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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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小悪党から情報をゲット…なるか…!?

「え?俺が会った魔族について知りたい?」


私たちのお金でハミルトンに食事をごちそうしている中、食べる手を止めてハミルトンが聞き返す。


「ええ、もしかしたらあなたを助けられるかもしれません。聞かせていただけますか」


サードはそう言いながら続けて、


「私たちは何度も魔族を討ち果たすため魔族と会っています。だから分かるのです。あの者どもは一度自分の支配下に置いたら手放すことはしません。その者が死ぬまで自分の駒として支配を続けることでしょう」


顔を青ざめてフォークをカチャンと皿の上に落としたハミルトンは立ち上がって身を乗り出した。


「じゃ、じゃあ、例のブツを探して持って行ったとしても…!?」


「ほんの少し寿命を延ばしてまた何か探してこいと言われるのがオチでしょう。力のない人間が反抗できるわけがないと魔族は知っていますから、利用できるならどこまでも利用するでしょうね」


ハミルトンの顔は絶望の色に染まって、カタカタとわずかに震えながら椅子に力なく座る。


まあ、魔族はそんな人たちだけじゃないし、サードこそがそうやって利用できるものはどこまでも利用する魔族みたいな性格なんだけれど。


それでもハミルトンは、


「じゃ、じゃあ俺、死ぬまでずっと、こんな命の期限に脅えて過ごさねえといけねえの…?」


って青い顔で呟いている。サードはゆっくりとテーブルの上に手を組んで優しく声をかけた。


「ですから教えていただけますか、あなたを救うために、その魔族のことを。私たちは勇者一行、人を苦しめる魔族を倒すのが仕事です」


…魔族に近い男が神みたいな顔と言葉でなんか言ってる。


心の中で呆れたけれど、ハミルトンはパッと喜んで…でもすぐ腑に落ちない顔をで私たちを見回した。


「けど…あんたらも散々公安局に連れてこうかって話し合ってたのに…何でそんな俺にこんなもてなしして優しくして…」


ハミルトンはハッとした顔で警戒する顔つきになった。


「も、もしかして俺を裏取引の何かに使って金儲けでもしようとしてんのか?それともこの情報聞いたら後は殺すつもりか?」


そう言うと自分の食事に目を移して、


「うわあああ!」


って頭を押さえてパニック状態になりだした。


「食っちまった!思わず食っちまったがこれあれだろ、食うもん食わせたんだから情報を吐けって断らせないようにするもんだろ、チッキショウ、俺が金持ってねぇからってぇえ!」


えっ…!?まさか魔族に渡された金貨十枚をこの二年ぐらいで使い切っちゃってるの!?大体金貨一枚あれば一つの家庭が半年は余裕で過ごせるのに!?


「違います、私たちは純粋にあなたを助けたいだけなのです」


ガウリスがそう言ってハミルトンを落ち着かせようとしているけれど、心からそう思っているのはガウリスだけだと思う。

サードは情報を引き出したらハミルトンを公安局に捨てるつもりだし、私もアレンもハミルトンは自業自得くらいにしか思ってない。こんな人のために助けてあげようって気は起こらない。

サムラはハミルトンをどうするかは私たちって感じで特に何も言わないし。


でもハミルトンはこんなに優しくしてくるんだから何か裏があるって考えに行きついたらものすごく疑い始めて、眼球を激しくグルグルと動かしながらガウリスを見て、サードを見て、私を見て、アレンを見て、サムラも見た。


逃げようとしたのか立ち上がる。でも私たちは勇者一行、そんなの相手じゃ逃げられないって思ったのか席に座る。


「…詰んだ、俺詰んだ」


ハミルトンは両手で頭を押さえてガックリとテーブルに視線を落とす。


「あの…ですから私たちはハミルトンさんの手助けができたらと…」


「何で?何のために?それやって何かあんたらの得になることある?」


ガウリスの言葉にハミルトンが噛みつく。


「得には…ならないでしょうが、その魔族を倒せばあなたは助かるのでしょう?」


「だからそんな得にならないことで勇者御一行が俺を助けるわけねえって話だろ?何考えてんだよ、言えよ、俺殺されるのか?それともあんたらもあの魔族と同じように俺を死ぬまでこき使うつもりか?」


