誰がドラゴン?
この回だけ推理小説の犯人捜しの気分が味わえます。
ブルーレンジャーのこの五人は、今この町の名主の家で厄介になりながら実りの秋の収穫を手伝いしているみたい。
「これからもっと忙しくなるぞ!これなんてまだまだ!」
アッハッハッと笑いながらアサフは今日収穫したゴボウやらニンジンやらジャガイモやらを荷車に山ほど乗せて運んでいる。
だけど…、とブルーレンジャーの五人をチラと見る。
誰がドラゴンなのかしら。
ドラゴンの情報は青い髪の毛に黄色の目だってことしか分からない。でもこの五人は全員が青い髪の毛で黄色い目なんだもの、誰がドラゴンなのかさっぱり分からないわ。
多分この五人のうちの誰かがドラゴンのはずなのだけれど…。
「皆さんはいつからパーティを組み始めたのですか?」
サードが声をかける。ドラゴンが誰か探ろうとしているわね。
するとミレイダという初老の男性が振り向いて、
「結成して三年ほどだったはずです。…でしたっけ?坊ちゃん」
とアサフに話しかけると、
「そうだな、僕が十五歳から始めて今が十八だから三年だな」
とアサフは愉快そうに答えながら続けた。
「先ほど自己紹介した通り、僕は王家の三男坊で跡を継ぐこともないし城にいてやることも無いから陰から国王である父や次期国王である兄達を支えようと思ってね!いやぁ毎日が楽しいな、冒険者というのは!」
アサフはキラキラした目で宙を見上げている。
でも口には出さないけど突っ込んでいいかしら。今あなたたちがやっているのは冒険者のやることじゃないって…。
「しかし全員が青い髪の毛に黄色い目だとは…」
ガウリスがそう言うとアサフはフフフと笑いながら、
「お揃いだ。いいだろう。仲間を探している時に『よし、この者たちを仲間にしよう』と気に入った者たちを集めたら偶然にも全員が同じ色合いでな」
それであんなノリノリのポーズを決めながらの自己紹介と、冒険者らしくない仕事にも付き合ってくれる人がいて良かったわね、本当…。
「ちなみに皆さん魔法などはお使いになられるのですか?」
サードが質問すると、ワブラックという坊主頭の武道家が大きく頷いた。
「皆使えるぜ!ジャークはもちろん、俺とミレイダは身体能力向上魔法、アサフとナタリカの得物は剣と弓だが簡単な詠唱魔法もできる!」
「なら全員が強力な魔法が使えると…」
「強力な魔法を使えるのは私ですね。皆それなり程度の魔法しか使えません」
クイッと眼鏡を上げながらジャークという魔導士が自慢げに笑って、私の隣に並んだ。
「しかし勇者御一行の魔導士であるエリーさんはそれはお強い魔法を使うとお聞きしました…」
どこか憧れの目をジャークは私に向けて、
「しかも噂以上にお美しい…ああ…あなたは天から地上に迷い込んできた天使か」
とウットリした顔で言ってくる。
「…」
けなされるよりだったら褒められた方がもちろん嬉しい。…でもこういうこと言われると、かなり対応に困るのよね…。ありがとうって軽く返すのも何か変な気がするし、困るからやめてとも言えないし…。
曖昧に微笑んでいるとサードが軽く笑った。
「おやそれはエリーを口説いているのですか?」
ジャークはクイと眼鏡を上げるといとも真面目な顔で、
「綺麗な女性を見たら声をかけないと失礼でしょう」
と返す。アレンはその言葉に反応した。
「もしかして…ジャークってシュッツランドのランジ町出身?」
「いえ、出身はこのソードリア国です。その後冒険者になるまでは親の都合でシュッツランド国のロレッタ町に移って暮らしていましたが」
その言葉にアレンはパッと顔を輝かせる。
「え!ロレッタ町?ランジ町の近くじゃん、俺ランジ町出身なんだよ!」
「なんと…!」
お互いにもう一度握手して、お互いどの辺に住んでたのかって盛り上がり始めたわ。
「それなら他の皆もこの国出身だけど国外に出ていたりしたの?」
聞くとナタリカという弓使いの女性が頷く。
「そうそう。私は数百年ぐらいソードリアの外を旅してて、最近戻ってきたとこ」
「!?」
数百年…!?ってことはもしかして、ドラゴンはナタリカ…!
