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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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勇者大暴れ(後半サード目線)

「あれか?」


例のオンミツの衣装を身にまとっているサードが明かりの灯っている遠い船を見てレンナに聞く。


レンナは、はいと言いながら頷いた。


「アレン、もっと近づけろ」


「これ以上近づいて大丈夫?夜中に近寄ってくる船居たら不審がられるんじゃね?ただでさえこの船他の船より大きいしさ」


サードは少し考え込んで、ぐるりと船の中を見渡して私に目をつけてきた。


「エリー、お前の荷物入れ持って来い」


私に指示を出しながらサードも動き出すけど…何で今私の荷物入れ?


とにかく私の荷物入れもといマジックアイテムの大きいバッグを持って戻ると、サードも自分の荷物入れを持ってきている。

サードは手早く自分の荷物入れと私の大きいバッグからエルボ国で使っていた変装道具を取り出した。


「サムラ、レンナこっちこい」


クイクイと指を動かすサードに二人が近寄ると、サムラには金髪の一本つなぎのカツラを被せて、全ての髪の毛を金髪のカツラの中に収納させる。


レンナには茶色のボサボサのカツラを被せてサムラと同じように髪の毛を全てカツラの中に収納した。

そのままガツガツと叩くようにとかしていくと、ボサボサだったカツラの髪がだんだんとサラサラになっていく。


「エリー、お前は上のローブ脱いで髪飾りは全部取れ」


「え…うん」


レンナのカツラの髪の毛を整えているサードの言葉にローブを脱いで髪飾りをもそもそ取っていると、レンナのカツラを整え終えたサードが私の所にやってきて、残りの髪飾りを手早く外した。


そのまま髪の毛を片方に全部流して顔を覆い隠すようにとかしていく。


「アレン、この船の船体番号は?どこに数字書いてる?」


「655。数字は船の左後ろ」


「お前は数字をあの船に見せないように運転しろ。エリー、お前化粧道具か何か持ってねえか?口紅があればまずいいんだが」


「口紅?持っているけど…」


でも何で今、口紅?


いきなりあれこれと訳が分からないうちに物事が進められていくから、疑問を口に出さないまま大きいバッグから楕円形の容器に入っている口紅を取り出した。


これはエルボ国…ディーナ家から出発する前日にお母様が渡してくれた口紅。


『フロウディアも年頃なんだから、冒険をしていてもこういうの使ってお洒落の一つでもしなさい』


そう言ってお母様は優しく私の手の平を包み込むようにそっと渡してくれた。


お母様、元気かしら。


口紅を見てお母様のことを思い出すとほんの数ヶ月前のことなのに懐かしくて、かすかに胸が締め付けられ…。


サードがガッと口紅をもぎ取った。


「ちょっ…!」


サードはさっさと容器のふたを開けて、小指にちょいと紅をつける。


「ちょっとそれお母様からもらったやつでまだ一回も…」


使ってない、って最後まで文句を言う前にあごをグイと上にあげられて、唇にサードの小指が当たるから口を閉じた。


サードは手慣れたようにス、と紅を引いていく。


……。ちょっと…あごを上にすくいあげられて唇を指で触られているとか…何かものすごく恥ずかしいんだけど…。それに顔が近いし目のやりどころに困る。


顔を横にずらした。


「動くな」


顔を戻されて紅を引かれる。サードは確認するように私の唇を見るとさっさと離れた。


ああ…ほんの数秒だけど恥ずかしかった…。何か疲れた…。


息をついているうちにサードは同じようにサムラとレンナにも紅をひいている。


それにしても口紅をつけただけでちゃんと化粧をしているような顔になるものね。サムラは元々病弱な色白さで細身だから、女の子みたいになっちゃった。


「お前ら三人はここに座れ」


船の右側の窓辺に座るようにサードは指示を出してくる。


「…サード、夜の商売を装って近づくつもりだな?」


アレンはピンときたみたいでそう言うけれど、まさか夜の商売って、この前「いい娘揃ってるよ」とか言いながら寄ってきたあの商売のこと?


