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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ササキア族という部族

ササキア族の、サムラ?

ササキア族…聞いたことがないわ。アレンなら知っているかしら。


チラと見るけれど、アレンも知らないみたいで私の視線に首を横に振っている。

どうやらガウリスもサードも分からないみたいで何も言わないから、皆が知っているような有名な部族ではないみたいね。


「急にすみません。依頼が、お金がという話が聞こえたので声をかけたんです」


サムラという少年は自身の荷物入れに手を入れて、ガサガサと漁って紙を取り出して私たちに渡してきた。


近くに居たガウリスがそれを受け取って広げる。


「魔法の…眼鏡屋さん?」

「魔法の…眼鏡屋さん…?」


ガウリスが初めて言葉に出すようなたどたどしさで読み上げて、アレンも同じようにオウム返しする。


サードも一瞬表向きの顔ながらに「なんだそりゃ」って顔つきになってサムラに聞いた。


「その眼鏡屋さんがどうかしたのですか?」


サムラは声の出る方向方向に顔を向けて、真剣な顔になって身を乗り出す。


「このお店に連れて行ってください」


と言ってから、


「僕たちササキア族は非常に視力が弱いのです。しかし人間の使う一般的な視力矯正眼鏡では合いません。僕の七代前の先人がマジックアイテムを売買している人からここら辺に魔法の眼鏡屋さんがあると聞きまして、それなら僕らに合う眼鏡を作ってくれるのではと探しに来たのですが…」


立ち止まってくれた人を逃がしてなるものかとばかりにサムラは力の入っていない声で早口でそこまでいうとサードは、


「探しあぐねているということですか?」


と結論はそうなのかとばかりに聞いた。


サムラは地面に視線を落として、頷いてからまた説明する。


この少年サムラは噂をたよりに何とかここまで来たけれど、視力が弱くて店の看板もよく見えないし、そもそも文字も読めないからすごく苦労しているんだって。


どうやらその魔法の眼鏡屋さんはほとんど知られていないみたいで、知らないかって聞いても知らないと返されて終わるのが大半。

それも本当に知っているのか当てずっぽうなのか、もっと南、北、町の中、森の中って店の場所は迷走してサムラは三日ぐらいこの辺りをさ迷う羽目になって、もうこの森の中で死ぬんだと思っていたら私たちの声が聞こえて、必死に近寄って来たって。


サムラは懇願するようにガウリスから私たちに目を向ける。


「お願いします。今は持ち合わせのお金は少ないですが、僕の故郷へと戻ったらお礼にできる品があります。僕の故郷は山脈なのですが、魔力の強い所です。自然とそこに生えている木々などには魔力が多く含まれ、地面に落ちた木の枝でも地上に暮らす人々の間では魔法の杖になります。

土は魔法の粉末になり、石は魔法の実験道具にも使用される鉱石になり雑草でも薬草になります。もし僕を魔法の眼鏡屋さんに連れて行ってくれて、そして故郷まで送り届けていただけるというのなら、それを持てるだけいくらでも持って行ってくださって結構です」


サードはその言葉にものすごく反応した。…サードの顔を見ているだけで何を考えているかなんてすぐ分かる。


願ってもいねえ。こんな金に不安を覚えている時に金になるものをタダで持てるだけ持って行っていいなんて話…!


サードの表情はまるで飢えた肉食獣が草食動物に喰らいつく一歩手前みたいな視線で、でも視力が弱いサムラはサードのそんなギラギラした目つきは見えないみたいで、


「どうでしょう?」


って頼み込む顔で聞いている。


そんな二人を見ていると飢えてよだれを垂らしている狼を信用した生まれたての小鹿がプルプルした足で近づいていくみたい…。


ダメ、サードの思い通りにさせたら延々とこのサムラに恩を着せ続けて木々を切り倒しすわ雑草を引き抜くわ土を掘り起こすわで、サムラの故郷を骨の髄までしゃぶりつくしてしまう。

そんなことになったらサムラの故郷の山は雑草の一本も残らないハゲ山に…ううん、山すらなくなって平地どころか盆地になる!