私たちの驚く反応を見たナタリカは、ああ、と体を私たちに向けて両方の耳を指さす。
「耳はとんがってないけどエルフなの私。突然変異なのか知らないけど生まれたころから人と同じ耳の形してるのよ。今は…えーと…何歳だったかな、多分数百歳ぐらい?」
「ナタリカはいつも数百年と誤魔化すばかりで実年齢は一切教えてくれない!」
「長生きだから覚えらんないのよ」
アサフの言葉にナタリカは、もう、と言い返す。
「俺も生まれはここよりもっと田舎だが、冒険者になって色んな国を放浪しててよ。たまには実家に顔を見せようと戻ってきたところをアサフにどうしても仲間になって欲しいって言われて仲間になったんだ」
武道家のワブラックは親指で自分を指し示しながら歯を見せて笑う。
「私も本当は旅をしていたんですけどねぇ。坊ちゃんがどうしても仲間になれとそれはしつこくて…」
え?と疑問を持ってミレイダに質問する。
「あなた、アサフに仕える人なのに旅をしていたの?」
するとミレイダは「いいえ?」と首を横に振る。
「私は元々一人で各国の山を登るのを趣味としていた山男です、冒険者でもなんでもなく。それでこの国の山に登りに来たら坊ちゃんに見つかって…はぁ、たまには山に登ってゆっくり過ごしたい…」
それならミレイダはアサフ王子に仕える執事や使用人って立場でも何でもない赤の他人なの。だったらどうして…、
「…アサフのことを坊ちゃんって言ってるの?」
そう聞くと、ミレイダはコソッと私に顔を寄せて小声でささやいた。
「王族の使用人という体を見せておけば、おじ様おじ様と女性ウケがとてもいいんです」
「最低でしょ、この男」
ナタリカがアハハ、と笑いながらミレイダの背中をバンッと叩いた。
「けどムカつくことに見た目がナイスミドルだから実際に執事っぽくみえるのよね。けどミレイダの本当の性格はゲスいわよ、気をつけなさいよ?エリー」
ナタリカの言葉にミレイダは顔を歪ませて不満げに唇を尖らせる。
「趣味の登山もろくにできないんだからこれくらいの見返りがないとやってられませんよ。全く、ただ山に登りに来ただけなのに何かよく分からん王子だのに付きまとわれたせいで…本当に迷惑極まりない」
ミレイダは心底迷惑そうなトーンでぶつくさと言っているけど、それ…本人の前で言う?
それでも文句を言われているアサフはアッハッハッと大笑いして、
「ああいいなぁ、たまらないなぁ。ミレイダのそういうところが僕は好きなんだよ」
ミレイダは顔を歪ませて一歩引くと、
「…私は坊ちゃんのこと好きでもないですけどね」
と迷惑そうに言うけど、
「そういうところがいいんだよ」
アサフはとにかく愉快そうに笑っていた。
* * *
「う、うわああ!ブルーレンジャーと勇者御一行が一緒にぃい!ピャアアアア!」
ブルーレンジャーが今お世話になっている名主の家の近くまでたどり着くと、名主の人は私たちの姿をみてものすごく大興奮して、皆泊まれるくらいの部屋数もあるからぜひ家に泊まって行ってくれと促された。
そうは言われても、もう少し向こうの町で今日は宿泊する予定なんだけど…と思っているとサードは、
「それならお言葉に甘えて」
とあっさり宿泊先を変えた。
…理由は分かるわ。無料で食事が出て寝泊まりできるからよ。
そうしたらブルーレンジャーどころか勇者一行もいるって話はすぐに広まったのか、話を聞きつけた近所の人たちがワラワラと集まってきて、
「これ夕飯にどうぞ」
と色んな野菜に食べ物、お酒を持ってきた。すると名主のおじさんはやってくる人たち全員に、
「どうせなら一緒に夕飯を食っていけ」
と誘いだすと訪れる人はどんどんと増えて、家に収まりきらず外でも飲み食いする人があふれて、最終的に何かのお祭りみたいな盛り上がりになってしまって…。
私は途中で眠くなってきたからその騒ぎから抜け出してさっさと眠りについたけれど、寝る間際になっても外からは楽しそうに話している人たちの声が聞こえていた。
むしろ朝になってカーテンを開けるとまだ外でお酒を飲んで食事をしている人たちがいて、
「まだ飲んでいたの!?」
と朝からビックリしてしまったわ、その中にアレンとガウリスも交じっていたから少し呆れたけれど…。
「今のところ、誰がドラゴンだと思う?」
朝食が済んでから私たちは一室に集まって、あの五人のうちの誰がドラゴンなのかという話をし始めた。
