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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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初めての図書館

精霊の国から地上に戻って二日。私たちは湖の船旅を終えて再び歩きの旅路に戻っている。


とりあえず地上に無い精霊の国の宝石を報酬で貰ったからウチサザイ国にたどり着くまでに赤字になる心配は無くなったけれど、それでも赤字の言葉が出てから私もお金の使い方には気をつけないといけないと感じるようになった。


貴族時代はもちろんお金の心配をすることは一度もなかったし、冒険に出ても私の純金の髪の毛、アレンのやりくりと値段交渉の上手さ、サードのドケチ具合でお金の心配なんて何もないと思ってお金をポンポン使ってきていたんだもの。

一度こうやって赤字の危機を迎えた今、いくら精霊の国の宝石があるからってそれに頼りっぱなしにならないで懐具合は気にした方がいいに決まってる。


とりあえず陸路で少し大きい首都に辿りついた今日、宿を押さえてからサードはラーダリア湖の宝石を換金しようと手で掴める分の宝石を持ってどこかに持って行った。

それでも一時間ぐらいでお金に換えないまま宝石を持ち帰ってきた。


どうしてと聞くと舌打ちしながら、


「この辺は宝石産業が盛んで安く買いたたかれそうだったからやめた。もっと高い値で買い取りそうな国で売る」


…うん、まあ、このドケチ具合で今までお金に困ってこなかった部分もあるから…。


それはまあさておき、私が今気にしているのはサムラの魔法のこと。


サムラは魔法を使うセンスは抜群、力も強い。でも発動したあとはすぐ魔法が暴走しちゃうのよね何度練習してみても。

本当に分からない。だって私は制御魔法を覚えた瞬間から魔法が暴走することはなくなったのに、サムラは制御魔法を覚えたうえで暴走しているんだもの。その原因がさっぱり分からない。


ロッテとかだったら魔法が暴走する原因もすぐに特定して分かりやすく教えてあげられるでしょうけど…。残念だけど私にはもうこれ以上の知識は無い。けど私以外の皆はもっと魔法に詳しくないからサムラに助言も与えられない。そしてサムラの使う魔法はすぐ暴走する…。


どうしたものかしらと思いながら町中をブラブラ歩いていると、離れた所から大きい建物をみつけた。


お城?でもお城は…この大通りをもっと斜面を登ったところに鎮座しているわよね。まさかこんな至近距離にお城が二つあるわけもないし…あの建物なんなのかしら、貴族の屋敷かしら。


近づいていくと、古風なレンガと漆喰造り、古めかした木製の大きい扉が見えてくる。


その大きい扉を出入りしているのはどう見ても貴族やその召使いみたいな人じゃなくて一般の人々って感じ。

更に近づいていくと看板がかけてある。


『ペルキサンドスス図書館』


え、図書館なの。貴族の屋敷とかじゃなくて。


その看板の下には「この図書館の成り立ち」っていう説明があるから見てみると、どうやら元々は大聖堂だったみたい。

大聖堂には教義のために本が集まる、そうやって各国、全世界の本を集めているうちに段々と図書館の様相になって、世界で最古の図書館となった…ふんふん、この建物は貴族たちの寄付により現在の形をになっている…ふんふん。どうりで貴族の屋敷っぽいと思った。


…図書館、ね。

そういえばガウリスってモチゴメのことを調べるために図書館の人に協力してもらっていたわよね。何だっけ、レファ…レファリアンタービンとかそんなもの…。


ハッと私は思いつく。


そうよ!サムラの魔法が何で暴走するのか、その原因が書いてある本を一緒に探してもらって、それで本を読んで勉強しよう!そうしたらサムラにどうにか教えられるかもしれない!


そう決まったら後は早い。私は木製の扉を押して中に勢いよく入った。


中に入ると、外より少し涼しいくらいの空気が流れてくる。それと驚いて足が止まった。


「すご…」


ロッテの屋敷も本だらけですごいと思ったけど…この図書館の方がすごい。だってロッテの屋敷の本棚はギリギリ一番上にも手が届いていたけれど、ここは絶対に一番上の本だなに手が届かない。ガウリスの背丈より高いんじゃないの、どうやって取れって…。

あ、移動式の梯子が取り付けられているわ。なるほど、手の届かない場所に梯子をスライドさせるのね。


圧倒されながら進むと、天井のない吹き抜けの空間が現れる。どうやらこの図書館は三階まであるみたい。ロッテの屋敷は二階までだったけど…三階まであって天井も丸みを帯びた不透明のガラスの屋根だから余計に高くなって見えるわ。


