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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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置いていかないで

お父様たちと屋敷の手入れをして、城下で役立ちそうなものはないか村人たちと森の中を歩いてと毎日忙しくスイン地区を歩き回っている。


それでも私の友達は一切私に会いに来なくて、私もあえて会いに行こうとはしなかった。


多分自分の親が私の髪の毛を引き抜いたせいで会いに来辛いんだと思うし。…私から会いに行こうかなと考えたこともあったけれど、そうなると友達だけじゃなくて必然と親とも会うことになるし…。


ともかくファディアントとばったり城下町で出くわしてから一ヶ月くらいたったころ。馬車が屋敷の前にやってきたと思ったら馬車からサードたちがぞくぞくと降りてきた。


私が外に飛び出すと、お父様にお母様、マリヴァンに使用人も外に出て三人を出迎える。


「エリー!久しぶりー寂しかったぁ!」


アレンは相変わらずの笑顔で腕を広げて駆け寄ってきてヒシッと私に抱きついてくる。


「どうしたの、お城の方は…」


「あちらの方が大体目途がついたので、こちらに来たのです。急に来て迷惑でしたか?」


ガウリスがそう言うから私は「全然!」って首を振りながら微笑んで、サードは…何気に私の頭を撫でているアレンをジッと見ている。

多分お父様たちが居なかったら「エリーの髪の毛触んなゴルアア!」って目をつり上げてアレンに怒鳴ってる所ね。


「久しぶりに会うエリー可愛いなぁ」


そんなサードの視線に気づいていないアレンはひたすら私を可愛がっていて、お母様は微笑みながら、


「あらあら、仲良しねぇ」


と笑っているけれど、お父様はそわそわした感じで私たちの傍をウロウロしだした。


「あのね、娘は嫁入り前なんだよ」

「ん?うん知ってる」


「嫁入り前なんだよ」

「…?うん知ってる」


アレンは私の肩に手を回しながら頷いていて、お父様は落ち着かない表情でその場に佇んでいる。使用人はかすかに後ろを向いて笑っている。


するとマリヴァンがムッとほっぺを膨らませて、アレンの足元までタタッと走ると、


「めー!」


と言いながらアレンの足を必死に押し始めた。


「お?お?なんだ?どうした?」


「フロウディアと仲が良さそうだから取られると思っているんだろう」


そう優しく言いながらお父様はスッと私とアレンの間に立って、アレンはマジかー、と言いながらマリヴァンをひょいと抱えあげた。


「可愛いなぁ、いいなあ弟ってのも。大丈夫、俺は姉ちゃん取らないよー」


おおよしよしといつもの笑顔で頭をなでると、マリヴァンの膨らんだ顔がニパッと笑う。


「ほーら高い高ーい」

「ウヒ」


お父様よりがやるよりもはるかに上に持ちあげられて、マリヴァンは世界が広がったとばかりにのけ反って喜んでいる。


「わー、空飛べそうじゃーん」


アレンはそのままマリヴァンを高く掲げたまま庭を走り出して、マリヴァンは歓声をあげて喜んでいる。


…でもそんな二人を見ているとモヤモヤとした気持ちが湧いてきた。


血のつながった姉の私でさえマリヴァンが心を開いてくれるまで時間がかかったのに…。こんな三十秒程度であんなに心を開かれるだなんて…。

憎い…あんなに可愛い私のマリヴァンの心を一瞬で掴んでしまったアレンが憎い…マリヴァンがもうあんなにアレンに懐いている…憎い…悔しい…。