「持てるだけって言ってるんだから本当に持てるだけにしておいてよね」


サードに釘をさすと、サムラは驚いた顔で「ん」と私に視線を向けた。


「女性もいたんですか」


そう言いながらサムラは目を細めているけれど、それでもよく見えていないみたい。


「そこまで目悪いんだ?」


「はい、正直に言いますと皆さんの体もぼんやりとしか見えなくて…言い方があれですけどそこに人らしきものが動いてる程度にしか識別できていません…。しっかり見ようとすると本当に鼻が触れるくらいの至近距離でないとよく見えないので…それは失礼ですし…」


アレンの質問にサムラが答えると、ガウリスも質問した。


「他の方々もそれくらいの視力なのですか?」


「そうです、なので皆ろくにお互いの顔もしっかりと見たことがありません。僕たちの一族の先人たちも何度かその魔法の眼鏡屋さんを探しに旅に出たのですが、探す前に命尽きてしまったらしく戻ってきませんでした…」


サムラはションボリと視線を落としながらそんなことをを言うけれど…ちょっと待って?確かさっき、サムラの七代前の先人が魔法の眼鏡屋さんの存在を知ったって言ってたわよね?それ以来、何度か先人たちが探しに出かけても眼鏡屋さんは見つからなかった。


ってことは…。


「あなたの七代前の時代から探してもみつからないお店なんて本当にあるかも分からないんじゃ…」


サムラは、ハッと顔を上げて私を見た。


「あ、いえ違います、すみません僕の種族は人間と比べて短命なんです。ですから七代前って言っても人間の感覚ではまだ身近な部類かと…」


「短命?」


サードが聞き返すとサムラはうんうん、と頷く。


「ササキア族は十歳前後の寿命です、一番長く生きた人で十五歳ほどでしょうか」


「は!?」


アレンが驚きの声をあげて、サムラは声を出したアレンに顔を見た。


「僕たちの種族は大昔には蝶だったみたいです。学者の言うことには突然変異で進化して人型になって羽が退化して今の姿になったらしいんですけど…。まあ蝶の時よりは長生きな方です、蝶の場合だと一年の寿命らしいので…」


「それならあなたは今…何歳なのですか?」


ガウリスが聞くとサムラは声を出したガウリスに顔を向けて、


「現在で八歳、お爺さんです」


見た目的には八歳じゃなくて十五歳程度なんだけど…お爺さん…?だったら十八歳の私はサムラから見ればお婆ちゃんなの?八千年生きているミレイダはどう映るの…!?


