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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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のぞき

マジックアイテム店を後にした私たちは、さっき教えられた眼鏡専門店に行ってみた。そこで魔法の眼鏡屋さんを知らないかと聞いてみると、


「いやぁ…うち、普通の眼鏡しか取り扱ってなくて…さっきも赤毛の背の高い人に聞かれたんですけど…もしかしてあの人勇者御一行のアレンさんじゃないかと思うんですけど…すみません…何も知らないんです…」


ってすごく申し訳なさそうに言われて終わった。それとアレンが巡回済みだった。


それ以降もいい情報が無いままで、今日私が手に入れたのはマジックアイテムだけで情報は無し。

それにしても銀貨三枚分惜しいことをしたって思いながら宿に入って今日の情報交換を私の部屋でしている時、三人はどうだったのと聞いた。


「あんまりいい情報はなかったなぁ」


アレンは例の眼鏡屋さんに立ち寄ったけど申し訳なさそうに知らないって言われて、それならマジックアイテム屋だって色んなマジックアイテムを取り扱うお店を回ったらしいけれど、これといっていい情報は得られなかったって。


「昔は確かあったはずって話は手に入れたんだけどさ、場所はやっぱりよく分かんねぇみてぇだな。町の中とか森の中とか南とか北とか…。何かポッと現れてすぐなくなっちゃったみたいで覚えてる人も知ってる人も本当にいねえの」


「なくなっちゃった…ってことは潰れたってこと?」


だったら探しても意味がないじゃない。


「まあお店は潰れてもそのお店を作った店主はまだ生きてる可能性あるから。サムラの種族は大体十年生きるだろ?そんで七代前の人が魔法の眼鏡屋さんのことを聞いたから約七十年前だとして…十代で始めたって考えても眼鏡屋さんは八十歳以上の人だよな」


「…」


それ…よっぽど健康な人じゃないと、もう…。


「私もここらで活動する情報屋に会ったので少々聞いてみましたが、どうやら今もどこかで営業しているとの噂があるそうです」


サムラがいるから丁寧な口調で、でも裏の表情でサードが言う。

サードの言葉に私たちは「本当に?」と顔を向けた。


「情報屋からは魔法の眼鏡屋の噂は聞いたことはあっても単なる噂だから売る情報は無いと言われましてね。それでも噂話だけでも聞かせてくれませんかと申しましたら、確実ではない話だからと無料で聞かせてくださいまして」


…その言い方だとまるで相手が気を使って無料でいいって言ったように取れるけれど、どうせサードが言葉巧みに確実じゃない噂話なら無料で聞かせろって脅して迫ったんでしょ。


呆れながらもサードの話を聞く。


「その魔法の眼鏡屋は人を選ぶとも言われているそうです。行った者はいる、しかし誰でも行けるわけでもない。

選ばれないものはどうあっても店にいけない、そんな不思議な店だから人ではない者が店主なのではないか、だとしたらたどり着くにも特殊なルートを通らないといけないのではないか…。これが私の聞いた噂話です」


その言葉にガウリスが身を乗り出して、


「だとしたら私が聞いた話は本当なのかもしれません、その眼鏡屋を営んでいるのは精霊だという情報をいただきました」


ガウリスの言葉にサードどころか私たち全員が表情を変えてガウリスを見る。


「精霊?」


はい、ってサードの言葉に頷きながらガウリスは続ける。


「お昼ご飯を食べている時に相席になった方から聞いたのです。魔法の眼鏡屋を探しているのですが何か聞いたことはありませんかと。そうしたらその眼鏡を作っているのは精霊でたまに自分が作っている眼鏡のフレームを買いに来るとおっしゃっていました」


精霊…。それなら八十年以上生きてても不思議も何もない。それに人間用の眼鏡が合わないサムラ用の眼鏡も簡単に作れそうな気がするし、ちょっとやそっとじゃ会えない、会う人を選ぶってのも分かる気がする。


