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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ダンジョン?屋敷?の探索

とにかく今いるこの部屋に今まで誰かが飲み物を飲んでパウンドケーキを食べながらくつろいでいたのは分かった。

だとしたらどうやってこの部屋から消えたのかと部屋のあちこちを隅々まで見ていると、ミレイダが「おい」と皆に声をかけてくる。


「これ魔界の文字だと思うぜ、読めねえけどこんな形だったはずだ」


ミレイダが指さす棚には読めない文字の背表紙の本がズラッと並んでいる。


「それならこれは魔界の本ですか」


サードは適当に本を引っ張り出して広げた。すると背表紙と同じ形をした細かい文字がページいっぱいにびっしりと埋め尽くされている。読めやしないけれど、何となく難しそうな内容の本って印象だわ。


「うわぁ…読めねぇけど難しそうだな…」


アレンも私と同じ考えを口にしながらふとサードを見る。


「サードってロッテから魔界の文字習ったんだっけ?何て書いてんの」


「いいえ、魔界の文字は習ってませんよ。私が習ったのは人間界の古代文字に魔法で使う特殊文字、あとは天界の文字です。ロッテも無駄に魔界の文字が読まれては迷惑だとあえて教えなかったのでしょう」


そう言いながらサードは本を次々に本棚から取り出して、本棚の奥、それに本棚を傾けて後ろの壁に床を確認する。


「…本棚に仕掛けがあって逃げたわけではなさそうですね」


「そんな、トリック小説じゃあるまいし」


アレンがヘラヘラ笑っていると部屋の中をあちこち確認していたガウリスが、


「皆さん、これを」


って机に差し込まれている椅子を引いた。


見ると机の下に一人入れるくらいの大きさの魔法陣が炭で描かれていて、その円から中心に向かって指でグリッとなぞられたように途切れている。


「…また魔法陣?」


もしかしてここに居たのは魔族で、やっぱり魔法陣を使っているのかしら…。


そんなことを考えている間にも私以外の皆は、


「私たちが侵入したからこれを描いて逃げたのでしょうか」


「それもあとは使用されないように消されてますからね、考えられます」


「へぇ~、すげ~」


ガウリスとサードは話し合っていて、アレンは魔法陣を指でいじって指についた炭を服にこすりつけている。

…アレン、服じゃなくてハンカチで拭きなさいよ。炭は取れにくいわよ。


私たちは外に出て、さっきと同じようにある部屋の戸を蹴破りながら中を確認して入る。その部屋も誰もいなくて、それもさっきの部屋と同じ造りみたい。


違うのは机の上に置かれている物。


机の上には大量の紙が束としてまとめられていて、ペンが一本置かれている。

机の上の紙を見てみると魔法陣が色々と書かれていて、その隣に魔界の文字で何か文章が書きこまれている。


バラバラとめくってみたけれど、全部に魔法陣が、そして魔方陣の隣には魔界の文字が書かれているみたい。


「また魔法陣だけど」


皆も魔法陣が描かれた紙を見て、サードは順々にめくって、


「…何を書いているのかは分かりませんが、もしやこれは魔法陣の名前、種類、効果の説明では?」


「ええ…?だってサードだって疑問に思っていたじゃないの。人間界にダンジョンを持つ力のある魔族が少しの力で発動する魔法陣を使うものかしらって」


サードは紙の束の最初の一枚目から数枚目までパラパラめくって、


「しかしここからここまでの魔界の文字の出だしは全て同じ形です。この並びには法則性がある、妥当な考えをすれば名前順に並んでいる、とすれば魔法陣を調べまとめる作業をしていると考えられます」


…読めないのによくそこまで分かるものよね?


ミレイダから見えない机の上の紙の束を見ているサードは、悪どい顔でニヤァ、と笑った。


「…つまりこれ全部を見れば、魔界の基本文字全てが分かる…」


「まさかここでじっくり見るとか言わないでしょうね」


横に並んで釘をさすように言うとサードは私に表向きの顔でニッコリ微笑んだ。


「まさか。今は収穫物が悪くなるのを食い止めなければならないのですから、そんなことしませんよ」


サードはそう言うと私の肩に手を添えてくるりと入口に反転させる。


「行きましょう、ここには他に発見がありません」


サードの言葉に皆も部屋から出て進んでいく。


「魔族なのに調べてんのかなぁ、魔法陣」


「だが何のために魔族が?」


アレンの言葉にミレイダが即座に突っ込んでいて、ガウリスもうーん、って悩んでから顔を上げた。


「あり得るとすれば、やはりエリーさんがおっしゃったように魔方陣を活用しようとしているのでは?あとは魔界にはないものだから興味を持ったか…」


「さっきのまとめ具合からみて興味を持ったレベルのものではなさそうでしたがね」


サードが呟くとアレンが、


「けどあれに書いてたの、どんな魔方陣なんだろうなぁ」


って言うけれど、私はよく分からないから黙っておいた。

ロッテ、セリフィンさん、センプさんなら見ただけでパッと何か言えるでしょうけど。


とりあえず他の部屋のドアを見つける度に中に入って確認してみているけれど、どの部屋も最初に見たのとほとんど同じのようだわ。

本棚、机、ベッド、カーペットのインテリアがあって、そこに調べものをしていたのか本が机の上にキチンと揃って置かれていたり、日持ちのしそうなおやつが置いてあったり…。