顔を上から下におろすと受付みたいな場所があって、女の人が立って何か作業している。

近寄ると眼鏡をかけた真面目そうなお姉さんだわ。キッチリとしたパンツスタイルで横顔が綺麗…。仕事ができる人、でもきっと優しい、そんな雰囲気…。


近寄って「あの」と声をかける。お姉さんは顔を上げて、何か、という顔をした。


「レファリアンタービンを利用したいんだけど、申請はここでいいの?」


「レファリアン、タービン?」


お姉さんは一瞬面食らった顔をしたけど「あ」と何か思いついたような声を出して少しおかしそうな顔つきをする。


「レファレンスサービスのことですか?本をお探しならお手伝いしますよ」


「…」


名前間違えてた…!恥ずかしい…!けど分かってもらえてよかった…!


顔を真っ赤にしているとお姉さんは受付から出てきて、


「お探しの本は?」


ってそれ以上笑いもしないし深く突っ込まず、何事もなかったかのようにしてくれる。


「えと…魔術の本で、魔力が暴走せず安定した力のまま発動できる実戦向きの本があれば嬉しいわ」


私もお姉さんに習って何事もなかったように探している本を伝えると「あちらの方です」って歩き出した。


私もお姉さんの後を追いかけてついていく。


お姉さんはよどみなく歩いていくわ。こんなに広い三階建ての本だらけの建物の中、どこに何の本があるのか頭に入っているのね。


「ここが魔術書関連の本がある場所です」


目的の場所に到着してお姉さんは立ち止まった。けれど…どれを選んで読めばいいの…本が多すぎる。


悩んでいるとお姉さんは私と同じように高い本棚を見上げて、一冊の本を取り出す。


「魔力が暴走しないように実践向きの本を、とのことでしたね?これなんて分かりやすいと何度も重版(じゅうばん)されているものでお勧めですが、いかがですか?」


あ、よかった。そこまで手伝ってくれるの。


ホッとしながら手を差し出すとお姉さんはそのと本を渡してくれる。


「ちなみにどのような魔法を実戦で使いたいのですか?それぞれに対応している本も色々ありますが」


「精霊魔法もあるの?」


「精霊魔法…ということは精霊に会ったことがあるんですか」


驚いた顔で聞かれたから「成り行きで」って頷くとお姉さんは興味を持った顔で、


「精霊とはどのような見た目なのですか?」


って聞いてくる。


やっぱり精霊って会わない人はとことん会わないのね。


「見た目は…手の平に収まるサイズと、人と同じサイズの精霊がいるのかも。手の平サイズだと妖精なのかも分からないし、人と同じサイズだと本人が精霊だって言わない限り分からないけど」


「色々な種類の精霊と会っているんですね」


お姉さんはすごい、って顔をしたけれどすぐに自分の仕事を思い出したのか、


「精霊魔法の実戦書はここら辺ですね。イラスト付きのこれが一番分かりやすいですよ」


って渡してくれる。


「他に何か必要ですか?」


お姉さんはそう言ってくれるけれど、とりあえずこの二冊があればいいわね。


「この本を読んで、また何かあったら呼びに行くわ。ありがとう」


お姉さんもそれを聞いて微笑むと、では、と歩いて去っていく。


それじゃあどこか座って読む場所…。


キョロキョロと首を動かして、空いている椅子に座る。精霊魔法の本はイラストが多そうだし魔力が暴走しないための本よりページ数が少なそうだからまずは簡単そうな精霊魔法の本のページをめくった。


表紙をめくると可愛い精霊のキャラクターのイラストがあって、


「こんにちは!僕は精霊、僕の案内で精霊魔法を使った実戦を教えていくよ!さあページをめくって君も明日から精霊マスターだ!」


って喋りながらページをめくるように促している。


それより精霊マスターって何よと軽く笑いをこらえながらページをめくった。


「精霊魔法は魔力があるから使えるものじゃないんだ。まずは精霊と友達にならないと精霊魔法は使えないよ!…え、精霊と友達になってない?そもそも精霊と会ったことがない?だったらこれを読んでも時間の無駄、さっさと閉じることだね!他の本を読みな!立ち去れ!」