「…エリーさんどうしました」


ガウリスに声をかけられて、ハッと我に返って首を横に振った。


「う、ううん。なんでもない」


それでもファミリーのボスのラニアに思いを馳せる。


ラニア。あなたがアレンとランテに嫉妬した気持ち…今ならすごくよく分かる。こんなにあっさり大事なものを横からかっさらわれたら、憎い気持ちも芽生えるものよ。


「まず中に入って座ってくれ、お茶を用意させよう」


お父様の言葉に使用人は静かにお茶を入れに先に家に入る。


皆に屋敷の中にどうぞとお父様が促して…私も皆の後ろから屋敷の中に入ろうとすると、お母様が私の腕を掴んで顔を近づける。


「ちなみにフロウディアはあの…アレンよね?アレンといい仲なの?」


「ばっ…」


馬鹿言わないで、と思わず言いそうになってしまって、慌てて口を手でふさぐ。サードと行動するようになってから随分と私の口も悪態をつくようになってしまったものだわ。

…ううん、人のせいにしちゃいけないかも。言葉遣いは結局私が使うものなのだから…。


「じゃあ他の子?サード?ガウリス?」


私はウンザリとした顔で、


「皆とはそういう関係じゃないのよ、仲間だから」


フェニー教会孤児院で夢見る女の子たちに何度も言ったセリフをお母様にも言う。

お母様は、あらつまらない、と言いながら屋敷の中を歩く三人の背中を後ろから見る。


「あの中の誰かだとしたら私は反対じゃないわよ。皆いい人じゃない?強くて優しいなんて普通だったら揃わないものがあの三人には揃ってるもの」


「…だからぁ」


「けどね、これだけは言っておくわ」


お母様が声を静めて真剣な顔をしたから、私も口をつぐんでお母様の顔を見返す。


「ビッときた人を選びなさい」

「…ビッ?」


何それと聞き返すと、お母様はふふん、と腕を組んで、女としての先輩みたいな顔で私を見てくる。


「女は直感よ。一目見てビッときた人を選びなさい。私はそれでスロヴァンと結婚したのよ」


「…」


一目見て、ビッ、ねぇ…。

うーん、よく分からないけれど、それならやっぱりあの三人は対象外だわ。


特にサードとの初対面は最悪だったもの、生きた金塊を手に入れたとか何とか言って…。


…ん?待って?


それって初対面じゃないわ。初対面は牢屋に入れられていた所を表向きの顔で救いに来たあの時だったから。


…思えばあの時は混乱の時で…戦争の音がどんどん近づいて脅えている時にサードが来て…。


「助けに来ました!」


その言葉と共に牢屋の前に現れたのがサードとの初対面。

両親曰くまだポワッとしていた私にはサードが白馬の王子様に見えた。おとぎ話の中のお姫様のピンチに駆け付ける白馬の王子様に。


そういう風に王子様のように感じたせいかサードから目を離せなかった。


そうして私たちを安心させる優雅な微笑みを浮かべ言葉を交わしながらてきぱきと脱出させるために動いているサードと間近で目が合ったわ。


その時のことを今バッと思い出した。


優しく優雅に微笑む顔に似つかわしくない力強い目。

その時私の意識全てが茶色い瞳の奥に吸い込まれたような感覚で、世界の動きが一瞬止まった気がした。何でか分からないけれど、鉄格子越しにでもしがみつきたくて、手に触れたくて…。


…あの時は混乱の状況だったからさっさと牢屋から出てそのまま脱出したけど、冷静に思い返すと、あの時私は一瞬サードに恋していたのかもしれない。

もしかしてあれがお母様の言っているビッだった…?


