五人あわせて…
ファインゼブルク州へとたどり着いた今日。
とにかくドラゴンが仲間になっているパーティは有名なんだからその辺の人に聞けば分かるはずと、アレンは畑で仕事をしているおじさんに話を聞いた。
「ああ、あの五人?そういやドヌング町辺りにいるみたいな話を聞いたな。そろそろ農作物の収穫で忙しくなるからその手伝いで」
…農作物の、収穫?
「ええと…モンスターの討伐じゃなくて、畑のお仕事を…?」
困惑しながら質問するとおじさんはあっけらかんと、
「困ってるってハロワで依頼すれば何でもやってくれるよ。俺も夏に腰を痛めて雑草むしりと水やりが出来ないから困って畑の面倒を頼んだら炎天下の中すっかり綺麗にやってくれてね。見てくれ、これがその畑だ」
農作物がたくさん生えている畑をおじさんに自慢げに見せられて、どれだけ綺麗に雑草をむしってくれたかということをひたすら教えられた。
「気さくなドラゴンなのかしら…」
おじさんと別れてから私はぽつりと呟く。
ドラゴンが人間の姿で旅をしているってだけでも驚きで、人と一緒にモンスターを倒す冒険者になっているのにも衝撃を受けたのに、畑への水やりに雑草むしりまでやっているなんて…。
「ドラゴンが仲間になっていると他のメンバーの方は気づいておられるのでしょうか」
「気づいてるんじゃねえの?だってずっと一緒にいるんだろ?」
ガウリスの言葉にアレンが返す。するとサードは振り向いて、
「どうせ人間だって嘘ついてパーティに紛れ込んでんだろ、全員ソードリア国出身の奴らだって話だが、この国にドラゴンの伝説も何もねえじゃねえか。本当のこと言ったら剣を向けられるか逃げられるかって分かってんだ」
そう、そのパーティ全員がこのソードリア国出身だってのを聞いたサードは、もしかしたらこの国に伝わるドラゴンの話を調べたら名前に性別、どんな性格なのか分かるんじゃないかって調べたんだって。
でもこの国にはドラゴンが居たって伝説に話は一切なかったみたい。
そんな話をしながら黙々と私たちは歩き続ける。
この辺は広い畑がどこまでも広がっていて、その所々に点々と木造の家や高い木が生えているって感じ。
牧歌的。その言葉が良く似合う風景だわ。
私の住んでいたスイン地区はもう少し森と丘が多いけれど、大体はこんな農村だったからみていて落ち着く。もちろん畑の広さに規模はこっちの方が断然凄いけど。
そろそろエルボ国の麦畑も収穫できる季節になったころかしら。エルボ国に居た時は麦もまだまだこれからって感じだったけれど…。
広大な畑と畑の間にある一本道をひたすら歩いていく。どこまでもの一本道、遠くに見える高い木と家にどんどん近づいて通り過ぎて、小川にかかっている小さい橋を渡って、遠くに見える高い木と家にどんどん近づいて通り過ぎて…。
「ところでドヌング町ってまだ?」
ひたすら同じ風景が続く果ての見えない一本道を歩いていて段々と疲れてきて思わず口調が文句っぽくなる。
「もう入ってるよ。さっきの小川の辺りからドヌング町」
アレンが振り返りながらそのような話をしながら教えてくれた。
町…っていうには地平線の先まで畑なんだけど…それでも町なの、ここ。
そう思いながら歩いていると、広大な畑の中を何かが歩いていて立ち止まっている。
あまりにも周りが同じような畑だらけで見るものが少ないから、畑の中でかすかに動いている何かに目を向けてじっと眺める。
遠くて手のひらサイズにしか見えないけれど、シルエット的に野生動物かしら。畑を漁っている…?
するとその畑の中にいる野生動物に向かって点にしか見えないシルエットがダッシュで駆けているのが見える。
目を凝らしてみると…ダッシュで走ってるのって、人かしら。…ん?あれが人だとしたら、あの野生動物やけに大きくない?
更に目を凝らして成り行きを見守っていると、野生動物はダッシュで駆けよる人に気づいた素振りを見せて、人らしき点に向かって走っていく。そして駆け寄っていた人は野生動物から離れて…。
…もしかしてあれって野生動物じゃなくて…!