ガウリスはなおも言葉を続けようとするけれど、サードがガウリスを止めた。


「ガウリスの思考とハミルトンの思考は違い過ぎて噛み合いません。いくら説得しても平行線ですよ」


そう言いながらサードはハミルトンを見た。


「あなたは無償の施しを受けるという考えがないようです。ならば取引しましょうか、きっとその方があなたも安心できるのでしょう」


ハミルトンは余計絶望の顔色に染まった。


魔族にも死ぬまで使われて、勇者御一行にもこき使われるのかって絶望の表情に見えるけれど、無償でどうにかするって考えに一方的に脅えて拒否してきたのはハミルトンじゃない。勝手に喚いて勝手に脅えて、何がしたいのかしらこの人。


「ち、ちなみにどんな取引だよ…?」


とりあえずハミルトンは内容を探りにかかってきた。


サードはハミルトンの食べかけの食事に指を向けて、


「まずその食べ物は情報料の前払いと受け取ってください。その食事で魔族の話をもう少し詳しく教えていただけますか?」


そう言われるとハミルトンは少し落ち着いた顔になって、落としたフォークを手に持つ。


「まあ…さっきから話してる通り、あいつは男の魔族で、首都の町中で暮らしてるみてえだった」


「住んでるの村じゃなくて町なんだ?」


アレンがフッと思ったのか聞き返すとハミルトンは少し眉根を寄せてアレンを見返す。


「何で村にいるって思ったんだよ?俺は町とか首都としか言ってねえはずだぜ?」


「え、そ、そりゃあ…村じゃねぇんだなぁって…」


ウチサザイ国に黒魔術士の村があるかもしれない。そうロッテから聞いていたからアレンは何となく聞いたんでしょうけど…。


そのアレンの一言に今まで脅えていたハミルトンは急激に落ち着いた表情になって、ニヤと笑うとサードに身を乗り出した。


「…なーんか、勇者様たち、何か知っててそれの裏を取るために俺から情報聞き出そうとしてない?村って何?ウチサザイ国の村で何かあるの?それに魔族が関わってんの?それが知りたいの?」


一瞬サードの表向きの顔にチリ、と裏の顔が現れかけるけど、何事もないように微笑んで、


「ええ、このサムラという者と同行することになったのですが、サムラの件にウチサザイ国が関わっていまして。そのウチサザイ国に魔族がいるとあれば勇者として見過ごせないことですので」


「そっか、やっぱそうだ。そういや何か怪しい村があるとかウチサザイ国逃げ回ってる時に聞いたことあるもん。その村と魔族が何か繋がりあるんだろ、だから俺が会った魔族の情報が欲しくて、こうやって俺に優しくしてんだろ」


え、ええ…?あんなアレンの村って一言だけでそこまで分かる…!?


ハミルトンは、ははーん?と笑ってのけ反るとフォークを振り回す。


「つ・ま・り。俺が唯一のウチサザイ国の魔族の情報源ってことだな」


ハミルトンは、へっへっ、と笑いながらサードに向かっていやらしい笑い方をする。


「あーあ、俺もうちょっと何か食べたい感じー?みたいな~」


「どうぞお好きにお食べ下さい」


「あ、そーう?じゃあこの特上ステーキ食べちゃお。おねーさーん、特上ステーキ追加ー!」


* * *


「ドゥウウルア!」


サードが私の部屋の壁を殴っている。


「ちょっとやめてよ、それで穴開いたら私がやったみたいになるじゃない」


勇者一行の私たちのみでの話し合い中、ずっとサードは荒れていて、壁を殴り続けているからいい加減止めておいた。

それもサードは私の言葉なんて無視してアレンを殺しそうな顔でギロッと睨みつけた。


「てめえアレン…よくも要らねえこと口走ってくれたもんだなぁ…?」


「や、悪いってぇー」


アレンは情けない顔つきで笑いながら両手の平を合わせてサードに謝っている。


「あの野郎は寄生できるって分かったらどこまでも寄生してくる程度の低い野郎だぞ、見てみろ、あの野郎調子に乗ってろくに情報も吐かねえわりに金はどこまでも使おうとしやがる!」


