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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ラスボスとの決着

「パパ…!?」

「パパ…!?」

「パパ…!?」


私たちは次々に同じ言葉を繰り返してバッとロドディアスを振り返る。でも何より驚いたような雰囲気だったのは当のロドディアスのようで、


「ローディ!?」


と言いながら元の優し気な茶髪の紳士の姿に戻ると、あっけに取られる私たちの横を走り通ってドレス姿の女の子を抱きしめた。


「なぜここにいるんだい?パパはしばらく出かけるから家で待ってるんだよって言っていただろう?」


「だってだって、パパはダンジョンで人間を苦しめに来てるんでしょ?私だってパパのお手伝いできるもの!」


「パパは強いから一人でできるって言っていただろう?パパはそんなに弱いと思ったのかい?ローディ、んん?」


ロドディアスはそう言いながらローディと呼ばれた女の子を抱きしめながら額に自分の額を合わせる。


すると外から馬のひづめのような音と叫び声が聞こえ、どんどんと近づいてくる。


「姫様ぁー!いけません、今は冒険者共が…!」


薄くスライドされた鉄の扉の上を滑りこむように飛び込んできたのは、長い通路で出会ったあの謎の黒い騎士。


黒い騎士はロドディアスの姿を見つけ慌てて骨だけの馬から飛び降り地面に膝をつくと、頭と顔を覆う(かぶと)を取った。


冑の下からは人間としか見て取れない、オレンジ色のツンツンと逆立った髪でバツの悪そうな顔をした若者の姿が現れる。


「…グラン」


グラン…この黒い騎士の名前?


そのグランという黒い騎士はロドディアスに声をかけられビクッと肩を動かして地面を見ていたけど、観念したようにうなだれて口を開いた。


「申し訳ありません、姫様にどうしてもと言われ、断り切れず冒険者のいない時に何度もここに訪れていました…!」


「重ね重ねまこと申し訳ない!ロドディアス!」


轟音の声と共にドスドスと足音が聞こえ、鎧を着た大男が現れ、私たちはザワッと全員で思わず身構えた。


だって中ボスのランディがピンピンした状態でやってきたんだもの、なんてこと、ラスボスと中ボスが揃って…。


それでもランディは私たちに目もくれないでロドディアスに膝をつけて冑を取った。


そこにはオレンジ色のビンビンと跳ねた髪の、グランという黒い騎士をもっとずっと大人にしたような顔が現れる。その顔も人間と同じような顔。


「うちの息子がいらんことをしでかしたらしい!あと勇者御一行に負けちまった!本当、重ね重ね申し訳ない!」


ランディはグランの頭を大きい手で一掴みすると、薄くスライスされた元・鉄の扉に頭をゴンゴンと打ち付ける。


「他にもグランにはパパのお手伝いをさせたのよ」


ローディというこの女の子のためにグランが父親のランディ卿に頭を鉄に打ち付けられ謝っているというのに、当のローディはご機嫌でロドディアスの首に甘えるように手を回す。


「最近ね、ここから下流のスライムがいる塔に冒険者がいっぱい行ってるみたいなの。だからこっちに冒険者がいっぱい来るようにあっちのスライムの塔の魔族には別の場所に移動しなさいって命令を出してるのよ」


