誰よ
ブルーレンジャーたちはしばらく名主の家にお世話になるんだと思っていたら、案外と別の所に行くというからその後ろをついて行くことになった。
「おや、ブルーレンジャーについてくるのですか?」
「えーと、まあ」
私はアサフの言葉に曖昧に頷いておく。
「ブルーレンジャー!」
「キャアアアアア!」
「がんばれー!」
通りすがりに子供たちが集まってブルーレンジャーたちに声援を送っている。情報を集める時に聞いた通りブルーレンジャーの人気はすごいみたいで、皆が気さくに声をかけて応援している。
「応援ありがとう!君たちも毎日楽しく過ごすんだぞ!」
アサフたちも声援を送られる度に声をかけて、声をかけられた子供たちは余計嬉しそうな声をあげている。それどころか大人のお姉さんやお兄さんも子供の向こうからワァ…!と応援しているわね。本当に人気なんだわ…。
そして後ろにいる私たちをみて、ハッとした顔になる…。
「勇者御一行だ!」
一人が叫ぶとその場にいた人たちが名主のおじさんみたいに「ピャアアアアアアア!」と飛び跳ね絶叫してはしゃぎはじめて、あっという間に取り囲まれてしまった…!
あああ、こういう圧の強い対応苦手なのにぃ…!
それでもその圧の強いひとたちの対応はブルーレンジャーがほとんどして、私たちは望まれれば握手をして、サインを書いてと動きは最小限に留めておいた。
ブルーレンジャーってすごいわ。皆からこんなに熱い声援を送られても笑顔で対応しているもの。
私は何度囲まれてもやっぱり慣れないし、苦手。
それにサードは基本女性以外の人とは話したくないし、アレンは皆と仲良く話せるけれど「勇者御一行の武道家のアレン」として囲まれるとどこか引き気味になるし、ガウリスは「つい最近仲間になったばかりなのに勇者御一行として対応してもいいものか…」という雰囲気で曖昧に微笑むばかり。
「勇者御一行と一緒だといつも以上に女の子からの人気が高い気がしますね」
人々から解放されてからミレイダがムフフ、と笑いながらあごをさすっている。ナタリカはそれにしても…と私の隣に並んで、
「勇者様たちって結構大人しいのね」
「あなたたちがアグレッシブ過ぎなのよ」
「ええ?前に行き合った勇者様はこんなことしてたんだけどなぁ…」
「えっ…サードが一人であんなことを…!?」
サードが表向きの顔で振り向いて、かすかに睨んでくる。
「ナタリカさんは私たちより長く生きているのです、私以前の勇者ということでは?」
ああそういうこと、と私は納得したけど、表向きの顔ながらに「ふざけんなよてめえ」ってサードの目が言ってる。ナタリカも私の言葉に笑いながら、
「そうそう、私が言ってるのは赤髪の勇者マリードよ。ほら、髪の色が赤・青・緑・黄・ピンクの五人組の。遠くから見ただけだったんだけど赤髪のマリードはアサフとワブラックをかけ合わせたような暑苦しい勇者だったわ。私たち今まさにマリード一行状態。楽しいからいいけど」
アハハ、と笑いながらナタリカは何気にアサフとワブラックをけなしている。
勇者マリード…確か八百年ぐらい昔の勇者で、一部の歴史ファンから未だに人気のある勇者一行のはず。つまりナタリカは八百年は生きているってことね…。
するとアレンも話に加わってきた。
「ナタリカってサードの持ってる聖剣の元の持ち主のことも知ってるんだよな?歴代最高の勇者だって聞いてるけど、どんな人だったの?」
歴代最高の勇者の話は全員が気になるみたいで、全員がナタリカのそばに近寄ってきた。それでもナタリカは困ったように眉を寄せて、
「言っとくけど私だって人から聞いた程度しか知らないからね?その聖剣の元の持ち主の勇者インラスが生きてた時代に私はまだ生まれてないんだから。だってそれ軽く六千年前の話でしょ?」
「昨日はまるでその勇者のことを懐かしむかのような口ぶりでしたが?」
サードがカマにかけるような言い方で聞くとナタリカは軽く首を振って、