まあ、アレンは朝まで盛り上がってお酒を飲んでいたせいで二日酔いに苦しんでいるけれど。
「とりあえずアサフさんではないと思います」
アレンとは対照的にケロッとした顔のガウリスがまず一言。それはサードもだろうな、と返す。
昨日集まった近所の人たちの話を聞いて、アサフは確かにこのソードリア国第三王子なのは確かみたい。
第一王子は父の後を継ぐために色々と学んでいる最中、第二王子は大臣として将来を有望視されている。
だけどアサフはあの通りいつもフリーダムで「お前は国の内政には向かない」って父の国王から大臣たちも集まる前で宣告されたんだって。
国王としてはその言葉を機に考えを改めて内政のことを学んでほしかったんだと思うし、普通だったらショックを受けるものでしょうに、フリーダムなアサフはどこまでもフリーダムだったみたい。
「内政に向かない…?なら僕は城には不要、つまり自由!自由だあああ!」
とアサフは自分に良いように解釈すると勝手に城を飛び出して、勝手に冒険者の資格を手に入れて、勝手に仲間を集って現在に至っているって。
国王もアサフの突飛な行動に驚いてお城に引き戻そうとしていたらしいけれど、アサフが冒険者になって各地を回るようになってから国の支持率は各段にアップして、モンスターに犯罪の被害はゆるやかに減少しているからひとまず放っておいているみたい。
国外に出る気配はないしパーティ自体がとにかく目立つからどこに居るかすぐ把握できるからって。
「つーかガウリス俺より飲んでたのに何でそんな平気なんだよ…」
アレンが青い顔で頭を押さえながらガウリスを見る。するとサードは鼻で笑った。
「蛇とか龍ってのは酒飲みなんだよ。ウワバミってな」
そこまで言うとサードはふと顔つきを改めてガウリスを見た。
「あのブルーレンジャーの中でガウリスと同等に酒を飲めるやつはいたか?」
「それが…全員朝まで元気に飲んでいました。それも朝日が昇るのを見て何て綺麗なんだと感動してからそのまま農作業に出かけていて…」
「…」
徹夜明けで朝日が昇るころからまた農作業…?信じられない…。ブルーレンジャーの体力どうなってるの…。
「それでも先ほどお湯を浴びて眠るとアサフさんが言いながら戻ってきていました」
「…」
普通に夜に眠ればよかったんじゃ…。
そう思いながらも私も口を開く。
「私も昨日ブルーレンジャーの全員に聞いてみたのよ、ドラゴンに会ったことある?って」
リンデルス神がドラゴンになるべく動かないように言っておくって言っていたんだもの。
それらしい質問をすれば大っぴらにじゃなくても、こっそりと自分がドラゴンだって正体を明かしてくれるはずだって思って質問した。
それでも、と私はブルーレンジャーたちの言葉を思い返しながら皆に伝えていく。
アサフ
「ドラゴン?お目にかかったことはないな。この国にドラゴンはいないしな」
ミレイダ
「ドラゴンらしきいびきを聞いたことありますよ。山の中腹のどこかから獣の唸る声みたいなのが聞こえてきましてね。そりゃあすぐ下山しましたよ」
ワブラック
「ドラゴン?ないない!けど会ったなら一発拳を交えたいところだな!…え、死ぬぞって?いや、やってみねえと分かんねえから!」
ナタリカ
「ドラゴンっぽい唸り声なら洞窟の奥で聞いたことあるよ。すぐ逃げたけど、死にたくないし」
ジャーク
「ドラゴンの卵らしきものなら見たことがありますよ。親がいつ戻ってくるか分からないからすぐにその場を立ち去りましたが」
私はそこで一旦口を閉じて、ため息交じりに続ける。
「どうやら自分がドラゴンって明かすつもりは無いみたいね」
「俺も探ったが、怪しいのはナタリカじゃねえかって思ってる」
皆が一斉にサードを見て言葉の続きを待った。
「話した限り確かにナタリカは百年以上生きている。前魔王時代のことも昨日のことみてえにべらべらと喋ってたしな。それに俺の聖剣の元の持ち主の勇者のことも懐かしい昔話みてえに喋っててよ。…それが本当だとしたらナタリカは六千年は生きてることになるぞ」
…自分は数百歳ってナタリカは言っていたけれど、サバをよんでいたのかしら…。正直あまり意味がない気がする。
「俺は…ジャークが怪しい気がするんだよな」
アレンが青い顔のまま身を乗り出して言う。私は、そうかしら、と首を傾げた。