カッとなってサードに食ってかかった。


「嫌よ!そんなの!」


サードは私の肩を掴んで窓際に座らせる。


「馬鹿言え、向こうの船にはもう女が乗ってんだ、それなのに他の女に乗り返るようなことしねえだろ。あくまで近寄っても警戒されて逃げられないようにするためだ」


それなら、まあ…。…でも気分的にやっぱり嫌だわ。


ムッス、としながら黙っているとサードは皆に向かって偉そうに立った。


「いいか、これからあの船に近寄る。俺はまず女は要らねえか交渉する、返事がどうであれ俺は向こうの船に飛び乗って魚の皮を探す、俺が向こうに飛び乗ったらアレンは船をすぐ動かしてこの場から離れる。いいな」


「それじゃあサードさんは向こうに乗った後はどうするのですか」


サードは一瞬考えて、


「アレン、三キロほど船を動かしたら船を止めて待ってろ。お前の行った方向に後から俺が泳いで追いつく。いいか船体番号は絶対に見られるな。ついでに船もろくに覚えさせたくない、だから俺が飛び移った瞬間にすぐ出発させろ、いいな」


「それなら…」


レンナが立ち上がった。


「私は泳ぎは得意ですからあなたが船から脱出したあと一緒に泳ぎます」


「お前は顔を見られてる、ここで待ってろ」


サードがレンナの肩を掴んで座らせる。


「あの僕…」


サムラが立ち上がったけど、言葉を聞く前に肩を掴んで座らた。


「お前は船に向かってニッコリ笑って手でもふってろ」


「あの、でも僕男でお爺さん…」


「いいからニッコリ笑って手でもふってろ。そろそろ近いぞ」


あまりにもテキパキ動くサードを見て、


「そんなに急がないといけないわけ?」


って聞いてみた。サードは船を見据えながら、


「あいつらはレンナを食おうとしたが逃げられた。だが魚の皮が残ってる…そうなりゃ残ってる皮でもいいから食おうとするだろ、特に酔っ払いは何するか分かんねえから時間勝負だぞ」


「魚ってさぁ、皮が美味いよなぁ。パリパリに焼いて脂のってる所がさぁ」


アレンはじゅるりとよだれを垂らしかねない口調で言っているし、サードは船から視線を逸らさないまま、


「俺は皮は最後に食べる派だ」


とか意味の分からないことを言い出す始末。


…確かにこれ、時間勝負なのかもしれない。食べられるのが先か、回収するのが先か。


私も船を見据えて、でも顔を見られないようにするためうつむいて黙っておくことにした。


* * *


例の船の近くに寄ると、酒に酔った足取りでフラリと現れる男に俺は声をかける。


「いい娘揃ってるぜ。一時間コイン三十枚、特殊な性癖があるなら一時間につき追加料金コイン二十枚、場所はこの船の中の小部屋で。早い者勝ちだぜ」


以前言われた言葉をもじりながら言うと、出てきた男は、


「あー?悪いがもう女は乗ってるから…」


そう言いつつどんな女がいるのか横目でこっちの船に視線を巡らせる。正直な奴だ。


俺は即座に向こうの船に軽々と飛び乗った。

後ろでは船があっという間に遠ざかっていく音が聞こえる。


俺の言葉通り動いたな、さすがアレンだ人の言うことを良く聞く。言葉では言わねえが褒めてやる。


「ちょ、何だお前!」


目の前の男は漁をしているからか、日に焼けた体のいかつい。俺より一回り大きいくらいか。


男は俺の胸倉を掴みかかろうと手を伸ばすが、こんな大振りの動きなんてすぐ見切れる。

男の腕の下に軽く腕を当てのれんをくぐるようにスルリと横をすりぬけ、船の中に入る。


魚の皮は、と視線を巡らせるが、俺の目に入ってきた光景に目を見開く。


魚の皮を頭から背びれを抜けて尾まで手際よく真っ二つに切っている男が二人。備え付けの魔法陣の上で火を起こし焼こうと準備している男一人。早く食べたいとのたまいわくわくと待ち構えている女たち五人…。


