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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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エルボ国の人々と

「エリィ~」


男姿のファジズが私にベタベタと引っ付いてくるのを私は本気で嫌がってその腕から逃げた。


「やめてよ、家の中にお父様とお母様が居るんだから…!」


「え?エリーのご両親が家の中にいるの?それじゃあエリーのいい人ですって挨拶でも…」


「やーめーてー!」


いそいそと屋敷の中に向かおうとするファジズを必死になって止める。


少し前に猛禽類(もうきんるい)の姿になって去って行ったファジズは、気長に待っててという言葉とは裏腹に結構早くに戻ってきた。

どうやら手早く戻ってある程度そう毒についての話を聞いて、すぐにまた戻って来てくれたみたい。


庭の低木くらいまで成長した酷い雑草を魔法で枯らして手入れしている時に凄い羽音がしたと思って振り向いたら、ファジズが立っていたから驚いたわ。

ともかく屋敷に向かおうとするファジズを引き留めるために話しかける。


「それで、ロッテはそう毒のこと何か知ってた?治し方とか」


するとファジズは立ち止まって、首を横に振った。


「そういう名前も、似たような性病も知らないみたい。ロッテが言うにはサードの住んでた世界に元々あった病気と同じか、それと似たような病気が新種として出てきたんじゃない?ですって」


むしろあいつ、別の世界から来たとか初耳で驚いたわよ、ってファジズはぼやくように言う。


「それじゃあ治す方法も分からないのね…」


うつむくように言うとファジズもそう、と頷く。


「魔界の薬草がありゃ一発で治るでしょうけどね。そのうち人間の医者が特効薬でも作るんじゃない?ってロッテも言っていたし、それならそれまで放っておいたら?」


さっくり病気の人々を見捨てることを言うから、私はファジズにすがりついた。


「ロッテならある程度治す薬とか作れるんじゃないの?そう毒にかかった人は十年くらいで死んじゃうのよ、生きるためのお金を得るために自分の身を売って、そんな病気になってしまった女の人もたくさんいるのよ」


ファジズは私にしがみつかれて満更でもないという顔をして微笑んでいたけれど、ちょん、と鼻先を指で突く。


「あのねぇ、仮にエリーがその病気にかかったっていうなら治す薬を探そう、作ろうってロッテも私も本気になるわよ?でも私たちに関わりのない人間の中でどんな病気が流行って死のうが私はどうだっていいし、ロッテも興味ないの」


ファジズはそう言うとかすかに冷たい目で笑う。


「むしろ人がバタバタ死んだ方が楽しいじゃない?」


そんな…とファジズを見上げていると、ファジズはジッと私の顔を見て、ゾクゾクと背筋を揺らす。


「だめ…そんな潤んだ目で見つめないで…色んなことしたくなっちゃう…」


ス…と視線を逸らした。

それでもふとあることを思い出して、ファジズから離れて聞く。


「そういえばロッテにもう一つ聞きたいことがあったの。ファジズが行ってしまってから聞けばよかったって思ってて…」


「ん?」


「冒険の途中で知り合った子なんだけど、その子の家族が黒魔術で呪いをかけられて、家族がバラバラになっている状態なの。だから黒魔術の解除の仕方とか魔族のロッテなら分からないかなって…」