でもすぐに私はまさか、と鼻で笑って首を横に振る。


それでも脱出後は裏の顔と生きた金塊発言でサードの全てに幻滅したもの。

牢屋で感じたあの気持ちが今サードにあるかと問われれば答えは完全に無い。本当に無い。


そもそもあんな状況、大体の女の人だったら誰でもときめいてしまうわよ。


吊り橋効果ってやつだわ。危険な状況で目の前に助けてくれそうな人がいたら危険なドキドキを好きかもしれないドキドキにすり替えてしまって勘違いしてしまうもの。


私はお母様を見て、ゆっくりと首を横に振った。


「無い。本当に無い、特にサードは一番無い」

「…そこまで言うのは可哀想よ、フロウディア」


「いかがなさいましたか?」


お茶とお菓子をお盆に乗せた使用人が通りかかって、まだ外にいる私たちに声をかけてくる。


「ちょっとね」


と言ってからお母様は「あの子勇者なのにねぇ」と呟きながら私を引き連れ皆の向かった部屋へと歩いて行く。


部屋にはもう全員が座っていて、お父様がサードたちに向かって深々と頭を下げている所だった。


「娘を頼むと言ってから四年もの間、本当に娘を守ってくれていたんだね、ありがとう。感謝している」


それに対してサードも微笑む。


「何を仰いますか。私たちは言われたことを果たしたまでです」


「それにフロウディアの顔つきも随分としっかりしたものになったわ。あのまま育ってたらもっとポヨポヨしてる子になってたかも」


「お母様」


椅子に座りながらそんなこと言わないで、とばかりに拗ねた顔でお母様の腕を掴む。


ふっとサードと目が合った。


さっきのことを思い出すと何となく気まずくて目を逸らすとお父様は続ける。


「しかしあの時の少年が勇者になったなんてなぁ。しかもフロウディアが勇者御一行の一人になっているだなんて…」


「そのことですが」


サードは顔つきを改めてお父様から私に視線を移した。


「今までエリーは我々の仲間として共に行動していました。それは髪を狙われ身の危険にさらされる可能性が高く、強制的にこの国から離れさせるためでした。

しかし今は王家に髪を狙われることもなくなり、仮に狙われても反撃しても良いとサブリナ様から約定を得たのです。ならもう何の不安も無いでしょう。私だって本気のエリー…いえ、フロウディアには敵う気などしませんから」


サードはそう言いながら私に視線を向け続けて、問いかける。


「我々は旅が性に合っているので旅を続けます。それでフロウディア、あなたはどうしますか?」


えっ、とサードの顔を見返した。


それについては前にも言ったじゃない。両親を救い出したあとも旅を続けるって。


私が何か言う前にサードは続ける。


「ここしばらくご両親らと暮らしてきたのです。もしここに残るのを選ぶのならフロウディアをパーティから外し、冒険者カードを返納させたうえで我々は立ち去ります」


「ちょ、ちょっと待ってよ!何でそうやって勝手に決めるの!」


思わず立ち上がってテーブルに手をついて怒鳴った。


「言ったでしょ!私は旅を続けるっ…て…」


怒鳴っている最中にお父様、お母様、使用人が目を見張って私を見ているのに気づいて、途中で(ゆる)やかに口を閉じた。

まるで、そうなの?旅を続けるつもりだったの?って言いそうな目だったから。


思えば今の今までこの先どうするのかって話はしてなかったわ…屋敷の掃除と、城下町で使えそうな、食べられそうなものはないか探すのに夢中で…。


お父様たちも何も聞いてこなかったから、このまま以前と同じように過ごすものと思っていたのかも…。


気まずくなってそっと椅子に座り直す。


「…旅に出るのかい?」


お父様が直球で聞いてきたから私はただ頷いた。

頷いたけどこれじゃあ納得してもらえないと顔を上げて、


「だってこの四年間ずっと旅をしていたのよ。一ヶ所にずっと定住してなかったし、前みたいな貴族の生活に戻ったら何をすればいいのか…」


「ではフロウディアは一ヶ月程度ここにいて苦痛だったと?」


サードに言われて私はそんなことないとブンブンと首を横に振る。


四年も離れていた皆と一緒だったんだもの。苦痛なんて感じるわけない。


するとサードは微笑んだ。


「それならこのままここで過ごしていけるではないですか、フロウディア」


何で?何でエリーじゃなくてフロウディアって呼ぶの?


