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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ドラゴンに居つかれた村

「こっちの道が近いんです」


人質に取られている村の様子を見に行くと言った時、双子が諸手を上げて「案内します!」と息巻いいたから二人に隣村まど案内してもらっている。


そんな二人は念のためと木を伐採するような斧を腰にぶら下げてきたから、もしかしたら木こりを職業としている人たちなのかも。

だから山の斜面の歩き方も私より山に慣れた力強い足取りで…冒険者の私は度々置いて行かれそうになっている。


「何度も、ごめんなさい…」


ヒィヒィ言いながら近くの太い木の幹に手をついて息を整えるけど、さっきから少し進むだけで息が上がってしまって、いちいち立ち止まって待ってもらってる。すごく申し訳ない。


けどこの斜面は…中々辛いわ。


パッと見では楽に登れそうな雰囲気なのに、登ってみると木の根っこでできた自然の段差が多くて人工の階段みたいに均等な造りじゃない。だから普通の階段と同じ感覚で進んでいくと急に足を置く幅が狭くなってつまづきそうになったり、かかとが段差の内に入りきらないで後ろに倒れていきそうになる。


なによりその自然にできた段差の一段一段が高いから、足を高くあげて大股で「よいせ」と登らないといけなくてかなり足にくる。もう太ももがパンパンで辛い…!


「もう少し体力をつけないといけませんね、エリー」


私の前を歩いているサードがヒィヒィしている私を見下ろしながらせせら笑ってきて、その顔にイラッとしてサードを睨み付ける。


「いやぁ冒険者でもこの山はキツイって言う人もいるよ」


「そうそう。平坦な道を歩くのと山を登るのは違うからさ、俺は逆に平坦な道を歩くほうが疲れるよ、終わりが見えない気がして。冒険者ってよく歩くと思うよ」


双子の二人は私に気を使っているのか慰めてくれる。

二人の気遣いにサードへのイラッとした感情は消えたけど、それでもこんな時いつも私の息があがって私の体力回復待ちにのために立ち止まって足を引っ張っているのは確かにそう。