するとファジズは口の前に人差し指を当てて、シッ、と言いながらある方向を見た。ファジズの見る方向を見ると視線の先にセリフィンさんが立っている。


セリフィンさんは(いぶか)し気な顔でズンズンと近寄って来て私とファジズの間に割り入って、私を後ろに追いやる。


「んだてめえ、俺んとこの可愛い子ちゃんに何の用だ?ああ?」


セリフィンさんはガラも悪くファジズに詰め寄る。するとファジズはセリフィンさんを私のお父様と勘違いしたのかモジモジと頬を染めながら、


「初めまして、私エリーと仲良くさせていただいてるファジズよ。エリーとは良い仲で…」


セリフィンさんが私を見下ろしてくるから私は首を大きく横にふりながら、


「他の国で知り合った仲のいい人だけど、そんな仲じゃない!」


って必死に訴えた。セリフィンさんは私の言葉を聞くとファジズに向かってシッシッと追い払うように手を大きく動かす。


「てめえにはやらん!帰れ!今すぐ帰らねえなら古代魔法でぶっ飛ばすぞ!」


「ああん、エリーが私を必要としているのにぃ」


それでもファジズは大人しく身を引いて、私に向かって投げキスする。


「とりあえずロッテに話してみる。今回は屋敷に本が届いてなかったからこうやって早く来れたけど、きっとそろそろ本が届くから次は今回みたいに早く来れないわ。それじゃあね、エリー」


ファジズはそう言うとバラバラと蝙蝠の姿に分裂して、猛禽類の姿に変化すると飛んで行った。その姿を見てセリフィンさんは「うおっ」と驚いて見送る。


「…身の変化…かなり高度な魔術じゃねえか?それも動物に化けて空も軽々と飛べるだと…!?あいつかなり高度な魔術士だな?いや人間に見えたが他種族か…?」


…魔族よ。


そう言わないけれど頷いておく。

するとセリフィンさんは私に向き直って腕を組んで、叱るように私の顔を覗き込んできた。


「だがあの男だけはやめとけ!あれは色恋の遊びをよーく知ってるぜ、どうせお前のことも遊びの範疇(はんちゅう)にしか考えてねえからな!」


「そんなこと…!っていうかそういう仲じゃないし、私だってファジズのことそんな風に見てないわよ!」


ならいいんだ、とばかりに頷くセリフィンさんに、私は聞いた。


「ところで、遊びに来たの?」


「ん、おお。そろそろ落ち着いたころだと思ってな。それとは別にフロウディアにも話がある」


何?と見上げるとセリフィンさんは続けた。


「例の魔法陣の布を持って、勇者御一行全員で俺の元まで来てくれ。すぐにじゃなくていい、だが必ずあの魔法陣の布を持って来い」


「…、分かったわ。でも他の皆はお城で色々とやってるから…」


「そうだよ、どんなことしてスロヴァンたち全員無事に城を出られたんだよ?それにサブリナ王女は本当は熱にやられてなくて監禁されて暴力振るわれてたって聞いてたのがいきなり国王になって、ファディアントらは城から城下町に追放されただろ?何がどうなってそうなったんだよ」