精霊キャラクターが可愛い笑顔でそんなことを言っている。何この毒舌の精霊のキャラクター…。気になる。


するといい匂いがして顔を上げる。どこからかコーヒーの匂いが漂ってくる。


顔を上げると「ペルキサンドスス図書館カフェ」っていうお知らせみたいな紙が棚の側面に貼ってあった。


えーと『本を読みながら軽食に飲み物はいかがですか?図書館内の本持ち込み可』…。へえ、こっちの本を持って飲食してもいいの。楽しそうだしなんかお洒落。じゃあカフェで何か飲みながら本を読もう。


私は矢印に従ってカフェに向かうと、甘めのコーヒーを注文してから席について精霊魔法の本をじっくり読み始める。


そうしてじっくり最後まで読んで、完璧に覚えたい所をもう一度読み直してサムラに教えるのに必要そうな所をメモして…そんなことをしていてふと顔を上げると、窓から見える空は夕暮れを通り越してほぼ夜に突入しかかっている。


「えっ」


もうこんな時間?しまったわ、肝心の魔力が暴走しないための本を全然読んでいない。


それと共にふと周りの異変に気付いてぐるりとカフェの中を見渡す。


「ええっ」


そんな、カフェの中に私一人しかいない、いつの間に!?


とにかくこの図書館が閉まる前に魔力が暴走しないための本をちょっとでも読んでサムラに必要そうな所だけでも覚えなきゃ…!


バッと開くけれど精霊魔法の本とは違ってイラストが一つもない。

先に気軽に読めそうな本を読んだせいかすごく難しそうに感じる。とにかく必要な所だけでも…!


ページをめくっていくと身なりの整ったお爺さんがカフェの中に入ってきた。


「お嬢さん、閉館時間です。今図書館に居る利用者はあなただけですよ」


「えっ…カフェだけじゃなくて図書館も?」


お爺さん…じゃなくて図書館の職員の人よね?話し方的に。職員のお爺さんはおかしそうに頷く。

椅子をガタガタ鳴らしながら慌てて立ち上がった。


「ご、ごめんなさい。全然周りを見ていなくて…今出るわ」


「なんならここで居残り勉強しても構いませんよ。私たちの閉館作業が終わるまでなら」


職員のお爺さんは特に気にする素振りも無く笑いながらカフェから出て行った。

見ると軽食と飲食を作る厨房には上からカーテンも降ろされていているじゃない、本当、いつの間に…声をかけてよ。


私は使ったカップを「ここにお戻しください」と書かれていた棚に置いて、慌てて図書館に戻っていく。

職員のお爺さんにはまだ居ても大丈夫と言われたけれど、やっぱりそれは迷惑だと思うもの。


カフェの軽い扉を開けると左右に通路が広がっている。

別に右に行っても左に行っても図書館の中に戻れるでしょうけれど…確か右から来たわね、私は。


早足に右に曲がって突き当りの扉を開けて図書館に戻る。


図書館の中は受付の辺りだけがホワッと明るくて、他に利用者もいないからか明かりを落とされているわ。


…こんな暗がりの中、元の場所を探すのも本を戻すのも無理と判断した私は素直に受付に向かう。

受付には変わらず真面目そうなお姉さんが座って作業をしていて、ふと私を見ると少し親し気な微笑みを浮かべて、どうしましたか、と目で問いかけてくる。


「あの…これ元に戻したいんだけど場所が分からなくて…全部読んでもいないんだけど…」


「貸出もできますよ」


お姉さんの言葉に首を軽く横に振った。


「明日の朝には出発する予定なの」


「それなら本は戻しておきますので、置いていっていいですよ」


「ごめんなさい、探してもらったのに全部読めなかったわ」


お姉さんは、あら、と私を見る。


「そんなことで謝らないでください、頼まれたら一緒に探すのが私の仕事ですし読むペースは人それぞれでしょう?それにこの本なら他の図書館にも確実にありますから、また探してみてくださいね」


謝る私にお姉さんは気にする素振りもなく優しく声をかけてくれる。


やっぱり見た目通り真面目で仕事のできる優しい人だわ…。何となくガウリスみたい…。


ありがとうと頭を下げて立ち去ろうとする。


すると何か動いているものが目の端に映って、フッと顔を動かした。


吹き抜けの二階。

そこに全身に甲冑を着て肩に槍をかけた兵士たちが足並み揃えて行進している。甲冑を着た兵士たちの真ん中には白い馬に乗り剣を抜いて「いざ進め!」と勇ましく遠くに剣先と視線を向けている王冠をかぶってふんぞり返る王様みたいな人。


…え?何あれ?

「お探しの本は」門井慶喜(著)


レファレンスサービスがどんなものかよく分かる小説。おすすめ。

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