サードの言葉に従うなんて心の底から嫌だけどもう少し体力つけたほうがいいのかも…でも体力ってどうすればつくのかしら。


そんなことを考えながら進んで立ち止まってを繰り返してて山の斜面を登り切ると、今度は下りに入る。


「ここを少し降りてそこのカーブを曲がった先に隣村があるんだ」


双子の一人が指さす先には左へ大きくカーブする道が見える。


「前はそこを曲がったらドラゴンのしっぽの先が見えて」


双子はドラゴンがいるかもという緊張の面持ちで小声で言う。


私たちも自然と足音を立てないように歩きつつカーブをゆっくりと進んで行くと、そこから数百メートル向こうに村の入口と思われる簡易な木の門と、村の中も少し見えた。


見た感じこの双子の住む村と似たような村だわ。遠くからでも鶏が何羽もコココ…と鳴きながらその辺を行き交っているのが見える。

でも人の姿は全く見えない。それとドラゴンらしき姿も。


「…行きますか」


声をひそめゆっくりと動き出すサードに双子はギョッと目を見開く。


「行くんですか」


二人の言葉に私は何を言っているのとばかりに振り向いた。


「そりゃ行くわよ、ここからじゃ村の様子が分からないじゃない」


「…」


先頭を歩くサードの後ろを私、アレンがついていくと、アレンの背後に隠れるように二人は恐る恐るとついて来てる。

さっきまで颯爽と前を歩いて何度も立ち止まって私を待ってくれていた時とは大違い。


「…俺たち勇者御一行に憧れてて」


双子の一人が声をひそめながら口を開くとアレンが「へぇ」と気のない返事をした。


アレン的にはサードと私に憧れがあるのは当然でも非戦闘員の自分に憧れられる要素がないってスタンスで、勇者一行への憧れに賛辞の言葉は他人事みたいな感じなのよね。


そんなアレンの名声への関心の無さがまた賢者らしくて良い、最高、と好感度爆上がりしているシーンはかなり見てるんだけどね、私は。


そんなこと思っていると双子は続ける。


「だからいつか冒険者になろうって二人で話してたんだ」


「けど本物のドラゴン見てそんな気持ち()えたよ。あんなのと戦えるわけねぇって思ったもんな」


「それに俺たちはしっぽを見て村の確認もしないで逃げ帰ったのに、勇者様たちは怖がることなく村に入って行こうとするし」


「俺たちは冒険者向きじゃないってのがよーく分かった」


「素直に木こりで生活しよう」


双子は好き好きに話しながらウンウン、と頷いている。


まぁねえ。冒険者に憧れる人は多いけど、実際に強敵のモンスターと遭遇して心が折れて故郷に帰る人も多いらしいものね。


そんな中、十代から勇者になって変わらず冒険を続ける私たちの存在に憧れて若くして冒険者になる人も急増したみたい。

…まあ私は色々と事情があって国に居られなくなっただけで、自発的に冒険者になったわけじゃないんだけど…。


考えごとをしてるうちに村の入口を通り過ぎ、気楽に村を歩いていた鶏たちはコッコッと鳴きながら遠ざかって行く。


鶏が逃げるのを見送りながら辺りを見渡してみる…。鶏以外は人の姿が一人も見当たらない。見当たらないどころが声すら聞こえない。


天気のいい空の下、人が一人も居ない無音の村って中々不気味だわ…。


「パシ!フシ!」


小声がどこから聞こえてきて、双子が揃ってある家へと顔を向けた。思わず身構えてそっちに視線を向けると、板でふさがれていた窓の隙間から男の人が必死の形相で手をこまねいているのが見える。


「ラリ!」


双子は声を合わせると、


「友達です!」


とこれまた声を合わせて素早くその人の家に向かうと、ラリという男の人が入口の扉をわずかに開けて入って行く。それに続いて私たちも中に入った。


私たちが中に入ると、ラリという双子の友達は急いで戸を閉め鍵もしめる。


双子とラリの三人はお互いがお互いにわっ、と自分の言いたいことを言い合って、何を言っているのかさっぱり分かってなかったらしく一斉に静かになった。


「状況を説明してください」


静かになったタイミングでサードが口を開く、とラリはそういえばこの人は誰だろうというキョトンとした表情でサードを、そして私たちを見つめている。


「勇者御一行だよ」


「偶然近くを通ったらしくて、助けに来てくれたんだ」


双子の説明にラリは顔を輝かせ、うれし涙を流し始めてサードの手を握りブンブン振り回す。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


「いいから状況説明しろよ」


双子が声を合わせてせっつくと、ラリはサードから手を離して敷物をバサバサと振り払って慌てて床に敷く。


「すみません、座るところがろくになくて。勇者様たちに申し訳ないですけどここに座ってください」


私たちは促されて敷物の上に座ると、ラリと双子…パシとフシっていう名前だった双子は床にそのまま座る。するとすぐさまラリが真面目な顔で身を乗り出して語りだした。


ラリの話はこう。


まず、この国にドラゴンが出た噂話はここにも届いていた。でも話を聞いてみると遥か西の国境ギリギリの出来事だから、大変だなぁと話し合う程度でここはいつも通り過ごしていたみたい。


そうしたら数日前のある晩、変な風の音が聞こえてきたんだって。


ここは高い山の頂上に近い所だから、いつでも山の下から吹き上げてくる風、山を乗り越えて吹く風、上空を駆け抜ける風…そんな風を毎日聞いているから、聞き慣れない風の音を不思議に思ってラリは外に出た。


と、星空の中にうねる細長い影が見えて、それがみるみるうちに村に近づいてきて突風と共に村の上空でゆっくり立ち止まった。


その大きさといったら長い体の大部分は星空から伸びて来たの?ってくらい体の果てが見えないほどの巨大さ。


すると大きな光…ランランと金色に光る二つの目玉が、その頭が、ググッと村を見下ろすように動いた。

その光りで一瞬村の中の様子が見え、巨体の姿も垣間見えた。

目の光に反射して輝く鱗の表面、空中をうねるように浮いている長い体躯(たいく)、暗闇に浮かぶ鋭い爪、怒りを押し殺したような唸り声…。


「ドラゴンだぁあ!」


変な風音を気にして外に出ていた村人の一人が叫ぶと、その声を皮切りに呆然と見ていた他の村人とラリも我に返って叫びながら家の中へと逃げ戻った。


家に入り戸をがっちりと閉めたラリだけど、ドラゴンが本気を出せばこんな家なんて簡単に壊されるんじゃ、と冷静な考えも浮かんだ。でも家に隠れる以外の選択肢を実行するのは怖くてできなくて、とにかく震えながらジッとしていたって。


それでもドラゴンが暴れる音は全くしないから、もしかして居なくなったのかとソッと窓から外をのぞいてみると、ドラゴンはまるで一軒一軒家の中を覗きこむような動きをしている。


ドラゴンは頭が良いから食べる人を選んでいるんじゃないかと思ったラリは慌てて家の窓の木板…雨が降った時に窓を閉じるための木の板を全部おろして外から中が見えないようにした。と同時にラリの家に唸り声が近づいてきて、木板の隙間から眩しい光が差し込んで家の中が照らされた…。