不安な気持ちがお腹の底からさわさわとせり上がってくる。

フロウディアってサードに呼ばれる度に静かに静かにパーティから外されそうになっている気がする。

それもその笑顔も言葉使いも表向きのものだから余計に距離を置かれている気がして…。


「やめて、フロウディアって呼ばないで」


「あなたの本当の名前はフロウディアでしょう?その名前で旅をしたら不都合が起きるかもしれないからエリー・マイという名前にしていたのです。本来そのように偽名で冒険者カードを作る行為も決して許されるものではありません。今抜けるのが潮時だと思いますが」


「何よそれ!」


ジワッと涙が出てきた。


「私抜きで冒険するつもり!?前にサードは言っていたじゃない、私は攻撃頭だって。そんな攻撃頭の私が抜けたらあなたたち苦労するわよ!」


涙がにじんだらもう涙も言葉も止まらない。


「ゴブリンの出る村でも言ったわよね、女としての、魔導士としての意見もあるって。あの時私の意見もちゃんと聞いてくれるんだって嬉しかったのよ。それでも私をパーティから外すつもりなの!?」


喚く私をサードは静か見て、少し身を乗り出し諭すように、あやすように優しく言う。


「私たちは全員自分から冒険者になると決めました。しかしフロウディアは戦争に巻き込まれ、成り行き上冒険者になったに過ぎません。

あなたはこんなに良い家族に恵まれ、各地を歩き回りモンスターを相手にせずとも何不自由のない暮らしを送れます、どれだけの人がそのような生活に憧れていると思っているのです?」


サードを睨みつけながら零れ落ちる涙をぬぐった。


「そんなに私について来てほしくないわけ」

「あなたを思ってのことです」


「思ってないわよ」

「いいえ私はフロウディアとしての人生を考え言っているのです」


「だからフロウディアって呼ばないで!いつも通りエリーって呼んでよ!」


ダンッと両手の拳をテーブルの上に叩きつけて、もう涙を両手でぬぐいながら、


「サードだって言ったじゃないの。フロウディアとしての人生一度きりなんだから、やりたければやればいいって!私は、フロウディアとしてもエリーとしても冒険を続けたいの!だから冒険は続けるって言ったじゃない!」


「我々はいうなれば平民です。しかしあなたは貴族ではないですか」


「なによ貴族だっていっても地域の顔役だってサードが…」


「そんな陰口を叩く者もいるかもしれませんが貴族なのは変わりありません。平民と貴族では待遇も思考も生き方も違います」


今の言葉はお父様たちに聞かれたらまずいと察したのかサードが私の言葉を遮って、そのまま続ける。


「一人の女性として生きるのなら、ここに残った方が幸せな人生が送れると私は思いますが?」


ムカムカしてきて、やるせない気持ちが湧き上がってきて、涙がどんどん零れ落ちていく。


「何が幸せな人生よ!私の人生なんだから私が決めるわ、私は!旅を続けるの!勇者御一行として!」


立ち上がってサードを上から睨みつけるように言い切ってからハッとしてお父様たちに視線を向けるた。


お父様にお母様は悲しそうな顔をしていて、使用人はわずかに肩を落としている。何で私が怒って泣いているのか理解できてなくてマリヴァンは不安な顔で、今にも私と一緒に泣いてしまいそうな頼りない顔をしている…。


口ごもってその場にたったままでいると、お父様は悲し気にふっと笑った。


「そんなに…悔し泣きして怒るほど置いて行かれるのが嫌なんだね?フロウディア」


その悲しそうな視線に耐えられなくてテーブルに視線を落としたけど、また顔を上げる。


「…ここに居たくないとかじゃないの。けど、私…」


旅をしてきた四年の記憶がバッと蘇ってくる。


最初は全く歩けなかったこと、初恋と失恋、サードが聖剣を手に入れたこと、初めての魔族との対戦、勇者御一行として有名になったこと、魔族も人と変わりないこと、龍姿のガウリス、ロッテ、海、海賊、神様、精霊、性転換、魔界、幽霊、ファミリー、ザ・パーティの人々…。


