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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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敵の軽いいなし方

カリータの手を取って必死に走っているけれど、後ろから音もなくゾワゾワとキャラクターたちが追いかけてきているのが分かる。


「どこかっ、どこか隠れられそうな場所ない!?」


叫ぶようにカリータに聞くけれど、カリータは走るのに必死なのかヒィヒィ言うだけで返事を返してくれない。

とにかくここは本棚だらけで死角が多いんだもの、あちこちを走って追っ手を撒いて…。


そう思うけれど、カリータはあっという間に疲れがたまったのかぐんぐんスピードが落ちていく。ダメだわ、これじゃあ追っ手を撒くより先に捕まっちゃう。


明かりがついていない暗いゾーンをカリータを無理やり引っ張りながら走り続けていると、カリータはもう脇腹を押さえて辛そうな顔で息をしながら、


「エリーさっ…!暗い所は…!暗い所には、あの、キャラが…!」


「え?」


カリータを振り向くと、その背後の暗闇からヌッと大きい手が出てきた。


…そういえば『きょだいなきょだいな大おとこ』の大男って、暗闇から音もなく出てくるって…。


大きい手のさらに奥から大きい顔、大きい体がじわじわと現れ始める。


「お腹すいたぁ」


ニタァと笑いながら大男の手がぐんぐん伸びてくる。


杖を向けた。そして大男の顔に向かって切り裂くぐらいの突風をゴッと放つ。大男は「あふぅ」と目をつぶって鼻の頭が大きくビッと切れたけれど、すぐに目を見開いてズンズン四つん這いで私たちを捕まえようと迫ってくる…!


「ええっ」


大体のモンスターはこれで体がバラバラになるレベルなのに…!もっと強くやらないとダメ?でもこれ以上強くやったら周りの本も切り裂いてしまいそう…!


私は後ろの大男に杖を向けてバックしながら走っていると、カリータの足と私の足がもつれあって二人で横倒しに転んでしまった。


「うっ」


「お腹すいたぁあ」


大男の手が私たちの上から覆いかぶさってくる…!


「いやああああ!」


カリータは髪の毛を束ねていた固そうな髪留めをガッと取り外し、大男に向かってぶん投げた。大男はその髪留めを口でキャッチしてペロリと飲み込んで、なおも私たちに向かって手が伸ばしてくる。


ど、どうしよう、この状態、せめてカリータだけでも逃がさないと…!

ふっと視線を動かすと、棚が目に入った。…あ、ここ…カリータに案内された精霊魔法の本が置かれていたコーナー…。


…そうよ、私は今日一体何を読んでいたの?実戦向きの精霊魔法の本じゃない、今こそその成果を使う時じゃない!


私は精霊魔法を発動する。空中に水の玉を大量にポポポポポと現れた。そしてこの水の玉を使って…!


さあこれから攻撃という時、大男は自分の周りをグルグル動く水の玉を目で追い始めて「飴玉だぁ」と手で掴もうとしている。


「…え」


大男は飴玉飴玉と言いながら空中に浮かぶ水の玉を掴もうと躍起になっている。でもそれは水だもの、掴もうとするたびに水は一旦潰れて元の形に戻るだけで掴めていない。


でも本当はその水の玉から光線みたいに勢いよく水を発射させて体を貫通させて倒す手はずだったんだけど…まあ気が逸らせたならそれでいいわ。


私はカリータに逃げましょうとアイコンタクトを送る。カリータは立ち上がろうとするけれど、腰が抜けたのか立ち上がれない。しょうがないと私はカリータの腕の下にもぐりこんで「ふぬぅ!」と持ち上げて走った。


カリータは細いけど…私の力じゃ抱えて走るの辛い…!


「グヌゥウ」と普段出さない野太い唸り声を上げながら頑張って数歩走ったけれど、結局足がもつれてカリータもろとも前のめりに倒れてしまった。


ガウリスは体格のいい男の人も含めて六人抱えて走ったのにぃ。自分の力と体力の無さが憎い。あまりに自分が情けなくて泣けてくる。


「飴玉ぁ!食べれないぃいい!」


後ろでは大男が水の玉を掴めないのにイライラしたのか、立ち上がって周りの本棚を滅茶苦茶に破壊し始める。

棚はケーキみたいに簡単にグシャッと潰れて、本があちこちに散らばる。大男の後ろからは私たちを追ってきた絵本のキャラクターたちがまばらに追いついてきて、


「王様から殺せと命令が出ているんだ!あっちの女たちを食えばいいだろ!」


って大男に叫んだ。大男はグッと私たちを見て、そういえばそうだって顔になると、


「食べ物ぉおおお!肉ぅううう!」


って巨体に似合わないすごいスピードで突っ走ってくる。


それなら今度こそ、精霊魔法で…!


