家庭教師
私たちディーナ家と使用人のセルロンは、お城の馬車を借りて元々私たちが住んでいたスイン地区のディーナ家屋敷に向かった。
城下から一番離れていたスイン地区は戦火に巻き込まれた形跡はほとんどなくて、見たところ数年前と全然変わってないわ。
屋敷までたどり着くと私たちの屋敷の外観もほとんど変わってなくて…まあ雑草が生い茂っているからお化け屋敷みたいな不気味な雰囲気だけれど、そんなに荒れてもいなさそう。
そうやって良かったね、と皆で和やかに話したのは家に入る前まで。中に入ると全然違った。
床は泥のついた足跡だらけ、目ぼしい調度品や貴金属類、服やカーテン、お酒に食器…家にあったほとんどの物が盗まれたあとだった。
もしかして近所の人?
私はそう疑ったけれど、城下町からこっちに逃げてきた人たちがやったのかもしれないし…と一旦自分を納得させた。
もちろん私の部屋からもあらかた物が無くなっていて、部屋の中にあるのは泥だらけの足跡だけだった。
足の大きさから見るに、大人の男の人っぽいのもあれば女の人のもありそうな感じ。とにかく色んな人が手当たり次第かっさらって行ったんでしょうね…。
「こんなこと、許されるものですか…!」
使用人は荒らされた屋敷の中に悔し泣きしたけれど、お父様は、
「なに、生活に困っている人の足しになったんだと思えば別にいいさ。私たちはこの四年間、なんだかんだで生活に困っていなかったんだから」
そう言いながら額縁の外されたお爺様とお婆様が並んでいる絵姿の土埃を優しく指で払いながら、
「私はこれが残っていただけで十分だ」
と笑っていた。
サードが居たら信じられねえお人好しだ、と呟くでしょうね。
家から一旦出て、雑草の生い茂る庭をグルッと見てみる。
玄関からの景色は庭の雑草がすごい以外は四年前と変わらない。
子供の頃はよくこの辺で友達と遊んだものだったわ。季節の巡りに応じて庭師が色とりどりの可愛らしい花に変わった花を植えていていたっけ。
それでもこの庭の荒れようを見る限り、庭師もいなくなってしまったのよね。
家の裏から少し歩いたところに庭師の住む小屋があって、よく友達と遊びに行っていたわ。
少し行ってみようかしら。
歩いて行くと、庭師の住んでいた小屋は前と同じように建っていた。
ツタで覆われていてディーナ家屋敷より不気味な雰囲気になっているけれど、それ以外はあまり変わっていないようね。
こういう夏の晴れた日に遊びに行って庭師の小屋を開けるとムッとした暑さが襲ってきたけれど、それでも冷たい水をニコニコと用意してもらえて…。
扉に手をかけ、キィッと開ける。
「わっ!」
窓も全て閉じられた薄暗い中からいきなり男の叫び声が聞こえて、
「ギャッ」
と私も思わず叫んで飛び上がった。
よくよく中を見てみると人らしいシルエットが椅子から落ちそうになっていて、テーブルを掴んで辛うじて体勢を保っている。
誰?
よくよく見ようとするけれど、明るい外から急に暗い建物の中を見たから視界が効かない。
すると中の男は私に向かって手を振りかざすと、手早く呪文を唱えて手のひらから火の玉をボッと発射してきた。
私はすぐさま無効化の魔法を発動してその火をスッと消す。男は驚いたように立ち上がって距離を取ろうとしたけれど、私は杖を突きつけた。
「誰!」
男はビクッと体を動かして、私をの顔をよくよく見るように身を乗り出している。
「…も、もしかして、フロウ…ディア様?」
本名を呼ばれて私は動きを止める。段々と小屋の中の暗さに目が慣れてきて、シルエットしか見えない男の顔がハッキリ見えてくる…。
「あ…!あなた…!」
中にいた男が誰か気づくと、ゾワッと体が震えて杖を取り落としそうになった。それでもしっかり握り直して杖を向け続ける。
「ヤーレイ…!」
声が震える。
ヤーレイ、私の家庭教師だった男。
そして私の髪の毛が純金になると知るとしつこくつけ狙って、ついには押さえつけて髪の毛をハサミで…!
