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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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えいえい、怒った?怒ってないよ

ディーナ家の屋敷に戻ってしばらくたっている。


サードにアレン、ガウリスはエルボ国の立て直しのために色々とお城で各自力を奮っているみたいだけれど、私は特にやることもないし、


「いいんだって。こっちが落ち着くまで家族と一緒に居なよ」


ってアレンが言ってくれたから、それならその言葉に甘えちゃおうとお城には戻らないで家族水入らずの時を過ごすことにした。


本当はサブリナ様はお父様たちにお城に残ってほしいと望んでいたみたいだけど、お父様は、


「一応私も下級貴族でスイン地区を任されている身です。それにスイン地区は自然豊かなので、あの地域を固めておけば今より食料が城下の方へ来るはずですから。私もあの地区よりサブリナ様のお役に立てるよう尽力します」


って断ったのよね。それなら屋敷を新しく建て直す費用を出しましょうかとサブリナ様は言ってくれたけれど、それもお父様は断った。


「私たち貴族より国民を優先してください。私たちはまあ、貴族とはいってもそこまでプライドも高くありませんから、その辺で人々の手伝いでもして食べ物を分けてもらいますよ。純金になる髪の毛もあることですし」


坊主頭を撫でなんとも笑い辛いジョークをお父様が飛ばしたら、サブリナ様は笑っていいものかどうなのかと何とも微妙な表情をしていたけれど…。

何かお父様のジョークって、絶妙に笑いづらい所を突いてくるのよね…。


そんなことでこの荒らされて泥のついた足跡まみれの屋敷を毎日掃除して、生活道具も少しずつそろえてと、貴族生活の時にはメイドや使用人がやっていたようなことを全員でやっている。


とりあえず勇者御一行として手に入れたお金と私が毎日とかして抜けた分の純金の髪の毛があれば物を買うのも毎日の生活にも困りやしないけれど、お母様はうずうずとした感じで、


「娘のお金にばっかり頼るのって親として釈然としないわ。私も昔のツテを頼って舞台で歌ってお金を稼ごうかしら」


と呟くとお父様はパッと顔をほころばせて、


「舞台の上の君にまた会えるのか、いいなあ、初めて君を舞台で見たときのことを思い出しそうだ。やるなら全力で手伝うよ」


と嬉しそうに微笑んでいた。


マリヴァンも今じゃ随分と私に慣れて、ちょこちょこと後ろを「おねえさま、おねえさま」と必死に追いかけてきてとっても可愛い。あまりの可愛さに掃除そっちのけでマリヴァンを抱きしめて愛で続けてしまう。


そんな私とマリヴァンを見る使用人はデレデレと目じりを下げながらも、


「サルヴァン様御夫婦が生きておられたら、どんなにお喜びになる光景だったか…」


と目をハンカチで押さえながら綺麗になったお爺様とお婆様の並んだ絵姿を見ていた。


そうやって屋敷の掃除は一週間くらいかかって、ようやく掃除もひと段落したと新調されたテーブルを囲んで椅子にも座って、使用人が用意してくれたお茶を皆が口にする。


皆が和やかにお茶を飲む中…私は皆に話そうかどうか悩んでいたことを、口にする。もしかしたらこれを言ったらこの和やかな空気が一変して、崩れてしまうかもしれないことを…。


もしかしたらお母様はこの話を聞いたらお父様と離婚するって言うかもしれない。使用人の穏やかな微笑みが恐怖と嫌悪の顔になって軽蔑の顔になるかもしれない。


でも、事実なんだから皆に知ってもらわないといけない。


「あのね、皆に大事な話があるの」


全員が私の顔を見る。


「私たち…お父様と私、マリヴァンの種族のことについて、旅をしていて少し分かったの。…ちょっと信じがたい話もあるかもしれない、でも本当の話で…聞いてほしいの」


皆の顔が私に集中する。

私は話し始めた。


ゼルスという神様や、ファジズという魔族から聞いた…さすがにその話は口にしづらいからぼかしたけれど、私は全て話した。


私たちの種族は神様、精霊、モンスターなどの血が混じっているけれど、それと同時に魔族の血も交じっているって…。


魔族にだって人に好意を持っている人もいる、でも間接的に魔族が関わっただけでミレルの家庭はほとんど崩壊に向かってしまったんだもの。一般的に魔族は人々をそこまで恐怖に至らせる恐ろしい存在、そんな魔族の血が混じっているって知った時のお母様と使用人の反応が…とても怖かった。


特に私の家系は代々魔族じゃないかと疑われ続けているんだもの、本当にそうだったと知ったら二人はどんな反応をする…?