杖を構えようとすると私たちの隣を誰かが駆けていく。


「ガウリス…!?」


別の場所にいたはずのガウリスは槍を上に掲げ、目標を見据えるかのように構え、怯むことなく大男に向かって走っていく。


「おおおお!」


ガウリスは人間がそこまで高くジャンプできるのってくらい高く跳んで、大男の眉間に槍をドッと深く突きさした。大男は叫び声をあげる間もなくズズンと大きい音とともに後ろに倒れる。


そのまま大男はスゥと透明になって消えていった。


「消えた…!?」


ガウリスは槍を持ち直して、向かってくる兵士に体を向けた。


兵士たちは大男が一瞬で倒されたのに少し戸惑った気配は見せたけれど、続々とガウリスに槍を向けて、一糸乱れぬ動きで槍を一斉に突き出し通路いっぱいに広がってずんずんと迫ってくる。


援護しようとするとガウリスは口を開いた。


「私は神です!あなた方は神である私に刃を向けるのですか!」


いきなり出たガウリスの神発言に「ファッ!?」と驚きの声が漏れる。

瞬時に自分の立場を明確にするためだって理解はしたけど…そりゃあガウリスは神様に近い存在にはなっているけれど、こんな風に自分から神だと堂々ということなんて無いからびっくりした…。


するとガウリスの神発言で立派な王様の兵士たちは動揺してたじろいで、


「お、おお…!」

「神相手に刃など向けられない…」


ってお互いの顔を見合わせて槍を下ろしているわ。


「何が神だ!」


立ち止まった兵士たちの頭上を魔女がほうきに乗って飛び出してきて、指の先に光を灯す。


「あたしは神なんて大っ嫌いだ!ガムにして食ってやる!」


「神の名の元にあなたに愛と祝福を」


魔女はガウリスの言葉を聞くと後ろにグリンとひっくり返って頭から地面に落ちた。


「ああー!耳が腐る!耳が腐るぅうう!」


そのまま魔女は床の上をゴロンゴロンのたうち回り続ける。そんな魔女を乗り越えて狼が大口をあけ、吠えながらガウリスに向かって突っ込んできた。


「お前なんて俺の口で丸飲みだ!」


そう言うなりオオカミの口がガバァッと大きく広がって、本当にガウリスすらも一口で飲みこみそうなぐらい大きく開く。


するとガウリスは逃げもせず、槍を構えもせずに狼に向かって指を一本向けた。


「おやまた虫歯がありますね。今度の虫歯は何本かな?」


その言葉を聞いた狼は大きい口をバクンと閉じて空中でもんどりうって、ガウリスから離れた所に着地する。そのまま自分の口を慌てて前足で押さえて目を白黒させると、


「いやだ!もう歯医者さんなんてまっぴらごめん!」


ヒィィィと狼は二足歩行で逃げて行った。


残ったのは兵士と床をのたうち回る魔女。でも兵士はもう戦う気も失せているのか、槍を下ろしてどこか居心地悪そうに立っているだけ。


もう戦う意思もないと確認したガウリスは私たちに向き直って近づいてくる。


「大丈夫でしたか?怪我は?」


「私は大丈夫、ちょっと転んでしまっただけ。カリータは大丈夫?立てる?」


「は、はい…すみません…」


手を差し出すとカリータは私の手を掴んで何とか踏ん張って立ったけれど…よっぽど怖かったのかカリータの顔からは血の気が引いているし手も足もカタカタ細かく震えている。


「…怖い思いをさせてしまってごめんなさい、私がもっと早くにしっかり対応していたら…」


「いえ違います…私が足を引っ張ってこんなことに…」


話していると王様が居た辺りが騒がしい。何を言っているのか聞き取れないけれど、王様は何か喚いているわ。


「一旦ここを離れましょうか」


ガウリスの言葉に頷いて、まだ足が震えて早く歩けないカリータの手を二人で労わるように引きながら少しずつ歩いていく。


「けどガウリス、さっきの何だったの?虫歯とか…」


神だと言った時には自分の立場を明確にするためだと思っていたけど、魔女も狼も声をかけた程度であっさり追い返していた感じだったもの。


「あのキャラクターたちの出ている絵本を読んで思ったのです。もしやこの内容になぞった方法でなら絵本のキャラクターたちを倒し、追い返し、かわすことができるのではと」


「内容になぞった方法?」


聞き返すとガウリスは続ける。


「あの大男は旅の冒険者…後に英雄となったリトラーンに槍で眉間を深く貫かれ倒されました。なのでもしかしたらその通りになぞったら倒せるのではと思ったのです。そうしたらその通り倒れ消えていったのでこの考えは有効なのだと思われます」