ここで十四年間過ごしてきたことと、旅をしての四年間、中身が濃いのは旅をした四年間。


旅をしていなかったら未だに私たちがどういう種族なのかちっとも分からなかったし、魔族は人間に害を与えるだけの存在としか思わなくて、神なんて会えもしない存在だった。


「…」


呼吸を整えて、息を吸った。

そしてお父様たちを真っすぐ見据える。


「私はこの世の中のもっと色んなことを見たい、知りたい、三人と一緒に冒険をしたい」


お父様はさっきより悲しそうな顔をしたけれど、無理に微笑む。そのままお母様に視線を移した。お母様もどこか悲しそうな顔をしているけれど、それでも真っすぐに私を見る。


「…そんな状態で、ここに残ってって無理に言っても、フロウディアも…私たちも一生後悔するわね」


立ち上がったお母様は私を思いっきり抱きしめた。


「満足するまでいってらっしゃい。けど手紙は月に一度でも送ってちょうだい、お願いだから」


抱きしめられていて顔の見えないお母様の声は涙で震えていて、胸が締め付けられて、私の目にも涙がにじむ。


やっぱり離れたくない。ここに居たい。


そんな気持ちが瞬間的に浮かんできたけど、それでも目の端に移るサード、アレン、ガウリスの姿を見たらそんな気持ちより冒険が続けられるという嬉しさがもっと浮かんでくる。


私も涙で声を震わせながらお母様に抱きついた。


「ありがとう、大好きよ」


* * *


それから私はセリフィンとセンプさん、それにサブリナ様に勇者御一行としてこの国を離れると別れのお手紙を書いた。


数日後に届いたセリフィンさんとセンプさんから届いた手紙には「お父様たちと離れるのか」って動揺が見て取れた。それでも、


『あなた達なら大丈夫だって思うわ、いってらっしゃい』


とセンプさんは優しく言ってくれて思わず涙がにじんだけれど、セリフィンさんの手紙には、


『フロウディアが自分で決めたことなら後悔はしないはずだ、行ってこい。ただし後から何でもっと強く引き留めてくれなかったとか文句言うなよ』


と締めくくられていて思わず笑っちゃったわ。


サブリナ様からはもう行ってしまうの?と素直に悲しんでいる手紙が届いた。

その文章は堅いけれど内容は年相応の十一歳の女の子そのもので、成人もしていない女の子に去ることを悲しまれるとかなり心が痛んでしまう。


『それでもあなたの人生なのですから無理には引き止められません。寂しいですが息災でお過ごしくださいませ、そしていつかまたお会いできることを心より望んでおります。その時にはもっとこの国を豊かだと、過ごしやすい国だと思えるように尽力いたします』


その手紙の最後には「別れの手紙にぶしつけかと思いますが…」と次に続けられて、手紙を一枚めくると小太りで頭の毛が薄い、ニカニカ笑っている中年のおじさんの絵が現れた。


その絵の下に文字が続いていて、


『もしこの絵に似た道化師をどこかで見かけたら、声をかけて今現在のこの国のことをお伝えいただけたら幸いです。あなたの無事を祈っていますよ エルボ国国王サブリナ・レ・ローナ・エルボ』


…どう見てもその辺に居そうな人だし、この似顔絵に当てはまりそうなおじさんなら至る国で結構見ているような気がするんだけど…。


会ったとしてもサブリナ様の心を助けた道化師だって分かるかしら、無理な気がすると不安を感じながらも、クシャクシャにならないように似顔絵入りのサブリナ様の手紙を荷物入れに入れた。