「私のお婆ちゃんが若い時インラスのお世話になったとかでその話をよく聞いてたのよ。村のそばに魔王の使いが根城を築いたらしくて、仲間全員が立ち向かってもどうにもならなかったの。
そこにその聖剣を持ったインラス一行が訪れて、お願いしたら一晩でその根城を突き崩したってね」
ナタリカはそう言って話終えた。でもすぐにサードに顔を向けて、
「だからお婆ちゃんに最近会ってないから元気かなぁって懐かしんだだけよ」
と付け足すようなことを言う。
…何だか誤魔化したような感じがしないでもない言い方だった気もする…怪しいわ。
ナタリカはそんな私の怪しむ目なんて気づいていないのか、
「お婆ちゃんの若いころなんだけどね、この国のエルフたちはまだ人と仲良くなくて、魔族をどうにかしてって頼んでるのにインラスを見下した態度だったらしいの。
けどそのインラスはどんなに酷い扱いをされても怒りもしないで控えめな態度で、どこかの国の王子様?っていうくらい物腰が柔らかくていつでも微笑みを絶やさなくて、それなのにいざ力を振るうとなるとその指揮力と一気に敵を畳みかける荒々しさときたら…。
もうインラスが去るころには若きし頃のお婆ちゃんも含めてエルフの女の人のほとんどがインラスに惚れてたって」
「…」
思わずサードを見る。アレンとガウリスもサードを見ている。
なんだかその勇者インラスとサードの特徴が妙に似ている。するとジャークも、
「なんだか今の勇者様と特徴が似ていますね」
と言うと、ナタリカはそう言われれば確かに、と頷く。
「でも見た目は違うなぁ。インラスは流れるような金髪で体中に魔力の増強用の魔法陣と紋を彫ってたんだって。
それにインラスは女の人が苦手みたいで近くに寄られたらずっと恥ずかしそうにモジモジしてて女の人とは一切目を合わせなかったらしいよ。そこがまた可愛かったってお婆ちゃんは言ってたけど」
ナタリカは笑いを含ませてプークスクスと笑っている。
…それはサードじゃないわ。
アレンとガウリスと視線を合わせると、二人もそれはサードじゃないと思ってたみたいで、何となく目が合った瞬間に三人でコクリと頷いた。
「だからドラゴンの毒でインラスが死んだって聞いた時は村の中は悲しみに暮れたらしいわぁ」
今はドラゴンという単語に敏感になっているせいで私はナタリカを見て、他のブルーレンジャーの顔を見た。何かしら反応がないかしらと思ったけれど、ブルーレンジャーたちはナタリカの言葉にそうだろうなぁ、と同意する程度の顔つきしかしていない。
「そういえば勇者様たちはなにか依頼があってここに来たのでは?私たちと共に行動していていいのですか」
ミレイダがふと思いついたように言う。
「あなたたちの中にドラゴンが居て、そのドラゴンに用があってここに来たのよ」って言ったらどうなるのかしら、ドラゴンが人間に化けているだけでも驚くかもしれないのに、仲間内にドラゴンが居たとなったら皆かなりショックを受けるかも…。
それに当のドラゴンだって正体を明かされたくないからこうやって私たちがいくら探ってもはぐらかしているわけで…。
何て言おうか悩んでいるとサードが、
「用事があって探している人物がいるのですが、その者の特徴がソードリア国ファインゼブルク州にいる青い髪に黄色い目を持つ人物で旅をしている者だということしか分からないのです。ですからあなた方の誰かなのではと思うのですが…」
とものすごく具体的に伝えながらブルーレンジャーをぐるりと見て反応を伺う。それでも当の五人組は、へえ、と驚いた顔をしている。
「何で勇者御一行が私たちの誰かに用事があったの?」
「けどこのパーティ全員青い髪の毛に黄色い目だからな」
「名前などは聞いていないのですか?」
とそれぞれが言いたいことを言って質問してくる。
誰もかれもが不思議そうな顔つき。もしこれで演技しているんだとしたらサード並みに嘘をつくのが上手ってことだけど…。
「名前も性別も分からないの。とりあえず探している人の特徴はサードが今言ったものだけで」
