ゆっくりしていってね!!!
銀髪で周りの輝く緑の光に似た瞳を持つ長ライデルは、床につかない足をプラプラさせて玉座に座っている。
子供…というより私の弟のマリヴァンと同じ、三歳くらいの見た目じゃない。長だって聞いていたからもっと老齢の見た目で白いひげが生えているような人だと思ってたけれど…。
するとさっき私が言った「長は子供なの?」って言葉にライデルはハッとすぐ反応して身を乗り出し、
「お父さんもお母さんも今いません!けど僕は二人の子供です!代わりです!立派に勤め上げている所です!」
とムキー!と手を振りかざしている。私の発言で気分を害してしまったわ。
「あ、ああごめんなさい…長だって聞いていてきっとお爺さんみたいな人だと思っていたから驚いちゃって…」
謝るとライデルはコロッと表情を変えて、フンスフンスとやる気のある表情になる。
「『じゃあお父さんがいない間はお前が長ね』ってお父さんが言ったので僕はこの国の長です!」
すると玉座より低い位置に立っている黒髪で無精ひげを生やしている男性がスッと一歩前にでて、
「私はこの国の大臣兼ライデル様の付き人のホルクートです。今現在この湖に起きている問題解決のため、国王ならびに国王妃様両名は神の元へ赴いたため留守をしており、両名の子であるライデル様が代理の長として玉座に座っておられます」
って補足的に説明すると一歩下がって元の位置に戻った。そう説明されたライデルは「その通り!」とばかりに得意げに背筋を伸ばして胸を反っている。
その顔は玉座に座っていること事体が誇らしそうな顔で、そのやる気十分のキラキラ輝いた瞳と顔つきを見ていると、何だか微笑ましい感情が芽生えてつい頬がゆるんでしまう。
「こんな湖が変になってる時に一番偉い奴が席を外してこんなガキに全権握らせてどっかに行くなんてあり得ねえだろ、余計荒れるだろ」
サードがそんなことをボソリと言うからアレンが「おい」ってサードの腕を肘で小突く。でもその言葉はしっかりとライデルに聞かれたみたい。
「でもお父さんは僕が長だから国を頼むぞって行きました!だから僕は長として頑張ってます!」
サードは表向きの表情など作らず裏の顔のまま続ける。
「じゃあお前は何をやってる?」
「外来魚を放流する人がいないかどうか見回りをさせているんですよ!」
サードの質問にライデルはキリッとした顔で返すけど、サードは鼻でせせら笑った。
「それだけだろ」
さすがにこの態度と言葉にはライデルもカチンときたみたいで、ムキー!と腕を振り回して、
「どういうことですか!見回りをさせてこれ以上外来魚が増えないようにしてるんですよ!」
って怒っているけれど…幼い子が怒ってても微笑ましくて可愛い。
ううん、それよりサードの態度と言葉はあまりに失礼すぎるわ、止めないと。
「サードいい加減に…」
声をかけて止めようとするけれど、サードはさっさと言葉を続けて私の言葉はかき消される。
「そもそもお前ら、その外来魚がどうのこうの言っているが、その最終目的は?人による外来魚放流の完全阻止か?それとも外来魚の根絶か?」
そう返されるとライデルはキョトンと口をつぐんで、チラとホルクートに目を向ける。
ライデルの視線を受けたホルクートは私たちに顔を向けて、
「今のところ外来魚の増加により湖の均衡が変わりつつあります。この均衡の変化は悪いという考えでまとまっていますが、なぜこのようなことになったのか、また起きるものなのかの相談に国王ら両名は神の元へと赴いている次第です。
ひとまずあり得るとすれば外来魚の根絶が有力でしょうが、その選択の決定権は我々にありません」
サードは「なるほど?」って言いながらホルクートを見る。
「そこのライデルの両親が帰ってくるまで話は保留ってわけだ。それなら…」
サードは視線をライデルに移して、
「別に見回りもやんなくたっていいんだ、お前本当にただの留守番役だな」
ライデルは、ガーン!とショックを受けた顔をして目が一瞬ウルッとしたけれど、歯を食いしばって顔を真っ赤にしながらサードを睨みつけて、ビッシ、と指をつきつける。
「し、失礼ですよ!それでも僕はこの国の代表であることに変わりはないんですよ!」