が、その全員がいきなり船に現れた見ず知らずの俺にすぐ気づいてギョッと目を見開き、男たちは戸惑いからすぐさま怒りの表情になって俺を睨みつけ立ち上がる。


「誰だてめええ!」


威圧するような怒鳴り声をかき消すほどに俺は怒鳴り返した。


「うるっせえ、ぶっ殺すぞこのクソどもがあああ!」


何してやがんだこいつら。


てめえらが酔っぱらって人魚の皮と勘違いしてるそれは仙女が浦島に渡した(はこ)と同じ大事な物だ。

(はこ)を仙女から渡されたからただの人間だった浦島でも一人で異郷から地上に戻れた、羽衣が取られたから天女は地上から天に帰れなくなった。それと同じくその魚の皮は異郷と人間界を行き来すんのに必要なアイテム。


それを酔っ払いの馬鹿どもが自分勝手な都合で…ふざけやがって…!


ずんずん近づいていくと、女たちがキャアと喚きながら逃げていった。


と、後ろの音が遮られる。これはさっき横をすり抜けたあの男が後ろに立っている。右…右から腕が伸びてくる。


後ろを見ないまま背後に迫る男の腕を掴み、背に乗せ軽くジャンプするようにしながら男を投げ飛ばした。


男はわざと自分で飛んで行ったのかと思うほど派手に飛んで行き、船体の向こうまで飛んで壁に大きな音と共にぶつかると床に滑り落ちて、静かになった。


女たちはキャーキャー叫びながら逃げ惑っている。


一人の男が「野郎!」と向かってくる。


体格の差や力だけでは断然勝てない相手だ。だが酔っ払っているせいか体の重心があちこちに動いている。軽くかがみ下からみぞおちに拳をドッと入れると、男は口から食べた物を胃液と共に吐き戻しながら倒れ、静かになった。


魚の皮にズンズン近寄っていく。見た限り綺麗に真っ二つに裂かれているがまだ焼かれていない。


…だが客観的に見てもこの魚の皮は炙ったら美味そうだ。

あー塩ふって炙って元の世界の米で食いてえー。こっちの米はパラパラで粘り気も少ねえから米って感じがしねえんだよな。

茶碗山盛りに白飯盛って、塩ふって炙った魚の皮と一緒に米を口の中にかきこんで、残り少なくなったら茶を注いで茶づけにして…。


ふっと横の空気が動く。


バッと動くと包丁を手に持った男が俺の居た場所に魚を捌く鋭利な包丁をヒュンッと振り下ろした。


「ちょっと!殺す気!?」


女の一人がギョッと叫ぶが、包丁を持っているのは随分と酔いの回ってる男だ。ベロベロに酔っぱらった口調で、


「うるっへー!俺はなぁ知ってるんだ、こいつは強盗だ!金を奪って人殺すのがたまに出るってうちのじっちゃんが言ってた!だから先に殺してやんだ!」


んだてめえ、俺が強盗だとでもいうつもりか。

むしろてめえらが先にレンナを生きたまま腹割いて食って殺そうとしたんだろうが、自分を差し置いて何様のつもりだこの野郎。


腹が立って包丁を持った男のあごにドッと掌底を喰らわせた。


「ぶえっ」


男はぐらぐらと頭と眼球を動かしながらその場に倒れ込む。そのすぐ後ろから空の酒器を片手に俺に向かってくる男が腕を振り上げ殴りかかってきたが…酔っ払い相手は重心がよれてて話にならねえ。


スッと避けて足を引っかけ転ばせて…。


「ッダアア!」

「!?」


転ばせた瞬間、操縦室から別の男が飛び出してきて、長い(もり)を手に俺に向かってきた。

男は全員で四人と思ったが、操縦室に一人仲間が残っていやがったか。


…そうだ、女は五人、男一人に女が一人つくと考えれば男も五人いると考えるのが当然だった。


船を操縦するためかこいつは酒は飲んでいない、漁師らしく船の揺れに慣れた重心の取り方。だが俺の相手じゃ…。


「ふんっ」

「おっ」


バツン、という音と共に離れた所にあったはずの銛が勢いよく俺に向かって飛んできて、俺は後ろに跳ねのける。バネのついた仕掛け銛か。今の一撃で俺を動けなくするつもりだったようだが…。