「その相席になった人は精霊と親しいのですか?どこのどなたです?」


サードの質問にガウリスは、ええと…と口を淀ませる。


「ここら辺で働いてる方だと…」


「そこちゃんと聞かないとダメだってば、ガウリスゥ」


アレンがニヤニヤしながら、おーい、と軽くガウリスを叩いて、ガウリスは「すみません…」って肩を落としている。


「けど眼鏡のフレーム作ってるっていうなら職人さんだろ?多分木とか金属で作るだろうから、この町でどっちかの細工作ってる人を探せばすぐに見つかると思うぜ」


アレンがそう言うとサードも続ける。


「どちらにしろそのような特殊技能を持つ人は街中ではなく外れの方で作業していることが多いです。今日はもう日も暮れてますから、明日はそちらを中心に探しましょう」


皆の言葉を黙って聞いていたサムラは、すごい、って感動の顔で身を乗り出した。


「皆さんは凄いです…。この一日でここまで話を進めてしまうだなんて…」


「人数がいる分情報が手に入りやすいだけですよ。それにまだ眼鏡屋にはたどり着いていません。全てはこれからです」


サードの言葉にその通りだサムラは口を閉じたけれど、その表情は素直に凄いって尊敬の感情が浮き出ている。


一旦話し合いも終わった感じになったのを見計らって、私は、


「あの…」


って皆に声をかけた。皆の視線が私に集中する。


「実はマジックアイテム屋さんでこんなの売っててね…買っちゃったの…大きいバッグっていうんだけど…ちょっと高かったんだけど…荷物を無限に入れられるけど重さはゼロにできるって便利なもので…」


非難されて呆れられることを覚悟して、部屋の隅にそっと隠すように置いていたマジックアイテムの大きいバッグを皆に見せた。


「っへぇ~。そんなマジックアイテムあったんだ。いい買い物したじゃん」


アレンは目をキラキラさせながら私の買ってきた大きいバッグを触って、


「そうですね。荷物が軽くなるに越したことはないでしょうし」


ガウリスも朗らかに頷いて微笑んで、


「だったら今まで以上に物が運べるわけですね」


ってあのサードもいい物じゃねえかって顔で私の買った大きいバッグを見ている。


ああよかった、もっと嫌な顔されると思った。

私もホッとして、


「それ最初は金貨二枚だったんだけど、金貨一枚と銀貨三枚まで値切ったの」


と伝えるとサードは一瞬「もっと値切れよ」って顔をしたけれど、サムラの手前口に出さない。


「エリーが…あの言い値で買う派のエリーがそこまで値段交渉で値切っただなんて…」


サードとは正反対にアレンはジーンとした顔で私を見てくる。するとサムラは興奮したように、


「エリーさんの値段交渉はおじさんと互角だったんですよ!おじさんは何度も口ごもっていたんですから」


…サムラはそう言ってくれるけど、それでもあの値段交渉は私の完全敗北だったと思う。

だって最後の最後、力量足らずの私に温情をかけたようなものだったじゃない。


「けどそれだったらさ、俺らの荷物もそん中入れてもいいってことだよな!」


アレンが期待に満ちた顔をしてくるから私は微笑んで、


「もちろんそのつもりよ。普段使わない物とか少し重い物もこの中に入れていいから」


それと、と店主から注意されたことをそのまま皆にしっかり伝える。


「自分の入れた荷物はちゃんと覚えておいてよ。じゃないと二度と取り出せなくなるんですって。中に入れた物の存在を忘れたらもう取り出せないって何回も注意されたわ。あと食べ物も普通に腐るから気をつけてねって」


「…だったら俺無理かも…何入れたかすぐ忘れそう」


アレンの言葉に私は首を横に振った。


「私もそれを聞いて大丈夫かしらって心配したんだけど、とにかく少しでも記憶があれば取り出せるらしいわ。前にこんなものを入れた気がするけど本当にあったかしら、形もよく覚えてないってレベルでも、中にそれが入ってあれば目的の物が取り出せるんですって。でも中に入れたものを完全に忘れたらもう二度と取り出せないって」


それと一緒に注意されたのは、バッグの中に生き物を入れると特殊な機能が働いて一時的に機能停止するというもの。

どうやら人や動物の拉致誘拐防止のためみたい。とりあえず虫一匹入っただけでも機能停止するから、その時はひっくり返して虫を外に出してって言われた。


あとはバッグの口より大きいものを無理やり入れたら破損の原因になって、破損したら中に入れたものは取り出せなくなるうえにバッグは本当にただの大きいバッグになるっていうもの。

それでも金貨一枚以上の値段だから少し乱暴に扱っても簡単に破れもしないし、良識的な使い方をすれば半永久的に使えるって説明された。


私の説明を聞いた皆は、へえ、という感じで大きいバッグを見たり触ったりしている。


そんな皆を見ながら私は手元にある、店主からもらったおまけ二つを触っている。


一つは四角形の灰色の石が糸にくくりつけられているマジックアイテム。

これは冷えた飲み物を心地よく飲める温度まで温めることができる。


外にいる時、暖かい飲み物が飲みたい。じゃあ薪を集めて火をつけて水を沸かして…いちいちそんなことするのは面倒。そんな時に使えるものらしいんだけど、一杯のマグカップの水がちょうどいい温度になるまで十分ぐらいかかるんだって。