「代表?お飾りの間違いだろ」
ライデルは再びガーン!とショックを受けた顔をして、プルプルと体を震わせると玉座から飛び降りて、ホルクートの元に走り寄って足にしがみついて「ひーん」と泣き出した。
「サードォ…!」
ギリと力を込めてサードの腕をつねると、サードはイラッとした顔で私の手を振り払ってドッと叩いてくる。
ホルクートはライデルの頭をなでながら、
「これ以上長をいじめないでください。まだ悪い言葉に慣れていない年頃なのです」
ってやんわりサードをいさめる。
「甘やかしたら自分が生きてさえいれば国民が喜ぶなんて勘違いして育っちまうぜ」
それは以前のエルボ国のファディアントじゃないの。
心の中で突っ込んでいるとサードは続けた。
「大体にして川に外来魚放流する人間を探すって、毎日毎日わざわざ湖に放流する奴がいるとでも思ってんのか?そんなことをする人間を何人発見できたんだ?大方一人も摘発できてねえだろ」
サードが畳みかけるようにそう問いかけると、ホルクートは、全く言い返すつもりはございません、という顔つきで黙ってサードの話を聞いている。
その顔を見る限り、ホルクートも見回りをしたってあまり効果がないって思っているような…。だとするとホルクートはライデルが考えついたことはあまり効果がないって思っているけれど、本人のやる気を尊重してあまり効果がないことをやらせている…?
けどだとしたら…。
私はチラと後ろで私たちと同じように控えているレンナを見る。
レンナはそんなやらなくていいことのために人間に捕まって、殺されそうになったってことじゃない。
「そんなやんなくてもいいことでお前らの仲間が人に殺されて食われそうになったんだぜ」
私が考えていたことそのままをサードが口にする。
その言葉にホルクートも、泣いていたライデルも涙と鼻水で顔をぐしょぐしょにしながらサードを見た。
サードはレンナを親指でさして、
「レンナは人魚と勘違いされて数人もの人間に押さえつけられて包丁で腹かっさばかれて食われそうになった。そのまま逃げられなかったらとんだ無駄死にだよな、そんなやんなくていいことのために命を落とすなんて」
包丁でお腹を…の部分でライデルはお腹を押さえてゾッとした顔をしている。そしてレンナを見て、恐る恐る聞いた。
「だ、大丈夫なのですか…?」
レンナは頷きながら、
「なんとか逃げ切りましたし、その後はこの方たちに助けていただいたので」
ライデルはお腹を押さえたまま、罪悪感あふれる顔でホルクートを見上げる。
「僕の命令は間違ってましたか?見回りなどしない方がよかったですか?」
ホルクートは少し考え込んで、
「間違い…ではありません。見回りも効果が完全にないわけでもありませんし、今回のレンナのケースも運が悪かっただけです」
何それ、殺されそうになった仲間相手に運が悪かったで済ませるわけ?
イラッとしていると「しかし」ってホルクートは続けてライデルと視線を合わせる。
「人間の近くに寄るということはそのような危険も伴うということです。そのことはどうかこれからも胸に刻み、お忘れなきよう」
「…見回りはやめたほうがいいということですか?」
「それは長であるあなたが決めることです」
ホルクートは素っ気なく返す。
ライデルは必死に考え込んで悩んでいたけれど、ションボリとしながら私たちに向き直った。
「お父さんとお母さんが居ない間に仲間が死ぬようなことはもうできません。見回りはやめにします」
「ほーう?自分で決めたことをそんな簡単にやめるんだなあ?お前の思いつきに振り回される周りは大変だ」
ニヤニヤ顔のサードの言葉にライデルが息をのんで、不安そうな顔でホルクートをバッと見上げる。
ホルクートは軽く眉間にしわを寄せながらサードをみて、
「あまり長をいじめないでください、これでも長になってから初めての客人ということで張り切っていたのですよ」
「…初めて対応するお客がこんなのでごめんなさい…!」
サードの頭を押さえつけて無理やりにでも謝らせたいけれど、絶対サードは頭を下げないから代わりに頭を下げておいた。
隣から「んっだ、コラ」って声が聞こえるけれど、誰のために私が頭下げてると思ってんのよこの…!
