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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ラスボスの去り際と魔族が来た理由

「勇者一行に倒されて魔界に戻ることになった、そういうことにして僕は魔界に戻るよ。まさか実験の途中で姉さんと魔王様の側近にやられたなんて言えないし」


マダイの言葉にラグナスはうんうん頷く。


「助かるよ、何だかんだで魔王様の側近が地上にダンジョン持ってる魔族ボコったなんて話、私も言われたら困る」


「…はあ…でももう研究対象で魔法陣は無理か…」


魔法陣ごときで弟を失いたくないってロッテの言葉に納得したマダイだけれど、まだどこか諦めきれない顔をしているわね。

ロッテもまだ諦めてないなこいつ、という顔でたしなめるようにジッと見ていると、それに気づいたマダイは、


「…最初は姉さんが戻って来られるよう魔法陣を調べようとして…あ、いや別に姉さんのためじゃないけど。他に研究材料が見つからなかっただけだし」


ロッテと皆からのニヤニヤした顔を無視しながらマダイは続ける。


「でも今は魔法陣のこの均整の取れた形が好きでさ…図形と数字と文字を組み合わせて完成とか頭を使うパズルみたいで…。特にこの魔法陣なんてどうだよ、この三角を組み合わせた星形の形にこの文字の分列、数字の配置も…綺麗じゃないか…」


マダイはうっとりした顔で魔法陣をなぞった。


サード、アレン、ガウリス、ミレイダは「いや、理解できない」という顔つきだけれど、私、ロッテ、ラグナスはすぐに食いつく。


「分かる、私は魔法陣なんて扱えないけど見てるだけで凄いと思えるもの!」


「そうそう、使ってみるとこれがまた幅が広くて楽しいのよね」


「私も人間界で初めて見たけど、こう、くすぐられるよね、形が」


分かってくれるか、とばかりにマダイは会ってから初めて輝く目で私やラグナスを見る。


「このロジックのように組み立てていく方法、完成した後に現れる均整の取れた形を見ているうちにもう僕は魅了されてしまったんだ。もう今じゃ研究より趣味なんだよ、魔法陣を調べて、まとめていくのが」


「…でもねえ」


ロッテが何か言おうとするとマダイは手を差し向けて止める。


「僕だって死にたくはないから研究対象として魔法陣からは手を引く。けど個人的な趣味として魔法陣はこれからも調べていくよ、これだけは誰にも奪われたくない僕の生き甲斐なんだ」


マダイが真っすぐな目でロッテに言うと、ロッテはおかしそうにニヤニヤしながら、


「それでこそあたしの弟だ」


と笑うけれど、すぐ人差し指をマダイに突き付けた。


「でもその趣味で調べた魔法陣の管理はしっかりとやりなよ。盗まれたらあんたの命もないものと思いな」


そうだな…とマダイは自分の指を噛み千切って血を出す。そして悪い顔で笑うと、


「これを盗んだ者に災いあれ」


魔法陣をまとめた紙の束に血の出ている指をさらさらと動かして二つの魔法陣を描いた。でも完成すると魔法陣はスゥと紙に染み込んでいくように消えて見えなくなる。


「…今のはなんの魔法陣なの?」


魔法陣が描かれた紙を指さして聞くとマダイは紙の束を指さす。


「これに僕以外の者が触れたら失明する。そこで諦めもせずこれを盗んで僕から百メートル離れたらその場で死ぬ呪いをかけた。人間界の呪いより強力にしたから魔族であれこの呪いにかかったら逃げられない」


ウッと指を引いた。指先で紙の束の断面をバララーと触る所だった。


「わざと教授の目の届くところに置いておくかな」


マダイは楽しそうにそう言うけれど、ふっと顔を上げて私たちを睨みつけた。


「ちなみにだが、中の物は後で回収しに来るからこれ以上は何もするなよ!」


「しないわよ。でもマダイが居なくなってもこの屋敷に塔は残ったままなんでしょう?いくら山の中で人もあんまり来ないからって、こんなに目立つ建物があったら皆興味を持って来ちゃうんじゃない?魔族のあなたが居なくなったらイビルモデルも居なくなるから魔法陣も作れなくなるし」


「…」


そうか…と悩むマダイにロッテが声をかける。


「大丈夫、あたしに任せなさい。あっちの屋敷にこの塔はあとで魔界にそっくりそのまま転送されるようにするよ。その後ゆっくり片付けな」


「できるのか?そんなこと」


「できるよ。マダイは次元をずらしただけだから魔法陣を削り取っただけで見えるようになった。けどあたしがやるのは別空間に飛ばす魔法陣を追加で付属するから」


何それどういうこと?