「あの人はそんなにドラゴンっぽくないし怪しくなさそうだけど。視力もすごく悪いみたいでワブラックに眼鏡を取られて眼鏡眼鏡ってへっぴり腰で探し回っていたし、昨日の夜だってトイレに行くとき暗闇が怖いからってミレイダに頼んでついてってもらっていたのよ?それに初めて会った時も他の人より走った後がすごく辛そうだったもの、違うと思う」
「けどシュッツランドのロレッタ町にはドラゴン伝説あるんだよ。昔、ドラゴンが卵を運んでる途中で取り落としたみたいでさ。その衝撃でドラゴンが産まれて、弱ってるドラゴンの赤ん坊を人が育てたって話。
普通より早めに生まれたせいか視力もあんまりよくなくて、人と同じ昼に起きて夜に寝る生活を送ってたから洞窟の奥に居るはずのドラゴンなのに暗闇を怖がるようになったとか…」
それはもろにジャークに当てはまっているじゃないの。
サードも軽く頷いて、聞き返した。
「そのドラゴンの見た目は、攻撃方法は、特性は、最終的にどうなった」
アレンは気持ち悪そうに、うう…、とうめきながら続けた。
「そのドラゴンは青い鱗に覆われてるトカゲみたいな見かけで、空も飛べた。成長はゆっくりで雑食性。人に慣れてたから人に攻撃はしなかったみたいだけど、飼い主の家に入ってきた泥棒には火を吹いて追い払った。
飼い主の人間が爺さんになって寿命で亡くなってからそのドラゴンは当時の王家が引き取ろうとしたけど、ヴェルッツェ国との戦いで利用されるだろうって思った飼い主の家族がドラゴンにここから離れろって言い含めて、そのドラゴンもどこかに去っていったって。
今はそこにドラゴンが暮らしてたって記念碑と、その家の当時が再現された記念館建ってるよ」
「それってどれくらい昔の話なの?」
聞くとアレンは、
「六百年くらい昔かな。ドラゴンにしては割と最近の話みたいだぜ」
と答えて、気持ち悪そうにお腹をさすりながら、
「それに俺ん家はファミリーの隣だって言ったら、リツィーニがボスのだろってジャークが言ったんだけどさ、リツィーニってラニアの爺さんの名前なんだよ。
あの若さで二代前のボスの名前知ってるって変じゃねえ?俺は歴代のボスの肖像画を端からミヨちゃんに説明されてるから全員知ってたけど」
「…それじゃあ、ジャークが…」
ドラゴンなのねとエリーが言おうとすると「しかし」とガウリスが口を開く。
「ミレイダさんも怪しいような気がするのです」
ガウリスはミレイダと話している最中にサンシラ国出身だって話したら、
「ああ!カームァービ山!私登れるところまで登りましたよ!あの神官以外立ち入り禁止の区域まで!」
と顔を輝かせて、そこからカームァービ山、その尾根沿いのアップダウンの激しいガレ場、そのガレ場を抜けた先にある楽園みたいな綺麗さのシノベア高原などの話で盛り上がったみたい。
確かにミレイダは色々な山を単独突破し続けていた登山が好きな人らしくて、色んな山での話を嬉しそうに話していたって。
その流れでシノベア高原にはいかないで途中の道からガワファイ国のウィーリに行ったって話をするとミレイダは、
「そういやそのウィーリに三人組の可愛い精霊の女の子たちが営んでる仕立屋があるんですよ、さっきから思ってたんですけどその服、そこのじゃないですか?」
って聞いてきたんだって。
エローラたちはドラゴンのことをお得意さんだって言っていた。だからガウリスもハッとして、
「行ったことがあるのですか」
と聞くとミレイダはあっさり頷きながら、
「ありますよ。シノベア高原の辺りに住んでるハルピュイアと仲良くなって案内してもらって、山登りにいい服作ってもらいましたよ。三回くらい行って作ってもらったかな。
防寒の長袖の下シャツとズボン、あとはアノラック…。値段は張るがいいもんでねぇ。一回足滑らせて崖から滑落して頭打ったんですが青あざとたんこぶしかできなかったんですよ。普通頭吹き飛んでるところだったんですけどね」
そうなるとミレイダがドラゴンって思えてくるけど…。
私はガウリスを見ながら口を開いた。
「実はワブラックもエローラ仕立て店に何度か行ってるのよ…」
皆が私に視線を向けてくる。
「皆にドラゴン見たことある?って聞いても答えてくれないから質問を変えて妖精とか精霊はみたことある?って聞いてみたの。ザ・パーティの編集長のマロイドは二十年以上冒険をしていてもそういう存在に会ったことは無いって言ってたじゃない?