「謝罪などいりません。それよりも仲間を助けていただいたことについて深くお礼申し上げます」
ホルクートが頭を下げるとライデルはハッとした顔になった。思えばそのことについてお礼を言っていないと気づいたみたいで、
「深くお礼申し上げます!」
ってホルクートが言った言葉をそっくりそのまま繰り返して頭を下げる。
ちゃんと私たちと対等に話もできるけれど、こういう所はマリヴァンと同じような年齢の子みたい。ほっこりするわ。
ホルクートは頭を上げると私たちに聞いてきた。
「それで、あなた方がここに来たのは何かしら目的があってのことですか?」
「まあな。用を済ましたらすぐ帰る。とりあえずここには挨拶に来ただけだ」
サードの言葉にライデルは「え」と顔を上げて、
「もう行っちゃうんですか?」
と聞く。サードがチラと見ると、ライデルはピャッとホルクートの陰に隠れた。
少ししてコソ、と顔を出すけれど、まだサードがまだ見ていたから再びピャッと隠れる。
…やだ、可愛い。
私どころかアレンもガウリスもレンナもほっこりした顔でホルクートの陰に隠れているライデルを見ている。
でもサードだけはそんな慈愛の表情を浮かべていなくて、むしろ「もっといじめてやりてえ」とでも言いたげな顔…。子供をいじめる大人は最低よ。
とにかくこれ以上はライデルが可哀想だし悪影響だわ。さっさと引き離さないと。
「それじゃあ、そろそろ…」
頭を下げつつサードの腕を引っ張って玉座の間から去ろうとする。
「少々お待ちを。よろしければ目的を果たすまでこの城で宿泊をしていただいて結構ですが」
ホルクートに呼び止められて、振り向いた。
「この国では各自が自分の家を持っていますが宿というのはありませんので、基本的にこの国に訪れた客人は城に寝泊まりしていただいているのです。いかがしますか?」
え?この国、宿が無いの?
驚く私の顔を見たホルクートは続けて説明する。
「いくつもの国が点在し人が移動し続ける地上と違って、ここは一つだけの国ですから。宿は必要ないのです。国民の皆は遠くに行ったとしても知り合いの家に宿泊するので」
あ、なるほどね…。
「目的つったって、サムラに合う眼鏡を作るまでの間だけだなんだけどなぁ。そんなに時間かかるかな…」
アレンの言葉にホルクートは、
「眼鏡…?」
って少し考え込む。すると後ろからレンナが、
「マーシーの眼鏡屋に用事があるみたいで」
って声をかけるとホルクートは「ああ、マーシーの」って理解したのか頷いた。
それより大臣に知られているほどマーシーって精霊たちの中では有名なの?
「マーシーって有名人?」
アレンも気になったのかコソッとレンナに聞く。でもアレンのコソッとした声は普通の会話レベルだからホルクートにもしっかり聞こえたみたい。
「会ったことがなくとも我々精霊は長生きですから名前や住んでいる場所、職業を聞けばどこの誰かは分かります」
…それって田舎のものすごく密なご近所関係って感じだわ。
私の住んでいたスイン地区も田舎だったから、どこの誰それって言えばすぐ皆パッと分かっていたもの。
でも国の全員…それもお城の関係者も国民も関係なく皆分かるってのはかなりすごいと思うけど。
サードも眼鏡を作るのにどれくらい時間がかかるのか分からないと思ったのか、
「そうだな、時間がかかりそうならここに泊まる」
「ゆっくりしていってくださいね!」
ライデルが顔を出してそう言うけれど、サードがチラと見るとやはりホルクートの陰にピャッと隠れた。
サード
「甘やかしたら自分が生きてさえいれば国民が喜ぶなんて勘違いして育っちまうぜ」
~その頃エルボ国~
ファディアント
「ブエックシッ!ズビ(…風邪か?…こんな金のない時に風邪なんて引いていられん…いやいざとなれば無料診療所にいけば…だが診察は無料でも薬は有料なのだろうか…一応何かあった時のために後で調べて…)」
マーリン
「やだ風邪ぇ?ばっちぃわぁ。あっち行ってよシッシッ。あ、あっち行くついでにお金稼いで宝石を買ってきて、私のためなら風邪でも動けるでしょ、エメラルドの指輪ね。ほら行ってきてよシッシッ」
ファディアント
「…あ"?」(イラァ)