便利は便利なんだけれど、せっかちな旅人からは温まるのに時間がかかるってたまにクレームがくる品物で少し人に勧めにくい物みたい。


それでも十分程度で飲み物一杯が温まるなら結構いい物よね。薪を用意して火をつけて温める手順だったら十分以上かかるもの。


それともう一つのマジックアイテムは…私がすごく気になってた人の心の中がちょっぴり覗ける眼鏡。


でもこれは心の中が完全に見えるとかじゃなくて、何となく考えていることがうっすら分かる程度のお遊び程度の物。だから期待して覗くとガッカリしますよって店主に説明された。

でも期待するなって言われてもどんな風に見えるのか気になるもの。


スチャッと眼鏡をかけて皆を見てみる。


「そういや今日の夕飯どうする?この宿のディナー、メインが選べるみたいだぜ」


アレンがディナーの話に取りかかった。


「何があるんですか?」


ガウリスが聞くとアレンは、


「肉系と、魚系と、野菜系」

「内容が大雑把すぎますよ」


サードが軽く突っ込んでいる。


でもそんなサードの周りにモヤモヤとしたものが見える。何となく魚の形っぽい。

それにアレンの手前にはモヤモヤとステーキの映像が浮き出ているし、ガウリスを見るとものすごくモヤモヤとした形のお肉と魚とレタスがグルグル体の周りを回転している。


「…」


これもしかして、アレンは肉系、サードは魚系にしようって考えてる?ガウリスは内容がよく分からないから迷っている感じ…?


期待するなとは言っていたけれど、それなりに皆の考えていることは分かるじゃない。


何となしにサムラに視線を向ける。

サムラはニコニコと微笑んで皆を見ていて、周りが銀色にキラキラと輝いているのが見えた。…このキラキラって一体何…?


そう思いながらサードたちに視線を戻してよくよく見てみると、皆の周りにも同じようなものが体の周囲を囲っている。


アレンの周りにはひたすら活発に動き回っている赤いモヤっぽいのが見えて、ガウリスの周りにはグルグルと肉と魚と野菜がまだうっすらと回転しているけれど頭から足先まで全体的に金色で綺麗。


サードは…()

何か頭の周りを一本の黒い線がグルリと囲っているだけでサードの周りではモヤっぽいのもキラキラしたものも特に見当たらない。さっき見えた魚っぽいモヤももう消えちゃってる。


あれ、おかしいわねってよくよくサードを見ると、サードがふと私に目を向けてきて目が合った。

途端、サードのその黒い線からドッと記号のような文字のようなものが一本の線から上へ下へと動いて一気にサードを覆い隠してしまう。


思わずビクッと肩を震わせ慌てて眼鏡を取った。


な、何なの今の…呪い?


「何ですか?その眼鏡は?」


サードがそう聞いてくるけど、私だって今見えたやつが何だったのか聞きたいわよ。

ああ、聞いたって分かるわけないわよね。


サードの言葉にアレンとガウリスも私を見て手の内にある眼鏡に視線を移す。


「え?エリー眼鏡買ったの?」

「あ、これマジックアイテムで…」


…あ。ちょっと待って、人の心の中がちょっぴり覗ける眼鏡だって言ったら勝手に皆の心の中を覗いちゃってたのがバレるじゃない。思えば勝手に皆の心の中を見るとかすごく失礼じゃない…!ものすごく今更だけど、失礼すぎるじゃない…!


あわわ、と一人で焦りながら後悔して、


「え、えーとね、これ!人の雰囲気とか分かるマジックアイテム!」


と少し誤魔化して伝える。


一緒に店主から人の心がちょっぴり覗ける眼鏡と説明を聞いていたサムラは一瞬「え?」って顔をしたけれど、自分がよく聞いてなかっただけでそうだったのかな、って顔で黙っている…。