今まで魔族、精霊、神、ドラゴンって長生きの人たちにはたくさん出会ってきたけれど、逆にこんな短命の種族は初めて出会ったわ。これはこれで感覚が狂うものね。


「…だから皆目的のお店にたどり着く前に短命が故に命の灯が消えてしまったと」


サードが言うと、サムラは頷く。


「それまで代表として出て行った者たちも七歳を超える老齢の…家族もいない人たちでした。皆、最後に部族の役に立ちたいと故郷を後にしました。

彼らは僕らによく見える眼鏡をと、危険の多い山の下へと向かいました。だから僕はその気持ちを受け継いで、どうしてもその眼鏡を手に入れ故郷に戻りたいのです」


サムラはそういうと目頭を軽く抑えてから、私たちに深々と頭を下げる。


「お願いします、どうかお願いします…!」


ここまで言われたら断る理由なんてない。私もアレンもガウリスもサードに目を向けた。

サードも報酬の莫大(ばくだい)さに断る理由なんて見当たらないとばかりに頷く。


「あなたの熱い熱意受け取りました。その依頼、お受けしましょう」


…報酬狙いのくせによく言うわ。


そうして私たちは初めて見る種族、ササキア族のサムラと一緒に行動することになり気になることを色々と質問した。


「サムラ見た目若いけど、本当にお爺さんなの?」


サムラはアレンの質問に首をかしげて、


「僕らは大体十歳前後で命を終えるので八歳は高齢です」


「どう見ても子供にしか見えません…」


サムラの言葉にガウリスが改めて驚くような口調でしげしげとみている。するとサードが、


「ところであなたは家族もいない老人が故郷から出ていたとおっしゃっていましたが、それならあなたもご家族は…?」


サムラは軽く頷いて、


「はい、両親は死にました」

「奥さんや子供は?」


サードが重ねて聞くとサムラはどこかションボリした顔でうつむいて、


「…子孫を残すには健康な男性が選ばれます。だから僕みたいな病弱な男は女性からは見向きも…」


そこまで言うとアレンは、もう言わなくていい、みなまで言うなとばかりにサムラをガッと抱きしめて、背中をバンバン慰めるように叩いた。


サムラは背中を叩かれる度に「う、うぐう、ぐう」って拷問でも受けているようなうめき声をあげるから、私は慌ててアレンの腕を叩いて止める。


「ちょっとアレン、サムラには辛いみたいよ」


「あ、わり」


アレンから解放されたサムラは拷問から解放された後の人みたいにふらふらとした足取りで杖にとりすがって後ろをついてくる。背中を強めに叩かれた程度でここまでふらふらになるなら、心配した通りサムラの体ってよっぽど弱いんだわ。


それなのに一族のためと故郷を出てこんな森の中を三日もさ迷ったから余計に疲れて血の気が引いて肌がこんなに真っ白になっているんじゃないかしら。

儚げな少年の姿をした老人…。何か変な表現ね。とにかくそんな人が杖をつきながら息を切らし切らし歩いている姿を見ると心配にもなるし、自分の身を犠牲にしてまで頑張っている姿には感動すら覚える。


それより…。


「サード、ガウリス。もう少しゆっくり歩きましょう?」


それでも二人はいつもよりゆっくり歩いているって分かるけれど、それでもサムラにとっては辛いスピードみたいだもの。


「すみません、僕の体力がないばかりに…」


「謝らなくていいのよ、このパーティの中で一番歩幅が狭いんだから。私だって最初は皆について行くの大変だったのよ」


サムラは私よりも背が低いから一緒に歩いていて自然と遅れていくのは普通のことだわ。


それにサードは元々足が速いし、ガウリスは一歩の歩幅が広いうえに足も速い。アレンは比較的歩くのはのったりしているけれど、足が長いから同じ位置から一歩進んでも私より半分も先にいる。


旅をし始めたころはサードに追いつこうと必死に早足で追いかけても追いつけなくて、私とアレンのことなんて気にせずサードはずんずん進んで、アレンが呼び止めているうちに必死に追いついて…。


懐かしいわ、あの時は慣れない早足でずっと歩き続けていたら足の裏にマメができて、余計歩けなくなって道端でマメが治るまで数日野宿したのよね。


昔のことを懐かしんでいると、ニコ、とサムラが辛そうな顔で微笑みかけてきた。


「ありがとうございます、あなたは優しい女性です」


私もニコ、と微笑み返すけど、きっと微笑み返しても私がどんな表情でいるかは見えていないのよね。


ふとサードを見ると表情が裏の顔になっている。

サムラはろくに人の顔も見えないって分かったから、手を抜いて口調だけ丁寧にする気ね。面倒くさがりなんだからこの男…。

私は歩くのが遅く、観光地などで家族と一緒に歩くとすぐ数メートルの距離ができます。

だから先を歩く家族がついてきているかと振り向くたびに私が見知らぬ外国人、見知らぬ女性、見知らぬおじさんに変わっていると言われます。

自然な変わり身の術ウェーイ

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