それよりこのダンジョンに入ってからまだ一度もモンスターが出てこない。…ダンジョンっていうより屋敷って言った方が正しそうだけど。


もしかしてモンスターなんていなおのかしらって思いはじめて気が抜けかけたころ、ゴゴゴッと何かがこすれるような音がダンジョン全体に響くからビクッと体を揺らして辺りを確認した。


するとフゴー、という鼻息みたいな音と一緒にブツブツと『これで聞こえんのかなぁ』って呟く男の人の声が響いてくる。


「あ…!」


アレンが真上を指さすから全員が上を見あげると、魔法陣が浮かび上がっている。見ると廊下の天井に魔法陣が等間隔に浮かび上がっていて、暗い屋敷の中をほのかに照らしている。


『あー、あー』


天井の魔法陣から声が聞こえてきた。


「あのサンシラ行の船の中で見たあの魔法陣じゃねえのこれ。ほらヤッジャが船内全体に聞こえるように言葉伝えてたあれ」


『えー聞こえますか聞こえますか』


ボソボソとした声が遠くから聞こえてくる。


「聞こえてるー」


アレンはそう返して手を振っているけれど、多分これ向こうには聞こえてないし見えてないわよ。


心の中で突っ込んでいると私の思った通り向こうにはこっちの声は聞こえないみたいでアレンの言葉に返答することなく言葉を続けていく。


『侵入者に告ぐ、侵入者に告ぐ。これは警告である、今すぐこの建物から出て行くように。五分以内にこの建物内から去らない場合、こちらに反抗の意を示すものとして排除する。

もう一度繰り返す。これは警告である、今すぐこの建物から出て行くように。五分以内にこの建物内から去らない場合、こちらに反抗の意を示すものとして排除する。以上』


ブツンと音が切れた音がして、魔法陣も消えた。


「…」

思わず全員で顔を見合わせた。


魔族のいるダンジョンに入って、こんな警告を受けて五分以内で立ち去れだなんて促されたことは一度もなかったから。

大体人間界に来ている魔族は人間に害を与えるために人と交戦するのを前提としているのだから、戦いもせず出ていけって言うなんておかしい。


「出て行かないと五分後に色々始めるって言ってやがるが、どうする?」


ミレイダの質問にサードはいともたやすく答える。


「残り五分でこの屋敷を抜け、塔まで乗り込みます。五分間は何もされないということですから行ける限り進みましょう」


ミレイダは笑った。


「いいねえ、そういう攻めの姿勢嫌いじゃねえ」


サードは早足で歩き出したからすから皆もその後ろをついて行く。


「窓から見る限り塔に行く通路はもう少し行ったところを右に曲がった所にあるはず、急ぎますよ」


今いる場所からルーク型の塔を窓から見る。


一階を半分ぐるっと回ってみたけれど、どうやらこの三階建ての建物とあの塔は屋敷のあちこちから通路が伸びて繋がっているみたいなのよね。

ロドディアスのいた古城はいざとなれば廊下を破壊して敵の侵入を阻むため、お城と塔は心もとない空中回廊の一本だけで繋がっていたのに、ここは色んな所から侵入できる造りになってる。


このダンジョンって実戦向きっていうより移動の便利さを優先した造りっぽいのよね、何となく。


曲がり角を曲がってルーク型の塔に続く通路を早足で向かって行くと、突き当たりにごく普通の扉が待ち構えている。


ここを開ければすぐ塔の中に侵入できそうだけどあまりにダンジョンに似つかわしくない普通の扉だから、サードは罠じゃないかって警戒したのか聖剣を引き抜いて扉の脇に寄って蹴破った。