お母様と使用人の反応を恐る恐る伺う。


でもお母様はあっけらかんとした顔でマリヴァンの頭を撫でながら、


「あら、じゃあ私、絶滅危惧種の人と結婚したの」


と微妙にポイントのずれた驚き方をしていて、使用人は、


「神や精霊の血も受け継いでおられるとは…ああ、このセルロン、素晴らしい方々にお仕えできることが幸せでございます!」


とジーンとしていた。


…思ったより二人の反応が薄い…いやいいんだけど…とむしろ私の方が微妙な顔になると、お母様は私を見て笑う。


「何よ、ここまで魔族の家系って言われ続けてきているんだもの、それが本当だったからって今更何?まさかそんなことで嫌な顔して離婚するとか騒ぐとでも思った?」


使用人もウンウン頷きながら微笑んでいるけれど…ショックを受けているのはむしろお父様みたい。


「まさか…本当に魔族の血が混じっていたなんて…」


額を手で押さえてショックを受けているお父様にお母様も使用人も笑う。


「何がそんなにショックなの、ちょっとしたステータスだって思えばいいじゃない。魔族の血が流れてる人なんて滅多にいないんだから」


「どうであれ大旦那様もスロヴァン様もフロウディア様もマリヴァン様も私の仕えるべき大事な方々ですよ、今までと何も変わりません」


お母様と使用人の言葉にお父様はまだぎこちなく笑っているけれど…それでも私が思った以上に二人が受け入れてくれて…良かった。


ホッとしたついでに私はお父様に別の話を振る。


「それとお父様。制御魔法とか習ってないわよね?」


「制御魔法?」


お父様が聞き返してくるから、やっぱり、と思いながら、


「制御魔法って魔法を習う子供が一番に教わる大事な魔法なんですって。これを教わらないまま魔法を使い過ぎると体と精神にすごく負担がかかってしまうの。お爺様も制御魔法を教わらないまま魔法を使い過ぎて短命で亡くなったんじゃないかって、ある人に言われたわ」


人じゃなくて、魔族のロッテから言われたんだけどね。


お父様は何か考え込むように口をつぐんで、


「…思えば私専属の家庭教師から魔法を使う実践方法はこれと言って教わらなかったな。特に教わらなくても魔法は使えたから特に教えなくてもいいだろうと思われていたんだろうが…だがフロウディアも習っていなかったのかい?」


うんうん、と私は頷く。何でヤーレイが私に制御魔法を教えなかったのか…そんな疑問も今のお父様の言葉で分かったようなものだわ。

魔族と疑われているぐらいの魔法を使う家系の私にこれ以上魔法を教えなくてもいいだろうって軽い考えで教えなかったんだと思う。ヤーレイ、あなたそういう所よ、そういう軽い判断でやらないといけない所をあっさり独断で省くのがまずいけないのよ。


「何それ、ふざけてるわ!」


カッとなったお母様が激怒して怒鳴った。


お母様は黙っていると大人しく誰にも従順そうなヒロインに見えるけれど、その実性格はとてもサバサバしていて、納得いかない所にはすぐ怒る。


舞台女優として主役を何度も張っていたお母様の怒声の声量はすさまじく、私もお父様も使用人もかすかにビクッと震えて、マリヴァンなんて大きくビクーンッと飛び上がって泣き出しちゃった…!


「あ、あらーごめんごめん…」


お母様はマリヴァンをあやし始めて、お父様は心配そうな真剣な顔で私を見る。


「それならフロウディアは今までの冒険でもその制御魔法を覚えず魔法を使っていたのかい?体は…」


私は首を横に振って、


「ある人に制御魔法を教えてもらったから大丈夫よ。制御魔法を覚えたら魔法が前より操りやすくなったの」


人じゃなくて、魔族のロッテだけどね。


それでもお父様はホッとした顔をして、


「ちなみにその制御魔法は具体的にどうやるんだい?」


と質問してきた。


どうやるのって言われると…。説明が難しいのよね、魔法を使う方法って。最終的に感覚論になっちゃうんだもの。

それでもお父様の体のために制御魔法を使う時の感覚を思い出しながら、手も動かして説明する。


「こう、あんまり頭で考えないけどちょっと魔法の核のこととか考えながらやってやるって感じでガッと発動してヒュッと全体的に抑えてバーッと針の穴から魔法を全力で出すみたいな」


「ああ、なんだ簡単そうだな」

「中々的を射た表現よ」


お父様もお母様も頷いている。


…やっぱり私の親だわ。この程度の言葉で分かってくれるもの。


良かった、と思っていると屋敷のドアが叩かれる音がする。使用人が玄関に向かって、誰かと話している声が聞こえるけれど…何か揉めている?