あの時のジョキジョキと乱雑に髪の毛が切られる音が耳に蘇ってきて頭から全身に鳥肌が立った。杖を持つ手も震える、顔が青ざめる…。でも怖がっている素振りは見せてはいけないわ、私は勇者一行の一人なのよ、魔界を焦土にもできるのよ…!大丈夫だから怖がらないで…!
「何をしているの、こんなところで」
恐怖を隠そうとしたら強く問い詰める口調になって、ヤーレイは一歩後ろに下がる。
「な、何でフロウディア様がここに…」
質問には答えずヤーレイは困惑の言葉を一つ吐いた。それにはイラッとして、
「ここは元々私たちディーナ家の所有地よ、私がいて何か悪いとでもいうの?」
と返すとヤーレイは身を固めて、黙って私を見ている。
「…な、何」
何も言わないで黙って見られているのに恐怖を感じて一言聞くと、戸惑ったようなヤーレイの声がかすかに聞こえてくる。
「…昔は、こんな風に言い返すような子じゃなかった…」
…ああ、昔はポワッとしていて何も考えていないような子だったといいたいのね。…誰のせいでこうなったと思ってるの、あなたが私の髪の毛を切り落として、お父様が私を守ろうとしてこの屋敷から離れた所からすべては始まったのよ。
そうよ、全て目の前の男が私の髪の毛を切り落とした所から変わってしまったのよ。全部あなたのせいよ、あなたの…!
恐怖よりもイライラとした感情が強くなってきて、私は言い返す。
「私だって大人になったのよ、この四年間色々とあったのよ、何も成長してないとでも思った?それであなたは何でここにいるの、答えなさい」
恐怖が消えると怒りと憎しみが湧いて、一歩前に詰め寄って杖を真っすぐヤーレイの目線に向ける。
ヤーレイは一歩後ろに下がって、
「す、住むところがなくて…」
「はあ?」
私の腹からのドス声にヤーレイがビクッと体を揺らす。
「私の髪の毛をあんなに切り取ったくせに、それで住むところがないわけ?」
ヤーレイは立ち尽くして、言葉を口の中でモゴモゴと噛み潰すような感じで私を見ている。
その姿を見ていると今までの怒りがお腹の底からふつふつと湧きあがってきた。
「よくも、よくも私の髪の毛をつけ狙って、逃げても探し出そうとして…あんな風に転ばせて、床に押さえつけて背中に乗って…!」
歯ぎしりして、怒りで体を震わせた。
「何が『動いたら耳も切っちゃうかもよ』よ。あんなことしたくせに、よく私たちの敷地内でのうのうと居座ってるものよね…!?」
魔法を発動する。
ボッと風が吹き荒れて小屋の中の物が渦を巻くように巻き上がって、窓がバンッと開いて外から真昼の明かりが中に一気に差し込める。
ヤーレイは外からの明かりに目を腕で覆って、明らかにたじろいでいる。
「どうしてこんな魔法…!?どうして、魔法を使う方法なんて一度も教えたことないじゃないか…!」
「そうよ、教わらなかったわ。あなたは魔導士の学校に入る子が一番に習う制御魔法すら教えなかった。
制御魔法を教えないまま強い魔法を使い続けたら体や精神に作用するって、魔導士の家庭教師なら知っていたはずよね?私たちの家は代々強力な魔法を使う家系だとも知っていたはずよね?それでもあなたは教えなかった」
風で髪の毛を逆立てながら更に魔法を強くする。
ヤーレイは風にもまれてよろけて転んで、わずかに浮き上がって壁に背中を打ち付ける。
ヤーレイは身の危険を感じたのか呪文を唱えてさっきより大きい火の玉をドッと飛ばしてきた。
でもそんなもの、ぬるいわ。
目を見開くと、火の玉に向かって集中的に風が吹き荒れて火の玉を風でブンッとかき消した。
部屋の中に火の消える匂いが一瞬広がったけれど、すぐさま風の勢いで分散する。
「わ、わ、わ」
ヤーレイがまた呪文を唱えて火の玉を放った。
「馬鹿なの?」
同じように風の勢いで火の玉を消すと、動けないように風でヤーレイを壁にしこたまぶつけてやった。
「うっぐ…!」
一旦風を収める。
ヤーレイは風の圧で息もできなかったのか激しく息を吸い込んでは吐いて、四つん這いで下から私を見上げてくる。
ヤーレイはまた呪文を唱えようとするけど…さっきから何度も唱えているこの呪文、全部同じものじゃない?