「あんたかー!」


思わず幼いローディに向かって指を差しながら叫んだ。

それでも何が「あんたか」なのか自分でも意味が分からなくて、黙り込む。むしろ叫んだ分だけ頭がガンガンしてきた…。


ロドディアスは呆れたような顔をしてローディの頭を撫でながらグランに視線を移す。


「まさか…毒のあるモンスターを下流にしかけていないだろうね?」


その言葉にグランが硬直し、ロドディアスは難しい顔をした。


「もしかしてそれは…地上には居ないものかい?」


額から血を流しながらグランは絶叫した。


「重ね重ね、自分の失態です!」


グランの言い分はこんなものだった。


幼いローディ姫は父が人間界に行ってから自分も行きたいと日ごろから言っていて、騎士であるグランに連れていけと命令をくだした。


グランも断った。でも王家に仕える騎士のくせに命令を断るとは何事となじられ、そう言われたら無理に断れず冒険者が居ないところを見計らってこの古城に連れてきていた。


でもいつも誰もいない時を見計らって連れてきているせいか、冒険者が一切この城にいないとローディは思ったみたい。


「私だって王家の娘よ。パパのお手伝いで冒険者を倒したいのに出来ないわ」


グランはゾッとした。

無断でここに姫を連れてくるだけでもとんでもないことなのに、人間と戦わせるなどもってのほか、何より傷を負ってしまったら…。


そう考えたグランは、


「下流に新しいダンジョンが建ったから、冒険者の足が中々こちらに向かないようですね」


とりあえずそう言って誤魔化した。スライムの塔のラスボスがどんな魔族か知らないけど、下流に新しくダンジョンが建ったのは噂で聞いていたから。


するとローディは烈火のごとく怒りだした。


「だったらその新しいダンジョンの主に手紙を書くわ、その場から立ち去りなさいって!グランは私の書いた手紙をしっかりとそいつに送るのよ、いいわね!」


姫は(おん)自ら何通も手紙を書いた。


それでもグランはその手紙をはいはい、と受け取るだけで手元に保管していた。仮にロドディアス王と地上にダンジョンを持つほど力のある魔族との折り合いが悪くなって後々困ることになったら大変だからと。


でも保管していた手紙の束を目ざとくローディに見つけられた。


「グラン、あなたは私に逆らうつもり!?私に逆らうなら王家に反逆を起こすも同じよ!」


そう責めよられては逃げられず、申し訳ないと思いつつグランはスライムの塔宛てに手紙を送り続けたけど、あまりに一方的な内容だからスライムの塔の主も無視をする。


グラン的には相手がすぐ怒る魔族じゃなくて多少ホッとしたらしいけど、無視されたローディからの手紙は増え、ある日ローディ姫は魔界に一度戻って人間界にやってきた際、お城の脇の川に飛び込んだ。


「それか…」


ロドディアスは渋い顔で深いため息を吐く。


「それって?」


アレンが聞くと、ロドディアスはローディを抱いたままこちらに向き直る。


「ローディは触れた水と一体化できる。そして触れた水が仮に魔界の川だったとしよう。魔界の川には人間界にいない生物がいるだろうから、魔界の水を体に含ませ人間界の川に入ったとしたら…」


「魔界のクソ汚ねえ水で川が汚染された。ってことはあの水みてえな這いずり回るあれ、そこのガキが魔界から持ち込んだもんってことか」


魔界のクソ汚ねえ水、そこのガキの部分でローディとグランはムッとサードを睨みつける。


「パパあいつらやっつけちゃおう!私も手助けするわ。私あいつらがお城に入って来た時からずっと見張ってたんだから!」


「ずっと?」


聞き返すと、ローディはパッと自慢げな顔になってフフン、と鼻を鳴らし、


「そうよ!このお城は全体に水路が通ってるから、あなたたちの行動なんて全部筒抜けだったんだから!けど倒された騎士は組み立ててももう動かないのね。グランに直させたんだけど」