「あそこ、人がモンスターに襲われてる!」
私の言葉に全員が私の指さす方向に顔を向けた。アレンは、
「遠っ!一キロは離れてるぞこれ!つーかエリーよく見つけたな!?」
と駆けだす。
するとサードは私に顔を向けて、
「お前の魔法でどうにかできるんじゃねえの?」
と言い出すとアレンは立ち止まって私を見た。
「で、でもこんなに離れた状態で…!畑だって私の魔法でどうなるか分からないし…!」
それでもそんなことを言っている間にも人がモンスターに追われている…!こうなれば人の命の方が大事だわ、ここの畑の人、魔法でとんでもないことになるかも、ごめんなさい…!
魔法を発動した。とりあえずあの一部だけでことを収めたい。だったらあのモンスターを土で閉じ込めて動けなくする…!
遠くの地面が高く盛り上がって人を追うモンスターを土の壁で覆った。
とにかくモンスターが暴れて逃げ出さないように、きつくきつく土を固めていく感じで…!
しばらく土の塊はモゴモゴ動いているように見えたけど、私が力を発動し続けていたら段々と動かなくなる。
モンスターから逃げていた人は後ろでの出来事に気づいて立ち止まる。何が起きたのかさっぱり理解できないみたい、その場で立ち尽くしているわ。
「大丈夫ー!?」
アレンが声をかける。アレンは小声でも普通の会話程度の声の大きさだから、大声で叫ぶとかなり遠くにまで声は響く。それに風はこっちから向こうに吹いているから、風に乗って向こうのまでアレンの声もしっかり届いたみたい。
向こうの人はアレンの声に気づいてキョロキョロしていたけれど、アレンの目立つ赤毛でこっちに人が居るって気づいてこちらに向かって何か叫んでいる。
でもあまりに遠すぎて何か言ってるくらいしか分からない。
「こっちは大丈夫、ありがとうだってよ」
でもサードはかなり離れた所の声も聞こえるから聞き取れたっぽいわ。
するとサードは「ん」と一声だした。
「どうかしましたか?」
ガウリスの問いかけにすぐ答えないでジッと畑にいる人を見てからサードは私たちを見た。
「あいつ、頭青いぞ」
* * *
「いやぁ、すまないすまない。剣を持って飛び出して来て、いざ戦おうとしたら手に握られていたのがゴボウだったんだよ。死ぬかと思った」
アッハッハッハッと笑いながら、セミロングの流れる青い髪の毛に黄色い目の男性が細長いゴボウを振り回しながら笑っている。
見た目の年の頃は私と同じくらいじゃないかしら。服装は冒険者というよりいかにも農作業をやっていましたって格好だわ。動きやすいジーンズ、長袖の上着に軍手に麦わら帽子、首にはタオル…。
そしてこの人こそが、私たちが探しているドラゴン…。
私たちはジロジロと目の前の男性を見ていると、その男性もジロジロと私たちを見てきて、ゴボウをもう片手にポンポンと当てながら小首をかしげた。
「…もしかして勇者御一行では…?」
「世間的にはそう言われています」
サードはそう言いながら身を乗り出して、
「失礼ながらお聞きしますが、あなたはドラ…」
と言いかけると、その男性の後ろから、
「坊ちゃん、坊ちゃーん!それはゴボウです、こっちが剣です!」
と言いながら人が駆けて来て、サードは口をつぐんで「ん!?」と表情を変えて、私たちもそちらを見てギョッとなった。
駆けてきたその人は青い髪の毛に黄色い目の初老の男性。
初老の男性は目の前の男性に駆け足で寄ってきて、
「馬鹿ですか坊ちゃん」
と言いながら細身の剣を坊ちゃんと呼ばれた男性に渡す。坊ちゃんと呼ばれた男性は剣を受け取りながら初老の男性にゴボウを渡して、
「面と向かって馬鹿というな。せめて陰で言え」
と笑った。
すると後ろからバラバラと人が走ってくるけど…ちょっと、こんなの聞いてない…!