「…もしかしてあなた、火の玉を出す魔法しか使えないの?」
ヤーレイはピタリと呪文と止めると黙って下を見てうつむいた。そして、ウッと声を詰まらせて、
「しょうがないだろうがよお!」
と叫んで床に両手を叩きつける。
「そうだよ、これしかできない、俺はこの火の玉を出す魔法しかできない!本当は学者になりたかったんだ、けど、けど、学者になれるほど頭は良くないし魔導士の学校教師の試験にも何度も落ちて!そうなったら個人相手の家庭教師にしかなれなかったんだよ!
それでも相手が貴族だからラッキーだと思ったらほとんどこの辺の集落をまとめてる村長並の家じゃねえか、しかも一部では魔族じゃないかって噂されてる家だ!それでも住み込みで三食飯つきで寝るところも提供されるし、全員魔族でもなんでもねえから良かったと思ってたら金は一切渡されねえ!金が、金が欲しかったんだよ俺は…!」
うう、と泣き言のようなことを言いながらヤーレイは私を睨み上げた。
「そんな時、目の前に純金があるってわかったら、誰だって手にするに決まってんだろ…!」
その表情に床に押し付けられた記憶がよぎって怒りより恐怖が強くなったけれど、私も今の言葉にはかなりキレた。
「何が手にするに決まってる、よ…!」
勝手に魔法が発動されて、小屋の壁や屋根、床板の木々が一気にバァンッと細かく砕け散った。
蒸し暑い小屋は跡形もなく消え失せて、ヤーレイはヒィッと頭を押さえている。
「そうね、あなたより私の方が魔法の力が強いんだから髪の毛が切られそうになった時、今みたいに反抗してあなたを追い返していればよかったわね。こんな火の玉しか出せない人だと知っていたらどうにでもできたはずだもの」
あまりに怒りが湧きすぎてアッハッハッハッと笑いながら言うと、ヤーレイは脅えたように体を強ばらせながら私を見上げた。
「こ、殺すつもりか…」
「さあ、どうしてやろうかしら。殺すなんてやめた方がいいかしら、でもやっぱり殺そうかしら」
殺すつもりなんてない。こんな最低の男のために人を殺したなんて過去を持つ気なんてさらさら無い。でも私どころか私の家族のことを悪く言われて黙って見逃がすほど私は優しくない。
とにかく今はどこまでも追い詰めて苦しめてやりたい、そんな怒りでいっぱいだから…!