扉は簡単に開いたけれど、その先には何もいないし罠っぽいことも何も起きない。


廊下の向こうを確認して何もないって判断したサードはそのまま進んでいく。


「簡単に塔に侵入できちゃったわね」


「けど五分で俺らのこと排除するって言っていたけどさ、何してくるつもりだろ、今の所モンスターも何も出てこないからどんなのが来るか全然わかんないぜ」


アレンが早足で歩きながら言うとサードは、


「魔法陣で攻め込まれたら困りますね。こちらは魔法陣の知識は一切ありませんし、文字を潰して効果を無効にするにしても発動しているものに近づくのも厄介ですから」


「だなぁ」


アレンとサードの会話を聞きながら辺りをキョロキョロする。


今のところ私の中では「塔=らせん階段」ってイメージだったけど、この塔の中は迷路みたいに入り組んでいるわ。

あっちに部屋、こっちに通路、通路の行き止まりのT字路両側に部屋、その部屋と隣の部屋の間にクランク状の小さい通路…。


これ、一人だったら絶対迷うわ。とりあえずアレンがいれば大丈夫だけど。


「それにしても階段が見つかりませんね」


ガウリスが辺りを見渡して、サードは一度立ち止まった。


「適当に歩いても迷いそうです。ひとまず塔の内部に侵入は出来たのであとはアレンにマップを書いてもらいながら階段を探して上に向かいますか」


そう言っているとまたゴゴッと音が聞こえてきて、皆が上を見あげた。

やっぱりそこには魔法陣が浮かび上がっていて、


『あー、あー、侵入者に告ぐ、侵入者に告ぐ。先ほどの警告よりきっかり五分を経過した。警告を無視したのでこちらに反抗するものとして今から排除を開始する。今から排除を開始する』


ボソボソとした声が聞こえて、ブツンと音が切れた。


そのあとシンとした静けさと、窓もない薄暗い空間に音ごと包まれる感覚に陥る。


何がくるの、って警戒して杖を強く握ってキョロキョロしていると、上を見あげたままのアレンは、


「…声からしてここの魔族は男だなぁ」


どこかずれている発言に脱力したその瞬間、壁にブワッと大きい魔法陣が浮かび上がって驚いて飛びのいた。


するとそこからドッと火が噴き出してきて、さっきまで皆が立っていた所を通過していく。


「やっぱ魔法陣じゃーん!あっつ!あ、熱くない!これくらいなら装備で大丈夫だ、でもこっわ!やっべ、こっわ!どっから来るかわかんねぇぜこれ!こっわ!」


アレンが仰天した声でまたどこかずれたことを言いながら絶叫しているから、また私の体から力が抜けていく。


すると私たちが避けた所の天井・地面・左右の壁に同じ形をした魔法陣がブワブワと三個ずつ浮かび上がった。


今度は何が来るのと考えるよりも、とにかくこの魔法陣の向かいに立っちゃいけないって慌てて飛びのくと、その魔法陣からツララのような氷がギャンと生えてきてそれぞれが牙が噛み合うようにガチンッと組み合わさった。


床に倒れながら目の前を見ると、氷で通路がふさがれてしまったみたい。


横に目をずらすと私と同じように後ろに飛びのいたミレイダと目が合った。

けど他に人はいないから、サードとアレン、ガウリスはツララの向こう側に飛びのいたみたいね。


「待ってて、風で氷を壊すから」


そう言うと向こうから「え?なに?」ってアレンの声が聞こえる。


「今からー!風で氷を壊すからー!気をつけてー!」


氷で音が聞こえにくいみたいだから大声を出すと、向こうから「うんー!」って大声のアレンの声が返ってくる。


…別にアレンの声は聞こえてたからアレンは普通に言っても大丈夫なんだけどね。


とにかくいつも通り空気を震わせて風を発動して氷に当てた。

これくらいなら私くらいの人は簡単に飛んでいく強さなんだけれど、氷はガリガリと音がしてかすかに削れるだけで壊れもしない。


むしろ氷の壁に風が当たって逆流してきて、冷えた空気が私とミレイダに襲いかかってくる。

まあ、今日は暖かいからちょっと涼しい。


「よっぽど冷えてんだなぁ。もっと今が夏だったら今のもっと涼しそう…」


ミレイダがそう言っているうちにミレイダの足元に魔法陣が浮かび上がって、ミレイダは、うおっと言いながら後ろに飛びのいた。


その魔法陣はギュルル、と真っ暗闇になる。


落とし穴?にしては落とすタイミングすごくずれてたけど…。


覗きこむと髪の毛に服がさわっと穴に向かって動く。


違う、これ落とし穴じゃない!


そう思った瞬間すごい勢いで穴に吸い込まれそうになる。

ツララの壁に風を当ててその反動で私を吸い込もうとする穴から無理やり遠のくけれど、それでもその吸い込む力はすごくて、どこまでも引きずられるように穴に近づいてしまう。


「エリーちゃん、こりゃここにいたらダメだわ、あっちいこ!」


ミレイダはそう言いながら壁に手をついて、もう片手で私の腕を掴んでずるずると引きずり戻していく。


「けど皆が…!」


向こうに、ってツララの壁を見ると、


「どわあああ!」

「アレンさーん!」


ってアレンの叫び声と慌てるガウリスの声が聞こえてきた。向こうでもこっちと同じことが起きているのかもしれない。


「どうせ行く先は同じ、この塔の天辺だろ。今は逃げるのが得策だぜ」


ミレイダがそう言うから私も頑張って立ち上がって、でも吸い込まれそうになって転んでを繰り返しながらその場から必死に逃げた。

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