やっぱり俺の相手じゃねえ。


銛を再び手に装着しようとする男にせまろうとすると、足を掴まれた。下を見るとさっき転ばせた男が俺の足にしがみつきながら睨んでいる。


ああ、そういや転ばせただけでてめえにはまだ留めをさしていなかったな。


肘を大きく振り上げ、そのまま軽くジャンプをしてから正座するように一気に座り込んで、足を掴む男の脳天に肘をゴッと当てた。男は鈍いうめき声のあと、静かになった。


銛を持つ男は仲間が全員倒されたのを見て心が折れた顔だ。一歩進むと恐怖に脅えた顔で尻もちをつき、震えた声で、


「な、何なんだよお前、何が、何が目的で…」


「目的?ハッ、人助けに決まってんだろ」


鼻で笑いながら足で銛を持つ男のあごを蹴とばす。男は叫び声をあげることもなく弾き飛ばされ、静かになった。


これで男は全員倒した。見回しても他に男はいなさそうだ。…それにしても倒れる男どもを見ていると妙に胸がムカムカしてくるな。


視線を動かすと船の隅で固まっている女たちと目が合う。女たちはヒッと顔を強ばらせて、


「こ、殺さないで!体は好きにしてもいいから!」

「体は好きにしてもいいから殺さないで!」

「お願いだから殺さないでええ!体は好きにしてもいいからああ!」


全員が懇願するように泣き叫んでいる…。


こいつら、何か勘違いしてねえか?まるで俺が男全員を殺したみてえな脅え方しやがって。ピクリともしないだけで気絶してるだけに決まってんだろ何考えてんだ。


だがプロの女相手から身体は好きにしてもいいと言われると魅力的じゃねえの。殺されるよりはマシという考えで言ってるんだろうが。


だが好きにしてもいいと言われた手前何もしないわけにもいかねえだろ、男として。

据え膳食わぬは何とやら。恐怖で固まる女を安心させて昇華させていく工程もまた一興。


思ったよりことも早めに片付いた、それに人の言うことをちゃんと聞くアレンはきっと船を三キロ先に停めている。


ならあとは大人の自由時間だ。


「それなら誰が最初に相手してくれんだ?それとも全員でか?」


腕を組み声をかけると女たちは驚いたように黙り込んで、脅えながら互いにアイコンタクトをしている。

まさか本気で体を好きにしてもいいという言葉に俺が乗るとは思っていなかったようだ。


「安心しろよ、俺はこういう時だけは優しいぜ」


女たちの目が一斉に「嘘だ!」と言っている。何だこいつら分かってんな、さすがプロだ。


さて、これからどうしていくか。五人相手なんて流石にやったことねえから…。


「あのう…」


女の控えめな小さい声が後ろから聞こえ、驚き振り向くと水に濡れたレンナが入口からそっと覗き込むように立っている。


…何で、お前…。


妙にムカムカする胸を抱えレンナを見ていると、小声で、


「やっぱり迎えに行ってって言われて…」


「あ?誰に」


余計なことしやがって、こちとらこれからお楽しみの時間だったってのに。


イラッとしているとレンナは続けて、


「エリーさんが行ってあげてって…。無効化の魔法がどうのこうので船酔いとか言ってましたけど…」


その言葉ではたと思い出した。


そうだ、今まであまりにも自然にエリーが無効化の魔法をかけていたから忘れていたが、ここはエリーの無力化の魔法がかかっていない船の上。


そんな所で俺は大立ち回りをして…。


そう気づくと途端に胸ではなく胃が気持ち悪くなって「ウブッ」と吐き気が襲ってくる。


思えばさっきから妙に胸がムカムカしていた。このままだと吐いて動けなくなる。こんな状態じゃお楽しみどころじゃねえ。


「…戻る」


真っ二つにされた魚の皮を掴むと、俺は体をユラユラ動かしながら歩き出した。

サード

「それなら誰が最初に相手してくれんだ?それとも全員でか?」


レンナ

「(あ、あ、これ、声かけていいのか…あ、どうしよう、あ、でも…)」(オロオロオロオロ)

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