「詳しい話は中でするわ。さあ入って、お父様たちも喜ぶから」


そうやって私たちディーナ家とセリフィンさんは楽しい時間を過ごして、私はその次の日、お城に行ってセリフィンさんが来てほしいと言っていることを伝えた。


そうしたら三人ともまだまだあれこれとやっている最中だったけど、セリフィンさんの名前を出したらすぐに用意を整えて、セリフィンさんのいる大学まで向かう。


少しの間離れていたけれど、三人と会うといつもの通り。

サードは毒を吐いてせせら笑って、アレンは嬉しそうに私の周りをウロチョロして、ガウリスはそんな私たちを見て静かに微笑んでいる。


何でだろう、それだけのことなのに心がホッとする。少し離れていてもいつも通りだって落ち着く。


そうしてセリフィンさんのいる大学に向かって、もう顔の知り合っている大学の門番の兵士に声をかけて部屋に入ると、セリフィンさんは待っていたとばかりに出迎えてくれた。


「座れ、今飲み物と菓子を用意する」


セリフィンさんはご機嫌な足取りでセンプさんが運ぼうとしていたお菓子やらお茶やらを持って行こうとするとセンプさんが、


「あなた、斜めにしたらお茶がこぼれるから真っすぐ持って」


と叱責している。


「昨日センプと一緒に市場に行ってみたら、嗜好品(しこうひん)の茶葉と菓子が出回ってたんだ。前はどこもかしこもスカスカでこういう娯楽的なもんは無かったからな」


「この前はお茶も何も出せなかったから。今回はもてなせて嬉しい」


センプさんもそう言いながら嬉しそうに…しているようには見えない無表情だけれど、雰囲気的には喜んでいるのは何となく伝わる。


皆でお茶を飲んでお菓子も食べて色々と話して…少し落ち着いてからセリフィンさんは改まった口調で背を正した。


「まずは…フロウディアのこと、スロヴァンたちのこと、この国のこと…どうやら国の内部まで関わってるみてえだが、勇者御一行が裏から糸引いてこんなふうにしただなんて気づいてる奴なんていねえだろ」


セリフィンさんはテーブルに頭をぶつけるんじゃないかと思うくらい下げた。


「何にも気づいてねえ他のエルボ国の奴らの代わりに俺が礼を言っておく。本当に、ありがとう。いくら感謝しようが感謝しきれねえ」


サードは表向きの顔で、何を、と笑っている。


「逆に気づかれない方がいいのですよ。私たちは国とは一線を引いた関係を望んでいますが、今回はエリーの生まれ故郷のことで随分深くまで関わってしまいましたから。このことが世間に知られれば少々面倒なことになりそうですので」


セリフィンさんは軽く眉を上げる。


「一国と深く関わりすぎると他の国からのやっかみが面倒くせえってか」


「何のしがらみもなく自由でいたいので」


ハハ、とセリフィンさんは笑って、


「いいねぇ、自由ってその言葉。男だったら憧れる言葉だな」


と後ろに身を引きながら、ふっと隣にいるセンプさんを見た。センプさんはじっとりとした目でセリフィンさんを見ていて、ビク、とセリフィンさんは身を起こしてセンプさんを見ている。


「ど、どうしたセンプ?」


「悪かったわね、私っていうしがらみがついてて自由になれなくて」


セリフィンさんは慌てて、


「ち、違う、俺の言う自由ってそんなんじゃなくて大学の派閥とかチーム同士の(いさか)いとかそんなんで…!ほら俺すぐ頭に血のぼるしこんなにも目立つから対立するやつ多いしさぁ、センプが他の奴らまとめてくれたから俺だってここまでやってこれたわけで…!」


