▼魔族 が 現れた!
困った時の神頼み。
ひとしきり祈っているうちに少し冷静になってきて、改めて辺りを見渡す。
今いるのは二階。
でもミレイダの吐いた炎は一階の天井も三階の床も溶かしてしまっている。もちろん二階なんてほぼ半壊状態。
本棚に収まっている本も未だに炎の熱気で燃えていっている。
それにしてもゲオルギオスドラゴンの炎ってこんなにすごいんだわ。直撃してもいないし炎耐性のついた装備も着ているのに、直接炎に飲まれて焼けるような酷い熱さだったもの。
私はすぐに自然の無効化を発動して難を逃れたけれど、もし無効化が使えていなかったら顔に喉の奥まで火傷を負っていたかも…。怖…。
それより本当に皆無事かしら、離れていたとしてもいきなりこんな熱さが襲ってきたとしたら避けようもないし…。
あれこれ考えていると、
「エリー!?」
バッと頭を動かした。
「アレン!?アレンなの!?無事なの!?」
すると溶けてなくなった床の下にオレンジ色のパンダナがチラと見える。
「アレン!」
一階が見える位置まで駆け寄る。
「大丈夫だったの?皆は?」
上から覗きこむように聞くとヒョイとガウリスも上を向いて姿を現した。
「ああ、良かった無事でしたか」
ガウリスがホッとしたような顔をしているけれど、私の方がホッとしてその場にへたりこむ。
するとガウリスは心配そうな顔で、
「大丈夫ですか?先ほど魔族の声が聞こえた後、急に上から熱気が来てこのようになって…お二人は無事だろうかと心配していたのです」
「何か天井が溶岩みたいに溶けてきたからビビったぁ…もう一階の方、蒸し風呂状態であちーのなんの…ここの魔族、なんの魔法陣使ったんだろ、怖ぇーなぁ」
それ魔族じゃなくてミレイダがやったんだけどね?
ミレイダをチラと見ると、言わないでって感じで首と手を横に動かしている。
あれ、でも…。
「サードは?」
「いますよ、サードさん…」
ガウリスが視線を下げて手でサードがいるらしい方向に招いているけれど、かすかに「別にいい」ってと声が聞こえた。
まあいるならいいわ、無事みたいだし。
「けど二階にどうやって行ったのー?」
アレンがそう聞いてくるから、さっきのツララの壁を手前側に戻った方向の部屋の中に階段があるって伝えておいて、
「皆が来るまでここで待っていればいい?」
って聞く。
サードが何か話している声が聞こえる。それを聞いたガウリスが見あげてきて、
「行きつく先は同じですし、そこに黙っていると狙い撃ちにされるでしょうから少しずつ進んでくださいとのことです」
「分かった」
頷いてミレイダと元来た道を戻り出した。
ミレイダが炎を吹いた先の床も大体無くなってしまって進めなくなったから。
「だがまあ、何となく分かったなぁ」
一階にいたアレンたちと離れてからミレイダは口を開いて、私は「何が?」って聞き返す。
「あれだけ本を取りそろえてんだ、ここの魔族はどうやら本が随分と好きみてえだな。そんで書庫の扉を壊されたらすげー怒ってたろ?
普通ダンジョンってのは人間に攻略されることを想定したうえで作られてんだから、壊されて怒るぐらいなら最初から書庫なんて作んなきゃよかったんだ。俺もだいぶ燃やしたけど」
うん、と頷いて、
「それで?」
と続きを促す。
「もしかしてこのダンジョン、人に攻略されること考えてなかったんじゃねえの?まずあり得ねえけど」
人に攻略されることを考えていなかった?まさか、ダンジョンなのにそんなことあるの?
魔族は大体、人を苦しめるために人間界に来ているって言われている。
でもそう言われればこのダンジョンは私が何かおかしいって気づくまで誰にも見えないし発見されてもいなかった。
「わざとこの建物を人に見つからないように、攻略されないように隠してたってこと?」
「人間界に来てる魔族としちゃあ変だが、そう思えるよなぁ」
もしかして…人と争わないようにしたとかじゃないかしら。思えばさっき魔族だって、
『こちとら優しさで警告したっつーのに』
って文句を言っていた。
そうよ、魔族の中には人に対して友好的なラグナスやロッテ、ロドディアスもいるもの。そう考えたら人間界の魔法陣をやたらと使っているのも人に親しい感情を持っているからじゃないの?