その言葉にランディ卿がグランに怒鳴りかかる。


「グラン、なぜ冒険者がいるのに姫を連れて帰らなかった!」


グランはもう申し訳なさそうにうなだれて、


「入口までこいつらが来たので一旦入口を閉めて姫を連れ戻そうと何度もしたのです。しかし捕まえようとするたびに姫は水に紛れ、捕まえる(すべ)もなく…」


今までの謎がすべて解明された。


最初に城の入口を閉めたのはグラン。


夜中にパタパタと走り回り帰らない!と声が聞こえたのはローディがグランに連れ戻されそうになったから。


騎士が組み立てられ階段に立てかけられていたのはローディの命令でグランが組み立て直したから。


そしてこの女の子が壁しかない方向に逸れて急に消えた理由は水路に逃げ込んだから。


グランが私たちを攻撃せずに去って行ったのはローディを探し回っていたから。


そしてサードの感じた視線、それはこの城をくまなく通っている水路と一体化して私たちを見張っていたローディのものだったんだ。


「ねぇパパ、こいつら倒そう?」


ローディがねだるようにロドディアスに言うけど、ロドディアスは渋い表情のまま黙り込んでいる。


「パパ?」


不思議な表情をして見つめる娘をロドディアスは床におろして、目線を合わせて肩に手を乗せた。


「ローディ、君はやってはいけない事をしてしまった。何か分かるかい?」


ローディはきょとんとした顔で、少し考えてから口を開く。


「来てはいけないのに来てしまったこと?」


「それもだ」


ローディは厳しい表情の父を見つめ、次第に怒っているような気配を察したのか段々と脅えたような表情でグランに助けを求めるかのようにチラと見た。


でもグランは目をつぶって黙ってひざまずいている。ローディはランディに目を向けるけど、ランディも厳しい顔のまま黙ってローディを見ている。


ローディは泣き出しそうな顔で私たちに視線を向けてきたけど、さっきまで戦っていた魔族の娘にそんな視線を向けられても困る。


私もアレンも視線を逸らした。


「ローディ」


ロドディアスは名前を呼びながら両手で自分の方へと顔を向けさせた。


「人間界に居ない生き物を勝手に魔界から連れてきてはいけないんだよ。これは違反だ、勝手にそんな事をすると牢屋に入れられて死刑になるんだよ」


その言葉にローディの表情が一気に強ばる。


「うそ…」


「本当だ」


「だって私はスウィーンダ州の第一王女よ?」


「身分も住んでる地域も関係なく魔界で決められていることなんだよ。誰であろうと犯してはいけないことなんだ」


ブワッとローディは泣き出した。


「だってっ、だってっ、ただスライムの塔の魔族がねっ、水飲む時にあの気持ち悪いのがねっ、混ざってたらねっ、気持ち悪いだろうって思って…!」


しゃくりあげながらローディはロドディアスの胸に飛び込む。


「パパ、私死刑になりたくない…!」


ロドディアスはやれやれといった顔つきでローディの背中をポンポンと叩いてあやす。


「分かった分かった、パパも一緒に怒られるからね。許されるか分からないが一緒に謝ろう」


「ごめんなさい、ごめんなさいパパ…!」


「うんうん」


しばらくロドディアスはローディの頭を撫で続けた。


* * *


ロドディアスはグランとランディにローディを託し、魔界に連れ帰るように指示を出してから私たちに向き直る。


「戦いの最中だったのに申し訳なかったね。私はもう戦う気がそがれてしまったんだが、君たちはどうだい?」


「そがれたよ、あんなやり取り見たら…」


アレンが一言いう。

私だってあんな親子のやり取りを見てた後で戦闘モードになんか入れない。それより体調がすこぶる悪い。胃はズキズキと痛む、気持ち悪い、頭もズキ…ズキ…と一定間隔で締め付けられるようで今すぐ横になって休みたい。


「俺は初回特典の宝箱をもらうまで諦めねぇぞ」


でもサードは誰が引くものかという構えを見せている。

ロドディアスはサードの言葉に笑いながら空中から何か出した。剣かと思って身構えたけど、それは宝箱。


「特別だ。これをあげよう。私も娘がモンスターを勝手に連れて来た件で一旦魔界に帰らねばならなくなった」


「…本当に死刑になってしまうの?」


心配になって聞くと、ロドディアスは少し眉毛を動かしてこちらを見た。


「おや、魔族のことを心配してくれるのかい?奇特なお嬢さんだ」


だって魔族とはいえしゃくりあげながら泣いている姿はごく普通の女の子だった。あんなに小さい女の子が死刑になるなんて想像したくない。


そんな私を見てロドディアスはふっと微笑む。


「死刑になるのは常習犯だけだよ。お(とが)めなしとはいかないだろうが、あの子は最近我がままが過ぎるから少し脅かしておいたんだ。グランにも申し訳ないことをした。忠義とあの子の我がままに挟まれて大変だったことだろう」