「モンスター!モンスターどこだ!やっつけてやる!」
と叫びながら青い坊主頭、黄色い目の男性が走ってくる。
「ちょっとー、ゴボウ持って死んでるなんて間抜けな死にざましてないでしょうねー」
と言いながら黄色い大きな目に青いロングの髪の毛を揺らしながら弓矢を持った女性が走ってくる。
「ちょ、ま、待って…待って…」
ヒィヒィ言いながら一番後ろから黄色い目に眼鏡をかけた青い髪の毛の男性がほとんど歩いているスピードで杖を持って走ってくる。
「…嘘…」
駆けつけたその場にいる全員が冒険者というより農作業者と言える服装をしていて、そして…青い髪の毛に黄色い目をしている…。
「皆!」
坊ちゃんと呼ばれた男性が全員に顔を向けて、私たちに手を向けてくる。
「光栄なことにこの勇者御一行に僕は助けられたんだ。ほら、生身の勇者御一行だよ」
すると皆は「え、勇者御一行!?」と目を輝かせてワァッと一気に距離を詰めてきた。
「わああ!本物だぁ!」
「勇者御一行だぁ!」
「キャー!あとでサインくださぁい」
「ヒーローだ!正義のヒーローウッ…ヴェホッヴェホッ」
四人だというのにその圧は十人以上の人に取り囲まれているみたいで、思わず引いてしまう。一人走ってヒィヒィ言ったあとにはしゃいだからむせて離脱したけど。
すると坊ちゃんと呼ばれた男性は私たちに向かってシュバッと謎のポーズを決める。
「僕たちはこの国を守っているパーティなんだ。メンバー紹介をしてもよろしいか?」
「うん」
アレンが頷くと坊ちゃんと呼ばれた人はシュババッと更に謎のポーズを決めて、
「これでも僕は王家の三男!跡が継げないのでこの国の平和を陰から守る!ソードリア国王家出身アサフ・メーデ・ソードリア!」
ビシッとポーズを決めると初老の男性がシババッと手を動かし、
「坊ちゃんの命は私が守る!しかしそこまで忠誠心は無い!初老のナイスミドル☆ミレイダ・リード!」
ビシッとポーズを決めると、坊主頭の男性がガガガッと手を動かし、
「熱い心は誰にも負けない!この拳で全てを語る!一撃粉砕、一撃必殺の熱血男ワブラック・ケルガー!」
シュバッとポーズを決めると青い髪の毛の女性が弓をヒュンヒュン振り回し、
「パーティ唯一の紅一点!モンスターどころかあなたのハートも狙い撃ち!ナタリカ・ナタニエル!」
シャッとポーズを決めると、眼鏡をかけた男性は脇腹が痛むのか脇腹を抱えながら、
「このパーティのプレーン役!冷静沈着、冷酷無比!何もかも合理的に考える!ジャーク・ロイド!」
と眼鏡をクイッと上げる。
すると王家の三男だというアサフという男性が、
「五人合わせて!」
と言うと、他の四人が、
「ブルーレンジャー!」
と更にポーズを決めながら声を揃えて叫ぶと、ジャークが手早く呪文を唱え、後ろがドカーンッと爆発する。
爆発で巻き上がった土はバラバラと落ちてきて、細かい土埃はそのままサアァ…と風で流されていく。
今まで見たことのないハキハキとしたポーズを決めながらの自己紹介に、私たちはどう反応すればいいのか全く分からなくて妙な間が空いてしまった。
するとアサフという男性は腰に片手を当てて、もう片手を私たちに差し向けてくる。
「そちらもどうぞ」
えっ、と身を強ばらせて私は両隣に居るアレンとガウリスに目を向ける。
まさか、今みたいなのやらないといけないの?やだ、恥ずかしい…!
アレンは滅多にしないような真剣な顔で手をわさわさ動かしている。何を言おうか、どんなポーズを決めようか考えているのかもしれない。
ガウリスは…困惑の顔でチラチラと私を見下ろしている。
と、サードが一歩前に出てアサフに手を差し出した。
「改めまして、勇者のサードです」
アサフはキョトンとした顔ながらも軍手を取ってサードと握手する。
「我々みたいな自己紹介はないのか?」
「ええ特に必要ないので」
バッサリとサードはぶった切った。
…サードのそういう流されないところ、尊敬するわ…。ああ助かった…。
アレン
「金銭管理にマップを見るのが大得意!コミュニケーション能力バリバリでどこに行くのもお手のもの!あなたの旅行に一人いると大安心!アレン・ダーツ!」(シュバッ)
アレン
「どう?これ」
サード
「勇者一行の要素も武道家の要素もゼロのただのツアーコンダクターじゃねえか」