「ねぇ聞いてミレイダ」
今考えたことをミレイダに伝えて、もしかしてここの魔族は人に親しい感情を持っているんじゃいのって締めくくる。
でもミレイダは、それはない、ってすぐ首を横に振った。
「人に親しい感情持ってる奴がこれから収穫する作物を悪くして、それも畑のど真ん中に魔法陣作り出してあんな毒をもつカエルを何匹も出してくるかよ。あの魔法陣のせいだろ?あのカエルが出てきたの」
そう言われれば、そうね…。
口をつぐむと、ミレイダはどこか呆れたような、それでも微笑ましい顔で私を見てくる。
「エリーちゃんは随分と優しいんだねぇ。この中に入ってからも散々襲われてんだぜ?普通ここまでされたら人に親しい感情持ってるわけねえって思うもんだろうよ」
「だって今までも人に親しい感情を持ってる魔族とも行き合ってきたんだから、もしかしたらって…」
「一人と親しいからって全員とそうなるとは限らない。だろ?」
言われれば当たり前のこと。全くもってその通り。
何も言い返せなくて軽く頷くと、そんな私をミレイダは最大限に微笑ましい顔で覗きこんでくる。
「いいなぁ、エリーちゃんにはそのままでいてほしいなぁ」
「何それどういう意味」
「すれた大人になって欲しくないなぁっていう、ただの俺の希望」
ミレイダはそう言いながら前を向いて隣を歩いている。
「エリーちゃんも年齢的には大人だろうが、人の中でもまだまだひよっ子だろ。もう少し年齢がいくと分別がついて疑り深くなって物事の裏っかわ考えて世の中の不条理なものも見えてくる。
それも一種の成長だけどな。ただ中にはそんな裏っかわ見過ぎて希望無くして人生に見切りつけて何事にも毒を吐き続ける奴もいるもんだ」
ミレイダはそう言いながら微笑んで私を見た。
「だからエリーちゃんには世の中なんの希望も楽しみもないっていうすれた大人にはなってほしくねえなぁって思っただけ」
「…」
途中、サードのことを言っているのかしらって思っちゃった。
最近のサードは前より笑うことは多くなったけど、それでも未だに気が抜けている時には世の中なんの楽しみもないってつまらなそうな顔をしているとの。
よく笑うようになってもサードの本質はそっちの世の中がつまらない方なんだなって思ってた。
しかもミレイダが今言ったのと同じようにサードは疑り深くて、物事の悪い面を多く見て育ったせいか基本的に人を信用もしていないし色んなことに対して見切りをつけて毒を吐き続けているし。
「…そういうすれた人を…こう、もっと元の性格っていうか、いい方向に持っていくにはどうすればいいのかしら」
言葉がまとまらずに手を動かしなら言うとミレイダは「ん?」と私に目を向けた。
「すれた大人を子供みたいに純真で希望に満ちた性格にしたいってことかい?」
「…まあ」
子供みたいに純真で希望に満ちた性格のサードを想像したらかなり気持ち悪かったけど、とりあえず頷く。
「そりゃ周りがどうこうしようと思っても本人の性格なんてろくに直るわけねえだろ。病気じゃあるまいし」
まあ、そりゃそうよね。
「だがまぁ、すれた人間ってのは基本的に寂しがり屋で孤独を感じてるやつが多い。だからただ隣に誰かいりゃあ救われるってもんじゃねえの?」
そうなのかしら。サードが寂しがり屋だっていうのは当てはまっていないようなきもするけれど。
小さい通路を抜けるとミレイダの炎で穴の開いた遠くの部屋に黒く煤けた階段を見つけた。
良かった、もしかして階段も燃えてなくなったんじゃないかって薄々思ってた。
「けどここの魔族、私たちのこと殺すって言ってたけどあの虫の攻撃のあと何もしてこないわね」
「もしかしたらこれ以上何かしたらもっと本が燃やされるって思ったのかもな」
ミレイダはニヒ、と笑って、
「泣いてたりして」
まさかその程度で魔族が泣くなんて。
そういえばロッテはサードに足で本をズズーと動かされていたら「本を足蹴にするな!」って目を剥いて怒っていたっけ。