と宝箱をフワッとこちらに投げてよこし、サードの足元に宝箱が置かれる。と、サードは宝箱を足蹴にしながらロドディアスを睨んだ。


「待てよ、これ以外にも聞くことが色々あんだ」


「なんだい?」


失礼なサードの態度にもロドディアスは決して柔和な表情を変えない。


「俺たちがここに来たのは毒をもつ何かがここからきてるって情報があったからだ。実際この下の城下町はエリーと同じ症状で機能停止して、そのうち下流でも同じ症状の奴らが出るかもしれねえ。それについてはどうしてくれんだ?」


ロドディアスは少し黙り込んで、腰に手を当てて壁の無い部屋から遠くを眺めた。


「…そうだね、持ってくるだけ持ってきて後はおしまいでは無責任すぎるか」


そう言いながら私たちに向き直り、


「恐らくローディが持ってきてしまったのは魔界の川に普通にいる生き物で体の表面に毒の粘膜があるもの。魔界の者には何も作用しないが、人間界に居ないだろうから人間にどう作用するのかは分からない。だが体内に入ればあまり良いことは起きないだろうね」


「けど私は外から持ち込んだ水しか飲んでないのよ?なのになんで私まで…」


「この辺りの水に触れなかったかい?」


その言葉に首を横に振りかけたけど、昨日の夜、トイレに行ったあと外から流れ込んできてた(かめ)の水で手を洗ったことを思い出した。


「その後にその手で食べ物を手づかみで食べたなどは?」


そうだわ、朝にパンを手でむしって食べた。


思い当たる節があるとみたロドディアスは続ける。


「あまり私も詳しくないが、あの生き物は火や湯などの熱いものと乾燥に弱かったはずだ。川辺に打ち上げられて干からびているのを見ているし、火を押しつけるとすぐに蒸発するのも見ている。

だからとりあえず熱い湯にでも入ったらどうだろう?今のところこれくらいしか考えつかない」


言い終えて、ロドディアスはジッと私を見て、サードに視線を移す。


「少しそこのお嬢さんを借りてもいいかい?話がしたい」


サードとアレンが私を見て、私は何?とロドディアスを見返す。


「少しこちらに」


ロドディアスはエスコートするように私に手を差し出してくる。下級貴族時代でも王家のパーティーに出たことがないから、男の人からこんな優雅な対応をされたことはない。

ちょっと恥ずかしく思いながらも私だって貴族なんだから、と手を乗せてサードとアレンから離れた所に移動する。


壁の取り払われた部屋の近くまで来ると、外から少し強めの風が吹いて来る。…気持ちいい風。


「君、忘却(ぼうきゃく)の魔法をかけられているね」


私は顔を上げた。ロドディアスは私を見ながら、


「恐らくローディから嫌がらせを受けていたスライムの塔の魔族が君に私を倒すよう持ち掛けた。しかし魔界や自身にとって不都合なことを言い過ぎたと君に魔法をかけた。

だがスライムの塔の魔族は君の魔力の強さを甘く見ていたようだね。その忘却魔法は完全にかかっていないから記憶が混濁(こんだく)している。違うかい?」


そう言われて私はロドディアスを見上げ大きく頷く。


「そうなの、記憶が繋がりそうだけど全然分からなくなって…サードなんて痴呆かって言うのよ」


ロドディアスは詰まったように吹き出して私から視線を逸らして、おかしそうに笑いながら、


「どれ」


と私の頭の上に手をかざさてきた。


その瞬間、頭の中のモヤが全て取り払われる感覚がして、今まで思いだせそうで思い出せなかった出来事が全てバッと繋がる。


そうだ、そうだった!


ラグナスはスライムの塔のラスボスで、アップルパイを御馳走になって、ここの攻略を頼まれて、小屋から出ると全てを忘れる魔法をかけたと言われながら家から押し出された…。


「気分はどうだい?」


まるで病気を気遣うような優しい言葉遣いでロドディアスは語り掛けてくる。


「体調はすごく悪いけど…気分はいいわ。ありがとう」


「それは良かった。…さて、私もそろそろ帰らないといけないか」


ロドディアスはそう言いながらも塔の頂上からの眺めを惜しむように小さくため息をつきながら遠くに目を向ける。


「…あなたは百年前、魔界で行われる百年に一度の大会で優勝したのよね」


そんな名残惜しそうな表情に私が声をかけると、ロドディアスは私に視線を向ける。


「だけど百年前は前魔王が倒された年だったから、優勝してもあやふやなままで地上に来れなくて、三年前にようやく地上に来たと聞いたわ。それなのにこんな形ですぐ魔界に戻ってしまうなんて…」