すると使用人がわずかに顔をしかめながら私たちのいる部屋に戻って来た。


「この地区の各村長や大人たちが挨拶に来たのですが…フロウディア様の髪を狙った近所の者もおります。いかがいたしましょう」


お父様も一瞬口を引き結んで私をチラと見たけれど、私は軽く首を横に振った。


「私は気にしないわ。どうせ前みたいに髪の毛を狙われたって追い返せる実力は身についているし、またここで過ごすのならお父様は村人たちと仲良くしなきゃいけないでしょ」


私の言葉を聞いてお父様は軽く微笑む。


「本当にフロウディアは成長したなぁ」


入ってもらいなさいとお父様は使用人に声をかけると、使用人は軽く会釈した後、玄関から村長らを引き連れてやってきた。使用人はお母様の膝の上のマリヴァンを抱えて、


「この使用人めと向こうで遊びましょう」


と抱っこをして部屋から連れ出していく。


入ってきた人たちの中には私の友達の親…髪の毛を引き抜こうと群がってきた人たちも交じっている。別にもう気にしないと思っていても、やっぱり胸の内に苦々しい感情が湧き上がって目を逸らした。


村長たちとそれに続いてきた人々からはそれぞれが気まずそうに私をチラチラ見ているような雰囲気を感じる。いつもスイン地区村長代表として前に立っていた白髪頭でノッポの男性…バースが前に出てハンチング帽を頭から取ると、手でモジモジと押しつぶしながら頭を下げた。


「あの…ディーナ家様方にご無事にお戻りいただき…何より嬉しく…」


「君たちも無事で何よりだ。嬉しいよ、この顔ぶれが欠けることなく揃っていて」


お父様の優しい柔和な口調にバースたちの力が抜けてどこかホッとしている。


「ここらは前と変わりないように見えるが、実際はどうだい?」


スロヴァンの質問に気まずさが抜けたバースは、わずかに微笑みを浮かべながら以前みたいに流暢に喋り出した。


「はい、城下に近づくほど被害は大きいようですが、この辺は城下から一番離れいる田舎ですから。むしろ城下からこちらに逃げてきて、ここで暮らし始める人も随分増えました。食べ物には事欠かない所ですのでここは」


お父様は立ち上がってバースの肩を叩く。


「何よりだ。だが城下の方ではまだまだ食糧不足が続いている。だから私たちは新国王のサブリナ様のため、城下に暮らす者の分の食料もここで作ろうと思っている。力を貸してくれるね?」


バースは言い淀んだ。


「しかし城下の人々の分ともなればそのほとんどが都市地区に食料が流れることになるのでは…。そうなったら私たちの食料は…」


「なに、全部無料で与えるわけじゃない。かといってお金をしっかり取るわけでもない。フロウディアの仲間の一人から提案されたんだが、これは城下町の暮らしが安定するまでのボランティアとビジネスをかけ合わせたものだよ。

まあ今は国の体制が新しくなったばかりだから国との話合いから始めないといけないがね」


そう、これはアレンが提案したもの。


今城下町は食料が足りない、でもこのスイン地区は食に事欠かない。だったら国がスイン地区から食料となる食べ物をまとめて買って、それを城下町の皆に安く売っていく。


城下町では食料が安く手に入る、スイン地区はまとまったお金が手に入る。

もちろん全体的に見ると国の赤字になるけれど、国民が安定した生活を送れるようになるのを第一に考えたいっていうサブリナ様の考えに沿ってのこと。


サードは、


「まあいいんじゃねえの、今まで最低だった国の信用をその赤字分で少しでも上げられて餓死者が減るならサブリナも満足なんだろ。俺だったら自腹切って赤字だなんて絶対反対だがな」


って言っていたっけ。


お父様はバースと、後ろの人たちを一人ずつ見る。


「この地区は何事もなかった。それならこの田舎から都市を支えようじゃないか。ここには食料もある、森には山菜やきのこがある、麦畑がある、ツタから布の繊維も取れる、植物から雑貨も作れる、建築にちょうどいい木材もある、なんでも揃っている。手伝ってくれるね?」


