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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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サムラの故郷のこと

サムラへの質問はまだ続いていて、アレンは、


「ちなみにサムラの故郷はどこにあるの?」


って聞いた。


「タテハ山脈です」


アレンはさっそく地図を広げて首を巡らせて、タテハ山脈…って呟きながら無言になったあと「お」って声を上げた。


「ウチサザイ国じゃん、今俺らもそこに向かってんだよ奇遇だな」


「違います、タテハ山脈はウチサザイ国じゃありません」


キッとサムラはアレンを睨みあげた。…サムラが睨んでもちっとも怖くないけど。


「タテハ山脈は我々ササキア族が代々受け継がれ守っている土地です。なのにウチサザイ国はタテハ山脈は自分の国だと勝手に…それが我々が眼鏡を作りたい理由なんです」


必死にそう言うサムラの言葉に、ピンときた顔のサードが口を開いた。


「もしやあなた方の一族が視力の問題で文字も読めないのが分かったウチサザイ国は勝手にあなた達の山脈を自分の国の領土としたのですか?それも地図にウチサザイ国とあるなら地図を作る会社にあなた方の同意も得ず自国として申請した…」


サムラはその通りとばかりの顔つきで大きく頷いたけれど、頭を振りすぎてクラッとよろめく。


「…僕が生まれる前から、ウチサザイ国の人が大量にやってきて山の物を取っていきます。山の幸を欲しい人が現れたら分け与えるようにとの言い伝えもあるのでそこまでは構いません。しかし取っていく量が…それは根こそぎと言えるほどなんです」


サードより先にウチサザイ国がサムラの故郷をハゲ山にする勢いで山を荒らしている、そういうこと?


サムラは渋い顔になって、


「ただ欲しい分を持って行くなら構わないんです。でも見境なく持って行くのは違います。だからそんなに持って行くなと七代前の世代の人が言いました。すると向こうはここは国の所有物なのだから問題ない。地図にもタテハ山脈はウチサザイの国土の一部だと書いているって言い始めて…」


サムラは早口でまくし立てていたけれど、そこで軽く呼吸を落ち着かせてまた続ける。


「そこで知らないうちにタテハ山脈はウチサザイ国の一部になっている、それが世間に通ってしまっているって先人たちは気づいたんです。

ササキア族には各集落をまとめる村長のような存在はいますが、王やリーダーといえる立場の人はいません。だから自分たちが王になってやろう、文字も読めない教養のない者たちなのだからむしろありがたいだろうというのがウチサザイ国からの言葉でした」


サムラは興奮したように話していたけれど、一気に話したせいか息が切れ切れになっている。


「もしかしたらその山の魔力のある木とか草とか輸出して金儲けてんのかもしれねえなぁ」


アレンが、ありゃー、と同情する顔つきで呟くと、サードも裏の顔で呆れたように鼻で笑って、


「何でも言ったもの勝ちですからね。恐らくタテハ山脈が宝の山だと知ったウチサザイ国は楽に手に入れようとさっさと自分の物宣言をしたのでしょう。…サドといいここといい、国の考えることなんてどこも同じですね」


「酷い…!」


今の話を聞いて私はかなり腹が立った。私と同じくガウリスも酷いやり方だと眉をしかめて、サードを見る。


「サードさん、どうにかならないでしょうか?」


サードは一瞬考えこんだけれど、すぐさま面倒な顔つきになってガウリスを見返す。その顔は、


「俺らがやるのはこいつを眼鏡屋に連れて行って、故郷まで送り届けるだけだろ?」


ってもの。


でもここまで話を聞いてしまったし、何よりウチサザイ国のやり方は酷すぎるわ。どうにかサムラの故郷を守ってあげたい。


ガウリスと一緒にサムラの故郷をどうにかしてあげたいって目でサードを見ていると、アレンもサードにどうにかしてやりたいって目を向けている。


サードはチラチラと私たちの顔を見渡すと面倒くさそうに、


「…また三人で結託しやがって…」


と小さく呟くと、サムラに目を向けた。


「書類は?」

「はい?」


サムラは急に声をかけられて、キョトンとした顔でサードを見返す。


「平和的なやり方で土地を回収するとなると、一般的に書類上にて土地を譲渡させる方法を取ります。

もしあなた方一族の誰かが代表としてウチサザイ国に対してその書類に名前を書いた、またはハンコを押したというのなら、それは本格的にウチサザイ国に譲渡したという形になります。それならばいくら文句を言おうがどうにもなりません。誰かがそのようなことをしたなどはありませんか?」


「あり得ません!」


か細い声のサムラがよく聞こえる声で叫んだ。


「皆が困ってます、嫌がっています、怒っています、誰もそんなことするなんてあり得ません!」


サードはなるほど、と頷いてニヤッと笑った。


「それならまだ道はありますよ。ウチサザイ国はあなた方にそのような約束事はしておらず、勝手に自分の物と宣言し、侵入し搾取している犯罪者です」


サードはそう言いながら手をサムラに向ける。


「それなら今からでも遅くはない。故郷に戻ったら代表者…できるだけウチサザイ国の者と対等に渡り合えるほど弁の立つ者を形だけでも王として上に立てなさい。そしてあなたの住むその山脈を一つの国にしなさい。