「なるほど…」
ミレイダが神妙な顔で頷くと、ワブラックがおいおい、と言いながら皆の顔を見る。
「勇者御一行が用があるってはるばる来てくれたんだから、誰か知らねえけど名乗り出ろよ」
「いえ、自分だと名乗り出ることもないでしょう。これほどまでに話していても知らないふりをしていらっしゃるのです、きっと探し当てられるのは迷惑だと思っているのかもしれません」
ブルーレンジャーの全員はお互いに顔を見合わせたけれど、それでもそんな嘘をつくような奴らじゃないしな、とばかりに全員がまた私たちを見る。
するとアサフは顔を輝かせた。
「それならいいことを思いついた!」
* * *
「…」
私は黙って麦畑の端で山の向こうを見ている。
アサフは「いいことを思いついた!」と言ったあとに続けた。
「勇者御一行の探している人物がこのパーティ内の誰かだというのなら、それが誰か分かるまで共に居るつもりなのだろう?」
サードもそうなりますねと頷いたら、
「それなら我々に出された依頼を少し手伝ってもらえないだろうか」
と言い出した。
まさか畑の収穫手伝いを…!?と思っているとアサフは指を動かして、ミレイダもさも執事ですとばかりの動きで荷物入れから依頼の紙を取り出した。
「これはモンスター絡みの依頼なんだが、今年は豊作で収穫手伝いの依頼があちこちから来ていてね。今の時期モンスター討伐依頼まで手が回らないんだ」
ミレイダがサードに依頼の紙を渡すのを確認するとアサフは続けて、
「それは僕たちに依頼されたものだがね。勇者御一行がやるとなれば依頼者も文句も言わないだろう。その探し人とやらが分かるまで代わりにやってくれないか。もちろん報酬はそちらのものにしてもいい」
ちゃっかりアサフは私たちを使おうとした。
でもまあ、確かに畑でせっせと収穫しているアサフをたちを近くで黙ってみているよりだったら何かしていた方が断然いいし、お金も入るに越したことはない。そういうことでサードも了承した。
依頼内容は簡単なもので、今はこの時期限定でやってくるモンスターの討伐。
それというのが…。
「エリー、来た!」
アレンの言葉に私は杖を構えて空気を震わせ風を起こす。
かまいたちのような風は上空を飛んでいる鳥型モンスターに当たって、鳥型モンスターはゲエ、と叫んで落ちてくる。
遠くから見ると小さい気もするけど、近くで見たら私の身長を軽く超えるぐらいの大きさのモンスター。
これは毎年収穫時期の麦を狙って食べにくるモンスターで、一匹やって来たのを放っておけば一時間足らずで仲間の鳥型モンスターが集団で麦畑を覆いつくして穂を全て食べつくしてしまうんだって。
だから一匹きたらやっつけて、また一匹やってきたらやっつけて…。
その鳥型モンスターも私の魔法で一発で倒せるからものすごく簡単な仕事だけど、麦畑辺りからろくに離れられない。
そして私の魔法でやっつけた鳥型モンスターはさっきからその辺を通り過ぎる人たちが畑の収穫物に交えて荷車に乗せて去っていく。
多分、夜の食卓に上がるんだと思う。
アサフを助けるために土の壁で捕らえたあの四つ足のモンスター…この辺によく現れる巨大化したイノシシ型モンスターだったんだけど、あのモンスターの肉もあの名主の家の夕ご飯に上がっていたもの。
どうやらこの地の人たちは獣型モンスターはごく普通に食材として見ているみたいね。…まあ、美味しかったけど…。
「なんていうか…随分のんびりした仕事だなぁ」
アレンはそう言いながら麦畑に近づいてくるスライムを杖で、えいえい、とつついて遠ざけた。
アレン
「えいえい、怒った?」
スライム
「怒ってないよ」
アレン
「えいえい、怒った?」
スライム
「怒ってないよ」
アレン
「つーか来ないでぇ!プルプルしてんの気持ち悪くてダメなんだよ俺ー!えいえい!」
スライム
「へへ…ええやんなあ…なあ、ええやんなあ…?」(ピタァ)
アレン
「やだぁー!」