お父様の言葉に皆は肩の力が抜けて、大きく頷いたり微笑んだりしている。そんな皆の顔を一通り眺めて、お父様は続けた。


「ほらね。フロウディアの髪など狙わなくてもお金を稼ぐ方法なんていくらでもあるんだよ」


その一言でその場にいる一部の人たち…私の髪の毛を狙っていた人たちの顔つきが強ばった。

それでもあくまでも柔和で優しい顔と口調でお父様は続ける。


「フロウディアの髪が狙われ追い回され、引き抜かれた…四年たった今でもそのことは酷く残念に思っているし、悲しくなる。ここに居る皆子供がいるだろう?自分の子が大人に追いかけ回されて髪の毛を引き抜かれたと聞いたらどんな気持ちになる?ん?」


その柔和な微笑みを浮かべているお父様の顔を皆…私を追い回していない人たちも体を強ばらせて、挙動不審気味に目を動かしながら私を追い回してきた人たちをチラチラと見ている。


「申し訳ありませんー!」


私の友達の親で、真っ先に髪の毛を引き抜きにかかってきた人がその場に崩れ落ちた。


「た、ただ、金なんて見たことないから、欲しいと思って、ただそれだけで…!」


私の髪の毛を狙ってきた大人たちがぞくぞくと膝をついてお父様に向かって謝り倒している。


「ご、ごめ、ごめんなさい…!」

「許してください、金があれば色々欲しいのが買えると…!」


その言い分を聞いたら腹が立ってきた。


そう、この人たちはヤーレイほどお金が欲しい差し迫った事情なんてなかったの。

…少し悲しくなったけど、それでもサードが言っていたのは正しかった。


この人たちは価値が無いならなぁなぁでやっていくけれど、価値があると見れば目の色を変える人たちだったんだわ。


そうと分かるとあまり口をききたくもない。ツン、と顔を逸らした。


「ごらん、フロウディアもまだ立腹している」


するとお父様に謝っていた人たちは今度は私に向き直って口々にごめんなさい、すみませんと謝ってくる。


私はフッ、とため息をついた。


「仲間にも言われたわ。価値がないならなぁなぁでやっていくけど、価値があるとみれば目の色を変える人たちだったんでしょうって、王家と同じじゃないかって。

たったそれぐらいの欲のために大人に追いかけ回されて信頼していた人に髪の毛引き抜かれた私の身にもなってよね。すごく傷ついた。怖かった」


私は謝っている人たちを睨み下ろす。


「言っておくけど前みたいに追いかけ回して髪の毛を引き抜こうとしても無駄よ。私、この四年で強くなったわ。ここに居る全員を一斉に追い払うことだってできるんだからね」


「こらこらフロウディア、あまり怖がらせてはいけないよ」


お父様の言葉に私はムスッと口をつぐむ。お父様に免じてあとは何も言わないけど、私まだ怒ってるから、許してもいないから。


するとお父様はパッと村人たちに目を向けた。


「ちなみに私も、私の息子のマリヴァンも髪の毛は純金になるぞ」


えっ、と村人たちに…私もお母様もどうして言ってしまうのという顔で驚く。でもお父様は笑顔のまま続けた。


「だが今後は誰であれ私たちの髪を狙う者が現れたらこちらは正当防衛という形で魔法で反撃する。それで君たちが死んだとしたら自業自得、そのことを証明してくれる紙をサブリナ様に取り付けていただいた。もう少ししたらその書状も届く」


その言葉に村人が「え」と声を詰まらせてお父様を見た…するとカッと閃光が走って、家の周りにドドーンッと轟音が響いて地面が揺れて窓ガラスがビリビリ揺れる。


村人たちはギャアア!と叫びながら頭を抱えるやら、その場にひっくり返るやらで驚いた顔で声を失った。


「何今の…!」


お母様は驚いて椅子から立ち上がって、隣の部屋から音に驚いたのかマリヴァンの泣く声が聞こえてきた。


「雷だよ、私がやった」


お父様はお母様に優しく声をかけてから村人たちに視線を戻した。


「言っておくが、フロウディアだけでなく私も立腹しているんだよ」


お父様は変わらずの柔和な顔で続ける。


「私たちは代々魔法の力が強い家系なのは知っているだろう?それも人の手に負えないような雷は不思議と扱いやすい。少し魔法の力を発動するだけで後は勝手に雷が上から降ってくる。

本気で力を使ったらどれほどの雷が落ちるか私にも分からない、なんせ本気で魔法を使ったことなんてないからね」


顔を強ばらせる村人たちの顔をみてお父様は口を開けて笑った。


「本当は皆に慕われる優しい領主で居たかった。だがもしそれで君たちがこの程度なら許されるだろうという感覚でフロウディアの髪を狙ったのだとしたらそれは許せない。今後悪評が立とうが私は家族を守るためなら人の命を取ることも(いと)わない。