すると恐怖に脅えていたヤーレイの顔からふっと力が抜ける。
そしてなんとも穏やかな顔になって、わずかに涙を浮かべて私を見上げた。
「…そうだな…フロウディア様に殺されるなら、それはそれでいい」
その言葉にわずかに面喰って笑いを収めてヤーレイを見下ろすと、ヤーレイは嗚咽交じりに、
「もう生きるのに疲れた…俺が苦しめて傷つけたフロウディア様に殺されるなら、俺の罪も少しは無くなるってもんだ…」
と地面に頭を擦りつけるようにして泣き出した。
「すみません、すみませんフロウディア様…!スロヴァン様、アリア様、セルロン様、この国の…戦争に巻き込まれた皆…!本当にすみません、すみません…!」
いきなりのことに戸惑ったけれど、ヤーレイはすみません、すみませんとひたすら謝り続けている。
「…それ、何に対して謝ってるの、それとも命乞い?」
そう聞くとヤーレイはそのままの姿勢で頭を横に振る。
「悪かったと思ってるから謝ってるんだ…!」
ヤーレイは泣いている顔を上げた。
「だってそうだろ、俺がフロウディア様を押さえつけて髪の毛を切ったからスロヴァン様はこの屋敷から離れて、そうしたらブロウ国に捕まって戦争が起きたんだ。行きつく答えは一つだろ、四年前の戦争が起きた原因は俺だって」
ヤーレイは涙をこぼしながら続けた。
「本当にすみませんでした、フロウディア様、俺だってあなたみたいな純粋で大人しい子を傷つけたくなかった、でも…でも…姉さんを娼館から引き出すためにどうしても金が欲しかったんだ。
姉さんはたった一人の俺の家族…俺が大学に通う金と教職を受けるための受験費用を稼ぐって姉さんは自分から娼館に行った。
だけど結局俺は学者にも教師にもなれなくてここで働くことになって…でも金は貰えなくて…だからとにかく金が欲しくて…!」
ヤーレイは地面に伏せって泣き続ける。
今の告白に目を見開いてヤーレイを見下ろした。
思えばヤーレイの個人的な話なんて一切聞いたことなかった。聞いても困ったように微笑むだけだった。まさかそんな事情を抱えているなんて思わなかった。
「だったら…食事と住むところだけじゃなくてお金が欲しいってお父様たちに言えば良かったじゃないの」
「言えるわけないだろ!あれだけ家族みたいな待遇で良くしてもらったのに、家庭教師として雇い入れられたのに、俺の頭が悪いせいで姉さんが娼館に行ってしまったから買い戻すために金をくださいなんてこと!」
泣き叫ぶヤーレイの言葉に黙りこんで、キョロキョロと首を動かした。
「…あなたのお姉さんは?」
あれだけの私の髪の毛があれば人ひとりを娼館から引き取るなんてできたはず。でもここにお姉さんらしき人は見当たらない…。
ヤーレイは涙を流しながら顔を上げて笑った。
「戦争に巻き込まれて死にました」
口を引き結んでヤーレイを見た。
ヤーレイは、ハッハハと笑いながら地面に頭を擦りつけるようにうなだれる。
「なんのためにフロウディア様の髪を切ったのか分からないでしょう、せっかく娼館から救い出せたと思ったら、戦争に、ブロウ国とエルボ国の魔導士の爆発魔法に巻き込まれて、空高く舞い上がってあっけなく目の前で死にました…!残りの金の髪もその時に吹き飛んで…!」
ヤーレイは嗚咽を上げて、顔を覆って地面にうずくまるように丸まった。
「馬鹿ですよね?他人の俺を家族みたいに扱ってくれた善良な雇い主を裏切って、子供のあなたを傷つけて、その挙句守りたいものは守れなかった…!
俺のせいで戦争が起きて、どれだけの人が死んだのかも分からない、何で、何で俺の人生こんなんなんだ、何で何もかもうまくいかないんだ、何でこんなに俺のせいで皆が不幸になっていくんだぁ…!」
泣き続けるヤーレイの後頭部を黙って見下ろす。
ヤーレイは泣きながらも起き上がって鼻をすすりながら絞り出すように続けた。
「殺して下さい、俺のせいで荒れた国も、苦しむ人たちももう見たくない。これ以上苦しみたくない、殺して下さい…!」
「…」
…ヤーレイはこの四年間…ううん、戦争が起きるずっと前から一人で苦しみ続けていたんだわ。
私たちディーナ家をバラバラにした原因の一人、私をしつこく追いかけ回して髪の毛を切り落とした人。
それでも目の前で弱々しく泣き続けるヤーレイを見ていると憎しみや怒りよりも、哀れな気持ちの方が強くなってきた。
たった一人の家族のためにお金が欲しかったのなら、すぐ近くに私の髪の毛があったら手が出るのはしょうのないことだったのかもしれない。
それでもお姉さんは亡くなった。その原因は自分にあるってヤーレイも分かっている。
やりきれない気持ちに襲われながら嗚咽をあげ続けているヤーレイを見た。
ヤーレイは住むところもなくて、でもスイン地区以外は戦争で荒れているからそんなのは見たくなくて、けど行く当てもないから良く知っているここにいたのかもしれない。
それでも屋敷の中で暮らすのは後ろめたいから、こっちの小屋の方で…暑い昼間だというのに隠れるように窓も閉めきって…。
ヤーレイはこれからもこんな風に隠れるように生き続けていくつもりなのかしら。
そう思うと哀れさとやりきれない気持ちがさっきより募る。
「四年前の戦争は色々な不幸の積み重ねで起きたものよ。あなたに原因があるのはそうかもしれない、でもあなただけが原因で起きたものじゃない」
ヤーレイは私の顔を見上げる。
「あなたはこれからどうするの、これからもずっとこんな風に隠れひそんで自分が戦争を起こした原因だって悩みながら生活していくの」
ヤーレイは首を横にふりながら言う。
「…分からない、もう何をすればいいのか分からない、だって俺が何かやる度に俺の周りの人たちが不幸になっていく、俺が死んだ方が世の中のためなんじゃないか…」
「それなら私だってこの金の髪の毛のことで世の中を混乱させて戦争が起きる原因になったわ。そんな私も死んだ方がいいわけ?
