまま地面へと引きずり下ろす。


「ギャアアアアア!」


ビリビリと耳をつんざく声を上げてドラゴンは首を大きく左右に動かすけど、私はすぐさま他の木々を大きくしドラゴンに巻き付けてがんじがらめにしていく。


ドラゴンは木々に巻き付かれたまま地面に木で拘束された。遠くで体がひるがえり、しっぽがうねっているのが見える。


でもこんな拘束なんてさっきのような突風ですぐ壊されるに決まってる。

でもサードはこの一瞬の隙は見逃さない。そう、今のこの一瞬さえあれば…!


サードを見る。


そこでサードが聖剣を手に持ってドラゴンの顔の前に立っているのが見え、私はうろたえた。


サードは一体何をしているの?

いつもならこんな隙が出た一瞬でサードに視線を移した時には、敵の首を聖剣が通り過ぎてるのに。


いつものサードならこんなチャンスは絶対に見逃さない。

でもサードはドラゴンの目の前で聖剣をダラリと垂らしたまま立っているだけ。


「サード!?」


困惑の声をかけるけどサードは動かず、むしろ聖剣を鞘に戻して膝をついてドラゴンと目を合わせた。


「何してんだサード死ぬぞ!」


アレンもサードの普段なら取らない行動に混乱して、その場で頭を抱えて地団太を踏む。


ドラゴンの目がサードを見据える。歯をむき出して喉の奥から唸り声を出している。少し首を動かしたらサードを一噛みしかねない雰囲気…。


「お前、言葉分かるか?」


サードがドラゴンに向かって問いかけた。


私もアレンもポカンとした表情でサードを見て、お互いに顔を合わせ、再びサードに視線を戻した。


「ぐう、ぐうう」


ドラゴンは拘束された状態で辛うじて頭を動かしている。頷いているように見えなくもない。


「どっかの神か?」


神?


驚いてサードとドラゴンを見た。


確かにモンスター辞典にも神様同等に信仰されるドラゴンは載ってたはず。伝説時代の話だから本当に居たかも分からない、それと神様そのものとされるドラゴンなんて…聞いたことがない。


「ぐうう」


ドラゴンは左右にのたうち回った。首を横に振っているように見えなくもない。


「モンスターか?」


ドラゴンは唸り声をあげながら左右にのたうち回る。


「人か?」


ドラゴンは小さく咆哮して最大限に上下に頭を動かした。そのせいで地面に顎が当たって周りに土埃が舞い上がる。


「人!?」


アレンも私も驚いてドラゴンをバッと見て、それでも私はすぐさま首を横に動かす。


「どこが人なの、どう見てもドラゴン…」


そこまで言いかけて、ふとラグナスとの会話を思い出した。


そう言えば魔界には人をモンスターに変えるとても値段の張る薬があると言っていたわ、もしかしてそれで?


「魔族に薬で人間からモンスターに変えられたの?」


「ぐうう」


ドラゴンは唸り声をあげながら左右にのたうち回る。違うという意味みたい。

というより、自分の言葉にドラゴンが反応したことに何だか感動しちゃう。


「人なら話が早い」


サードはほくそ笑む。


「お前元に戻りたいか?」


ドラゴンは口を開け小さく唸りながら大きく頷いた。


「なら俺たちに協力するか?するよな?するだろ?」


何よ、その決めつけ三段活用。


でもドラゴンは首を大きく上下に動かして、恐ろし気な目からポロポロと何かが流れ出た。どうやら涙のようで、地面にあっという間に水たまりが二つ出来上がる。


その様子はどう見たって敵意は無いから、私は遠慮がちにサードに声をかけた。


「拘束…解く?」


「おう」


私はドラゴンにグルグルと巻き付けていた木々を真っ直ぐに伸ばしてドラゴンを解放した。


思えば最初からサードは何かアタリをつけていたようだった。なのに私が勝手に攻撃するのねと動いたせいで流れがこじれてしまったような気がする。


きっとこれから私はサードに悪態をつかれる。

それでもこれは私の早とちりが原因だから不本意だけど甘んじて受けるしかないと覚悟を決めて渋い顔で黙り込んでいると、サードは特に悪態も文句も嫌味を言うでもなく、


「あっちとこっちの村人集めろ」


と私とアレンに指示を出すだけだった。

ウサギって水に関するものに結構関わってるんですよ。因幡の白兎が起縁しているんでしょうか。前に火伏せのためと屋根瓦の丸い部分にウサギをかたどった模様がついてるの見たことあります。


そんで虎は風を操り、龍は雨を操るとされています。龍虎の対決みたいな絵が沢山ありますね。二匹が睨みあって喧嘩始まりそうな絵。

そんでさらに干支だと虎、卯、辰で真ん中にウサギいます。風を操る虎と雨を操る龍の間に水に関わるウサギがいて、雨と風の調停役としてそこにいるのでは…。みたいな内容の本を前に読んだんですけど、これって胸熱じゃないですか。

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