国となった以上ウチサザイの者が勝手に侵入するのは不法入国という扱いになります。それを破った者に関してはあなた方の好きなように罰すればいい」


サムラは「おお…」とサードの言葉に感動したような声を出した。でもすぐに悩ましい表情になって、


「でも…国って今から国にしますって仲間内で宣言するだけで国になるものですか?」


「仲間内で宣言するだけでは無理ですね。やはり周囲に認知させなければ」


「どのように?」


「簡単です。ただあなた方の住む山脈が一つの国家になったと周りの国に伝えればいい。もちろんウチサザイ国にもです。

そして地図を作る会社にも新しく国を作ったと知らせる。そうすれば新しい地図にはあなたたちの国が印刷され、あなたの山脈はウチサザイ国の領土ではないと地図を見る者全員が理解します」


「うん、確かに今でもあちこちで戦争とか頻繁に起きてるから、知らないうちに消えてる国とか急に現れた国とかザラにあるもんなぁ」


サードの言葉にアレンは大きく頷いている。


アレンは一年に一回、新しい世界地図を買ったあと「あ、ここの国消えてる。戦争に負けたかな」「あ、なんかでかい国増えた。隣の国と合併したな」「…この国、年々領土取られてるなぁ…可哀想」って呟いているものね。


「周りの国に伝えるだけでいいんですか?」


そんな簡単な方法で故郷が守れるなんて、ってサムラは目から鱗が落ちて希望が湧いたって顔をしているけれど、サードはこいつは考え方が甘い、って馬鹿にした顔になっている。


「言っておきますが、宣言したあとウチサザイ国がどう出るか分かりませんよ」


サムラは表情を改めた。


「恐らくウチサザイ国は自国の財源確保のためにあなたの故郷の山脈を荒らしています。それが急にあなた方が一つの国家となり入ってくるなと宣言されたなら黙っていないでしょう」


サムラはムッとした顔になって、


「僕たちが代々守ってきた山なのにどうして根こそぎ奪っていくだけのウチサザイ国がそんな考えになるんですか、おかしいじゃないですか」


「恐らくウチサザイは手に入れた物の売買で国の来年度の予算なども見込んで考えているはずです。財源が途切れると困る、それがただの搾取であれ」


サードはここまで言ったならわかるだろ、という顔でサムラを見下ろした。


「ウチサザイ国はあなた方が一つの国になることに非常に抗議してくると思います。それが書類上のやり取りの話し合いになるか、それとも武力行使で戦争になるかは分かりませんが、どちらにしろ因縁のある長いやり取りになることは覚悟していた方がよろしいと思いますよ」


サムラからはさっきまでの希望が湧いている嬉しそうな顔は跡形もなく消え失せて、唇をかみしめて厳しい顔つきで地面に目を落とした。


「…中々良いようにはいかなんですね…」


世の中を嘆くかのような声付でサムラは囁くように言ったけれど、それでも無理に明るい表情になって顔を上げる。


「でもこんなことに詳しい方々に会えた僕は幸運でした。僕らはただ眼鏡を作ってウチサザイ国が作っている…何かしらの書類を見つけて破いてしまえばいいくらいにしか思っていませんでした。

さっき知り合ったばかりなのに僕の故郷のことをこんなにも真剣に考えてくれる方々に巡り合えた僕は本当に幸運です」


サードは「別に考えたくもなかったがこいつらの視線が鬱陶しかったから」って表情で興味が失せたように視線を逸らした。


けど本当にサードもよくそこまで考えが回るわよね。


サムラの部族皆でウチサザイ国に訴える。私たちができるのはそれくらいかしらって思っていたけれど、サードは自分たちで国を作れと言って、国を作った後のデメリットも全部伝えた。