そういう考えなら私たちを連れてブロウ国に不法入国したお父様も私の髪の毛のことを発見して世間に公表した学者のセリフィンさんも戦争を起こしたファディアントも私たちを捕まえたブロウ国の人たちも全員死んだ方がいいってことになるけど」
「…」
「これからもずっとそんな暗い考えで生きていくつもり?そうやって一人孤独に暇を持て余して死にたいなら私はもう何も言わないけど」
…何だか今の、サードが言いそうな言葉ね…。
「…俺は死んだ方がいいと思った、だから何度も死のうとして…でもいざとなると死ぬ勇気もなくて…」
「だから私に殺してもらおうとか甘いこと考えていたの?私に人殺しの罪をかぶせたうえで自分は楽になろうって?随分勝手な言い分よね」
「…」
ヤーレイは黙り込む。
「…どうせ死ねないんだったら生きればいいじゃない」
「生きて…何をすればいい?」
「私より年上のくせに自分のことも決められないの?」
ヤーレイは口を引き結んで私を見上げる。
私は黙ってヤーレイの目を見つめて、ヤーレイも私の目を見つめる。
「私はこの四年間、三人の仲間と旅をしてきたわ。皆あなたより年下だけど自分のことは自分で決めてきた。その仲間の一人が言ったのよ。『フロウディアとしての人生は一度きりだ、やりたいと思えばやればいいし、やりたくなければやらなけりゃいい、簡単なことだろ』って」
私はなおもヤーレイの目を見つめる。
「それを聞いて、人生って思ったよりシンプルなのかもって思ったの。やりたいならやる、やりたくないならやらない。あなたは自分の全てを失くしてゼロ地点に立っているようなものよ。そんなあなたはどうしたいの、今何をやりたくなくて、今何をやりたいの」
ヤーレイは涙を止めて、それでも軽く目を擦って鼻をすすり上げながらしばらく床に視線を落とした。
「……良くしたい」
「何を?」
「この戦争を引き起こす結果になって、皆が苦しんだ。王家も…人のせいにするようだけど無能で、そのせいで余計に人が死んだ。だから少しでもこの国が良くなるように、何でもいいからこの国が良くなるように何かをしたい。ボランティアでも何でもいい、苦しんでいる人を助けたい」
「やればいいわ」
「何を…」
顔を上げたヤーレイが言いかけたけど、すぐ口をつぐんで笑った。
「年上なんだから自分で考えろって言われるな」
「そうね」
ヤーレイは泣き笑いの顔で、でも肩の荷が下りたような顔で私を見ている。
「…ありがとう、ごめん」
色々な含みが込められたその一言ででヤーレイに抱いていたわだかまりが消えた。
それと同時に涙がにじんでくる。
ガウリス、あなたが言った相手を許すっていう何にも勝る最大で愛ある仕返しは、こんなにもお互いが泣きそうになるほど嬉しい気持ちになるものなの。