だったら精霊を見た、会ったって言うなら普通の人とは少し違うんじゃないかなって思って」
「そんなドラゴンかって聞かれて誤魔化した後にそんな質問されたら警戒して嘘つくに決まってんだろ」
サードがボソリと悪態をついてきてイラッとして睨みつけた。
しょうがないじゃない、その時は良い考えだって思ったんだから。
ともかくブルーレンジャーの返答はこんな感じ。
アサフ
「ないない!まあ見たことはないがそういう存在はその辺にはいるんだろう?」
ミレイダ
「ありますよ。夜空に急に眩しい光が現れて、すごいスピードで飛び去って…え、それ精霊じゃなさそう?いや確かにあれは精霊です、本当です、私は見たんです!」
ナタリカ
「そりゃあエルフだもん。そういう存在とは結構会って話してるよ」
ジャーク
「妖精と言えば、熱を上げた時に妖精が見えるという話があるんですけど、見たことありますか?…私?いえ私は妖精も精霊も見たことないです」
と続いてワブラック。
ワブラック
「あるある!ガワファイ国のウィーリに精霊の営んでる仕立屋があってな、妖精の案内で…ああ、その時成り行きで迷子の妖精を助けててな!その縁でちょくちょく行ってたぞ。その妖精も家が見つかったから俺もたまには実家に帰るかって帰ってきて。
ん?ああ、これがその仕立屋で作ってもらった上着にランニングシャツにズボンに靴下…そこに五回は行ってるな。あそこは質はいいのに安く仕上げてくれるからひいきにしてるんだ!」
ワブラックの言葉を皆に伝え終わってから一呼吸おいて、
「…っていう風に言っていたの」
と締めくくる。
全員が何とも言えない顔つきで黙り込んでいる。もちろん私だって黙り込んで皆の顔を見回している。
「なんか…アサフ以外全員怪しいんじゃん…」
アレンがそう言いながらソファーに辛そうに頭をもたれてズルズルと滑り落ち、私はサードを見た。
「でもサードはナタリカが怪しいと思っているのよね?」
サードは妙な所で勘が鋭いし頭が回る。だったらやっぱりナタリカがドラゴンじゃないのかしら。
「…昨日話した時点ではナタリカが怪しいと思ったけどな…」
サードは黙り込んで色々と考え込んでいる顔になる。今の全員の話を聞く限り、全員が怪しいって振出しに戻っちゃったのかも。
アノラック…防寒に優れたフード付きの雨具。
UFO見たことはありませんが、ある晴れた日、白濁した半透明な四角い何かが空をウヨンウヨンうねりながら真横に移動しているのを見たことがあります。
その話を一度したら「それ風で飛ばされたビニール袋だろ」ってその場の全員に馬鹿にされ笑われましたが、上空で風に煽られているビニール袋の動きじゃなかったんですよね。長方形の長い部分をウネウネ動かしながら真横にゆっくり一直線に移動して、あとは屋根で見えなくなったんですよね。母も見ていたんですよね。
でも初っ端から否定して笑う人たちにそれ以上熱弁する気にもならなかったのであとは黙っときました。あれ何だったんだろう。