「恐怖でどうにかなりそうだったよ」


その時のことを思い出したのかラリは青ざめた泣きそうな顔で言うとサードが質問した。


「で、ドラゴンはその後どうしたのです?」


「ドラゴンは…暴れはしませんでした、見てないけど家を破壊する音も人の叫び声も聞こえなかったんで…。それで少ししたら村の中が静かになったから窓から外を覗いたら、まだあっちにドラゴンの頭の一部が見えてまた閉じこもって…」


ラリはウンザリとしながらそこで一回区切って、


「それからドラゴンはずっと監視するように村の周りを徘徊してまわってるんです。村から逃げようにもドラゴンと出くわしそうで、かまどを使うと煙が出てドラゴンが寄ってきそうで使えなくて。非常食みたいなもんしか最近食ってないんです、村の皆も同じ状況だと思います」


そこまで言うとラリは部屋の中にいる私たち全員をグルッと見渡した。


「ドラゴンは今どうなってるんです?まだいるんですか」


私たちが何か言うよりも先にパシとフシ(どちらがパシでどっちフシなのかは不明)が私たちと一緒にここに来るまでの出来事を話して、今の話だとまだドラゴンは辺りに潜んでいるのかもしれないとを伝える。

ラリはどこか落胆した表情になったけど、すぐに期待のこもった目でサードから私とアレンを見た。


「だけど勇者御一行が来てくださったなら心強いです」


そんなラリの言葉は無視するようにサードは身をのりだして聞く。


「ちなみにあなたが見たドラゴンは、表面が深緑色で羽は無く鱗で覆われた外見でしたか?」


急な質問にラリは少し口をつぐんで、思い返すような顔になって考え込む。


「うーん…暗かったから色ははっきりと分かりませんけど…。確かに鱗には覆われてたはず。目の光が鱗に反射してて、あと蛇みたいな細長いシルエットで…。羽は…なかったかなぁ、ただとにかく蛇みたいな長い体って印象でした。…あ。そういえば長いヒゲっぽいのがたなびいてました」


「ヒゲ?」


頭の中にダンディな口ひげをはやしたドラゴンがフッと浮かんできて、でも今はそんなバカなことを考えている場合じゃないと目の前の会話に集中する。


「なんていうかこう…鼻の下から長いヒゲっぽいのが二本。ナマズのヒゲのような」


ラリは自分の鼻の下から両手で下にピーッと指を動かす。


アレンが村長から借りたモンスター辞典を取り出し、バラバラとページをめくるけど、難しい顔をして首を傾げた。


「そんなナマズみたいな長いヒゲが生えた蛇みたいな羽のないドラゴンなんて載ってないぜ」


その場の空気が一瞬シン…と静かになった。


このモンスター辞典に載っているドラゴンは、この世界が出来る時にいたという伝説上のドラゴンから、人間が実際に出会ったことのあるドラゴンのすべてが載っているはず。


それなのに載ってないのなら…。


「本当に新種のドラゴンなの?」


まさかと思いながらもサードに目を向ける。私だけじゃなくて、家に居る全員が。


サードはしばらく考え込むようにジッとしていたけど顔をラリに向け、


「ちなみにドラゴンの手はどのようなものだったか覚えていますか?」


「手?」


ラリが予想外の事を聞かれて戸惑った表情を見せ、サードはもう少し具体的に質問した。


「人の手のようでしたか?それとも獣に近い形状の前足と呼べるものでしたか?何か丸いガラス状の物を持っていたとかは?」


ラリは長く考え込んでいたが、申し訳なさそうに口を開いた。


「そこまでは…ただ爪は覚えてます、白くて尖った爪が暗闇に浮かんでいたのが一瞬見えたんで」


「胴体は蛇そのものだったのですね?」


「そうです、蛇にそっくりでした」


「頭にツノが二本生えていたとかは?」


「そう言われれば…突き抜けて長いのが二本あった気が…」


サードはふん、と頷いて私とアレンを見た。


「ドラゴンの正体が分かりました。確かにモンスター辞典に載っていない新種かもしれません」

わずか数百メートルの急な階段を「辛い…辛い…」と休みを入れつつヒィヒィ言いながら登ったのは私です。

京都の船岡山の信長が祀られてる神社だったんですけどね。その神社のおみくじは凶が出やすいとのことでしたが、おみくじ引いたら大吉出ました。イエーイ。

「今の人、大吉…」

と社務所の向こうから声が聞こえました。社務所内で話題にするほど大吉出ないのかと笑いました。また行きたいです。

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