サードはイライラと部屋の中を歩き回っている。檻の中に入れられてイラついている猛獣みたい。


でも確かにハミルトンはサードの言う通り程度が低い。

私たちが魔族の情報を欲しがってるのに気づいたらヒョイと態度を変えてどこまでもつけあがってひたすら食べ物を注文し続けるんだもの。


終いには私に、


「あーんして、ほら俺の口にはいあーんって。そうすれば俺魔族の情報言っちゃうよん」


ってフォークを無理やり渡して…。何でそんなことしないといけないのって拒否したら一気に不機嫌になって、


「あーあ、それなら俺絶対言わないもんね。エリーだっけ?あんたが俺の口にはいあーんしてくれるまで俺ぜってー言わねー」


ってそっぽ向いて…。


フォークでその横顔突き刺してやろうかしらって怒りで手をブルブル震わせて、でも食べさせないと言わないならやらないと…でもやりたくないってフォークを掴もうとすると、アレンがそのフォークを掴みとってハミルトンの顔をグイと自分に向けて、


「はい、あーん❤」


って裏声で言いながら食べ物を突っ込んだわ。


ハミルトンはキレたけどアレンのゲラゲラ笑う顔と声に毒気を抜かれたのかそれ以上私に絡んでくることはなかったけど…一切魔族の情報も言わなかった。


でもチラチラと私の様子を伺っているのは何となく気づいてた。その目が凄く嫌で…ずっと無視してた。


それも食べ物を存分に食べて外に出ると満足気にお腹を叩いて、


「勇者様たちってさ、どこ泊ってるの?へえあのホテル?いい所じゃん、俺も泊まりたいなぁ。いい夢見たらもっと詳細な情報思い出せるかも」


とかサードの肩に手を回しながら「なあ?」って言うから今現在、同じホテルのかなりランクの低い部屋にハミルトンは私たちのお金で泊まっている。


「…ごめんなさい…!あの時私が素直に口に食べ物を入れていればよかったんだわ…!ただ口に突っ込むだけで終わる話だったのに…!」


後悔渦巻く気持ちを抱えてうなだれると、ガウリスは「いいえ」と首を横にふりながら私の肩に手を添える。


「エリーさんが嫌がることをして手に入れる情報など私たちも嬉しくありません。あの時もこれから先も、あのような行為は私たちのためと思わず全て断って良いのですよ」


「ガウリス…ありがとう」


ジーンとした気持ちでガウリスの首周りにギュッと抱きついた。

ガウリスは私を軽く抱きしめ返し、背中を優しくポンポンと叩いてからそっと離れる。


「こんなに感謝するほど嫌だったのですね?明日はいいことがありますよ。エリーさんに神の祝福を」


という痛ましい顔で祈られる。


ああ、なんだかこれだけでさっきまでの嫌な気分が全部フワフワと包み込まれて消えていくみたい…不思議。


アレンにも顔を向ける。


「アレンもあの時助けてくれたのよね。ありがとう」


「まあ、ああいう時は俺だよな」


はは、とアレンは何ともないとばかりの顔で笑って、俺もハグ欲しい、とばかりに両手を広げて私を待っている。


何となくその姿がアレンのお兄さんのブラスコを思い出してしまって、思わず笑いが込み上げてきた。


「貴重なハグチャンスは逃がさない。さ、エリー」


「そういう所はシュッツランドの男性らしいですよね」


期待しながらキリっとした顔のアレンと、ガウリスの軽いツッコミにまた私は笑ってしまった。

アニメ新テニスの王子様で地面に穴を掘れと命令されるシーンを見て、


「893の…!」(『この穴は何ですか?』『これはお前が入る穴だ』蹴り落とす)


家族

「ドイツの拷問…!」(穴を掘らせる、埋めさせる。次の日穴を掘らせる、埋めさせる。次の日…略)


我が家の思考回路おかしいと判明した。

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