大事な家族を守りたい、二度とあのような馬鹿臭い戦争を起こす原因にもなりたくない。そのことはよーく分かってくれるね?」


膝をついている人たちに手を差し伸べ、お父様は次々にその場に立たせる。


「もちろん、以前のように親しく接してくれるなら私だってそれに応える。だが悪い心で接するなら容赦なくその頭に雷を落とすぞ。今みたいに本当の意味でね」


最後の人…私の友人の親で真っ先に私の髪の毛を引き抜いた人を立たせてその肩をポンポンと叩く。


「魔族と同等の魔法なんて喰らいたくないだろう?だから今後はそんな欲をかくことなく仲良くして行こうじゃないか、ね?」


さっきお父様と私に謝っていた人たちの顔が恐怖に引きつって、無言でコクコクと頷き続けている。


今までお父様が怒った所なんて一度も見たことはない。けど…終始柔和な顔と声だけれど…お父様はもしかして今、怒っているの?その微笑む見た目とは裏腹に内心かなり激怒しているの…?


怒っているような、それでも怒っていないような姿が妙に恐ろしくて、ある意味サードより怖い…。


「し、失礼します…!」


一人がそう言って背を向け逃げ去るように駆けだすと、村人たちも我先にと失礼しますと悲鳴に近い声を出しながら走り去っていって、恐怖で足がもつれたのか転ぶ人もいた。


一斉に人が居なくなった部屋の中から、私は窓辺に寄って逃げていく村人たちを見送る。


雷は屋敷を取り囲むかのようにグルリと落ちたのかわずかに地面が黒くなっていたり、草が燃えていたりしている。お父様は私の隣に並んで恐怖で足がもつれるように去っていく人たちを見ると、わずかに胸を痛めるような顔になった。


「…あまり怖くならないようにジョーク交じりで叱ったつもりなんだが…もしかして怖がられてしまったかな…?」


ポツリと呟くお父様の言葉にお母様プスッと鼻で笑う。


「あんな優しい口調であんな風に言われたら脅されてるとしか思えないわよ。脅してるんだと思ったわ私」


「…脅すつもりは…なかったんだがな…」


「お父様、本当に怒ってなかったの?」


聞くとお父様はコクコクと頷く。


「もちろんフロウディアの髪が引き抜かれたことに関しては悔しいし悲しい気持ちはまだある。だからこれ以上あんなことはやってはいけないと強く言わないといけないとは思っていた。

フロウディアやマリヴァンを守るためなら私は力を奮うと、そして私が力を奮ったらきっと相手は死んでしまうから今後は仲良くやって行こうということを伝えたかったんだ」


…それがさっきの言い方?今の言い方は納得できるけど、さっきのはどう見ても聞いても脅しているようにしか感じなかったわよ…。


「お父様はジョーク交じりだったのかもしれないけど、正直お父様のジョークって笑い辛いのよね。絶妙に笑い辛い所で笑いを取ろうとするから」


そう指摘するとお父様はショックを受けた顔になる。


「ええ、そんな…セリフィンはよく笑ってたのに…」


「だってセリフィンはブラックジョーク好きじゃない」


お母様が横から口を挟む。

お父様は「ブラックジョーク…」とショックを受けた顔で椅子に座り直す。


「ブラックなジョークを言っているつもりはないんだが…そっかあ、笑い辛いかぁ…」


と落ち込んで、


「…ああ、上手に怒るのも人を笑わせるのも難しい…」


と顔を両手で覆った。


そんな落ち込んでいるお父様の姿はちょっと楽しい。

見るとお母様も両手で頬杖をついて落ち込んでいるお父様をどこか楽しそうに眺めている。


こういうお父様の姿を見たら村人たちも脅えた感情は消えるでしょうけどね。むしろあんなに脅えられてお父様はこれから先村人たちと上手くやっていけるのかしら。


…でもお父様の言う通り髪の毛を狙われて戦争を引き起こすようなことが起きても困るし、マリヴァンが大人に追い回されて髪の毛を引き抜かれるのを想像すると許せない。


それならあれくらい脅えられているぐらいでちょうどいいのかもね。

サードみたいにガーッと正論言われて一分程度怒られるのと、スロヴァンみたいに怒ってないけど笑えないこと言われながらやわやわと叱られるの、どっちがマシなんでしょうね。

私は怒られるならガウリスに「こういう理由だからこんなことをしてはいけないんですよ」とたしなめられる程度がいい。

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