何となくだけど、サードが本気になれば新しい国なんていくらでも作れそう。


* * *


次の日。

町の宿から出て、早速朝からサムラの探している魔法の眼鏡屋さんの情報を集めることにした。


この町は比較的治安は良いみたいだから私一人で行こうかと歩きかけると、後ろからサムラが杖をたよりに一人で出発しようとしている。


…こんな体力もない視力も弱いサムラを一人で行動させるのは心配だわ。


「サムラ」


サムラが顔を上げて私を見る。


「サムラも魔法の眼鏡屋さんを探しにいくのよね?私も探しに行く所だから一緒に行かない?」


「気を使わせてしまってすみません」


そう言うサムラの顔色は昨日より血の気が抜けていて、肌の色が余計に白くなっている。


「大丈夫?顔白すぎるわよ」


「ああいえ、起きてからしばらくは血の気が顔から抜けているだけで体調的には問題ありません」


それでもあまりにも具合が悪そうな顔色…どう見ても大丈夫そうには見えないんだけど。


「本当に大丈夫?なんなら私たちに任せて今日は休んでも…」


サムラは心配されるのが照れくさいのか、


「大丈夫です、本当に大丈夫ですから。元々僕はこんな調子なのでお気遣いなく…」


って照れ照れとしながら手を振る。


…そう言われてもやっぱり心配なんだけど、これ以上しつこく言われるのも鬱陶しいかしら。それでも急にフッと意識を無くして倒れそうなのよね、顔色が。


「手でも繋ぎましょうか?」


手を差し伸べる。

体調が心配なのもあるし、視力の関係で手を繋いでいた方がサムラも歩きやすいんじゃないかと思って。


サムラは、えっ、と言いながら私を見上げる。


「あ、え、あの、いいんですか…?」

「手を繋いだ方が移動も楽じゃない?」


「それは助かりますけど…いいんですか?」

「いいわよ別に」


ほら、と手を差し伸べるとサムラはおずおずと手を伸ばして、手を繋ぐ。


ヒヤッと冷たい、私よりも細い指の感覚。


大丈夫って言っているけれど本当は体調が悪いんじゃ…ううん、これ以上大丈夫って問いつめられるのはサムラも面倒臭いわよね。


歩き出したけどサムラが動き出さない。振り向くとサムラはほんのり頬を赤らめて地面を見ている。


「どうかした?」


声をかけられたサムラはハッと顔を上げて恥ずかしそうに視線を逸らす。


「あ、ああいえ、あの、こんなこと言うのもあれですけど…」


サムラはあわあわと挙動不審な動きをしてから恥ずかしそうに、


「女性と手を繋ぐの初めてで…その、照れちゃって…。女性の手って柔らかいんですね」


そう言うなりサムラの顔がもっと赤くなって私から手を離して大慌てで手を動かした。


「こ、こんな話されても困りますよね!こんなお爺さんにそんなこと言われて照れられても!すみませんうら若い女性に変なこと言って!」


ええと…どう見てもサムラは私より年下にしか見えないんだけどね?


でも年下の男の子が照れてる姿はなんか可愛い。本人曰くお爺さんだけど。

私の弟のマリヴァンもこれくらいまで成長して女の子と手を繋いだら、こんなふうに照れるのかしら。


マリヴァンのことを思い出すと弟に向けるような愛情が芽生えてサムラが余計に可愛く思えてきた。


「別に気にしないわよ、ほら行きましょ」

「あっ」


サムラの手を取って歩き出した。サムラの手はさっきよりじんわり温かくなっていて、引かれるがまま斜め後ろを歩いている。


「とりあえずマジックアイテムを売る人が魔法の眼鏡屋のことを言ったんでしょう?」


「そう…です」


サムラはまだ恥ずかしそうにもじもじしているけれど、それでも返事はしっかりとしてくる。


「それじゃあマジックアイテムを売っているお店とかに行けば何か情報が入るかもしれないわね」


「ありがたいです、僕はお店の看板の文字も読めないし見えなくて、マジックアイテムのお店にたどり着くのもすごく大変だったんです」


そんな状態で一人でずっと探してたとか…本当に頑張ったのね。


「早めにその眼鏡屋さんが見つかればいいわね」


「はい!」


サムラは嬉しそうに微笑んだ。


今までずっと困っているような気だるい疲れた表情だったから、会った中での一番の微笑みに思わずキュンとなる。


この子…お爺さんにこの子っていうのも何だけど、笑うとすっごく可愛い。


「サムラはもっと笑った方が可愛いわよ」


「可愛い…ですか?」


サムラがキョトンとした顔で返してくるので、


「そうよ、体調が悪くて辛いんだと思うけど、それでも笑ってたほうが可愛いし…」


女の子からの人気も上がるはず…って続けるのは失礼かしら。…うん、失礼ね。

でもこういう血の気のない顔で気だるそうに疲れた表情でずっといられたら、女の子も気を使ってお大事にってすぐ去っていってしまいそうだもの。


だからサムラは女の子と接する機会が少なかったんじゃ…。あ、でもサムラの部族って皆視力が弱いからサムラのそんな表情は見えないのね。それでも体調が悪そうってのは伝わるわよね…。


あれこれ考えているとサムラは困惑したように微笑んで、


「今まで容姿を褒められたことがないので、なんて返せばいいのか…」


って言いながら、


「エリーさんはとても綺麗な声です。心の綺麗さが出ているようです。きっとエリーさんは声に似合う美しい人なんでしょうね」


お父様には舞台に立っていたお母様と声がよく似ているって言われていたのよね。自分じゃよく分からないけれど。


でも実際に他の人から声を褒められたことなんて今まで一度もないから、妙に照れるわ。


そうしているとマジックアイテムを売っているお店が目に入ったから、ちょっと恥ずかしい気持ちを隠しながら、


「あったわ、入りましょう」


と中に入った。

私は寝ていると顔から血の気が引いて真っ白になるらしく、それも呼吸も浅く身動き一つしないので修学旅行の時隣に寝ていた人に、

「死んでるかと思った」

と言われました。鼻の下に手を当てられ呼吸しているか確認されてました。


起き抜けの顔もあまりに血の気のない生白い顔のようでエリーが言っていたように、

「大丈夫?顔白すぎるよ」

と至る所で心配されましたが、どんな炎天下でも一度も倒れたことのない健康体です。ありがとうございました。

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