ああごめんなさいサムラ、あなたは間違ってないのよ…。


「へえ、雰囲気が分かる眼鏡ですか…」


サードはそう言いながら私から眼鏡を奪い取って眼鏡をかけた。

サードって眼鏡がものすごく似合わないわね。


「…よく分かりませんが、人の周りを浮いてるこのモヤが雰囲気というやつですか?」


「多分…」


良かった、一番激怒しそうな面倒くさいサードを誤魔化せた。


ホッとしていると、


「なるほど、感情の流れでモヤの動きも変わるのですね」


ビクッと震えてサードを見ると、サードはいつもの目の前の人物は何を考えているのかって読み取るような視線で私を見ていて、思わずサードから目を逸らす。


「人の感情の流れが分かるのなら人の思考もある程度読み取れますね」


思わず体が強ばって、サードから視線を逸らし続ける。


「何をそんなに緊張しているのですか?周りの雰囲気とやらの動きが鈍くなって固まっていますが」


んん?とサードはからかうに、そして(なぶ)るように言ってくる。


…これ、人の心の中がちょっぴり覗けるようなものだってサードにバレてる…。


私は観念して頭を下げた。


「ごめんなさい…!それ本当は人の心の中がちょっぴり覗ける眼鏡で、勝手に皆の心の中を見ちゃったの…!勝手に見るの失礼だって今気づいて…本当にごめんなさい!」


「えー!何それ俺も見たい!俺も見たい!」


自分の心の中が覗かれたことより好奇心が打ち勝ったアレンがサードに向かって手を伸ばして、サードは眼鏡を外してアレンに渡す。


アレンは眼鏡を受け取ってかけて皆をキョロキョロと見た。


「わー、ガウリス金色ー…。…ん?サード黒いな!何…何!?怖いんだけど何それ!?」


アレンは眼鏡を外してサードを見て、もう一度そっと眼鏡をかけてサードを見る。


「何?何?何考えてんの怖いんだけど」


どうやら私が見たのと同じものがアレンに見えているみたい。見えるものは共通なのね。


アレンはガウリスにも眼鏡を渡す。


そんなガウリスは、別に渡してほしいとは言っていないんだけどな、という顔つきながらに受け取って眼鏡を指先でもてあそんでいたけれど、とりあえず顔にかけた。


サムラと私を見たガウリスは微笑む。


「お二人とも綺麗です」


…私の周りがどう見えているのか分からないけれど、そう言われると何か恥ずかしい。


ガウリスはアレンに目を向けて、


「アレンさんはとても活発なのが分かる動きですね」


と言いながらサードに目を向け、何とも微妙な顔でジッと見ている。


「もしかしてそれは…サドで使われていた文字ですか?以前地面に書いていただいた龍や辰と似たような形がチラホラと…」


「何が見えているのかよく分からないのですが」


サードがそう言うとガウリスは例の黒い呪いみたいな文字を目で追っているのか、眼球が激しく上下に…いや、右から左にも動いている。


「サードさんはそれほど激しく色々と考えておられるのでしょうね…私には考えつかないことをさっと思いつくのが理解できる気がします」


…それってサードの上下に動く謎の文字は色々と考え中ってこと?…本当に呪いかと思って怖かった…。


ガウリスが眼鏡を外すと、アレンは「あ」と言いながらサムラを見た。


「サムラもそれかけてみたら?ハッキリ見えることはないけど人の距離感とか分かって今より移動が楽になるんじゃね?」


「そうなったら確かに楽です」


ガウリスはそれなら、とサムラに眼鏡を渡した。サムラはそうなったら嬉しいって顔で眼鏡をかける。


「どう?」


隣にいる私がサムラに聞いてみる。

サムラはジッと私を見て、他の場所に居る皆にも視線を動かしてから首を傾げて、


「周りに浮いているモヤモヤはハッキリ見えるんですけど…皆さんがぼやけているので何だか…変な感じで…すみません…目と頭が疲れます…」


サムラは目をショボショボさせながら眼鏡を取って、目と目の間を指でマッサージしている。


…何か今、老眼鏡を外したお爺さんの動きだったわ…。あ、お爺さんなんだっけ。

・家の中にあるけど把握できてない物は無いも同じ、捨てろ

・三ヶ月(または半年~一年)触ってないのは必要ない、捨てろ

・物を片付けるために収納道具増やすな、減らせ


色んな片付けの本読んでたら上のが大体の人が言う基本みたいですね。


そう言えば知らないうちに体にできる謎のアザ、イギリスでは妖精がつけていると考えられているそうですよ。どうして妖精がアザをつけるのかというと、

「家の中汚いから片付けろボケェ」

って怒りのサインらしいです。物が多くて狭くなるとあちこちに腕だの足だのぶつけるから…(察し)

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