そしていよいよ屋敷から出発する日。


マリヴァンはとニコニコと小さい手を渡しに振る。


「あしたね」


胸が引き裂かれるほどの痛みが押し寄せた。マリヴァンは明日になれば私が戻ってくるって思っているんだわ。…いつ戻ってくるかなんて分からないのに。


マリヴァン、年の離れた私の可愛い弟。


私はギュッとマリヴァンを抱きしめて、頭を何回もなでて、身を離して肩に手を置く。


「マリヴァン。私は冒険に出るの。明日には帰ってこない、しばらく帰ってこない、いつ帰ってくるかも分からない」


するとマリヴァンは火が付いたようにギャンギャンと泣き喚きだして私のローブを鷲づかみにする。


「い"やぁあああああ!い"やぁあああああ!」


その小さい体のどこからそんな大音声が出るの。


マリヴァンの泣き声はどこまでも響いていって、のけぞりながら私のローブをどこまでも引っ張って屋敷に引き戻そうとしている。


「ダメよ、マリヴァン、私冒険に…」

「い"やぁあああああ!ギャアアアアアアアアア!!ビヤアアアアアアアアアア!!」


もう泣き声を通り越して絶叫になってるじゃない。


らちがあかないと見たお母様な泣くのを我慢している顔で無理やり私からマリヴァンを引き離して、今のうちに行きなさいと目で合図を送ってくる。


「…行ってきます」


私がそう言うと皆泣き笑いの顔で、手を振りながら見送ってくれる。


私は歩き出した。


何度振り返っても皆は手を振り、点になるほどになっても皆はずっと手を振って見送ってくれて、マリヴァンはその間泣き叫びっぱなし。


屋敷も小高い丘に隠れてマリヴァンの声も聞こえなくなったころ、私は前を向いて普通に歩き始めて…サードを睨んだ。


「…よくも私を置いて行こうとしたわね?」


するとサードはどこか優しい目で振り返ってきて、目が合う。


「なに言ってんだ。俺がお前を置いて行くわけねえだろ、エリー」


滅多に私に向けられない優しい目にちょっと胸がドキッとなって、思わず視線を逸らした。


何だか四年前の牢屋での出来事を思い出してから、サードと目が合うと妙に意識するようになっちゃったじゃない…お母様の馬鹿。


チラとサードに目を向けるとまだ同じ目で見られていたから、すぐ視線を逸らす。


「俺が無理に連れて行くって宣言しようがお前が普通に冒険したいって言おうが、大方あの両親は引き止めると思った。だがお前が居なくなってもガキはもう一人いる。それもまだ手のかかる年齢のガキだ」


サードはそう言いながら私の屋敷の方向に目を向けた。


「聞こえるか?あのガキまだ泣いてやがるぜ。あんな手のかかる年齢のガキが一人いやぁ子育てで手いっぱいでお前のこと考えるのもどうせ後回しになるだろ。

それにああやってお前を突き放すようなことを言えば、売り言葉に買い言葉でお前は強く冒険に出るって言うと思ったぜ。あそこまでキッパリ言やぁ人の良いお前の両親のことだ、好きにさせてやろうって思うだろ?」


サードは次第に優しい目つきから裏の表情のニヤニヤ笑いになって私を見た。


「本当ーにお前、俺が考えた通りのことそのまま言ってくれるよなぁ?やっぱりエリーって名前つけたから俺の使い勝手のいい駒になってんだな」


「…!」


さっきの胸の高鳴りを返せとばかりに杖を振り回して魔法を使おうとしたけど、アレンとガウリスに落ちつけと押さえられた。


お母様、やっぱり無い!この男だけは絶対に無い!

ギャン泣きしている子供がいると私は「元気に泣いておるわい」と楽しくなってニヤニヤしてしまうんですが、親は「泣かないでぇ」とヒィヒィしているんでしょうね。

親は大変でしょうが私は楽しい。泣いている子供の耳の穴に指を突っ込んでモショモショ動かすと泣き止む子が多いって、伊藤家の食卓で言ってました。個人差あり。

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