「じゃあ兵士も、魔女も、狼も絵本にある方法であんな風になったってこと?」


すると少し落ち着いてきたらしいカリータが私の言葉に答えるように口を開いた。


「立派な王様は、その横暴さを見かねて止めに入った神様をも殺せと兵士たちに命令します。しかし兵士たちは神に刃は向けられないとためらって許しを王様に請い、怒った王様は一人残さず兵士を殺すんです」


カリータ曰く、それを見た神様は呆れて、


『もうしらぬ かってにやるがよい。だが さいごにくるしむのは おまえだぞ』


と王様を説得することを諦めて、自ら王様の手にかかって殺され天に再び戻っていったんだって。そして神様に見捨てられた王様は『わたしのような りっぱなおうさまは よのなかに ひとりで じゅうぶんだ!』って全く反省の色も見せないラストに繋がっていく。


それとあの魔女は神様が大っ嫌いで、神に祈りを捧げている人々が居れば『ああー!みみがくさる!みみがくさる!』ってしばらく喚き続けるんだそうな。


それとあの狼はガウリスが指摘した通り、歯が虫歯だらけ。

どうやら歯磨きをせず虫歯だらけになるキャラクターみたい。それで歯が痛くて乱暴するどころじゃないからしょうがなく歯医者に行ったら、あまりにも酷いと悪い歯を次々と抜かれてついには全部抜かれちゃう。


そうなったら何も食べられなくて今度はお腹が空いて乱暴できない。もう死にそうだという時に魔導士が、


『もう にどと らんぼうなことを しないなら、歯を 生やしてあげるが?』


って言ってきて、二度と乱暴なことはしませんと拝み倒して歯を元通りにしてもらう。


それからたらふく食べ物におやつを食べてしばらくたった時のこと。例の歯医者と偶然街中で行き合った狼はカッと頭に血が昇って、


『あのときは よくも 歯をぜんぶ ぬいてくれたな!おまえなんて おれの口で まるのみだ!』


と魔導士との約束を忘れて大口を開けて襲いかかる。そして歯医者は自分を丸飲みにしそうなほど口を開けた狼に、


『おや また むし歯が ありますね!こんどの むし歯は なんぼんかな?』


と指を向けると狼はさっきの通り、


『いやだ!もう 歯いしゃさんなんて まっぴらごめん!』


って慌てて逃げていくオチになるって。


なるほど…その絵本になぞった方法でなら追い返したりやっつけたりできるのね。

それじゃあいくら精霊魔法でキャラクターたちを倒そうとしても無駄だったのかも。


…っていうか、それならガウリスが大男を倒したのって、(のち)の英雄と同じことをさっくりやってたってことじゃない?

ガウリスはそのことに気づいていないの?


ジッとガウリスを見上げるけれど、


「一階は賑やかになってきましたから、二階に避難して様子を見てみましょう」


って階段の方に向かって行く。…これ、とんでもないことを簡単にしてのけたのに気づいてないわ。何ていうかガウリスってそういう所本当に鈍いっていうか気にしないっていうか…もっと自慢してもいいのに。

個人的に気に入っている絵本(前に後書きで載せたのは略)↓


「どこいったん」作/ジョン・クラッセン 訳/長谷川 義史

…絶対子供より大人のほうが「ファッ」てなる


「もうぬげない」作/ヨシタケシンスケ

…ものすごい人気で中々図書館じゃ借りれない


「ジャイアントに気を付けろ!」作・絵/エリック・カール 訳/もり ひさし

…そもそもジャイアントどこに住んでるのと思ってた


「パパ、お月様とって!」作/エリック・カール 訳/もり ひさし

…なぜかたまに読みたくなってよく読んでいた


「とうさんまいご」作/五味 太郎

…とうさん探していく仕掛け絵本が楽しかった


「3匹のかわいいオオカミ」作/ユージーン・トリビザス 絵/ヘレン・オクセンバリー 訳/こだま ともこ

…三匹の子豚のパロディ。豚の性悪さが際立つ


「きつね、きつね、きつねがとおる」作/伊藤遊 絵/岡本 順

…日常と別の世界がふっと交錯する話好き。絵も細かい。


「寿限無」作/齋藤 孝 絵/工藤 ノリコ

…背景の絵やネタが細かいし可愛い。これで寿限無を覚えた


「ぼくのたからものどこですか」作/角野 栄子 絵/垂石 眞子

…留守番という静けさ漂う空間の絵の表現力が凄い。最後の終わり方が好き


「あくまのおよめさん」絵/シュワリ・カルマチャリャ 再話/稲村 哲也 結城 史隆

…悪魔が可愛い。ネパール発のギャップ萌え

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