センプさんは冷めた目でセリフィンさんを見ると立ち上がって、


「城下町の無料診療所に行く時間だから」


とカッカッとヒールの音を残しながら背を向けて、セリフィンさんが、


「ちょ、待ってくれ、今の無し、俺の言い分聞いて…センプが居ないと俺死んじゃうよお」


とオロオロと追いかけて一緒に出て行った。


「…サンシラ国とかシュッツランド国とか関係なくどこの国でも女の人の方が強いんだなぁ。普通に考えりゃセリフィンの方が強いのに」


「ありゃ惚れたもんの負けってやつだろ」


オロオロ追いかけていくセリフィンさんの後ろ姿を見送ったアレンの呟きにサードは裏の顔になっておかしそうに笑っている。


少ししてから話し合いでどうにかなったらしくホッとした顔のセリフィンさんが戻って来て、改めてソファーに座った。


「で、だ。あの透明化の魔法陣描かれたハンカチ持ってきてくれたか?」


「ええ」


折りたたんだハンカチを机の上に乗せるとアレンとガウリスも机の上に同じように机の上に乗せていく。


「今回これがあったおかげでとても物事がスムーズに働きました。改めて感謝いたします」


サードの言葉にセリフィンさんは、そうかい、と言いながら三枚のハンカチを手に持つ。


「燃えろ!」


セリフィンさんがそう言った瞬間に三枚のハンカチがボワッと燃え上がる。


「ええ!」


アレンが驚いてボロボロと萎れるように焦げて崩れていくハンカチを見て、セリフィンさんを見た。


「燃やしちゃったの?何で!?」

「もう用済みだろ」


「けど、けど、これからの旅でもなんか使えるかもしれなかったのに…」


もったいないとばかりにアレンは訴えるけれど、セリフィンさんは真っすぐにアレンの目を見返した。


「そりゃ勇者御一行なら悪いことに使わないだろうけどな。これを見た魔導士が同じもの作りだしたらどうなる?」


「…」


「今回は良いことに使ってもらった。だがこれ使って何をするって考えりゃ、俺がセンプにやったみてえに女の覗きから始まって、住宅への侵入、金品の強奪、最悪殺人にも使えるよな?相手からは自分の姿が見えねんだからやりたい放題だ」


セリフィンさんはソファーに深くもたれる。アレンも前に「これを使えば女風呂に入り放題…!?」とか言っていたから、何を言い返すことなく黙って頷いている。


確かに透明化の魔法陣は今回のように良い例で使うよりもそういう悪質な犯罪に使われる可能性の方が高い。

それでもセリフィンさんがあんなに調べて、危険な詠唱呪文を安全な魔法陣に置き換えて…それくらい色々とやっていたものなのに、もったいないって気持ちも捨てられないわ。


そんな表情をしているのをみたセリフィンさんは軽く鼻で笑いながらフロウディア、と私の名前を呼んだ。


「お前の件で世の中には発見しても公表しねえほうがいいもんもあるって分かった。俺が表に出したもんでまた戦争が起きるのはごめんだからな。だからここで証拠隠滅だ。お前らが来る前に透明化の魔法陣を作るためにまとめた文書もまとめて燃やした」


そう…と頷くとサードはボソリと、


「世の中誰かが発見して作り出されたものは再び誰かが作るようになるものですよ」


と水を差すようなことを言う。私はキッと睨むけれど、セリフィンさんは笑った。


「かもな。だが…」


笑いをかすかに収めて、セリフィンさんはサードの裏の顔のみたいな悪どい表情になる。


「やれるもんならやってみろってもんだ。まず古代の魔法、文字、算術に通じてるのが最低条件。詠唱魔法を魔法陣に置き換える算術を理解してるのが第二条件。その古代の数式を現代の数式に当てはめ計算できるってのが第三条件。それを全部理解したうえで一ミリのズレもなく文字と数字、図形を使って魔法陣を正確に描ける技術を持ってるのが第四条件だ。じゃねえと何も発動しねえよ」


つまりあれは俺ほどの考古魔法学の第一人者じゃねえと作れねえもんさ、と自慢げに足を組んでゲラゲラと笑っている。


…ああ、セリフィンさん…。サードほどじゃないけどあなたも結構悪い顔をするわね…。


* * *


セリフィンさんとの話し合いは済んで、皆で大学から外に出た。


「俺ら城に戻るけどエリーは?」


「私は歩いて屋敷に戻るわ。今からなら日が沈むころには着けると思うし」


私はそう言ってアレンたちと別れて屋敷に向かう。貴族時代はスイン地区と城下町までは馬車で行き来していたけれど、冒険者として一日の大半を歩いている今なら普通に歩ける距離だって思うもの。


城下町はまだまだ崩れた家が多くて、瓦礫も転がっていて、石畳も割れている。

それでも行きかう人たちの顔は四年ぶりに踏み入れたあの人は全く違う。


道の脇を埋め尽くしてお金をくださいと手を差し出す人はほとんどいなくなった。皆明るくあちこち歩いて、瓦礫を荷車に乗せて川まで運ぼうとしていて、仮の家を建てるために皆が手を動かして、新しい服を着て、お金を握りしめて市場に向かって行く。