聞いている間、ロドディアスは段々とおかしそうに顔をゆがめて、ついにはハッハと短く笑いだした。


「なるほど、周りからはそう思われていたか」


「違うの?」


「確かに百年前に大会で優勝したが、前の魔王様の影響で私の州も荒れていたからね。どうであれ人間界に来るつもりはなかったよ」


そう言いながら眼下に広がる森や広がる城下町、そして流れる川とそこから流れる滝。そのパノラマを見ながらロドディアスは目を細めて微笑んだ。


「素晴らしい眺めだろう?私の治める州も多少落ち着いてきたからほんの気晴らしの場所を探してここを見つけたんだ。今の魔界の現状だと気晴らしに遊びに行くと大々的に言えないから一応ダンジョンの体を装ってね。…ローディの件が落ち着いたら今度は家族でこの景色を見に来たいな」


その一面の景色をキラキラした目で眺めるロドディアスを見ると、魔族でも人間と同じように綺麗な景色に心動かされるんだわと感じた。

ローディとの父子のやり取りを見ていても思っていたけど、そうなると魔族は人間と全然変わらない、そう、何も変わらないんだわ。


「さて」


ロドディアスは私に体を向けた。


「スライムの塔の主は少々おしゃべり好きのようだ。確か若い女の子だったね?この前の大会でスライムで優勝に輝いた奇才だ」


「ええ。ちょっと変わってるけど、彼女の作ったアップルパイはとても美味しかったわよ」


「そうか。…おっと君のお仲間がしびれを切らしている。そろそろ君を返そう」


ロドディアスは私の背中に手を回してサード達のいる方向へと促す。

見るとイライラしているサードとぼけーとした顔のアレンが見えた。どうやらしびれを切らしているのはサードだけみたいだけど。


戻る時もエスコートするように背中を支えながら、「そういえば」とロドディアスが口を開いたから見上げると、ロドディアスの優しい目と目が合う。


「魔界や人間界のことなど、あらゆる分野に詳しい魔族が人間界に来ていると聞いた」


空中から地図が現れたかと思うと、ふわっと流れるように私の手の内に地図が飛んでくる。すると赤い線が勝手に現れてある場所をスルスルと丸く囲った。


「ローディが連れて来てしまった生き物について困ったことがあればそこにいる魔族に聞いてみるといいかもしれない。私ができることはこれくらいだ」


…なんていい人なの?魔族なんだから人間界がどうなろうが関係もないはずで、むしろ困っているほうが楽しいと全部無視することもできるのに。


「重ね重ねありがとう、私今まで誤解していたわ。魔族でもあなたみたいに優しくて人間の手助けをしてくれる人もいるのね」


「…」


するとロドディアスはなんとも微妙な顔で苦笑する。


「そう言われると悪い気分ではないが、魔界の王の一人として人間界の者にそう思われるのは非常に都合が悪いんだよ。君は全て思い出したらしいが、魔界やそのほかの事については誰にも何も言わないでもらえるかな?」


「…」


本当は魔族でもこんなに良い人がいると皆に教えたいけど、魔族なりに都合の悪いことがあるみたい。

でもそんなことを言われるとほんの少し意地悪心が湧いた。


「もし私が誰彼構わず言ったらどうするつもりなの?人の口に戸は立てられないのよ」


するとロドディアスはからかうような口調で、


「おや、言うつもりなのか?君は誰が相手であれ義理堅いと思ったんだが」


つまり私は約束は守るだろうと確信して話を持ち掛けているの。魔族なのに人を騙さず、ただ信用して。


「…言わないけど」


ロドディアスは私の言葉を聞いてフッと微笑む。


「君はそういう子だと思ったよ」


私は微笑むロドディアスを見上げた。


なんとなくこのロドディアスには親近感を感じていたけど、この柔和で穏やかで誰に対しても優しい態度がお父様と似ているんだと気づいた。


約束は守ろう。絶対に。

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