ロッテが怒ったのってあの時だけよね、どんなに他の人から失礼なことを言われても本を足蹴にされたあの時だけ。
もしここの魔族がロッテ以上に本に執着する性格だったらあながち本当にないてたりするのかも。
世の中に本に対して異常なほど執着する人だっているもの。
実際に私は勇者一行の魔導士って肩書のせいか、
「もしや希少価値の高い魔術書などを見たことは…」
「こんなタイトルの本を見たことは…」
って目の色を変えられて延々と聞かれたこともあったもの。
でも私はろくに本なんて読まないから首を横に振るだけ。そして相手はガッカリして勇者一行の魔導士のくせにって顔をして、私はその表情にイラッとしてた。
あの時のことを思い出すとイライラしてきたからとにかく階段を上りきって三階を歩いていくと、床に大きい穴が開いている。この下でミレイダが炎を吐いたのね。
見回すと今までと同じ構造みたい。
だったらきっと四階にいく階段も部屋の中にあるはずとミレイダと話し合って、容赦なく魔法で部屋のドアを破壊していく。
ここの魔族がどんなに怒ろうが嘆こうが、私たちだってわざわざ罠に引っかかりたくないもの。
私たちの読みは当たって、ある部屋の中に四階に行くための階段を発見した。
「やっぱり!この塔の階段は全部部屋の中にあるんだわ」
「よっし、この勢いでどんどん登っちゃお」
二人で喜んで、私が先に駆けだして階段の段差に足を乗せた瞬間。
私の目の前から階段が消えて、代わりにミレイダの後ろ姿が見えた。
「えっ!?」
私とミレイダが同時に声を上げて、ミレイダが振り向く。
「え?」
ミレイダは自分の後ろに立っている私を見ていて、私も何が起きたのか分からないから、
「え?」
って言いながらミレイダを見る。ミレイダは私から階段に目を移した。
「…あ、段の隅っこに小さく魔法陣あるわ」
近寄ると確かに。わずか一センチ程度の大きさの魔法陣が光っている。こんなに小さくても魔法陣って発動するものなの、知らなかった。
「でも電気が流れてきたり爆発したり針が飛び出すものじゃなくて良かった…ただ入口まで戻るだけのもので…」
胸をなでおろすけれど、色々な角度から階段を確認していたミレイダが「おいおい…」って呟いている。
「一段一段に同じような魔法陣がご丁寧あるぜ」
「えっ。じゃあどこの段に触れても入口に戻っちゃうんじゃないの?」
「だろうなぁ」
ミレイダは片手をあごに、かがみこんで背中にもう片方の手を当て魔法陣をジロジロとみている。
ぱっと見だけだと上品な紳士が高価な美術品を「ほほう…」って鑑賞しているみたい。確かにナタリカの言う通り見た目はナイスミドルなのよね、ミレイダ…。
「ねえミレイダ。羽だけ出して飛べない?」
そう聞くとミレイダは難しそうな顔をして、
「体の一部だけってなると元の大きさと違うから人の体を保ちにくいんだよ。下手すりゃ元のドラゴンの大きさに戻って下にいる勇者様たち潰しちまうかも」
無理ってことなのね。
悩んでいるとミレイダが、
「エリーちゃんが外の壁を乗り越えたときみたいに風の力で階段を斜めに飛んで上の階までいくとかどうよ」
「うーん…細かい調整は前よりできるようになったけど…下手したら天井に頭を強打して床に落ちてのたうち回りそう…」
「ダメかぁ。俺はともかく人間は頭強く打ったらすぐ死ぬっていうしなぁ」
「他に階段とかないかしら…」
「一応探してみるか」
話はさっさとまとまって後ろを振り向く。
すると、入口がグヨンと揺れて魔法陣が浮かび上がった。
何の魔法!?
魔法陣の真正面から飛びのいて何が飛び出してくるかと身構える。魔法陣からヌッと人の靴先が出てきた。
まさかここの魔族が直接…!?
魔法を、と杖を向けた。でもすぐさま現れたその顔に思わず、
「え!?」
と叫んで手が止まる。
魔法陣から出てきたのは、ロッテだった。
タイトル、嘘は言ってない