まだまだこれから。それでも皆の希望を持って生きようとしているその表情を見ると私も嬉しい。


そうやってあちこちをキョロキョロしながら歩いていたせいで、通りすがりの人にドッとぶつかってしまった。私はすぐに、


「ごめんなさい」


と顔を上げて謝る。相手はモゴ、と何か呟きながらサッと顔をそむけ、深くかぶっているフードでさらに顔を隠したけれど…それでも一瞬見えたその顔に私は目を見開いた。


「ファディアント…あなたファディアントね?」


名前を呼ばれたファディアントは身を固めて、足早に立ち去ろうとする。


「まって」


思わず引き止めるとファディアントも少し歩いたのちに立ち止まる。


「…暮らしは、どう?」


「……」


ファディアントはしばらく背を向けて黙っていたけれど、わずかに振り向いた。


「悪い」


でしょうね、という言葉が喉から出かかったけどその言葉を飲み込んで、


「今は何を?」


と聞いてみた。


ファディアントは言いにくそうに砕けた石畳から生えている雑草を足でジャリジャリと踏みにじり、


「…瓦礫を、川に…」


聞こえるか聞こえないか程度の声。


そう。ファディアントは嫌々ながらも瓦礫を川に運んでコインを一枚もらうっていう肉体労働をしているのねと黙っていると、ファディアントはフード越しに私に顔を向けた。


「…なじらないのか?」


その言葉にファディアントを真っすぐ見る。


「馬鹿にしないのか?いいザマだと嘲笑しないのか?お前のせいでこうなったんだと思っているんだろう?」


そうね、あなたがもっといい判断をして戦争なんて起こさなければこの城下町はここまで酷い状況になんてなっていなかった。


心の中ではそう思うけれど、口からは別の言葉が流れ出る。


「なじってほしいの?バカにしてほしいの?嘲笑してほしいの?そうやって生活のために動いているあなたを?」


ファディアントは言葉を詰まらせて黙り込み、また雑草を足でざりざりとすり潰す。


「…生活のためか…」


ファディアントはため息をついた。


「サブリナにマーリンとディアンのことを、父として頼むと言われたのだ。だから私は…」


そこまで言うと口をつぐんで拳を握りしめる。


「正直、なんで王家の者として育った私がこのようなことをしなければならないと思う。だが…」


ファディアントは呆けるように空を見上げて、


「だが…まさか国民として暮らすのが…金を手に入れるのが、食べものを手に入れるのが、自分で食事を作るのがこんなにも大変だとは思わなかった…」


とどこか泣きそうな震える声で言っている。


「国王の場から離れたこの短い時間だけでよく分かった、私が父に言われていたことは大体が間違いだと。私という存在が居れば世の中が照らされ国民が喜ぶんだと言っていたのは…ただ親が子に言うようなことだった、それをこの歳まで本気にしていた私は…馬鹿だった…!本当に馬鹿だ…!」


ファディアントは顔を押さえて…フードで隠れていてよく見えないけれど…泣いている。

感情的になったら言葉が止まらないのかファディアントは涙声で続けた。


「サブリナに渡された金はマーリンがメイドを雇おうして持ち逃げされほとんどなくなってしまった、もう王のプライドがどうのと言っている場合ではない、このままでは三人とも飢え死にする、だから働きに出ているだけのことだ…!」


しばらく肩を震わせているファディアントを見ていたけれど、ふぅ、とため息をついた。


「私の意見を言わせてもらうけど」


ファディアントは私に少し顔を向ける。


「一人よりだったら皆で働いた方がお金も稼げるわよ」


「だがマーリンもディアンも外に出ようとしない、共に瓦礫を川に持って行って金を稼ぎに行こうと誘ってもちっとも動こうとしない」


「それは人を動せるくらいの信頼があなたにないからじゃないの」


ファディアントはわずかにキョトンとした顔で、意味が分からなそうに私を見ている。


「人を動かす、信頼…?」


私は頷きながらサードを頭に思い浮かべた。


「私には三人仲間がいるの。一人は思わず眉をしかめるようなことをしても、不思議と最後は丸くなる結果を出すわ。目的のためなら手段を選ばない所はどうかと思うけど、それでも言われた通りに力を使えば必ずいい結果に繋がるだろうって思えるから私も協力する。嫌な時は嫌って言うけど」