「薄皮一枚向こうの空間に建物を隠す程度ではなく、薄皮一枚向こうに隠しながら魔界にそっくり移動させられる、そういうことですか?」


マダイじゃなくてサードがそう聞くとロッテは「そう」って頷く。


…何でサードってこうすぐに魔法の仕組みを理解するの早いのかしら。


全く魔法が使えないくせに…私だって何それって感じなのに…こんなスラッと理解するなんて頭の構造どうなってるのよ本当。

…もしサードに強い魔力があったとしたら、失われた多くの古代魔法も復活させて使えそう。


「じゃあ姉さん後は頼むよ。勇者たちには一応これもくれてやる。持って帰っても意味のない物だし」


空中からダンジョンの攻略初回限定の宝箱を地面に落としたマダイは、骨折した状態の右足を引きずりながら魔界に去っていった。


サードは宝箱を開けようとすると、ラグナスが「どれ」とサードを押しやって宝箱を開ける。


「相場の値段はこれくらいなのかぁ。へー」


中身を確認するとそのままお金の入った袋を掴んで、


「ほれ受け取りな性悪」


と言いながらラグナスはサードにお金の入った袋を放り投げた。サードは表向きの表情ながらかすかにイラッとした顔をして、でもニコニコ微笑みながらキャッチする。


「ありがとうございます」

「黙れ性悪」


サードはイラッとしている。でもミレイダの手前怒鳴るわけにも暴れるわけにもいかないから微笑んだまま。


「お?怒らないんだ?うぇーい、怒らない勇者やーい」


「ラグナス、もうやめて」


ラグナスはグランにもやったような煽る仕草をするれけど、これ以上イラッとさせたらサードが後から何をしでかすか分からないから止めておいた。


「そういえばエリーに用事と言っていましたが、どのような?」


サードはさっさとラグナスとの会話を打ち切ってロッテに声をかけるとロッテは頷く。


「エリーの知り合いで黒魔術をかけられた家族がいてどうのこうのって話関係で来たんだ。丁度いいからそこのソファーに座って話そうか」


頷いて皆でソファーに向かっている間にもロッテは話し始めた。


「黒魔術を使う人間が暮らす村なんだけど、もしかしたら分かるかもしれない」


「そうなの!?どこ!?」


振り返って聞くと、ロッテは「まず座ろう」ってソファーに座ってから空中から地図を取り出して、ある地域を指でなぞりながら赤い線で囲う。


「このウチサザイって国じゃないかな。あたしはまだ魔族と繋がりがあるから魔界の話も人間界の話も色々と聞いてる。それでウチサザイ国で妙な動きをしている魔族がいるみたいだって噂をチラッと聞いたことがあるの。自分の派閥を人間界で作ってるのかなとか前に話し合ってて」


その赤い線で囲まれた国を見たアレンは、


「結構遠いなぁ…ほとんど南東に大陸横断する感じじゃん」


って呟く。


現在地のソードリア国はここ、赤い丸で囲まれたウチサザイ国はここ…うん、地図でみるだけでもかなり遠いわ。


「丁度いいのでは?こちらはあと数ヶ月もすれば冬になって冷えと雪が酷くなるでしょう。それならこちらの南東にいれば寒さもしのげるはずです」


地図を見ながらサードがそう言う。


まあね。今までも冬には南に向かってそっちの方で活動していたもの。ウチサザイ国は結構遠いし南東だし冬は暖かいかも。それにミレルのために黒魔術の村の問題は解決したいから行かないと。


「それでそのウチサザイ国のどの辺にその村があるの?」


聞くとロッテはそこまでは分からない、とばかりに肩をすくめた。


「じゃあ魔族に忠誠を誓わなくする方法は…」


重ねて聞くとロッテは首を横に振った。


「そりゃその魔族が解除しないと無理。あたしとかじゃなくて、その魔族に忠誠を誓って得た力なんだから他の魔族は関係ない」


そっか、って黙り込むとロッテは、


「けど人間の世界じゃ黒魔術は大体禁止されてるんでしょう?それも知識のためとして勉強してるだけで変な目で見られるからって、ろくに覚える人もいないって聞くよ」


そう。


ミレルの弟がいずれ魔族に忠誠を誓ってしまうかもしれない。

その事を知ったミレルのお父さんが色んな教会や神殿に行った。けれど黒魔術はほとんどの国で禁止されているからろくに知識を持っている人はいなくて、そのせいで黒魔術を使う人が暮らす村を探しに旅に出てしまったくらいだもの。