アレンのことを思い浮かべる。


「一人はとにかく誰にでも公平で優しい。すぐ人の心の中にスッと入り込んで仲良くなっちゃう。ちょっと頼りない所もあるけどそれ以上に皆が頼りにしてる、頼りない所も支えてあげたいって思えるし、本人も自分は弱いって認めて強くなろうって努力している、だからもっと応援したくなる」


ガウリスのことを思い浮かべる。


「一人は物静かで穏やか。だけどいざという時は皆を守ってくれるし、どっしりと構えてるからその人から放たれる言葉はすごく信頼できる。本当はすごい立場になれる人なのにいつでも謙虚で後ろから見守ってくれる。頑張って結果が出なくても努力している姿を見ていてくれる、それを知ってくれて言葉にして褒めてくれる」


黙っているファディアントを私は見た。


「私は三人のそういう所はすごく尊敬してるし信頼してる。だから三人の言うことなら協力しよう、頑張ろうって思える。そう思うほどあなたはマーリンからもディアンからも夫として父親として信頼されてないし、言うことを聞くほど尊敬されていないのよ」


「…」

ファディアントはかすかに傷ついた顔でまた足で雑草をいじっている。もう雑草は石畳にすり潰されているのに。


跡形もなくすり潰された雑草をしばらく見ていたファディアントは顔を上げた。


「…信頼なんて、どうやって作るものだろうな。私はただ生きているだけで皆が幸せになると本気で信じていた、だから生まれながらに皆から信頼されていると思っていた、だが現実は…」


悲しさと後悔と自虐のような笑みを浮かべてファディアントは笑っている。でも自分の言葉で傷ついているように見えて…。


ファディアントは幼児返りから元に戻った今、本当に以前とは違うわ。

前の性格のままだったらこんな表情を浮かべていたかどうかも分からない。


「…私が尊敬できる人の特徴を言ってもいい?」


私が口を開くと、ファディアントは笑いを収めて真剣な顔で真っすぐ私を見てきた。


「人の悪口を言わない、いつでも人に優しい、何事にも真面目に動く、言った言葉に最後まで責任を持つ、結果を出すための努力をする」


そこで区切って私もファディアントを真っすぐ見る。


「そんなのいつでも完璧になろうとしてもきっと難しいわ。でもそういう人になろうって少しずつでも努力する人は信頼できるって私は思う」


「…そうか」


ファディアントは私に向き直るとスッと胸の前に手を寄せ、深々と頭を下げた。そして顔を上げる。


「教えてくれて礼を言う」


その精悍(せいかん)で落ち着いた表情は王家の人そのもの。お城で綺麗な服に包まれて偉そうにしている時より、質素な身に包まれた姿でも…今のファディアントが一番王様らしい。


私は微笑んで、


「どういたしまして」


と返した。


ファディアントは背を向けて歩き出したけど、わずかに立ち止まってもう一度振り向く。


「スロヴァンとアリア、使用人にも詫びを言っておいてくれフロウディア。…この四年間のこと、済まなかった」


そう言うと足早にその場を去っていく…。


「…え?」


今確かにフロウディアって私の名前を言った?それもお父様たちの名前も言って…え?どうして私がフロウディアだって分かったの?カツラをかぶって変装しているのに…。


サササと頭を触って気づいた。セリフィンさんの部屋から出る時にカツラをつけるのもフードもかぶるのも忘れていた。

Q,理想の人物像はあるけどなれません


A,そういう人のふりをすればいいんですよ。自分本当はこんな性格じゃないのにって内心思っていても毎日理想像のように振る舞っていればそれがいつしか日常のことになります


↑ネットか雑誌か本で見て、何となく心に残っている内容

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