「人間ってそういうとこ馬鹿だよねぇ。毒の知識が無いと解毒も出来ないのに体裁を保つために黒魔術の勉強をろくにしないとかさ」


「恐らく解毒目的で勉強していても、何かあれば魔族を崇拝している人というレッテルを貼られてしまうからでしょう。下手をすれば魔族崇拝者として扱われかねません」


ガウリスの言葉にロッテは「へえ例えば」と興味を持ったのか質問する。


「私の国では大昔に羨望を集めていた立派な学者がいました。そして解毒目的で黒魔術の研究に取りかかっていたある日、鼻歌を歌って散歩している横で人が転び膝から血を流しました。すると学者は『今呪いをかけただろう』と指を突き付けられ、疑心暗鬼になった民衆にその場で石で打たれ殺されたのです」


「それ…ただ学者の横で勝手にすっ転んで膝すりむいただけじゃ…」


アレンがそう聞くとガウリスも多少落ち込んだ顔つきで、


「その通りです。しかし実際に私の国で起きた事件です。今ではただの言いがかりとして皆も納得し、その悲惨な事件を忘れぬよう学者が殺された日に祭りをしていますが…」


「ふーん、人間界で魔族を崇拝する人ってそんな扱いされるんだぁ、ふーん」


ロッテは興味深い、という顔をしているけれど、ガウリスは、


「すみません…」


と謝る。ロッテは笑って、


「何を謝る必要があるの、あたしら魔族と人間は元々そういう仲でしょ。それにあんた、今は神に近い存在になってるんだし、もっと魔族と相容れない存在でしょうが」


神に近い存在って言葉を聞いたラグナスは軽く驚いた顔でガウリスを見て、


「ええ、そうなのやだぁ」


と言いながら引いた。でも興味を持った顔でガウリスをジロジロとみて、


「ところで…ご出身は…?」


お見合いじゃないんだから。


おかしくて笑いを堪えているとガウリスは答える。


「サンシラ国です」


「ええ、そうなのやだぁ。神と一番近い国って言われてるとこじゃん」


余計嫌そうにラグナスは身を引いたけれど、それでも興味があるのか、


「…魔族が神の関係者に触れるとゾワゾワするって聞いたんだけど…本当なのか試してみていい?いい?」


と言いながらガウリスの腕をチョイチョイとつついて、ウヒョウ、と身震いする。


「なんかクセになりそうかもこれ」


そう言いながらガウリスの腕をペチペチと叩いて、ウヒョオウ、と身震いする。


何だかんだでラグナスはいつでも楽しそうよね。


「ラグナスは聞いたことないの?人間界で怪しい動きをしてる魔族の話とか」


「さあ?」


座っているガウリスの後ろに回って肩をペッチンペッチンとリズミカルに叩いているラグナスはロッテの質問に首をかしげながら続ける。


「別に人間界に来るのは魔王様関連の魔族だけじゃないからね。秘境巡り感覚で旅行に来る魔族もいるって聞くし、もしかしたらそれもプライベートで来てるだけかもよ。それでも変わり者の部類だろうけど」


「じゃあ何?プライベートで人間界に来てて、それでそこに黒魔術を使う人が大量に集まって村が出来たとか、そんな感じなの?」


「分からないよ、私は見たこともないし聞いたこともないもん」


ラグナスはそう言いつつガウリスの肩をスペペペペペと平手で高速で連打している。


「たーのしーい」


ラグナスはいつもより生き生きとした顔でひたすらガウリスの肩を高速連打し続けていて、ガウリスは困った顔をしながらも静かに黙っていて、アレンはそんな困っている顔のガウリスとフリーダムなラグナスを見ておかしそうに笑っている。


「ガウリス気に入られたな」


アレンがそう言うとラグナスは、ふう、と一仕事終えた人のように額を拭って、


「嫌いじゃない。二枚舌でもないし淫乱でもないし腹に一物も持ってないし。何しても怒らなそう。こういう大人の人は好き」


仕立て屋のエローラたちが言っていたのと同じことを言うのと、何気にサードのことをディスっているから思わず私もアレンもロッテもフフッと笑った。

ミレイダ

「(…今までの話から聞くに、この勇者様、何か一物ある性格隠してんな?どんな性格なんだろ本当は)」


ミレイダ

「なあ勇者様、今度飲みに行かない?お酒飲んで腹割って話そうぜ」(ニヤ)


サード

「酒豪のドラゴンに付き合って飲んでいたら倒れてしまいますよ、遠慮します」(ニコ)


サード

「(…チッこのお喋り好きの魔族(ラグナス)のせいでバレちまったか。だがミレイダ、てめえの前ではそっちの顔は見せねえぞ、こんなあけすけに話を言いふらしそうな奴の前で本性なんか出してやるものかよ)」

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